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不思議な出来事ありました

今回は、ファンタジーの要素が含まれております。

拒絶反応を示す方は、ご注意下さい。


奈美が持ち込んだのは、一つの古びたランプ。

それがハピネスを、不思議な出来事に巻き込む。


 ランプの魔人と言うのを、ご存じだろうか。

 ディズ○ーの映画にもなった、アレである。

 自らを解放した者の願いを叶える存在。

 もしそんなものが、本当にいるとすれば……。



「と言うわけで、買って来ちゃいました」

 食堂にやってきた奈美。

 その手には、古びたランプが握られていた。

「ランプの魔人って、あんなのおとぎ話だろうよ」

 呆れ顔のハル。

 口にこそしないが、他の幹部達も同意見のようだ。

「何よ、分かんないわよ。本物だったらどうするのよ?」

「そりゃ……ラッキーなんじゃないか?」

 信じていないハル達に、奈美は少しムッとする。

「まあ、幾つになっても夢があるのは良いことだ」

 あんたが言うな、と言う突っ込みを全員が踏みとどまる。

 仮にもボスなのだから。

「む~、馬鹿にして~。いいわ、試してみれば分かるもの」

 奈美は近くにあった布で、ランプを拭いていく。

 磨かれたランプは、ぴかぴかの金色に輝いていた。


「どう、この輝き。本物っぽくない?」

 嬉しそうな奈美とは対照的に、ハル達の表情は曇る。

「……メッキですよね」

「年代物にしては、光りすぎてますから」

「ここ十年位で作られたぁ、大量生産品ってところかしらぁ」

 冷静に分析する千景とローズ。

 突っ込まないのは、流石に大人と言うことか。

「さあ、擦るわよ」

 意気揚々とランプを擦る奈美。

 だが、何も起こらなかった。

「お、おかしいわね。擦り方が悪かったのかしら」

 何度も色んな部分を試すが、一向に何も起こらない。

 徐々に、食堂の空気が重くなっていく。

「……ねぇハル。これ、やっぱり偽物なのかな」

「ああ、多分な」

 ハルの言葉に、奈美は寂しそうに笑う。

「本物だったら、ハピネスの役に立つと思ったんだけど……。やっぱり、駄目か」

「あ、いや。その気持ちだけで嬉しいぞ。ねえ、みんな?」

 ハルのフォローに、慌てて同調する幹部達。

 いつの間にか集まったハピー達も、口々に励ましの言葉を掛ける。

「みんな……ありがとう。そうよね、こんなものに頼らなくても、私達なら出来ない事なんて無いわ」

 立ち直った奈美。

 いい話だったと、ここで終われば良かったのだが、

「あら、このランプ、何か書いてありますね」

 そうは問屋が卸さなかった。


 千景はランプを奈美から受け取ると、じっと観察する。

「これは、どうやら古代文字の様ですね」

 先生、どうやってもただの模様にしか見えません。

「汝……呪文を……唱えよ……さすれば……願いを叶えん……」

「「何だって~!!」」

 解読した千景の言葉に、一同は驚きの声をハモらせた。

 気分はまるで、MMRだ。

「ちょ、ちょっと。コレってひょっとして……」

「本物……なのか?」

 ゴクリ、と唾を飲む。

「呪文は……これですね。……アブラカダブラ、ヨイコラサ。マジンヨマジン、デテオイデ」

「「絶対嘘だ!!」」

 再びハモる突っ込み。

 だがしかし、ランプは呪文に応じるように、まばゆい光を放ち出す。

「何というか、何でもアリだな」

「随分、親日家の魔人なんですね」

 違うから。突っ込みどころが違うから。

 そんな事をしてる間にも、光は更に強くなり、最高潮に達した瞬間、

「呼ばれて飛び出て、らららら~ん」

 何処か懐かしいかけ声と共に、魔人が現れた。



 その姿は、何というか変わっていた。

 みんなが思い描いていた、アラビア風の魔人など面影も無かった。

 スーツ姿のヒョロッとしたメガネ男。

 煙に包まれ、空に浮いていなければ、誰も魔人などとは信じなかっただろう。

「我を呼びだしたのはお前達か。さあ、願いを言え。どんな願いも、一つだけ叶えてやろう」

 威厳に満ちた言葉に、たじろぐ一同。

