表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/103

ドクターを救出しよう(4)

ドクター救出作戦の完結編です。


ようやく刑務所にたどり着いたハル達。

果たして、無事にドクターを救出出来るのだろうか。



「おりゃぁぁぁ」

 戦場と化した刑務所を、奈美は突き進む。

 中庭で軍用犬と警備員を蹴散らし、刑務所内部へ侵入。

 後はひたすら、前へと突き進んだ。


「止まれ、止まらんと……」

「うっさい!」

 立ち塞がる警備員、刑務官、看守達を拳とラリアットで一蹴。


「ケイコク。コレヨリシンニュウシャノセンメツヲ……」

「やかましい!」

 防衛システムを一撃で沈黙させる。


 まさに一騎当千という言葉が相応しい、戦いぶりだ。

 産まれてくる時代、と言うか世界を間違ているとしか思えなかった。

 このまま快進撃が続くかと思われたが、そうは問屋が卸さない。

「陣形を組むぞ」

「奴を挟み込め」

「数で押せ。集中砲火だ」

 刑務所職員の的確な迎撃に、奈美は徐々に押されていた。

 内部構造を把握し尽くしている相手と、そうでない奈美。

 奇襲の効果が無くなれば、奈美の不利は明らかだ。

「参ったわ。急に戦いにくくなったわね」

 曲がり角に姿を隠しながら、奈美は舌打ちをする。

 角から一歩でも出れば、途端に銃弾の嵐が襲ってくるだろう。

「外なら銃弾くらい避けられるのに……。屋内は厳しいわね」

 姉さん、普通は外でも無理です。

 相変わらずの超人ぶりだが、現状は極めてピンチだった。


 そんな膠着状態は、長くは続かなかった。 

「後ろから人の気配……。こりゃ覚悟を決めるしかないか」

 挟み撃ちにされたら、袋のネズミだ。

 ならば、と奈美が飛び出す覚悟を決めた時だった。

「奈美~。無事か~」

 背後から届いた、聞き覚えのある声に振り向く。すると、

「ハル! それに…………えっ?」

 信頼する仲間と一緒に、不振人物達が駆け寄ってきた。

「よかった。奈美、無事だったんだな」

「あの……ハル。来てくれたのは嬉しいんだけど、そちらの方々は?」

 奈美は視線を、不振人物達へと向ける。

「ご挨拶ですね、奈美。私です。千景ですよ」

 貴婦人マスクをずらし、千景は苦笑する。

「千景さん!? じゃあこっちの銀行強盗マスクはまさか……」

「うふふぅ。わ・た・し、ローズよぉん♪」

 マスクに空いた穴から、器用にウインクをする。

「二人ともどうしてそんな格好を?」

「私達は普段着ですから、これを付けないと正体がバレます」

 千景のワンピースに、ローズは真紅のビジネススーツ(もちろん女性用)。

 その格好でマスクをしている方が、かえって怪しまれる気がするが……。

「そう言うものなんですか」

「お約束ってやつよぉ」

 ローズの言葉に、奈美は首を傾げながらも納得する。


「さて、無駄話はこれ位にして、先に進みましょう」

「千景さん。この角から一歩でも出ると、銃撃が……」

「大丈夫よぉ。コレを使うからぁ」

 ローズは手榴弾のピンを抜き、放り投げる。

 一、二、三、ドカーン!

