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正義の味方はとっても大変です

正義の味方、ジャスティスのお話です。

座談会を欠席した彼ら。

一体何があったのでしょうか……。


前半はシリアス。

後半はハピネス視点に切り替わり、ギャグへと変わります。

ギャップにくじけず、読んで頂けるとありがたいです。



 ジャスティス。

 政府直属の正義の組織。

 数ある組織の中でも、最高の戦力を持つ法の番人達。

 悪の組織からすれば、正に天敵といえる存在だ。

 だが、そんな彼らにも悩みは存在する。

 それは……。


「あぁもう駄目。限界です」

「この仕事が終わったら休んで良いです」

「み、美園君。流石の私でもこの仕事量はちょっと……」

「煩い。無駄飯ぐらいと言われたくなければ、とっとと片づけてこい」

「美園っち……。儂過労死しちゃうかも……」

「黙れじじい。私が直接手を下してもいいんだぞ。さっさと行け」


 つまりは、人手不足であった。


 ジャスティスの職員に求められる能力は、極めて高い。

 コネなどを排除するため、入隊の条件も厳しい。

 その結果、慢性的な人手不足に陥っていた。


 メンバーを現場に送り出し、美園は大きなため息をついた。

 ジャスティスの作戦司令室。

 最新設備が投入されたその場所も、人がいなければ本末転倒だ。

「みんなよく頑張っていますが、そろそろ厳しいですね」

 厳しく指示を出す美園だが、状況を冷静に分析できていた。

 彼らに与えられた任務はどれもハードなものばかり。

 どれだけ優れた人間でも、人である以上限界はある。

「せめて動ける組織が、もう少し多ければ……」

 拳を握りしめる。


 正義の組織は膨大な数が存在する。

 民間を除いても、公的な組織だけで数十はくだらない。

 だが、実質活動できているのは十前後だろう。

「金と権力を喰らうだけの毒虫どもが」

 忌々しげな美園の表情が、全てを物語っていた。


「美園君。気持ちは分かるが、発言には気を付けた方がいいぞ」

「なっっ」

 突然聞こえた声に、美園は全身を緊張させる。

 不意を付かれることなどあり得ない。

 心の声を読める美園に、気づかれずに近づくのは殆ど不可能。

 油断無く周囲を警戒する美園。

「はっはは。美園君。ここだよ、ここ」

「…………ボスでしたか」

 ホッとした表情で警戒を解く。

 声の主は、司令室のディスプレイに姿を見せていた。


「いや済まないね。どうも通信不良で、最初音声のみになっていたようだ」

「問題ありません。……何か緊急連絡でしょうか」

 姿勢を正し、直立不動で言葉を待つ。

「緊急の用事ではない。楽にしてくれ」

 優しくほほえみかける男。

 三十代後半から、四十代半ばほどだろうか。

 茶色がかった髪を、オールバックにしているせいか、

 実年齢よりも若く見える。

 苦労しているためか、顔には幾つかのしわが刻まれているが、

 それが男の渋さを一層引き立てていた。

 この人物こそ、ジャスティスのトップに立つ、通称ボスであった。


「実は、爺様から連絡を貰ってね」

「クソ爺……いえ、名誉顧問からですか」

「ああ。このままでは美園君に過労死させられる。何とかしてくれ、とね」

 あの爺は帰ったらしめる。

 美園は心の中で固く誓った。

「まあ爺様の事だから、話半分で聞いてはいるが。……厳しいんだな」

 男の視線を受け、美園は無言で頷く。

 今更細かな説明をする必要もない。

 この人が、自分の組織のことを把握してないことは、あり得ないのだから。

「苦労を掛けてすまない」

「勿体ないお言葉です。ボスが謝ることなど何もありません」

「いや、私が不甲斐ないのさ」

 自嘲気味に男が笑う。

「本来ならすぐに応援の人員を送るところだ。

 だが、今のジャスティスにはそれをすることも出来ない」

「無理もありません。どの支部も人員を遙かに超える仕事を抱えてますから」

「それだけじゃないさ」

 寂しそうに男は言葉を続ける。

「君の言うところの、毒虫どもの対策に、多くの優秀な人材が割かれている。

