銀行強盗やりましょう(4)
間があいてしまいましたが、続きです。
今回は各チームの作戦会議です。
ケース1:千景&青井ペア
「ま、まさか吾輩がハズレを引くとは……」
「あら?」
苦々しげに呟く蒼井の左肩を千景はぐっと掴み、
「ドクターは私と組むのが、そんなに嫌だったのですか?」
メキィっと掴む手に力が入る。
「いえ、そんなことは無いぞ。別に組んでやっても構わな……」
メキメキメキメキ
「す、すんません。調子に乗ってました。千景さんと組めて幸せです」
スッと手が離される。
「最初から素直に言ってくれれば良かったのに」
ニッコリ笑顔の千景。
こうして、このペアの絶対的な力関係が決まった。
「それで、どうするのだ?」
蒼井は肩をさすりながら、千景に聞く。
性格などはさておき、策士として千景は天才的な能力を持っている。
ここはもう一任してしまおう、と蒼井は考えた。
「狙い所はもう決まってます。後は実際に襲撃する時の作戦ですが……」
ふむ、と唇に指をあて少し考える仕草をすると、
「決まりました」
ほんの数秒で作戦を決めてしまった。
「私たちの立場を考えれば、警察と追いかけっこをするのは好ましくありません」
「確かに……この場所がバレるとまずいからな」
「ですので、強盗成功の前提条件は警察に通報させない事です」
なるほど、と蒼井は思う。
通報さえされなければ、警察が事件に気づくまでにある程度の時間はある。
その間に逃走してしまえば、作戦は成功だろう。
「その為に一番厄介なのは、警察への通報ボタンです」
「同感だ。金庫の警報システムと違い手動で、しかもほんの数秒で警察に通報出来るからな」
コクリ、と千景は頷く。
「例え睡眠性のガスを充満させても、眠る前にボタンを押すだけなら充分可能でしょう」
「しかもあのシステムは、通報システムの回線を外から切ると、その場で通報されるはずだ」
お手上げだ、と蒼井が両手を挙げる。
しかし千景はクスリと笑みを浮かべ、
「いいえドクター。簡単な事です。自分で言っておいて何ですが、前提を覆してしまえば良いのです。つまり警察に通報されても構わないのです。大切なのは……警察が銀行に来ない、という事なのです」
「むむ。それは……つまり……」
「そうです。例え通報されても、その場に警察がこれない状況を作ってしまえば……」
ニヤッと千景は言葉を句切り、
「……悠々と強盗を行い、逃走できる、か」
蒼井の言葉に頷いた。
「それでは下準備をしてしまいましょう。ドクター、これを用意して貰えますか?」
千景はそう言うと、一枚のメモを蒼井に渡す。
「何々…………これは、大がかりだな」
「ふふ、祭りは派手な方が盛り上がりますからね。1週間掛けて、小細工も充分仕掛けてあります。さぁ、行きますよ」
千景&蒼井ペア、作戦決定。
ケース2:柚子&ローズペア
「さてぇ、どう作戦を練ろうかしらねぇ」
頬に手を当て、ローズは考える。
流石に2人しかいない状況では、作戦なしで挑む気にはなれなかった。
……奈美あたりなら力押しでやりかねないが。
「ローズさんは、以前警察さんだったんですよね」
「あらぁん、よく知ってたわねぇ」
柚子の問いにローズは頷く。
「警察側から見て、銀行強盗のいい作戦ってありますか?」
「そうねぇ……。やっぱり、通報されたら負けかしらねぇ」
少し遠くを見ながら、ローズが答える。
「通報があってから現場まで急行する早さは、本当に凄いわぁ。日本の警察は優秀だって言うのはぁ、決して嘘じゃないのぉ」
「それでは……銀行強盗成功の条件は……」
「警察に通報させないこと、かしらねぇ。これは最低条件だと思うけどねぇ」
ローズの言葉を受け、柚子は思考を巡らせる。
1週間の特訓で、柚子は銀行強盗に関する知識を植え付けられた。
その知識と情報を組み合わせ、作戦立案を行う。
それが柚子の強盗スタイルだった。
「……これでいけるかも……」
「何か思いついたのぉ?」
柚子はコクリと頷く。
「警察に通報されない。その為には、職員やお客が通報できない状態にしてしまえばよいのです」
「でも、どうやってぇ?」
「幾つか方法がありますが、一番簡単なものは睡眠ガスなどで眠って貰うことですね」
柚子の提案に、しかしローズは首を横に振る。
「確かに理論上は可能だろうけどぉ、現実には無理よぉ。だってぇ、煙が充満したら直ぐに異常事態だって気づかれちゃうでしょ?
それに、どんなに即効性の睡眠ガスでも意識を失うまで十秒はあるわぁ。通報ボタンを押すだけなら十分な時間よぉ」
理論的なローズの反論。
警察にいただけあり、なかなか的を射た意見だ。
しかし柚子は自信ありげな表情で、
「ローズさん。逆転の発想ですよ」
静かに作戦を告げるのだった。
柚子&ローズペア、作戦決定。
ケース3 ハル&奈美ペア
「真っ正面から突っ込んで、後は野となれ山となれよ」
奈美の第一声はこうだった。
作戦、と言う言葉は彼女の中では存在しないらしい。
「……となると、俺が何とかするしかないな」
そんな奈美の様子に、ハルは悲壮な決意を固めるのだった。
ハル&奈美ペア 作戦決定。
そして、作戦が開始された。
いよいよ作戦開始です。
これだけ引っ張っておいて何ですが、あっさりと強盗が成功しそうで困っております。
次回はとうとう強盗を実行いたします。
お読みいただけたら幸いです。