 爆発音と職員達の悲鳴が響く。

「道は開いたわよぉ。行きましょ♪」

 生き生きしているローズを先頭に、一行は先へと進んだ。



 この援軍により、形成は一気に逆転した。


 千景の発案で、一行はまず刑務所の総合司令室を破壊。

 指揮系統を失った防衛部隊は、まさに烏合の衆。

 ハル達(殆どが奈美とローズだが)に各個撃破されていく。


 その後設備室、システム管理室を次々に壊滅させる。

 これで、刑務所の防衛システムを無力かすることに成功した。


「この位で充分でしょう。さあ、ドクターを迎えに行きますよ」

「千景さん……。何か慣れてませんか?」

「うふふ。昔は色々と、やんちゃもしましたので」

 どんなやんちゃですか……。

「時間も無いしぃ、行くわよぉ」

 ハル達は蒼井が囚われている、牢屋へと向かった。



 無数の牢屋が並ぶ区画に辿り着くと、聞き慣れた声が響く。

「お前達! やはり来てくれたのだな」

「助けに来たわよ…………ドクター?」

「何で疑問系なのだ!」

「とっても男前になった蒼井ちゃんにぃ、ちょっと驚いたのよぉ」

 おどける様にローズは笑うが、その拳は固く握りしめられていた。

 腫れ上がり、別人のようになった蒼井の顔。

 それだけで彼がどの様な扱いを受けたのか、察するには充分だった。

「無事では無いようですが、五体満足でよかったです」

 冷静を装う千景だが、その声には怒りが滲み出る。

「これが警察の……正義のやることか」

 傷つけられた仲間を前に、ハルは初めて正義に対して敵意を抱いた。


「ところで、お前達。牢屋の鍵はあるのか?」

 鉄格子を指さし、蒼井が尋ねる。

 太さ数センチはある、頑丈そうな鉄格子だ。

 ふふん、と奈美は自信満々に、

「大丈夫よ。こんな鉄の棒きれ、私が……ががががががが」

 こじ開けようと鉄格子に手を掛けた瞬間、青白い電流が奈美に襲いかかる。

「ななにによよここれれ」

 全身を青白く発行させながら、奈美は感電していた。

 時々骨が透けて見えるが、大丈夫だろうか……。

「脱獄防止用の仕掛けねぇ。設備関連はさっき潰したはずだけどぉ」

「どうやら破壊したシステムとは、別の管理下だったようですね」

「何を落ち着いてるんですか。奈美、早く手を離せ」

「無理りりり。手ががが離れないいい」

 バチバチと物騒な音を立てながら、奈美は体を硬直させる。

 高圧電流を浴び続ければ、流石の奈美でも危険だ。

「ふぅ、仕方ないですね」

 千景は小さくため息をつくと、懐からそっと扇子を取り出す。

 十寸程のそれは、見事な漆黒だった。

「千景さん、それは?」

「護身用の鉄扇です。特注品で、骨だけでなく扇面も全て特殊金属なんです」

「強度は鋼以上だしぃ、電気も通さない優れものなのよぉ」

 もはや護身用じゃないですよね。それ。

「少し重いのが難点ですが、扇を開いてこうすれば……!!」

 キィィン、キィィン、カランコロン。

 千景が鉄扇を薙ぎ払うと、鉄格子は丸太のように真っ二つに切り捨てられた。

 転がる鉄格子を見つめ、ハルは思う。

 絶対……護身用じゃないですよね……。


「はぁ~助かった。感電すると体が動かなくなるのね。不思議だわ」

「俺はお前がどうして無傷なのかが不思議だよ」

 高圧電流もなんのその。

 奈美はケロッとした様子で、掴んでいた鉄格子を投げ捨てた。

「とにかく、これでドクターも救出したし、作戦は完了ね」

 脳天気な奈美の言葉に、一同はため息をつく。

 大変なのは、むしろこれからなのだ。


「奈美、やっぱり何も考えて無かったんだな」

「ちょっと。どういう事よ」

 ムッとする奈美。

「あのね奈美ちゃん。刑務所でこれだけ大暴れをしたらぁ」

「当然、警察の応援部隊が駆けつけます」

「恐らく、もう刑務所は完全に包囲されているだろうな」

 三人の言葉に、奈美は少し考えて、

「じゃあ、今度はそいつらを全員ぶっ飛ばしちゃえばいいのね」

