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人員募集いたします

遂に解消された財政難。

活発に活動をするハピネスに、足りない物とは。



 財政難が解消されてから、一週間。

 ハピネスは精力的に、悪の行為に励んでいた。

 警察への悪戯電話など、チクチクとした嫌がらせ。

 弱そうな正義の味方を見つけては、集団でボコボコ。

 悪徳業者を捜し出し、金品を強奪しつつ壊滅。

 色々な意味での悪名が、少しずつだが高まっていた。


 それなりに忙しい日々を過ごしていた、ある日の事だった。


「そろそろ、人員補充が必要かもしれませんね」

 食堂で昼食を食べながら、千景が切り出す。

「人員補充ですか?」

「ええ。私達には構成員の数が、絶対的に足りていませんから」

 どうでしょう、と千景はハル達に問いかける。

「そうだな。ハピネスの活動も、ようやく様になってきた所だしな」

「最近の忙しさから考えると、確かに人手は欲しいかも」

 紫音と奈美が直ぐさま賛成する。

「警察や正義の味方とやり合う事を考えるとぉ、必要よねぇ」

「ハッピーハピーの業務も順調ですし、人が増えると助かります」

 ローズと柚子も賛成の意思を見せる。

「吾輩も賛成だ。実験台が増えるのは、非常に望ましいぞ」

「ドクターはさておき、ハル君はどうですか?」

 蒼井をさらりとスルーし、千景はハルに視線を向ける。

 涙目の蒼井は取り敢えず無視。

 ハルは少し考えて、

「俺も賛成ですが……悪の組織に入る人なんていますかね?」

 一番の不安点を口にする。

 ハピネスは誤魔化しようのない、悪の組織。

 いかに不況の世とはいえ、好きこのんで入るわけがない。

 だが、そんなハルの不安を一蹴するように、

「そこは問題ありません。私に任せてください」

 千景は自信満々に言い切った。

「では人員補充の作業を進めさせて貰います」

「うむ。吉報を期待しているぞ」

 かくして、人員補充は始まったのだった。



 数日後。

 ハル達は千景に呼び出された。

 執務室の前に立つと、紫音がハル達に向き直る。

「確認しておくが……全員、怒られるような心当たりは無いな」

 こくりと頷く一同。

 気分はすっかり、生活指導室に呼び出された問題児だ。

「では……開けるぞ」

 ノックをして、ハル達は執務室へと入る。

 そこには、書類の山に囲まれた千景が居た。

「千景さん、それは一体?」

「ハピネスに参加を希望する人達の、履歴書です」

 執務机に座る千景は、疲れた顔で答えた。

「全部に目を通すのに、少し時間が掛かってしまいました」

「これ、全部ですか……」

 奈美が驚くのも無理はない。

 ローズの身長ほどに積み上げられた、書類の山。

 一枚一枚目を通すのに、どれほどの労力が掛かるのだろうか。

「しかし千景さん。どうやったらこんなに希望者が集まるんですか?」

「大したことは何も。求人募集のチラシを出しただけなのですが……」

 千景はチラシをハルに手渡す。


 緊急募集

 あなたも悪の組織で働いて見ませんか?

