ランク昇格しました
今回は非常に短いお話になっています。
話の繋ぎとなっているので、ご容赦頂きたいです。
ある日の夕方。
夕食前の一時、食堂で雑談を交わしている時だった。
「あらぁ、これはぁ」
夕刊に目を通していたローズが、驚きの声をあげる。
「何か面白い記事でもあった?」
「ふふん。これを見てご覧なさいよぉ」
ハルは手渡された新聞を見る。
「何々、悪の組織ランク変動一覧……こんなのあったんだ」
「知らなかったのか? 悪の組織の人間ならチェックして当然だぞ」
初耳です。
社会欄にこんなものがあったことすら、気づきませんでした。
「あれ、でもローズさんが見てみろって事は、ひょっとして……」
「奈美ちゃん、あ、た、り♪」
ローズのウインクに、紫音と奈美は大慌てで新聞をのぞき込む。
そこには、
ハピネス G→F
と、恐ろしくあっさりと、ハピネスの昇格が記されていた。
「何か、物凄く適当な扱いですね」
「馬鹿者。これがどれだけ名誉なことか、分からないのか?」
いや、全く。
「我らの活躍を、遂に正義の味方の奴らが認めたのだぞ」
「やりましたね。今夜はお祝いしなきゃ♪」
嬉しそうにハイタッチを交わす奈美と柚子。
それを微笑ましそうに見つめるローズ。
一般人代表のハルは、呆れ顔で見つめるしかなかった。
「それでは、我らハピネスの昇格を祝って……」
「「乾~杯!」」
グラスを重ねる音が、食堂に響く。
食堂はあっという間に、宴会モードへと突入していた。
ある者は笑い、ある者は泣き、それぞれ喜びを味わっていた。
その様子を端で見ていたハルは、
「ねえ千景さん。昇格って、そんなに凄いことなんですか?」
普段通りの様子でワインを傾ける、千景に尋ねた。
「まあ、普通の人はそう思いますよね」
苦笑いの千景。
「でも、悪の組織で働く者に取っては、とても喜ばしいことなんですよ」
「そうなんですか。ランクが上がると何が変わるんですか?」
「まず、私達を倒した時の報奨金が上がります。つまり、敵が増えますね」
何とも喜ばしくない。
「正義の味方のマークが厳しくなりますし、強いヒーローも出てくるでしょう」
ますます喜ばしくない。
と言うか、良いことが何もない。
「あの~千景さん。それって、俺たちに何のメリットも無いんじゃ」
「ありませんね」
断言されてしまった。
「悪の組織として活動する以上、避けては通れない事ですから」
勲章みたいなものです、と千景はワインを飲み干す。
「折角認めて貰ったんです、今は素直に喜んでおきましょう」
「……そうします」
ハルは苦笑を浮かべながら、宴の中へと入っていった。
数時間後。
夜中まで続いた宴会も終わり、食堂は静けさを取り戻していた。
明かりも消され、僅かな月明かりが照らすそこに、二人は居た。
「今日は大変だったわねぇ。みんなはしゃいじゃってぇ」
「志気が上がるのは良いことです。少し羽目を外しすぎた様ですが」
先ほどまでの惨状を思い出し、千景は苦笑する。
恐らく明日は、殆どのメンバーが二日酔いに苦しむだろう。
「まぁ、これからの事を考えたらぁ、今日くらいは、ねぇ」
「……そちらはどうですか。動きはありましたか?」
「表だってはまだ無いわぁ。幾つかの組織が、調査を始めたみたいだけどねぇ」
情報部部長としてのローズの言葉に、千景は頷く。
実は、ランクFというのは、正義の味方に狙われ易い状態だった。
最低ランクから昇格したてで、戦力はさほどでもない。
しかし報奨金は、Gの時とは比較にならない。
上位ランクに手を出せない連中にとって、非常に美味しい相手なのだ。
「予定通りではありますが、今の状態は好ましくありませんね」
「うちに目を付けてる組織はぁ、どれも敵にならないレベルよぉ」
「当面は問題ない、ですか」
千景の言葉を、ローズは肯定する。
「ジャスティスとかぁ、一部の正義の味方以外ならぁ、大丈夫よぉ」
「彼らと戦うには、まだ早すぎますね」
「もっと力を付けてぇ、味方を増やしてぇ、それからね」
ええ、と千景は頷く。
「当面は今まで通り、コソコソと戦っていきましょうか」
「それがいいわねぇ。大きな花火はぁ、もっと観客が集まってからに、ねぇ」
「……秘蔵のワインがあります。付き合いなさい」
「あらぁ、どういう風の吹き回し?」
「祝杯ですよ。ハピネスの昇格……国盗りへの第一歩を踏み出した祝いです」
「ふふぅ、お付き合いするわぁ」
それから暫しの間、月明かりの中、二人はグラスを傾けるのだった。
本当に短くてすいません。
本筋を進める上で、必要な話だったので……。
ランクが上がったことで、少しずつハピネスを取り巻く環境が変わります。
どう変わるかは、今後のお楽しみと言うことで……。
あまりに本編が短いので、同時に幕間を投稿させて頂きます。
時事ネタですが、そちらもお楽しみ頂ければ幸いです。