 奈美クオリティの解決法を出した。

 実現出来そうなところが怖い。

「駄目よぉ。警察と正面から対峙するのはぁ、まだ早いわぁ」

「ハピネスにはまだ、そこまでの戦力は無いって事ですね」

 ハルの言葉に千景は頷き、

「力をつけるまでは、影からこそこそと、ちくちくと嫌らしく戦うべきです」

 何とも情けない言葉を、自信満々に言い切った。


「それで、結局どうするのだ?」

「一応策は用意してあります」

 千景は手に持ったトランクを掲げる。

「さて、それでは私達らしく、こそこそと逃げるとしましょうか」






 刑務所周辺は、緊迫した空気に包まれていた。

 応援要請を受けた警官隊が、刑務所周辺を完全に包囲する。

 後は突入部隊の到着を待つだけ、と言うその時だった。

 ひゅ~~~、ドッカーン。

 外から警官隊に向け、何かが撃ち込まれた。

 と同時に、周囲に煙が充満する。

「な、何だ。何が起きている?」

「分かりません。外部からの砲撃の様ですが」

 突然の事態に動揺する警官隊。

 その間にも次々に爆発は続き、煙は中庭の警官隊を覆い始める。

「ぐわぁぁ。何だこの匂いは」

「き、急に吐き気が……」

「目が~、目が~」 

 煙を吸い込み、次々にのたうち回る警官隊。

「いかん。おい、ガスマスクの用意は?」

「外の車両にあります」

「全員、何でもいい。布を顔に当てて、煙を吸い込むな」

 ハンカチやタオル、服の袖で顔を隠す警官隊。

 煙は刑務所の中庭を完全に覆い尽くしていた。

「急ぎ中庭より離脱。外壁の外へ退避するぞ」

 指揮官の指示に、布で顔を覆った警官隊が外へと退却する。

 突然の事態に、周囲は騒然となった。

 体調不良を訴える者は、救急車とパトカーで病院に搬送されていく。

 無事な者はガスマスクを装着し、煙の中に舞い戻り、襲撃犯を迎え撃つ。

 この騒ぎは、煙が晴れるまで三十分ほど続いた。


 結局、警察が刑務所襲撃犯を捕らえることは無かった。





 そして、その夜。

「それでは、ドクターの解放と、全員が無事に帰還したのを祝して」

「「乾杯!!」」

 幸福荘の食堂では、作戦成功の祝勝会が開かれていた。

 無実の罪で囚われた仲間の救出とあって、会は大いに盛り上がる。

「吾輩は、皆を信じていたぞ~」

「ドクター! ドクター! ドクター!」

「悪だって、たまには勝つのだ~」

「おぉぉぉぉ!」

 顔を湿布で埋め尽くしながらも、蒼井は満足そうにマイクを握る。

 盛り上がるハピー達を、微笑みながら見つめる幹部達。

 仲間の拘束による動揺は、どうやら解消されたようだ。

「それにしても、よくあの包囲網から脱出できたものだな」

 ジュースを片手に、呆れたように紫音は言った。

「木を隠すなら森の中作戦。正直ここまで上手く思いませんでしたよ」

「成功したのは柚子達のフォローが大きいですね。作戦自体は古典的ですから」

「それでも、やっぱり千景さんは凄いですよ」

 嬉しそうに笑顔を見せる柚子に、千景は軽く微笑む。



 作戦自体は、確かに古典的だった。

 千景が持ち込んだトランクには、警官の制服が入っていた。

 それに着替え、入り口付近で待機。

 柚子達が放り込んだ、柚子特製の毒煙玉による混乱に合わせ、警官隊に紛れ込む。

 視界が悪く、タオルで顔を隠しているため、バレる可能性は低い。

 後は病院に搬送されるふりをして、こっそり逃げるだけだ。


「ガスマスクの未装着など、幾つかの幸運も重なった結果です」

「いいじゃないのぉ。運も実力のうちよぉ」

「そうだぞ。何にせよ、全員が無事に戻った。これが全てだ」

「ふふ。ではそう言うことに。……さて、少し席を外しますね」

 残ったワインを飲み干すと、千景は静かに食堂を後にした。



 幸福荘の騒がしさも届かない、地下基地の一室。

 小さな机と椅子以外は、テレビも、ラジオも、窓一つない殺風景な部屋。

 通称、反省部屋。

