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基地の改修いたします(4)

まず初めに、すいません。

完結しておりません。

いえ、改修自体は終わっているんですが……。

詳しい事情は、どうぞ本編をお読み下さい。



 奈美は困っていた。

 もの凄く困っていた。


 眠りから目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。

 一度も来た記憶が無い場所に、何故か自分が寝ている。


 まあそれはいいだろう。


 奈美を一番困らせていたのは、

「……何でハルがいるの」

 隣で眠っているハルの存在だった。


 改めて状況を整理する。

 見知らぬ部屋、雰囲気からホテルだと思われる部屋に、

 いつの間にか眠っていた。

 そして同じベッドにハルが眠っている。

 導き出される結論は……、

「…………きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

 絹を裂くような悲鳴が、ホテルの一室に響いた。



 思い切り声を出して、奈美は少し落ち着いた。

 ハルはよほど深い眠りに入っているのか、まだ起きない。

「落ち着いて、落ち着くのよ奈美」

 スーハーと深呼吸。

「思い出すの。昨日何があったのかを」

 目をつぶり、記憶を呼び起こす。



「昨日は……アパートを追い出されて、街で偶然ハルを見かけた」

「そして、一緒に電車に乗って……あのお店に行ったんだわ」

 少しずつ記憶が戻ってくる。

「その後お店で働くことになって、ご褒美にハルとお話しして……」

 記憶はそこまでだった。

 話をしたところまでは覚えているが、その後が思い出せない。

 フィルムがぷつりと切れているように、突然記憶が途切れている。

「ん~駄目。思い出せない」

 思い出すのは諦めた。


 奈美は視線を、未だ眠り続けるハルへと向ける。

「ハルはきっと知ってる。起こして説明して貰えば良いんだけど……」

 安らかな寝顔を見せるハル。

 その眠りを妨げるのは気が引ける。

 何より、

「ハルの寝顔って……可愛い」

 奈美の欲望が真実の探求を邪魔する。

「本当に女の子みたいよね。……本当に男なのかな」

 ふと頭をよぎる疑問。

「実は女の子だってオチも、あり得なくは無いわよね」

 一度考えてしまえば、それは留まるところを知らない。

 ムクムクと沸き上がった好奇心。

 こうなってはもう止まらなかった。


「まずは、邪魔な布団を……」

 ハルの体を覆う掛け布団を、さっと横にずらす。

 昨日見た私服を着たままのハルが、体を丸めていた。

「性別を確認する一番の方法と言えば……」

 視線をハルのズボンへと向ける。

 ズボンのベルトは、無くなっていた。

 奈美は頬が赤くなるのを感じる。

「これは必要な事。……そう、もしハルが女の子だったら、

 昨日私とハルの間には何もなかったはず。その確認のため、必要なこと……」

 自己暗示をかけるように、自分の行為を正当化する奈美。

 ハルの体を仰向けにする。

 奈美はハルの足を跨ぐように膝立ちになると、ズボンのボタンを外す。

「必要な事。必要な事。必要な事。必要な事」

 ブツブツと呟きながら、チャックを降ろす。

 ズボンの腰回りに手を掛け、脱がそうとした時、

「ん~、なんだ~」

 ハルが目覚めた。


 仰向けに寝ているハル。

 奈美はハルの足を跨ぐ様に膝立ちし、ズボンを降ろそうとしている。

 まるで、今から何かを始めるような状況。

「な、奈美……。一体何を……」

 している、とは聞けなかった。

 瞳に涙を浮かべ、顔を真っ赤にした奈美がぷるぷると震え、そして、

「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 渾身の右ビンタが、ハルの意識を再び夢の世界へと吹き飛ばした。




