表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/103

素敵な贈り物、届きました

ランク昇格を果たしたハピネスに、届けられた贈り物。

これがハピネス壊滅の危機を招く?




 悪の組織は色々と気を遣う。

 正体をばらさぬよう、日々の生活にも工夫を凝らしている。

 例えば郵便がそうだ。

 住所を素直に書いてしまえば、あっという間にお縄頂戴となってしまう。

 かといって、郵便や宅配便を利用しないのは不便だ。

 どの組織も、一度は頭を悩ませる問題。


 ハピネスの場合はどうだろうか。

 表向きは、ハッピーハピーという会社を運営しているので、

 個人宛の郵便や宅配は幸福荘に届けて貰える。

 もちろん、郵便局員の買収は抜かりなく行っている。

 では、ハピネス宛の届け物はどうか。

 これは複数の偽装住所を経由し、協力員に転送して貰っている。

 手間と経費がかかるが、用心に越したことはない。

 そんな涙ぐましい努力により、流通ラインは確保されているのだ。


 そして今日も、幸福荘に荷物が届けられる。



「えっとこれは……」

「個人宛のはこちらに。ハピネス宛はそちら、ハッピーハピーのはあちらです」

「ああ、ありがとう。これはハピー七号宛だから、ここだな」

 ハルは封筒を、ハピー七号の郵便ボックスに入れる。

「すいませんハルさん。郵便物の仕分けを手伝って貰って……」

「気にするなよ。丁度手が空いてたし、二人の方が早く終わるだろ」

 恐縮するハピーに、ハルは笑顔で手を振る。

「しかし、幸福荘にこんな、郵便仕分け部屋なんてあったんだな」

「ハッピーハピーの業務に、どうしても必要ですから」

「なるほどな。だからこんな大量の郵便が来るのか」

 ハルは苦笑いで、目の前に積まれた手紙や小包の山を見た。

 ハッピーハピーは、一応まっとうな企業として活動している。

 それを考えれば、この郵便物の数も納得がいく。

「ま、さっさと終わらせちまおうぜ」

「了解です」

 二人は大量の郵便物の整理を再開した。


 作業は順調に進み、一時間も経つ頃には、ほぼ全ての仕分けが終わっていた。

「ふぅ~、何とか終わりそうだな」

「ええ。ハルさんが居てくれて助かりましたよ」

「普段はこれを一人でやってるのか?」

「とんでもない。担当は日替わりで、二人一組なのですが、相方が風邪で……」

 それはお大事に。

「とにかく、助かりました。後は、この荷物だけですね」

「……でかいな」

 二人は最後に残った、大きな段ボール箱を見た。

 ハルがスポッと入れそうな程の大きさだ。

「宛先は……ハピネスの千景様となっていますね」

「それじゃあそっちに移動させて……かなり重いな」

「私も手伝います」

 段ボールは見た目に反せず、かなりの重量を誇っている。

 二人掛かりでも、持ち上げることはおろか、押すことも引きずることも出来なかった。

 宅配便のお兄さん、ご苦労様です。

「こりゃ動かせそうにないな」

「後で他のハピー達に協力してもらいますよ」

 それがいい、と二人は荷物の移動を諦めた。

 これにて作業終了、となるはずだったのだが、

「あれ、ハル。こんな所で何やってるの?」

 空気を読まないことに定評のある、乱入者が現れた。


「奈美か。荷物の仕分けを手伝ってたんだが、これが動かせなくてな」 

「ふ~ん、千景さんのか」

 奈美は段ボールをマジマジと見つめ、

「さっき食堂に居たわよ。折角だし、私が持っていってあげるわ」

 不動の段ボールをヒョイッと持ち上げてしまった。

「……ハルさん。私達の存在意義って」

「考えたら負けだと思ってる」

「ほら、行くわよ~」

 男二人、慰め合いながら奈美の後に続いた。


「千景さ~ん、お届け物です……。あれ、居ないわね」

 食堂には千景の姿はなく、数名のハピー達と柚子が、遅めの食事を摂っていた。

「あ、奈美さん。千景さんなら先ほど、執務室に戻られましたよ」

 お茶を啜りながら柚子が答える。

「入れ違いになっちゃったわね」

「ここまで来たら仕方ない。俺が呼んでくるよ」

「お願いね~」

 ハルは食堂を出ると、千景の執務室へと向かった。


 柚子の言葉通り、千景は執務室にいた。

 ハルが事情を説明すると、

「そんな荷物には心当たりがありませんが……」

 と首を傾げたが、それでも食堂までついて来てくれた。

 二人が食堂近くまで来ると、

「何か騒がしいですね」

「おかしいな。さっきまでは、そんなこと無かったのに」

 妙に騒がしい食堂に、嫌な予感を覚える。

「お~い、何かあったのか?」

「……あったようですね」

 食堂の中は、ちょっとしたパニックになっていた。



 まず、状況を整理しよう。

 食堂の中には、椅子に座る奈美がいた。