 千景は軽くノックをし、部屋の中へと入る。

「奈美、お待たせしました」

「いいえ」

 部屋の中には、祝勝会に参加していない奈美がいた。

「私がどうして怒ったのか、分かりましたか?」

 千景は奈美と向かい合うように、椅子に腰掛け尋ねる。



 奈美を反省部屋に入れたのは、千景だった。

 基地に戻って直ぐ、千景は奈美を連れてこの部屋に来た。

 そして、奈美の頬を張った。

 呆然とする奈美に、

「私が怒っている理由を、よく考える事です」

 千景は言い残し、部屋からの退出を禁じた。


「……千景さんは、私の勝手な行動を怒ってるだけじゃ無いんですよね」

 ポツリと奈美は話し始める。

「私の行動で、ハピネスのみんなを危険な目にあわせたこと。そして」

「そして?」

「みんなを、仲間を信じないで、一人で戦ったことを怒ったんですね」

 奈美の答えに、千景は満足そうに頷く。

 それこそが、千景が一番許せず、見逃せない事だった。

「その通りです。私達は規模も戦力も、正義の味方には遠く及びません。

 だからこそ、仲間を信じて、力を合わせ共に戦う。それは絶対に忘れてはいけない事です」

「はい……すいませんでした」

「貴方は自分で答えに辿り着いた。それで充分です」

 叩いた甲斐がありました、と千景は笑顔を見せる。

 それを見て、ようやく奈美は表情を和らげた。 


「さあ、上に戻りましょうか。祝勝会もまだ途中ですよ」

「はい。もうお腹ペコペコです」

 千景と奈美は立ち上がり、部屋のドアを開ける。

 そこには、

「みんな……どうしてここに。それに、手に持ってるのは……」

 祝勝会ではしゃいでいるはずの、ハピネス全員が廊下に立っていた。

 しかも全員が、料理が乗った皿や、飲み物を手にしている。

「それで、みんな揃って一体どうしたんですか?」

 少し呆れたように尋ねる千景。


「いや、千景のことだから罰として食事抜きとか、やると思ってな」

 気まずそうに頬をかきながら紫音。

「だから、こっそり差し入れをしようという事になりまして」

 サンドイッチが乗った大皿を手にハル。

「でもぉ、奈美ちゃんってとっても沢山食べるでしょぉ」

 バスケット一杯のパンを持ったローズ。

「それで、あれもこれもと選んでいるうちに、凄い量になってしまいまして」

 ペットボトルのジュースを手に柚子。

「「ですので、全員で来ちゃいました♪」」

 その他大量の料理や食材を手にした、ハピー達。


「仮にも吾輩を助けた者が、そのせいでひもじい思いをするなど、許せぬからな」

 ラップで包んだおにぎりを差し出す蒼井。

「か、勘違いするな。別にお前のためではなく、お前が空腹だと吾輩が気まずいからだ」

 照れたようにそっぽを向く蒼井。


「みんな……ありがとう」

 奈美の本当に嬉しそうな笑顔に、ハル達も笑顔を向ける。



 こうして、仲間の絆を確かめ合い、この話は幕を……、

「ちょっと待って下さい」

 下ろさなかった。



「ではみんなは、私がそんなに酷いことをする奴だと、思っていたんですね」

 静かだが、威圧感を込めた千景の言葉に、全員が固まる。

「そうですか……残念です」

「あの……千景。どうして笑顔で扇子なんか取り出すのだ?」

 尋ねる紫音。その声は、恐怖で震えている。

「うふふ。それはですね…………お仕置きをする為です♪」

「みんな、逃げろ~!」

「「うわぁぁぁぁぁ」」

 悲鳴を上げながら、一目散に逃げ出す。

「逃がしませんよ。さあ、全員覚悟なさい」

 何処か嬉しそうに、追いかける千影。



 こうして、ハピネスの日常は取り戻されたのだった。  

 





色々ありましたが、ハピネスはようやく日常を取り戻しました。

これからはまた、こそこそと悪事を働いていきます。


次は久しぶりにハルがメインの予定です。

次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