 何とも笑えない話だ。正義の組織を取り締まるため、正義の組織が動くのだから」

 美園と同じ不満を男も持っていた。

 いや、立場を考えれば男の持つ苛立ちは、美園の比では無いだろう。

 モニター越しにも男の苦労が伝わってくるようだった。


「どの支部も、既に許容量を遙かに超える任務を行っている。

 優秀な人材が理不尽な理由で疲弊し、壊れていくのは……悲しいことだ」

「……そうですね」

 美園もジャスティスで長く働いている。

 男の言うように、過度の任務で体だけでなく心を壊す人材も多く見てきた。

「君のところの新人、早瀬葵君だったか。彼女は大丈夫か」

「今のところはまだ。ただ、そろそろ休ませないといけないと思っております」

「そうか……。君の事だから心配ないと思うが、頼むぞ」

「了解しました」

 本心から美園は返事をする。

 葵はとても不安定な存在だ。

 能力は申し分ないが、精神的にはまだ子供。

 今の状況は、彼女にとって好ましいものではない。

 近いうちに一度、ガス抜きをさせるつもりだ。


「それと、これはまだ未確定情報なのだが……、大陸の方で不穏な動きがある」

 男の声に緊張感が増す。

「大陸……きな臭いですね」

「日本に関係あるかは分からないが、そちらの警戒もしなくてはならないので、

 本部の人材も殆どかり出されてしまう。済まないが、応援は送れ無そうだ」

「お気になさらず」

「その代わりと言っては何だが、君の担当地区にある正義の組織を幾つか再編し、

 多少は役に立つようにしておいた。少しは負担を軽くできるといいのだがな」

「ありがたいです。感謝します」

 美園は笑顔で礼をする。

 どれほどの組織かは分からないが、負担が減ることは確実だ。

「それと、私から個人的に贈り物をさせてもらった」

「贈り物、ですか?」

「ああ。今日中に君の元に届く予定だから、役に立ててくれ」

「ありがとうございます」

「それでは以上を持って、通信を終了する。今後も変わらぬ健闘を期待する」

 男の敬礼で、通信は終わった。



 通信が終わり、美園は大きく息を吐いた。

 短い会話だったが、先ほどまでの苛立ちは大分消えていた。

「理解ある、優秀なボスがいる。これだけでも私は救われるな」

 美園は少し笑顔を見せる。

 彼は部下のことを本当に親身になって考えてくれる。

「さて、私も任務に行くとするか」

 気持ちを切り替え、頭を戦闘モードに移行する。

 ジャスティス専用の銀色の制服を翻し、美園は司令室を後にした。






 場面は変わり、幸福荘。


 のどかな昼下がりは、

「大変大変、大変です」

 食堂に飛び込んできた奈美によって終わりを告げた。


「奈美、少し落ち着きなさい」

「千景さん、これが落ち着いてられますかって」

 いつになく興奮した様子の奈美。

 だがそれは悪い意味での大変ではないようだ。

 奈美がとても嬉しそうな顔をしているから。

「奈美ちゃぁん。何か良いことでもあったのかしらぁ?」

「そうなんですよ。これ、これを見てください」

 奈美は白い封筒を掲げる。

 そこには、

「「温泉旅行招待券~!?」」

 食堂にいた全員の声が重なった。


「なるほど、つまり商店街の福引きで当たったと」

 千景の言葉に、少し落ち着いた奈美が頷く。

 さっきまで奈美はハル、柚子と共に食材の買い出しに出かけていた。

 その商店街ではたまたま福引き大会をやっていたらしい。

「食材買ったら、結構な数の福引き券が貰えたんです」

「凄い量だものね」

「それで、三人で福引きをすることにしたんです」

「ずるいぞ奈美。そう言う楽しい事に私を誘わないなんて……」

 不満そうな紫音。

 羨ましかったようだ。

「最初に私がやったんですけど、一回目で見事二等を当てたんです」

「おぉぉぉぉ」

 誇らしげに封筒を掲げる奈美に、ハピー達から感嘆の声が挙がる。

「事情は理解しました。それで奈美、買い出しの荷物はどうしたんですか?」

「…………あっ」

 はっと思い出し、奈美は冷や汗を流す。

 喜びのあまり、その場に荷物を置き去りにしていた。

「福引きも結構ですけど、貴方の仕事は買い出しですよね」

「はい……」