 そしてそれを取り囲み、慌てふためく柚子とハピー達。

 よし、全く分からない。

「それで、一体何をしているのですか?」

「ち、千景さん。これには深い事情がありまして……」

 悪戯がばれた子供のように、奈美は縮こまる。

 奈美が座っている、マッサージチェアの様な椅子。

 床には、破り割かれた段ボールが散乱。

「奈美、お前まさか……千景さんの荷物を開けたのか?」

「ごめんなさい! 出来心だったんです」

 全力で頭を下げて、謝る奈美。

「……まあそれは良いでしょう。で、何を騒いでいたのです?」

「千景さん……。実はこんな手紙が同梱されてまして」

 柚子は怖ず怖ずと手紙を手渡す。

 千景はさっと目を通すと、表情を僅かに硬くした。

 ハルも手紙を見せて貰い、顔を引きつらせる。


 親愛なる千景へ。

 遅ればせながら、ハピネスの昇格、おめでとうございます。

 ささやかではありますが、お祝いの品を送ります。

 疲れた体を癒してください。

 先日のご丁寧な挨拶の、お礼になれば幸いです。

 貴方の友人、美園美樹より


 嫌な沈黙が流れた。

 先日の、と言うのが落書き事件の事だとは察しがつく。

 それのお礼となれば、まともな品では無いはずだ。

「……今度は呪いの椅子、とかですかね?」

「個人的にオカルトは好きでは無いのですが」

「ハルさん、千景さん。その、実はもう一通手紙がありまして」

 柚子は再び手紙を差し出す。

 目を通した千景は、今度はハッキリと表情を強張らせた。

「何が書いてあったんですか?」

「……この椅子には、時限爆弾が仕掛けられているそうです」

 オカルトよりも、よっぽど恐ろしい現実を突きつけられた。


 千景達は椅子を慎重に調べると、一つため息をついた。

「状況を整理すると、奈美の座っている椅子には、爆弾があると」

「椅子に座った時点で起動して、椅子から離れた瞬間に爆発します」

「爆発の規模は、少なく見積もっても、半径数十メートルは巻き込みますね」

 なかなか絶望的な状況だった。

 ドラマではよく見るシチュエーションだが、いざ体験すると笑い事では無い。

「それで千景さん。何か策はありますか?」

 ハルの問いかけに、千景は渋い顔。

「爆発が小規模なら、奈美だけ残して爆破してしまえば良かったのですが……」

 さらりと恐ろしい発言が飛び出す。

「では、奈美さんごと椅子を外に移動してから、爆発させれば?」

 柚子もどこかネジが緩んでいるようだ。

 まあ二人とも、奈美なら大丈夫と信頼しての事だろうが。

「残念ながら、振動感知装置が付いてます。移動は無理でしょう」

「そうですか……」

 可能だったらやる気だったんですか……。


「良くある手ですが、奈美と同じ重さの重りを用意して、入れ替えるのは?」

「あ、それ良いかもです」

「と言うわけで、奈美。お前、体重は何キロ……痛っ!」

「乙女に何を聞くのよ!」

 額を抑え悶絶するハルに、奈美は真っ赤な顔で叫んだ。

「……奈美、一体何を」

「でこピンの要領で、空気を飛ばしただけよ」

「指弾ですか。弾を使わない分経済的ですね」

 いや、突っ込みどころはそこではなく……。

「とにかく、その案は却下よ」

「お前、この状況でよく言えるな」

「まあ止めておきましょう。美園の事です、対策は万全でしょうし」

 ハルの案も却下され、結局振り出しに戻ってしまった。


「さて、あまり時間もありませんし、そろそろ真剣に考えましょうか」

「そんな身も蓋もない。……ん、時間がないとは?」

「爆弾は時限爆弾ですから、当然時間が来れば爆発しますよ」

「「あ~~~!!」」

 今更ながらの指摘に、ハル達は再びパニックになる。

「どどど、どうしましょう」

「落ち着くな、慌てろ」

「押さない、駆けない、走らないだ」

 お約束通りに慌てふためくハピー達。

 所々間違っているので、真似しないように。

「みんな、落ち着いて。まだ時間はあるから。そうですよね、千景さん」

「ええ。後五分くらいはありますね」

「みんな聞いての通りだ。後五分もあ……ご、五分しかねぇぇぇ」

「五分ですか……。遺書は書けそうですね」

 一番落ち着いているのは、実は柚子の様な気がする。

「残り時間で出来る事はただ一つ、爆弾を解体するしかありません」

 千景はドライバーを片手に、不敵に微笑んだ。



 ピッピッピッ

 カチカチカチ

 時限爆弾のタイマーが時を刻む中、解体作業は進められた。

 デジタルかアナログか、ハッキリして欲しい所だ。

「こんな時、剛彦が居れば楽に解体出来るのですけど」

 椅子の下に潜り込みながら、千景は呟く。

「ローズさんは、爆弾の解体とか得意なんですか?」

「彼は銃器や火器、爆弾等のスペシャリストでもありますから」

「実は万能キャラですよね。ローズって」