 だが、

「……なんか偉そうよね」

 空気を読まない子が居た。

「ちょっとあんた。いきなり出てきて、命令するって何様よ」

「えっ、いや、一応これが魔人の定型文なんですが……」

「願いを叶えてやろう? 叶えさせて下さいってのが筋でしょうよ」

「は、はい。すいませんでした。じゃあ、もう一回やり直しますんで……」

 けんか腰の奈美に、ペコペコと頭を下げる魔人。

 威厳も何もあったもんじゃ無かった。

 魔人は再びランプの中に戻ると、また光と共に登場する。

「私を呼んで下さったのは、あなた様方ですね。是非私に願いを叶えさせて下さい」

「うん、オッケー。やれば出来るじゃないの」

 満足そうに頷く奈美に、ホッとした表情を見せる魔人。

 いつの間にか、力関係が形成されたようだ。

「さあみんな、願い事をしましょう」

 にこっと笑う奈美に、怖いものなど無かった。


「しかし、魔人よ。私達の想像していた姿とは大分違うが、本物なのか?」

「はい。正真正銘の魔人です。私達は、呼び出された場所によって、姿と言語が変わるんですよ」

 何とも便利な仕様だろうか。

「吾輩も気になる事がある。魔人が叶える願いは、三つと相場が決まってるはずだ」

「いや~、最近不景気でして……。バブルの頃なんか、十個は叶えられたんですがね」

 しみじみと魔人は言う。

「まあ願いは一個って事だな。……叶えられない願いとかあるのか?」

「そうですね。私は神の僕ですので、神様の力を超える願いは、ご遠慮頂いております」

「神様の力って、万能じゃないんですか?」

「ご本人はそうですが、叶える願いは制限がかかるんですよ。例えば、死者の蘇生なんかはNGです」

 神様も意外にシビアらしい。

 まあ、そうポンポンと人が生き返ったらパニックだろうが。

「あ、それと。私は呼び出されてから、丸一日で消えますので、願いはお早めに」

「ふ~ん。それも神様の決まりなの?」

「いえ。家族が待っておりますので……」

 何と妻帯者だった。

「まあそれはいいとして、叶えられる願いは一つだけとなると……」

 千景に言葉に、沈黙する一同。

 温泉旅行の悪夢再びか、と思われたが、

「あの、私がお願いしてもいいでしょうか?」

 奈美が挙手をする。

「そうだな。このランプは奈美が買ってきた物だし」

 ハルの言葉に、満場一致で頷く。

 あれだけ純粋に信じていたのだし、当然の権利だろう。



 奈美は魔人の前に立つ。

「じゃあ、コホン。魔人よ、私をもっと強くしなさい」

「あ、無理です」

 即答だった。

「何ですってぇぇぇぇ。どういう事か、説明しなさいよぉぉ」

「首、首が絞まって…………」

 奈美さん、相手は一応魔人です。

 ネクタイで首を絞めるのは、流石にやりすぎです。

「最初に言ったじゃないですか。神様の力を超えるのは無理だって」

「奈美は遂に神を超えたのか!?」

「そうじゃないんです。彼女は存在自体がバグみたいなもので、神様も干渉したく無いとの事で……」

「バグってなによ、バグって」

「まあ、突然変異と言いますか……。そもそも、これ以上の力なんて必要ですか?」

 奈美は恨めしそうな視線を向けながら、魔人を解放した。



「私はもう叶えたい願いはないわ。みんなで決めて頂戴」

 奈美の発言で、再び戦乱が巻き起こりそうだったが、

「ならば吾輩に名案があるぞ。任せて貰おうか」

 自信満々に蒼井が宣言した。

「この願いなら、全員の願いが叶えられるはずだ」

 そう言われては文句はない。

 全員が不安そうに見つめる中、蒼井は魔人の前に進み出る。

 眼鏡越しに鋭い視線を魔人に向け、

「魔人よ、願い事を百個にしろ…………ぎゃぁぁぁぁぁ」

 蒼井の願いは、天から降り注いだ雷によってかき消された。

「あ~、やっぱりその願い事しちゃいましたね」

 呆れるようにため息をつく魔人の前で、黒こげになって倒れる蒼井。

「その願い事、広まり過ぎちゃった性で、NGワードになってるんですよ」

 ご愁傷様です、と手を合わせる魔人。

 その様子を見て、全員が思った。

(言わなくて良かった)