 奈美はしゅんと顔を伏せる。

 さっきまでの喜びは、あっという間に無くなっていた。

「……まあ今回は大目に見ましょう。ハル君が頑張ったみたいですしね」

「それって……」

 千景の視線を追うとそこには、

「た、ただい……ま」

 大量の荷物に押しつぶされ、倒れ込むハルの姿があった。




「奈美の奴……食材置いていったぞ」

「ど、どうしましょう。私まだ福引きしてないのに」

 突っ込むのはそこかい。

「別に今からやってくればいいさ。俺の分も引いて良いから」

「ほ、本当ですか。ありがとうございます。では早速」

 嬉しそうに顔を綻ばせ、柚子は福引き所へと駆けていく。

 そんな柚子を見送ると、ハルは深いため息をつく。

 目の前には、奈美が置き去りにした食材達。

 自前のエコバック二十袋はあるだろう。

「一番の力持ちが抜けるのは反則だ」

 恨み言は当人は届かない。

 タクシーでも使えば良いのだろうが、

「今の財政状況で、余分な金を使うのはマズイ」

 冷静に検討し、却下する。

 となれば、何とか自力で運ぶしかない。

 ハルは柚子が戻るまでの間、最善策を考え続ける。


「ハルさ~ん、お待たせしました」

「ああお帰り。どうだった?」

「へへ、当たっちゃいました♪」

 嬉しそうな柚子の顔に、ハルも微笑む。

 小物か割引券なんかの末等だろうが、それでも充分だろう。

「それじゃあ、運ぶとするか」

「でもどうやって運びます?」

「モノマネをする」

 ハルは考え抜いた策を伝える。

 パラパラとモノマネ帳をめくり、目当てのページを開く。

「重量上げ世界一ですか。でもそれだけじゃ」

「難しいだろうね。だから、同時にもう一つモノマネしてみる」

「えっ!そ、そんなこと出来るんですか?」

「いや分からない。初めてやる」

「だ、駄目ですよ。体にどんな影響が出るか分からないんですよ。

 もしハルさんの身に大変なことがあったら、私は……」

 涙目になる柚子。

 本気で心配してくれている様子に、ハルは嬉しくなる。

「ありがとう柚子。でも、男にはやらなければならない時があるんだ」

 明らかに今ではない。

 しかし雰囲気に酔っている二人は気にしない。

「分かりました。もしハルさんに何かあったら、一生面倒見ますから」

 さり気なく不吉な発言。

「それで、何をモノマネされるんですか?」

「あれだ」

 ハルが視線を向けた先には、買い物のプロ、主婦の方がいた。

 買い物袋を運ぶ技術は、まさに達人。

「力と技を合わせれば何とかなるはずだ。じゃあ、行くぞ」

「はいハルさん。お供します」

 こうして二人は歩み出した。




「と言う訳なんです」

 床で仰向けに寝ているハルを介抱しながら、柚子は説明した。

「凄いわぁハルちゃん。必殺技の進化なんてまるでぇ」

「主人公の様だな。私も嬉しく思うぞ」

「それは……どうも」

 ローズと紫苑の賛辞に、ハルは何とか返事をする。

「あの華奢な体であれだけの重量を運ぶ……むむむ興味深いのだ」

「しかし、負担は大きいようですね」

 ほとんど身動き出来ないハルを見て、千景は冷静に分析する。

「ハルさん、動けそうですか?」

「無理……。全身がピクリとも動かない。しかも酷い筋肉痛がきてる」

「全く、鍛え方が足りないわね」

「「お前が言うな!!」」

 元凶である奈美に、全員の突っ込みが重なった。


「まあハルの事は置いておくとして、だ」

「この温泉招待券よねぇ」

 みんなの視線が、机に置かれた封筒に注がれる。

「温泉か……悪くないな。新たな環境は頭脳に刺激をくれる」

「そうですね。みんなで慰安旅行と言うのも悪くないですが……」

「どうした千景。何か問題があるのか?」

「ええ。奈美、この招待券を開けて見ましたか?」

 首を横に振る奈美。

「では開けてみてください。私の予想通りなら、恐らくは……」

 奈美が封筒を開ける。

 中には温泉の無料チケットが入っていた。

 二枚だけ。

「え、これだけ?」

「予想通りですね。こういうチケットは大体ペア用ですから」

 ここに来て全員が千景の言っていることを理解した。

「つまり、誰が行くかと言うことだな」