「ごめんなさい!」

 全力で頭を下げ、奈美は謝った。

 意識を取り戻したハルから、事情は全て聞いた。

「分かって貰えれば良いんだけど……」

 ハルは真っ赤に晴れた頬に、氷嚢をあてていた。

 体勢が悪かったこと、ビンタだったことがハルの命を救った。

 もし万全の体勢で右ストレートを打たれていたらと思うと、冷や汗が出る。

「そもそもの原因が、俺が酒を飲ませたことだから」

「そんな、それこそ気にしないで」

 奈美が慌てて否定する。

「記憶がなくなるまで、私はとっても幸せだったんだから。

 ハルは私にお礼を言われることはあっても、謝る事なんてないの」

「……ありがとう」

 本心からの言葉だった。


「そ、それで。本当に何も無かったんだよね?」

「何がだ?」

「だから……その……この部屋に来てから」

「さっき説明した通りだよ」

 ハルは先ほどの説明を繰り返す。

 奈美を運び込んだ後、床で寝るつもりだった。

 だが奈美が無意識なのかハルから離れなかった。

 仕方なく一緒にベッドに入ったら、疲労もあってつい寝てしまった。

「俺も直ぐ寝ちゃったから、何も起きようが無いだろう。安心したか?」

 しかし奈美は不満そうに、

「私って……魅力無いのかな」

「お前は何を言ってるんだ」

「だって、健康な若い男女が一緒の布団で寝たんだよ。それなのに……」

 奈美の言葉にハルは少し苛立ち、

「お前は俺が酔いつぶれた女に、何かする男だと思ってるのか」

 少し強めの口調で言う。

 だが、

「うん」

 ハッキリと頷く奈美に、ハルの心はへし折られた。

 思い切り凹んだ。

 精神的ダメージは限界値を超えた。

「昔お爺ちゃんがこう言ったの」


(男は野獣じゃ。無防備な女を前に、何もせん男なぞ存在せんのじゃ。

 お前が目覚めた時、隣に男が居たら、それはもう一通りコトが済んだ後なのじゃ)


