基地の改修いたします(1)
朝早く、千景に呼び出されたハピネスの面々。
彼女の言う非常事態とは……。
前回の「悪の怪人つくりましたが」から繋がった話になっていますので、
まだお読みでない方は、そちらから読んで頂けると助かります。
「突然ですが、非常事態です」
それはいつになく真剣な千景の言葉から始まった。
ハピネスの地下作戦室。
そこにハル達幹部一同と、ハピーの代表者が集合している。
千景からの緊急招集だった。
「千景。緊急招集とはよほどの事だろう。一体何があった?」
尋ねる紫音。
あんたボスじゃないのか……。
「説明させて頂きます。まず、こちらをご覧下さい」
手元のスイッチを操作し、スクリーンに映像が映し出される。
現れたのは、壮年の男だった。
「あれ、この人って今日の新聞の」
「そうです。今日、欠陥住宅の設計で逮捕された建築士です」
ちょっとだけ話が見えた。
「なるほどねぇ。つまり、ここのアパートもぉ」
「察しの通り彼の設計です」
「って事は俺たちが住んでるアパートは」
「欠陥住宅です。私が調査したので間違いありません」
続いて映し出されるアパートの設計図。
そのほとんどが欠陥を示す赤色で塗りつぶされていた。
でも少しおかしい。
確かに欠陥は問題だが、非常事態と言うほどでもない。
今まで問題の無かった建物だ。
補修工事は必要だが、一日二日を争うほどではないだろう。
千景さんは何を焦っているのだろうか……。
そんなハルの疑問を察したのか、
「ただし、本来ならこれは非常事態ではありません。
ゆっくりでも補修工事をすれば解決する問題だからです」
千景は説明を続ける。
「しかし、ちょっとしたイレギュラーが起こりました」
映し出されたのは、先日の事件で破壊された地下訓練場。
壁や地面にひび割れ・亀裂が多数。
……なるほど。
全員が何となく理解した。
「これの影響で、地上のアパート部分に致命的な打撃が加えられました。
今のまま生活を続ければ……今日中に崩壊します」
まさしく非常事態だった。
「……起きてしまった事は仕方ありません。
今すべき事は責任を追及する事ではなく、問題の解決です」
千景の言葉にホッとした表情の奈美と蒼井。だが、
「奈美とドクターへのお仕置きは、後でじっくりすればいいですし」
天国から地獄。
ガクガクブルブルと震える二人。
千景さん、実は凄い怒ってますね。
「既に信頼できる業者に工事の依頼をしてあります。もう少しで工事が始まるでしょう」
地下に悪の組織のアジトがあるアパート。
よほど信頼できる業者じゃなければ依頼できないだろう。
それだけで千景の苦労が伝わる。
「かなり大規模な工事になるそうなので、ついでに以前からの懸案事項を解決することにしました」
「懸案事項ですか?」
「ええ。アパートの部屋数が絶対的に足りてなかったのです。
ですので地元の人は自宅から、その他の人は近くに部屋を借りて住んでました」
言われてみるとその通りだ。
アパートの部屋数は二十。
だがハピネスの職員は、ハル達幹部を除いても三十を超える。
「ですので、これを機に増築をすることにしました」
「おい千景。私は何も聞いていないが」
「紫音様にこの様な些事をお耳に入れることは、はばかられました」
「そ、そうか」
千景の言葉に紫音は満更でもない。
「それに余計な口出しされるより、一人の方が素早く処理できますので」
「……ぐすん」
あ、ちょっと泣いた。
「それにしてもぉ、ちょっとぉ奮発したんじゃないのぉ」
「……ええ。経費を考えると頭が痛いです」
「そ、そんなに掛かるんですか?」
千景は無言で柚子に工事見積書を見せる。
「一、十、百、千、万…………」
桁を数えていくうち、徐々に柚子の表情が強張る。
「ねえ、凄いでしょう。こんなもの見たら、
ついつい二人へのお仕置きがちょっと過激になっても、誰も文句ないですよね」
「お二人とも……ごめんなさい」
ガクガクブルブル。
震える二人をかばう勇者は、恐らくこの夜に存在しないだろう。
「とにかく、もうすぐ工事が始まりますので、全員退去してください」
「「えっ?」」
「ほとんど立て替えですからね。工事中は立ち入り禁止です」
「ちょっと待って下さいよ。その間俺たちは何処に泊まれば良いんですか?」
「私と紫音様、柚子と剛彦は地下の居住区に泊まります。
アパートに住んでいるハピー達も同じです」
名前を呼ばれた面々がホッとした表情を浮かべる。
「あの……吾輩は……」
「千景さん……私は……」
「その辺で寝泊まりして下さい」
かなりお怒りでした。
「えっと千景さん。俺は?」
「ハル君には近くのホテルに部屋を用意してあります。そこを使ってください」
すっごいホッとした。
「じゃあ吾輩もそこのホテルに……」
「それを私が許すと思ってますか?」
ニッコリと笑顔。
ヘタに怒るよりもよっぽど怖かった。
「これは反省を促す目的で決定しました。……理解してますか?」
「「イエス・マム」」
最敬礼で答える二人。
話は纏まった。
無理矢理纏められた。
「工事は明日の夜には完了の予定です」
「「早っっ!!」」
「私が信頼する業者ですからね。特急料金も払ってますし、これくらいは当然です」
まさに一夜城だ。
秀吉もビックリだろう。
「一時的とはいえ、ハッピーハピーの仕事も麻痺してしまうんです。
それを考えたら特急料金くらいは……ねぇ」
触れてはいけない。
勇気と無謀は違うのだ。
「それでは紫音様。号令をお願いします」
「しくしく……ああ。そうだな」
結構引きずってたようで。
「これよりアパート増築作戦を開始する。
明日の夜、全員が無事に再会できることを願っている。では、解散!」
「了解!」
こうしてアパート増築作戦(?)は始まった。
基地と言ってもアパート部分なんですよね……。
しかもハル達が外に出てしまうので、改修部分は殆ど出てきません。
前後編にする予定でしたが、予想以上に後編が長くなってしまったため、
章で分けることにしました。
この話は更新ペースをあげて投稿する予定ですので、
よろしければ次回もお付き合い下さい。