 私達ハピネスは、あなたの力を求めています。

 年齢、性別に関係なく、やる気のある方を募集します。

 経験者優遇。

 未経験者の方も、親切な指導員が丁寧に指導致します。

 食事補助、職員寮も完備。福利厚生に力を入れている組織です。

 夏季、年末年始の長期休暇あり。年休取得可。

 希望の方は、下記の宛先まで履歴書を送付下さい。

 書類選考通過の方には、こちらからご連絡致します。


「………………」

 ハルがチラシを読み上げると、沈黙が訪れた。

「あら、何か気になるところでもありましたか?」

「何というか、改めて見ると、自分たちがいかに恵まれていたか、分かるというか……」

 同意するように頷く幹部達。

 悪の組織という言葉を除けば、立派な優良企業だ。

「厳しい仕事ですし、安全とは言い切れません。この位は当然ですよ」

「なるほど。……それで、こんな好条件を提示した結果が、コレですか」

 苦笑いのハルに、千景は頷く。

 不況の世の中は、まだまだ継続中というわけだ。


「とにかく大量でしたので、勝手ながら私の方で、数を絞らせて貰いました」

 賢明な判断です。

「五十名ほどをリストアップしたので、みんなの意見を聞きながら採用を決めようかと」

「それでも、五十人もいるのね……」

「まあまあ奈美さん。みんなで見れば、あっという間ですよ」

「柚子ちゃんの言うとおりよぉ。……それで千景ちゃん、何人くらい採用する予定なのぉ?」

「最低でも二十名は欲しいところです。上限は、そうですね三十名位でしょうか」

「ほう。なかなか思い切った増員だな」

 珍しく感嘆の声をあげる蒼井。

「これからの事を考えると、どうしても必要なので。ちょっと奮発しました」

「千景が言うのだ、問題は無かろう。では早速選別するとしようか」

 紫音の言葉に頷き、ハル達は書類選考を始めた。


 作業は困難を極めた。

 千景が選別しただけあり、文句のない人材ばかりなのだが。

 如何せん、選ぶ側の人間に問題があった。

「ハピネスの職員になるのだ。それなりの特殊能力は必要だろう」

「瓦三十枚位割れないと、話にならないわよ」

「選考基準は顔よぉ、顔。他はどうでもいいわぁ」

「優しい人なら……」

「頑丈な奴が望ましいな。吾輩も実験のしがいがあるし」

「……俺がしっかりしなきゃ」

 こんな問題児達(ハルは除く)が選ぶのだ。

 順調に進むはずもなかった。


「この人、東京大学卒って書いてありますよ」

「ん~、でも顔がタイプじゃないわぁ。却下ねぇ」


「元自衛官だって。奈美、どうだ?」

「ちょっと足が遅いわね」

「??五十メートル、六秒フラットだぞ。俊足じゃないか」

「最低でも四秒くらいで走って貰わないと。アウトね」


「お、某大手科学研究所の元職員だ。ドクター、助手にどうだ?」

「還暦を超えた奴では、実験台にもできん。もちろんボツだ」


「某銀行の経理担当だった子か。裏方に良いかもな」

「ふ~ん可愛い子ね。ハルってこういう子がタイプだったんだ」

「……いえ、何でもないです」


 こんな具合で、早数時間。

 選考作業は全く進んでいなかった。

 そしてその様子を、静かに見守る千景。

 

 話を振った手前、口出しをせずに大人しくしていたのだが……。

 もはや限界だった。

 ハル達の元に歩み寄ると、机に広げられた履歴書を、手早く纏める。

 そのままハル達に背を向け、それを天井に向けて、ぱっと投げ捨てた。

「ち、千景……。怒ってるのか?」

「いえ。ただ、少し選考の手伝いをしようと思いまして」

 机にある筆記用具を、指の間に挟む。そして、

「……ふっ!!」

 舞い落ちる履歴書めがけて、思い切り投げつけた。

 スコココココン

 軽快な音を立てて、筆記用具達は履歴書と共に、壁に撃ち込まれていった。

「………………」

 突然の出来事に、言葉を失うハル。

 ペンはともかく、消しゴムが壁に突き刺さった光景は、何ともシュールだ。

「一、二、三……うん、丁度いい数ですね」

「全くぅ、千景ちゃんたらぁ、ちょっと乱暴すぎないかしらぁ?」

「意見が揉めたときは、ランダム要素を入れると良いんです」

 苦笑いのローズに、くすりと笑う千景。

 完全に二人だけで分かり合っていた。

「よく分からないが……千景よ。説明して貰おうか」

 紫音に千景は頷く。


「意見が揉めていたようなので、クジで選考致しました」

「クジって……」

「私が投げた筆記用具に貫かれた人達が、落選です」

「あの、千景さん。普通は逆なんじゃ」

「攻撃に当たらない、そんな運を持った人を選んだつもりです」

 千景の説明に、おぉ~、と納得の声をあげる。

 勝手に採用者が決められた事は、すっかり忘れ去っていた。

「細かな手続きは、私が行います。みんなの協力に感謝します」

「片づけは私が手伝うからぁ、みんなは戻って良いわよぉ」

 千景とローズに背中を押され、ハル達は執務室を後にする。




 ハル達の足音が遠ざかったのを確認すると、ローズは軽くため息をつく。

「ちょっと荒っぽかったじゃない?」

「みんなの意識を逸らすには、大きなインパクトが必要でしたから」

「それは成功ねぇ。お陰で誰が選ばれたかなんてぇ、意識しなかったからぁ」

 ローズは壁に突き刺さった、履歴書をはがす。

 それは先ほどまで選別していたものではなく、適当な文字が書かれた偽物。

「最初からぁ、採用する人は決まってたのにねぇ」

 ローズの言葉に千景は頷く。

「選ぶ人は決まっていても、全員で相談して決めたふりをすれば、結束力は高まりますから」

「それには賛成するわぁ」

 微笑むローズ。

「新人達の訓練は、貴方に任せて良いですね?」

「ええ。一月も貰えればぁ、そこそこに仕上げて見せるわぁ」

「期待していますよ。……では」

「……片づけましょうかぁ」

 二人は壁にめり込んだ筆記用具の回収に、悪戦苦闘するのだった。




 ハピネスの人員補充は、無事終わった。

 訓練を終えた新人達が合流するのは、もう少し先の話。

 



今回募集したのは、ハピーです。

幹部の人数は、これ以上増えないと思いますので、ご安心下さい。


人数が増えたことで、今後は大規模な作戦も実行可能となります。

まあ、ハピネスですのでシリアスにはならないですが……。

次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。

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