 いっぺん死ね、クソ爺。

 見知らぬ老人に恨みをぶつけ、ハルは思い直した。

 確か葵も爺さん婆さんに、おかしな常識を植え付けられていた。

「なるほど。だが奈美、それは間違いだ」

「そうなの?」

「お前の所の爺さんと婆さんの言うことは、もの凄い偏った意見だ。

 そんな奴は男でもごく一部だけ。……現に俺はお前に何もしなかっただろ」

 そうだよね、と奈美が納得する。


「とにかく、昨日は一緒に寝ただけ。それ以外は何も無かった」

 この話はこれで終わり、とハルは告げる。

「うん。……色々ごめんね」

「今度こそ分かってくれて貰えて良かったよ。それじゃあ、そろそろ出ようか」

「出るって?」

「もう十二時だし、チェックアウトの時間なんだよ」

 部屋の時計を指差す。

 後五分ほどで正午になろうとしていた。


 奈美を先に外に待たせ、ハルはフロントでチェックアウトをする。

「お客様、早速当ホテルのサービスをご利用頂けたようで」

 満面の笑顔を見せるフロント係。

 そのお陰で助かったのも事実ではあるが……。

「部屋の防音も完璧です。色々道具も貸し出し出来ますので、次回ご利用の際は是非」

「ええ。二度と泊まりません」

 ハルも満面の笑顔で答えた。



「ハル~、終わったの?」

「鍵を返すだけだからな。さて、これからどうするか」

 アパートの工事は今日の夜完了予定だ。

 終わり次第連絡が入ることになっている。

「俺はこれから街を適当にぶらつくけど、奈美はどうする?」

「私はお金無いし……」

「金なら貸してやるけど……よかったら一緒に行くか?」

 奈美の顔が赤く染まる。

「そ、それって……」

「一人より二人の方が楽しいしな」

 さらりと言うハルに、奈美は少しガッカリする。

「そうだよね……。ハルがデートに誘ってくれるなんて、ないよね……」

「ん?嫌か?」

 俯いた奈美の様子を勘違いしたハルが尋ねる。

「ううん。全然嫌じゃないよ」

「そっか。それじゃあどこから行こうか」

 二人はホテルを後にし、街へと向かう。

 楽しそうな様子で歩く二人。

 客観的に見れば、それは紛れもなくデートに向かうカップルそのものだった。




 奈美は大満足だった。


 ぶらぶらと目に付いた店に入り、会話をしながら商品を眺める。

 可愛いと言ったブローチを、ハルがプレゼントしてくれた。


 ゲームセンターでゲームを片っ端から遊び尽くす。

 欲しかったUFOキャッチャーの景品を、意外に器用なハルがとってくれた。


 公園のベンチで、たわいのない会話。

 昨日のお店とは違う、穏やかな空気の中、色々な事を聞けたし、話せた。


 そして今、ファミレスで夕食を食べている。

 奈美は幸せだった。

 今日ハルと過ごした時間は、自分にとっては間違いなくデートだからだ。

 例えハルが何も思っていなかったとしても。


「今日はとっても楽しかった~。ありがとうね、ハル」

「楽しんでくれたなら何よりだ。俺も楽しかったしな」

 二人で微笑み合う。

 何かもう、YOU達付き合っちゃいなよ、と言う雰囲気だった。


 窓ガラス越しの外は、すっかり暗くなっている。

 そろそろ工事完了の連絡が入るだろう。

 食事は終わっていたが、もう外をぶらつくつもりは無かった。

「後はコーヒーでも飲みながら、時間を潰すか」

「そうだね。今日はたっぷり遊んだから、もう満足」

 それに満腹、と奈美は笑う。

 テーブル脇の伝票に視線を向け、苦笑いのハル。

 のんびりと時間は過ぎていく。


「ねえハル。ちょっと聞きたいことがあるんだけれど」

「何だ?」

「ハルってロスト・ボールでバイトしてたじゃない」

「そうだな」

「それに女の子みたいな顔してるじゃない」

「……そうだな」

「男の人にナンパされたこともあるって言ったじゃない」

「………………そうだな」

 奈美は何を言いたいんだろう。

 怒らせたいのだろうか。

「前から気になってて、朝のことでどうしても聞きたくなったの」

「何だよ」

「ハルって、女の子に興味がないの?」

 ゴホゴホゴホ

 飲みかけのコーヒーで、思い切りむせた。

「いきなり……何を言い出すんだ」

「だって気になったんだもん。ハルはひょっとしたら男の子が好……」

「俺は女が好きだ!!」

 店内の視線が、一斉にハルに注がれた。

 気まずい空気が流れる。

 ヒソヒソと周囲の席から聞こえる声が、耳に痛い。

 全ての元凶を睨む。

「ご、ごめんね。どうしても確かめたくて」

「何でだよ」

「……だって、ハルが男の子が好きなら……頑張りようがないもん」

 ぼそりと呟いた奈美の言葉は、ハルへは届かない。


「とにかく、ハルが女の子に興味があるって分かってよかったよ」