 紫音の言葉に一同に緊張が走る。

 互いに様子を伺うように牽制し合う。

 みんな温泉に行きたいようだ。


「コホン。私はボスだから、当然参加するぞ」

「あら紫音様。それを言うなら、ボスが基地を離れるのはマズイですよね」

「だったら千景も行けないな」

 トップ二人が軽くジャブを打ち合う。


「私は福引きを引いた張本人ですから、参加決定と言うことで……」

「だめよぉ奈美ちゃん。ハルちゃんをこんなにした責任は取らないとぉ」

「でしたら、私が責任を取ってハルを温泉に連れて行きますよ」

 奈美とローズが笑顔で牽制し合う。


「じゃあ吾輩が……」

「「却下です!」」

 ここだけは一致団結していた。


 尚も戦いは続き、泥沼化しそうな様相を呈していた。

 忘れ去られているハピー達も、部屋の隅で心配そうに状況を見守る。

「こりゃまずいな。何かいい解決策があればいいんだけど」

「あのですね。私に良い解決策があります」

 救いの女神は意外な人物だった。

「ホントか。頼む、この状況を何とかしてくれ」

「それは構わないんですけれど……一つお願いがあります」

 嫌な予感がした。

 女神に悪魔の羽と尻尾が見える。

「解決するご褒美に、一つ私のお願い事聞いてくれますか?」

「……いいよ。俺に出来ることなら」

 一瞬考え、ハルは了承する。

 他の面々ならいざ知らず、柚子なら大丈夫だろう。

 その考えが甘かったことをハルが知るのは、まだ先だ。

「分かりました。では早速」

 嬉しそうに微笑むと、柚子はみんなの元へと歩いていく。

「みなさん、安心してください。実は、こんなものがあるんです」

「「そ、それはぁぁぁ」」

 柚子が差し出したのは、二つの白い封筒。

 奈美のものと同じく、温泉旅行招待券と書かれていた。


「実は私も、二等が当たっちゃいました」

「す、凄いわぁ」

「こういう事も、あるんですね」

「一体何回、いや何十回引いたのだ。吾輩の頭脳で計算しても……あり得ん確率だぞ」

「二回だけですよ」

「「百発百中!!」」

 柚子の言葉に驚愕の一同。

「二回目の当たりを引いたら、担当のおじさんが泣いていたので、残りは辞退しました」

「柚子……恐ろしい子」

「でも今はありがたいわよ。これでみんなで行けるね」

 問題が解決し、一気に盛り上がる一同。

 そんな中、ハルはふと気づく。

 ちょっと待て。

 ペアのチケット×三組で、六名ご招待。

 幹部は、紫音、千景、ローズ、奈美、柚子、ハルに蒼井で七人。

 あれ……足りない。


「ハピーの皆には申し訳ないが、留守を頼めるか?」

 紫音がすまなそうに尋ねると、

「お任せ下さい。皆さんで楽しんできてください」

 何ともあっさりと了解する。

 ハピー達の方がよっぽど大人だ。

「財政が立ち直ったら、今度は全員での慰安旅行を計画します」

「はい。期待しております」

 それでは、とハピー達は業務へと戻っていく。


「それで、いつ行きましょうか?」

「期間内ならいつでも行けるようですね。少し待ってください」

 奈美の質問に、千景は手早く予定表を確認する。

「全員参加なら明後日がベストですね」

「よし、それでは全員に告げる。明後日、ハピネス幹部は温泉旅行に行くぞ~」

「「お~~」」

 歓喜の声を挙げる一同。

 こうして、ハピネス幹部の温泉慰安旅行が決定した。

 大きな不安要素を残したままで。



え~、本編のちょっとした補足を致します。


Q.クソ爺って美園の上司でしょ?


A.爺様ことクソ爺は美園よりもずっと上の立場です。

当初は美園の上司でしたが、ボスの指示により部隊に編入したため、

指揮権を持つ美園の指示に従っています。


ジャスティスの話と言っておきながら、半分以上ハピネスの

話になってしまいました。すいません。


次回からは温泉旅行のお話です。

いい加減ハピネス活動しろよ、と突っ込みが入りそうですが、

大目に見てください(謝)。

全部で四回くらいに纏められればと思っています。

次回もお付き合い頂ければ幸いです。



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