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ドクターを救出しよう(3)

遂に始まった救出作戦。

一人先走る奈美に、勝機はあるのか?

そして、囚われのドクターの元に、怪しい人影が……。



 ハル達が、準備と整えている頃、

 奈美は既に、刑務所に辿り着いていた。 

「ここが例の刑務所か。なかなか立派じゃない」

 巨大な外壁を前に、腕組みをして不敵に笑う。

 会議を早々に抜け出した後、猛ダッシュでここにきた。

「ゴチャゴチャ考えなくても、力ずくで行けばいいのよ」

 軽く体をほぐし、戦闘準備を終える。


「それじゃあ、行きましょうか」

 何の策もなく、堂々と正門へと近づいていく。

 もちろん、妙な格好をした女が現れれば、警備員も警戒するわけで、

「そこの怪しい格好をした奴。止まれ」

 短機関銃を奈美に向けて警告をする。

 しかし奈美は歩みを止めずに、

「すっかり慣れちゃってたけど、やっぱりこの格好は変よね」

 ブツブツと呟きながら進み続ける。

「止まれ! 止まらんと撃つぞ」

「もう。煩いわね……ふんっ!」

 足に力を込めると、一瞬で警備員の背後に回り込む。

「少し寝ててね」

「ぐべぇぇぇ」×2

 首筋を手刀を打ち込み、一撃で警備員を沈める。


「次は、この入り口ね」

 続いて奈美を阻むのは、高さ3mはあろうかという鉄製の正門。

 厚さは数十センチに及び、重量は数トンあるだろう。

 もちろん人力で開けられる訳が無く、開閉は機械制御されているのだが、

「ぶち抜くわよ。……てりゃぁぁ!!」

 奈美の右ストレートには勝てなかった。

 拳の跡をくっきり残した正門は、内側へと吹き飛んでいく。

 彼女に常識は通用しなかった。


 ビービービービー

 非常事態を察し、刑務所に警報が鳴り響く。

「さぁて、一丁行きますか!」

 ゴン、と拳を胸の前でぶつけ、気合いを入れ直すと、

 軍用犬と警備員がひしめく中庭へと、奈美は駆けだした。




 蒼井は疲れ果てていた。

 身に覚えのない痴漢容疑をかけられ、早数時間。

 取り調べから、怒濤の展開で刑務所へGO。

 あれよあれよという間に、牢屋に放り込まれていた。

 もちろん蒼井も抵抗したのだが、駄目だった。

 痛々しく腫れた顔が、蒼井の身に起きた事を雄弁に語る。

「どうして吾輩が、こんな扱いをうけるのだ」

 蒼井の問いかけに答えるものはいない。

「あいつらは、助けに来るのだろうか……」

 頼りの綱は、やかましくも頼もしい仲間達。

 一緒に温泉に行く位仲も良く…………。

「思い出したら腹が立ったぞ。そもそも吾輩も一緒に行けたら、こんな事には」

 やり場のない怒りに、地団駄を踏む。

「ちくしょー。ここから出すのだ。そして吾輩も温泉に……」

「ご希望なら、温泉でも何処でも、ご招待しますよ」

 声は、牢屋の外から聞こえた。


 いつの間にか、鉄格子の向こうに、背広姿の男が立っていた。

 黒縁メガネの中年親父。

 禿げ始めた髪の毛以外、目立った特徴の無い普通の男。

 そんな普通の男が、普通じゃない場所にいる事に違和感があった。


「お前……誰だ?」

「申し遅れました。私、正義の味方のスカウトマンです」

 佐藤です、と男は名刺を見せる。

「ふん、スカウトとやらが、吾輩に何の用だ」

「それは勿論、あなたをスカウトしにきたのですよ。蒼井賢さん」

 佐藤の言葉に、蒼井は目を細める。

「吾輩が誰か知っているのか?」

「怪人製作の優秀な科学者である蒼井さん、ですよね」

「調査済みと言う訳か」

「ええ。性格に若干の問題はあるものの、能力は超一流。

 どの組織に属さない、フリーの科学者。素晴らしい人材です」

 佐藤の言葉に、蒼井は僅かに眉をひそめる。

 どうやら、ハピネスに所属しているのを知らないようだ。

 無論、わざわざ教えてやるつもりもないが。


「研究予算、設備、待遇は最高のものを用意します。

 こんな場所からも、即刻釈放させます。如何でしょう?」

「……悪くはないが、気にくわないな」

「おや、何か問題でも?」

「吾輩をここに入れたのは、お前の差し金だな」

「さて、分かりかねますな」

 蒼井の言葉に、佐藤は僅かに嫌らしい笑みを浮かべる。

 それで蒼井は確信した。

 この佐藤と言う男は、この為に自分をここにぶち込んだのだと。

「ただ、いい返事を頂けぬ場合、ずっとここにお世話になるでしょうね」

「なるほどな。それが貴様らのやり方か」

 虫酸が走る思いだった。

 蒼井の美学に真っ向から反する行為だ。

「返事は如何ですかな?」

「断る」

 蒼井は不機嫌さを隠そうともせずに、即答した。

「それは残念です。ではまた後日伺うので、それまで良く考え…………」

 ビービービービー

 突然鳴り響く警報が、佐藤の言葉を遮る。

「これは……何なのだ」

「非常警報ですね。脱獄か、あるいは侵入者があったのかと」

 佐藤の言葉に、蒼井は答えない。

 頭の中は、もしかしたらと言う思いで一杯だった。

「まあ直ぐ静かになると思いますよ。では、私はこれで」

 蒼井はもう、去っていく佐藤のことなど頭に無かった。

 ただ、あの常識外の仲間達の姿だけを思い浮かべていた。







「何か、大惨事って感じですね」

 ハルは呆れたように呟く。

 視線の先には、あちこち破壊され、煙を上げる刑務所。

 その様子を、少し離れた丘のから眺めるハピネス一同。

「あの様子ならぁ、奈美ちゃんもまだ無事みたいねぇ」

「私達も作戦を開始します。全員、役割は分かっていますね」

 千景の言葉に、頷く一同。

「私と剛彦、それにハル君で中に侵入します」

「柚子ちゃんとみんなはぁ、支援をお願いするわねぇ」

 了解です、と返事をする柚子とハピー達。


「それじゃあ、早速行きますか」

「ええ、でもその前に。剛彦、準備出来てますね」

「バッチリ持ってきてるわよぉ」

 ローズがポケットから取り出したのは、二つのマスクだった。

「私達はハル君と違って、戦闘服じゃないですからね」

 正体がばれるとマズイので、とマスクを装着する。

 それは仮面舞踏会に出るような、お洒落マスクだった。

 鞭でも持ったら、まさしく女王様という感じだ。

 似合っている分、何故か怖い。

「まさかローズも」

「大丈夫よぉ。私のは普通だからぁ」

 そこにいたのは、銀行強盗御用達のマスクを付けたローズだった。

 怖い。似合い過ぎているのが怖い。


「さぁ、準備万端よぉ」

「装備も問題ありません。……では、行きましょう」

 トランクを片手に、千景は刑務所へ向かって走り出す。

 ハルとローズも後に続く。


「ハルさん、千景さん、ローズさん。御武運を」

 駆け出す三人に向け、柚子は小さく呟いた。



 




ドクター逮捕の真相が明らかになりましたね。

変人ではありますが、蒼井はとっても優秀なんですよ。実は。


ようやくハル達が到着し、役者が揃いました。

次で、ドクター救出作戦は完結です。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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