「そうかい」

 ハルはちっとも良くない。

 えらい恥をかいた。

 さっきまでの楽しい気持ちなど吹き飛んでしまった。

 一度トイレで顔でも洗おうかと思った時だった。

「着信?……千景さんからだ」

 ディスプレイで相手を確認して電話を繋ぐ。

「もしもし、ハルです」

「ハル君ですか。千景です」

「電話ってことは、もしかして」

「ええ。工事は先ほど完了しましたので、戻ってきてください」

「分かりました。これから戻ります」

 必要最低限のやり取りで電話を切る。

 千景らしい無駄のない連絡だった。


「奈美、工事が終わったらしい。戻るぞ」

「ホントに終わったんだね」

 驚いた様子の奈美。

 確かに普通ならあり得ない早さの工事だが、

「千景さんなら何でもありだろう」

「千景さんだしね」

 二人は納得した。

 手早く会計を済ませると、アパートへと向かった。




「あれ?」

「どうして?」

 アパートに辿り着いた二人は、揃って首を傾げた。

 目の前には完成しているはずのアパート、を完全に隠しているブルーシートだった。

「ちょっとハル。完成したんじゃないの?」

「いや俺も千景さんに連絡をもらっただけだから……」

 立ちつくす二人。

 そんな二人に、

「二人ともぉ。お帰りなさ~い」

 急に出現したローズが出迎えの言葉を掛ける。

「ろ、ローズ。一体何処から」

「いいじゃなぁい。細かいことはぁ」

 全然細かくない気もするが、今はそれよりも大事な事がある。

「それよりも。どうしたのこれは。完成したんじゃないの?」

「あぁ、それはねぇ」

「私が説明しましょう」

 声は、ハルの背後から聞こえた。


「千景さん。いつの間に……」

「気にしないで下さい。それよりも、この状況についてです」

 ハルの問いを完璧にスルーし、千景が説明をする。

「紫音様が、折角のお披露目だ。もっと明るい時間に、全員集合して行うべきだ。と言い出しまして」

「改築計画をのけ者にされたのがぁ、気に入らなかったみたいよぉ」

 千景の説明にローズが補足する。

「ですので、アパートは明日から入居可能となります」

「それじゃあ今夜はどうするんですか?」

「ハル君はもう一泊ホテルに泊まって下さい。予約はしておきましたから」

 またあのホテルですか……。

 背に腹は変えられないが。

「奈美は……、適当にして下さい」

 千景のその言葉に、ハルは明らかな怒りの表情で、

「千景さん。奈美は女の子だ。お金を取り上げてほっぽり出すのは、いくら何でも酷すぎる」

 正面から千景を見据えて言い放つ。

「反省、お仕置き、結構なことだけど、これはやりすぎですよ」

「ハル……」

 いつになく強い口調で意見するハル。

 怒られることも、同じような仕打ちを受けることも覚悟していたのだが、

 予想に反して、千景とローズは少し微笑んでいた。

「ハルちゃぁん。カッコいいわぁ。女を知るとぉ、男は変わるのねぇ」

「自分の部屋に女の子を連れ込み、一緒に寝るくらいですもの。度胸がつきましたね」

 何で知ってる?

 ハルの体が一気に冷え、背中を冷たい汗が流れる。

 そんなハルに追い打ちを掛けられる。

「そこまでハル君が言うなら、私も鬼じゃありません」

 にこり、と笑顔で、

「奈美はハル君と一緒の部屋で寝て下さい。あのホテルなら大丈夫ですよね」

 とんでもないことを言ってのける。

 この人は全部分かってたんだ。

「ちょ、ちょっと待って下さい」

「明日は朝十時にここに集合して下さい。それでは、良い夜を」

「それじゃぁ、また明日ねぇ」

 ハルの言葉を無視して、二人は登場と同じように姿を消した。


 後にはハルと奈美が残される。

「ハル……私は別に野宿でも」

「駄目だ」

 苦虫を噛みつぶしたような顔をするハル。

「ホテルに行こう。……俺は床に寝るから、心配するな」

「駄目だよ。私が無理矢理泊めて貰うんだから、私が床に」

「女の子を床に寝かせて、男がベッドで寝れるか」

 二人の意見は平行線を辿る。

「じゃ、じゃあ……一緒に寝る?」

「それは勘弁してくれ」

 ハルは心底疲れた声で答えるのだった。





予定は未定と言うことで……すいません。


ハルと奈美の話をじっくり書きたくて、

最後までたどり着けませんでした。


本編でハル本人が言ってますが、女性に興味がないわけではないので、

どうぞご安心下さい(なにが?)


一応改修は終わったと言うことで、次回はタイトルが変わります。

内容はそのまま続きでいきます。

更新ペースも次回までは同様で行きますので、

お付き合い頂ければ幸いです。

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