 肝心なときに居ないけど、と心の中で付け加える。

 無駄話をしながらも、流石は千景。

 作業の手は一瞬たりとも止まることは無い。

「……後はこの蓋を外して…………」

 金属製の蓋を外すと、初めて千景の手が止まった。

「千景さん、どうしたんですか?」

「美園め、やってくれましたね」

 悔しそうに呟き、千景は椅子の下からはい出てくる。

 ハルは千景に促され、替わりに椅子の下に潜り込む。

「千景さん、俺は爆弾の事なんて分かりませんよ」

「箱の中に、二本のコードがあるでしょう」

 千景の言うとおり、ハルの目の前には青と赤のコードがあった。

 と言うことはお約束通り……。

「ハル君の予想通り、片方が解除コード。もう片方は自爆コードです」

「まるでドラマみたいですね」

 柚子さん、どうしてそんなに嬉しそうなんでしょうか。

「完璧に細工してあるので、見分けることは不可能です」

「最悪ですね」

「残り時間は一分。どっちを切るかは、ハル君が決めて下さい」

「どうしてですか?」

「美園は私の思考パターンを読んでいるはず。他の人の方が、分が良いはずです」

「ハルさん、頑張って下さい」

 柚子他、ハピー達もハルが選択することに賛成していた。

 どのみち時間が来れば、みんなお陀仏なのだ。

 ハルは腹を括った。

「赤か……青か……」

 どれだけ考えても、答えは出ない。

 完全な二択、確率は五割。単純な分、決断しづらかった。

 後、三十秒。

「難しく考えずに、好きな色とかで決めたらどうですか?」

「好きな色か……。因みに千景さんが好きな色は何ですか?」

「黒です」

 身も蓋もない。

 そもそも選択肢にすら無かった。

「あ、そうだハル。私が好きな色は赤だからね」

「奈美に聞いても参考には…………」

 不意に閃いた。

 何とも下らないアイディアだったが。

「千景さん。一つ聞きますが、美園さんって結婚してますか?」

「……確か未婚の筈ですよ。婚期を逃したと、酒の席で絡んでいましたから」

 それが何か、と首を傾げる千景。

「いえ、単なる確認です。でも、切る色は決まりました」

 残り時間一桁。

 ハルはそっとニッパーで、一方のコードを切断した。




「それにしても、大騒ぎでしたね」

 騒ぎが収まった食堂で、ハル達はお茶を楽しんでいた。

 結局、ハルの選択は正しかったようで、見事爆弾の停止に成功した。

「それで、結局どちらを切ったんですか?」

「私も知りたいです」

 興味津々と言った様子で、ハルに尋ねる千景と柚子。

「俺が切ったのは、青のコードですよ」

「ひょっとして……私が好きな色を切らなかったとか?」

「ああ、それは関係ない」

 奈美の期待に満ちた眼差しを、ハルは直ぐさま否定する。

「勘以外の理由があれば、是非伺いたいですね」

「まあ、下らない理由ですけど。女性って結構オカルトとか好きじゃないですか」

「そうですね。私も占いとか、気にしますし」

「赤いコードを、運命の赤い糸に置き換えてみたんですよ」

 ハルは頬を掻きながら説明を続ける。

「未婚の妙齢の女性なら、どんな理由でも赤い糸は切られたくないよな、と」

「そ、そんな理由ですか」

 呆れたように呟く千景だが、奈美と柚子は納得したように頷く。

「分かります。美園という方の気持ち、凄い良く分かります」

 妙に実感がこもっている、ハピネス幹部最年長の柚子。

 地雷原のようなので、触れないでおこう。


 爆弾も解体し、これでめでたしめでたし、かと思われたのだが、

「こんな結構な物を頂いたんです。当然、お返しは必要ですよね?」

 とても良い笑顔をする千景。

 ハル達に出来る事は、ただ頷く事だけだ。

「早速剛彦に、美園の住所を調べさせるとしましょう」

 姉さん、そこは敵の本拠地です。

「何を送りましょうかね。今から楽しみですよ……ふふ」

 瞳に危ない光を湛え、千景は食堂を後にするのだった。



 後日。

「私宛の荷物……送り主は千景ですか」

 爆発などのトラップが無いことを確認して、美園は包みを開ける。

 中には一冊の本。

「結婚情報誌……………………千景ぇぇぇぇ!!!」


 二人の泥仕合は、まだまだ続くのだった。







美園さんは非公式ですが、彼氏募集中です。

心を読まれてもOKという勇者は、ぜひご応募ください。


今回の美園は、本気でハピネスを壊滅させるつもりはありませんでした。

先日の礼代わりに、軽いジャブという気持ちです。

その割には随分過激な気がしますがね……(汗)


年内の投稿は、この話で最後となります。

年末年始は少し忙しいので、ちょっと更新が不規則になりそうです。

それでも一週間ペースでの投稿を目指しますので、

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