「こうなったら、ジャンケンで勝った人が願いを叶えて貰いましょう」

 千景の言葉に、ハル達は二人一組になってジャンケンを行う。

 次々に野望に満ちた者達が脱落し、最後に残ったのは、

「わ、私ですか」

 ローズとの一騎打ちを制した柚子だった。



「じゃ、じゃあ。お願いをさせて貰います」

 怖ず怖ずと柚子が進み出る。

「魔人さん、私の体を、人並みに大きくして下さい」

「すいません。叶えてあげたいのですが、成長は神の与えた奇跡なので、弄れないんです」

 申し訳なさそうに頭を下げる魔人。

 それは柚子の成長が、完全に止まっていることを証明してしまった。

「そうですか……。大きくなれば、もっと皆さんの力になれると思ったのですけど……」

 みんなの元に戻った柚子は、女性陣に慰めの抱擁をされていた。



「柚子が駄目となると、次は剛彦ですね。願いを叶えて貰いなさい」

「はぁ~い♪」

 スキップでもしそうな勢いで、ローズは魔人の前に進み出る。

「私の願いはぁ、私を……女にしてぇ」

「…………少々お待ち下さい」

 今度は即答せずに、魔人は懐から携帯電話を取り出す。

「……はい、ええ。そうです……あ、はい。ああ、そうでしたか」

 何かを確認した後、魔人は携帯を仕舞う。

「え~、一応大丈夫みたいです」

 一体どういう基準なのだろうか。

 成長は駄目で、性転換はオッケーと言うのは……。

「ただ、性別のみ変更可能ですので、姿形は今のままですが、よろしいですか?」

「もちろんよぉ。それじゃぁ、お願……」

「「無し無し、このお願いはキャンセルで~!!」」

 ローズが言い切る前に、全力で願いをくい止めた。

「みんなぁ、ひどいわぁ」

「この願いは誰も得をしない。剛彦よ、諦めろ」

 直球の紫音の発言に、ローズは渋々了承した。

 こうして、人類史始まって以来の危機は、辛うじて回避されたのだった。



「願いを叶えるというのは、私達が考えている以上に単純じゃ無いようですね」

「うむ。漫画のようなご都合主義とはいかないか」

 夢破れた者達の姿を見て、紫音と千景は頭を悩ませる。

「今までの傾向ですと、人に対する願いは、叶えにくいみたいですね」

「だとすれば、物とかお金をねだりますか?」

「そうですね……その前に、確認しておきましょうか」

 千景はスッと魔人に視線を向ける。

「魔人よ。お金が欲しいと願った時、貴方が出せる限度額は幾らですか?」

「この国の通貨ですと、大体……二十万円ほどです」

「「少なっ!!」」

「すいません。私の月給分しか出せない決まりでして……」

 意外に苦労人だった。


「だったら、金塊とか宝石とかを願えばいいんじゃ……」

「どうなのだ魔人よ。純金の延べ棒を一万本、とか出せるのか?」

 紫音の問いかけに、

「申し訳無いのですが、無理です」

 頭を下げる魔人。

「原則として、一つの願いで出せるのは一つだけです。それも月給分以上の物はちょっと……」

 言いづらそうに告げる魔人に、何とも言えない空気が食堂に流れる。

 期待が大きかった分、落胆も大きかった。


「あの……何と言って良いか……」

 所在なさげな魔人。

 彼が悪い訳じゃ無いのは分かっているが……。

 嫌な沈黙を破ったのは、やはり千景だった。

「一つ聞きたいのですが、今までに貴方が叶えた一番大きな願いは何ですか?」

 冷静な質問に、ハル達はなるほどと手を打つ。

 過去に叶えたことのある願いが、参考になるかも知れない。

「そうですね……数十年前になりますが、人を殺すお手伝いをしました」

 ハル達は息を飲んだ。

 今までのやり取りからは、想像できないハードな願い事だ。

「手伝いと言うことは、直接手を下してはいないのですね?」

「はい。私達が人の生死に直接関わることは、禁じられていますから」

 なるほど、と千景は頷き何かを考える。

 その様子をハラハラと見守る一同。

「いくら千景でも、暗殺とか考えて……無いよな?」

 紫音の問いかけに、ハル達は答えられない。

 何故なら、

(千景さんならやりかねない)

