基地の改修終わりました
基地の改修話、完結編です。
遂にベールを脱ぐ新たなアパート。その正体は……。
と煽ってみましたが、期待せずにご覧下さい。
一夜明け、午前九時半。
ハルと奈美は、ハピネスのアパートへと到着した。
あの後、ホテルにたどり着いたまでは良かったのだが、
どっちがベッドに寝るかで大論争。
結局どうなったのかは……ご想像にお任せする。
まあ、最後は力がモノを言ったのだが……。
「もうみんな集まってるみたいだな」
「そりゃそうよ。新しいアパート早くみたいもの」
楽しそうに語る奈美。
それはどうやら間違っていない様だ。
集まっているハピー達も、何処かウキウキして見えた。
「ハル、今何時?」
「えっと……もう直ぐ十時になるな。そろそろだと思うけど……」
「みんな、待たせたな」
ブルーシート間から、紫音が登場した。
「どうやら全員集合したようだな。時間通りの行動、良いことだ」
集まったハピー達を見て、満足そうな紫音。
千景とローズ、柚子の基地待機組の幹部も登場。
役者は揃った。
「予期せぬアクシデントから始まった改修工事だが、
結果として我らハピネスにとって非常に有益なものとなった」
苦笑いを浮かべる一同。
「ここまで来て出し惜しみをすることもあるまい。……では、お披露目だ!」
紫音の言葉と同時に、ブルーシートが取り払われる。
ゆっくりと、その姿を現す新アパート。
「おぉぉぉぉぉぉぉ」
ハピー達のテンションも最高潮。
やがて完全にシートが除かれ、現れたのは、
「…………何が変わった?」
改修前とほぼ同じ姿のアパートだった。
「つまりは、カモフラージュだと」
ハルの言葉に、千景は頷く。
場所を新アパートの談話室へと移し、説明会が行われていた。
「年季の入ったアパートが改築されれば、それだけで注目されます。
外観が大きく変われば、それもたった一日でとなれば、言わなくても分かるでしょう」
千景の説明はもっともだった。
元のアパートは築何十年というボロアパート。
それが一日経って、最新のアパートに変わっていたら、誰だって不審に思う。
「ですので、外観だけは今まで通り、古びたアパートにしてあります」
「でもぉ、中はまるで別物よぉ」
自信満々のローズ。
ハル達もそれには納得する。
ボロの外見からは想像も出来ないほど、新しく綺麗な内観。
徹底的に強化された耐久性。
外からでは分からないが、大幅に増えた部屋数。
なのにそれぞれの部屋はむしろ広くなっていた。
共有施設も最新のモノにリニューアル。
「床がピカピカだ~。全然軋まないぞ」
「凄い。これでもう落とし穴トラップにかからなくて済む」
「おい、トイレが水洗になってるぞ」
「マジか。もうくみ取り業者を呼ばなくても良いんだな」
「テレビが、テレビが地デジ対応だぞ」
「もう嫌がらせのようなアナログ表示に、イライラしなくていいのね」
「倉庫のドアがあっさり開くぞ」
「前は三人掛かりでやっとだったのに……」
「お風呂が、お風呂があるぞーー」
「これで毎日四百円の銭湯代から解放されるな」
荷物の搬入や施設チェックをしているハピー達から、喜びの声が挙がる。
今までのことを思うと涙が出る。
「色々とぉ、役に立つ仕掛けも用意してあるからぁ、お楽しみにねぇ」
「仕掛け、ですか」
「地下基地はともかく、今までアパート部分は無防備でしたからね。
考えられる敵の強襲に備えるべく、色々と剛彦に準備してもらいました」
千景の言葉にハルは少し眉をひそめる。
これからは、敵に基地を襲われるような立場になると聞こえた。
悪の組織である以上当然と言えば当然なのだが、
ハルは少しだけ心が重くなるのを感じていた。
もっとも、そんなことを欠片も考えない人間も居るのだが……。
「ハ~ル。このアパート凄いよ。セキュリティが最新式だよ」
知らぬ間に説明会を抜け出して、
アパート探検に出かけていた奈美が弾んだ声を挙げる。
「はぁ……。まあいいか。奈美、どの辺が凄いんだ?」
「あのね、玄関にセコムとアルソックのシールが貼ってあるの」
「それは駄目だぁぁぁぁぁ」
とんでもない奈美の発言にハルは絶叫する。
仮にも悪の組織に本拠地を、警備会社に守って貰っちゃだめだろう。
「心配いりませんよ。それは勝手にシールを貼っているだけです」
「もっと駄目だぁぁぁぁぁ」
常識人はハルだけなのだろうか。
転職を真剣に考えるべきかも。
「何にせよ、改修は成功しました。残る問題は」
「掛かった費用の回収よねぇ」
千景とローズは同時にため息をつく。
「あ、あの。一つ聞きたいんですけど」
「何ですか」
「私たち、この間銀行強盗しましたよね。そのお金じゃ足りないんですか?」
奈美の疑問はもっともだ。
三カ所の銀行強盗の成功。
足りないまでも、かなりの足しになるはずだが……。
「あのお金は使えません」
しかし千景は否定する。
「銀行強盗したお金は、番号など控えられている恐れがあります。
当分の間は使わない方が良いでしょう」
「リスクは最小限にぃ、出来たらゼロにすべきよぉ」
説得力のある二人の言葉。
ハルと奈美に反論など出来るはずもない。
「まあそれは何とかするので、心配しないで下さい」
微笑みながら握り拳を作る千景は、とても頼もしかった。
「それじゃあこの場は解散しましょうか」
「二人もぉ、部屋の整理とかしたいでしょうしねぇ」
ハルと奈美は頷く。
「紫音様と柚子も部屋の整理中ですし、今後の話は明日にしましょう」
さて解散、となるその時、
「ああ、一つ忘れていました。お風呂についてです」
思い出したように千景が言う。
「さっき説明したとおり、アパートに大浴場が出来ました」
「今日から使えるんだけれどぉ、決まり事があるのぉ」
「一つしかないので、男女で利用時間が決まっています」
なるほど。
ハピネスのように男女がいる場所では必要な決まりだろう。
「時間は浴場の入り口に書いてありますので、それに従ってください」
わかりました、と二人は返事をする。
「特に、ハル君は注意してくださいね」
「何故俺だけ」
不満げなハル。
「だってハルちゃんてぇ、うっかり間違えて女の子入浴中に乱入しそうなんだものぉ」
「言いがかりだぁぁ」
「確かに……ハルならあり得るかも」
「あり得ねえよぉぉ」
「ハル君。のぞきは犯罪ですよ」
「冤罪だぁぁぁぁぁ」
ハルの絶叫がアパート中に響き渡った。
後日、アパートの玄関に立派な表札が取り付けられた。
達筆な文字で書かれたのは、
「幸福荘」
ハピネス職員満場一致で決まった、新しい家の名前だ。
長々引っ張って、こんな結末ですいません。
悪の組織が目立っちゃ駄目だろうと言うことで……。
本編中のハルの不安は、いつか現実になるかも知れません。
シリアスにならなければ良いのですが。
お風呂ネタはもはや定番ですよね。
いつかやりたいと思います。
次回からはまた更新ペースが元に戻ります。
この話はたまたま貰えた連休で、一気に執筆できたので……。
次は幕間になる予定です。
この次も、またお付き合い頂ければ幸いです。