 全員がそう思っていたからだ。


「……みんな、魔人に私の願いを叶えて貰ってもいいですか?」

「ち、千景よ。早まるなよ。悪の組織と言っても、やって良いことが……」

 言いたいことが伝わったのか、千景は苦笑する。

「ご心配なく。そんなつまらないことはしませんよ」

 そうして千景が魔人に願ったのは、魔人にもハル達にも予想外の事だった。





 その夜。


「何ですかこれはぁぁぁぁ!!!」

 美園の絶叫が、ジャスティスの基地中に響き渡った。

 仮眠を終え、身支度を整える為に鏡の前に立ったとき、異変に気づいた。

「美園君、一体どうしたんだ?」

「敵の襲撃ですか?」

「ほっほっほ。何事かな?」

 普段の面影など、微塵も感じさせない絶叫に、慌てた葵達が仮眠室へとやってくる。

 そこには、

「……美園、さん?」

「最近の女性の化粧は、少々理解できないな」

「忘年会の練習かのぅ」

 鏡の前に立ち尽くす、美園がいた。

 額に肉、そして頬には「ハピネス参上」と落書きされた、無惨な顔で。

「ハピネスって、あの最低ランクの悪の組織ですよね」

「ふむ。鉄壁を誇るこの基地に、侵入したとは……」

「しかも寝ていたとは言え、美園っちの顔に落書きするとは」

 流石は超一流の正義の味方。

 一瞬で思考を切り替え、状況を分析する。

「舐めた真似を…………」

 美園は怒りに体を震わせる。

 顔に落書きをしたということは、その気なら命を奪えたと言うことだ。

 だがそれをせず、落書きをしただけで済ませている。

 これ以上の屈辱は無かった。

「何にせよ、基地の警戒態勢を強化する必要があるだろう」

「警備員の増員など、対策を立てましょう」

「やれやれじゃな」

 葵達は、足早に仮眠室を後にする。


 残された美園は、暫し鏡を見つめ、

 パリィィィィィィン

 右の拳で、思い切り鏡をたたき割った。

「千景……宣戦布告のつもりですか……」

 怒りに満ちていた表情だが、口元は笑みに歪む。

「良いでしょう。貴方の作った組織、徹底的に叩き潰してあげましょう」





 後日談


「そう言えば千景さん。どうしてあんな願い事を?」

 食事時に、ハルは千景に尋ねる。

 千景の願い事は、美園が基地に居るとき、顔に落書きをすること。

 現実主義者リアリストの千景が、意味もなくそんなお願いをするとは思えなかった。

「幾つか狙いがありますが、一つはジャスティスへのけん制ですね」

「けん制、ですか?」

「私達は彼らの基地の場所など知りません。しかし基地にいる美園は落書きされた」

「なるほどねぇ。彼らはぁ、私達が基地に侵入できる程の存在だとぉ、思いこむ訳ねぇ」

「結果として、余計なことに気をつかう羽目になります」

 対した効果は無いでしょうが、と千景は付け加える。


「後は、簡単な宣戦布告です」

 千景は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。 

「私達の組織を甘く見るなよ、と言う軽いご挨拶をね」

「え、でも千景さん。前は正面から喧嘩を売るのは駄目だって」

「ですので、コッソリと個人的に宣戦布告です。私から、美園へのね」

 どこか満足そうに笑う千景。

 今回の結果は、どうやら本人的にはありだったようだ。


「それに、面白い物も手に入りましたし」

 千景は携帯を操作し、ハル達に見せる。

 画面には、落書きされてなお眠り続ける、美園の画像が映し出されていた。

「千景さん……コレって」

「魔人にこっそりお願いしてたんですよ。コレを取ってくるように」

 今までで一番の笑顔を見せる千景。

 それを見て、ハル達は同じ事を考えていた。

 絶対にこれが狙いだったに違いない、と。



「まあ、今回のことはあくまでイレギュラー。偶然の産物。

 そんな不確実なものに頼るほど、私達の組織(ハピネス)は弱くありませんしね」

 千景は、誰にも聞こえないよう、小さく呟いた。


 

  




え~すいません。

この間某映画を見たので、どうしてもやりたくなってしまいました。

ファンタジーが嫌いな方、申し訳ありません。


この小説は、現実の世界をモデルにしております。

基本的に魔法とかは出てこない予定ですので、ご安心?下さい。


無理矢理ですが、遂にハピネスがジャスティスに喧嘩を売りました。

ハピーの増員で戦力が整ったのが、大きな要因です。


少しずつですが、本筋のストーリーも進めて参ります。

次もお付き合い頂ければ、幸いです。

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