銀行強盗やりましょう(3)
続きです。
タイトルにしておいて何ですが、今回もまだ銀行強盗やりません。
強盗のシーンはあっさり終わりそうでドキドキしております。
そして、一週間が経った。
「諸君、機は満ちた!」
ハピネス地下基地に、紫音の言葉が響く。
地下基地でも一番の広さを誇る大ホールに、ハピネス一同が集結していた。
無論、厳しい修行を終えたハルと柚子も参加している。
「今回我々は、銀行強盗を行う。だが、それは目的ではない!!」
紫音の言葉に、一同がざわめく。
だが当の紫音はその様子を楽しそうに見渡すと、
「そう、銀行強盗は目的ではなく手段である。そう、我々の目的とは、日本を支配することだ!!」
ホールのざわめきが、一層大きくなる。
というか、世界征服とかではないのか……。大きいのか小さいのか分からない野望だ。
「諸君らの気持ちは分かる。確かに途方もない目的だろう」
語りかけるように紫音は続ける。
「だが、現在の腐りきった日本をこのままにしておくわけにはいかない。こうしている今も、弱者が虐げられる社会が存在している。
そして政府は改革を謳いながら、己の利益にばかり目をむけ、国民の為の改革を行おうとはしない。
それは、断じて許されない!
では、どうすればよいのか?
そう、政府による改革ができないのであれば、我々が、ハピネスが革命を起こす!」
気がつけばハピーたちのざわめきは消え、みんなが聞き入っていた。
「今の弱者が苦しむ社会を、私達が変えていこう!そしてその為に、みんなの力を貸してほしい」
訴えかけるような紫音の言葉。
「今このときが、ハピネスの本当の戦いの始まりだ!
さあ、行こう。我が勇敢な同士達よ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
ホールに響き渡るハピー達の雄たけび。
そして猛然とホールの外へと一斉に駆け出していく。
「……どこへ?」
相変わらず冷静なハルの突っ込みは、またしても群衆の波へと飲み込まれていった。
結局、ハピー達の熱くたぎった闘志は止めようがなく、そのまま町内を何週も走る羽目になった。
警察の職務質問にも、
「メタボ予防のための会社ぐるみのジョギングです」
で何とか対応できた。新制度様々である。
「では、今回の銀行強盗について説明をする」
騒ぎが収まった後、作戦司令室に集まった面々を前に、紫音が言う。
「銀行強盗の目的なのだが、日本支配の第一歩として、私達はこの市を支配下に置く」
いきなりぶっ飛んだ発言が飛び出した。
何を言い出すのだろうか。
「まあ聞け。どうして、どうやって、といった質問は後日受け付けよう。とにかく、その為には金が必要だ」
「それに、皆さんの無駄使いによりハピネスの財政は悪化してます」
千景の言葉に一斉に下を向く幹部一同。
おまいら心当たりがあるのか……。
「ですので、資金調達のために銀行強盗は非常に都合の良い作戦です」
ニッコリと笑顔で千景は言った。
笑顔を向けられて、ハルはため息混じりに、
「そうですか……。まぁ、これだけの面子が揃えば銀行強盗くらい簡単に出来そうですよね」
「ふっふっふ」
そんなハルの言葉に、しかし紫音は不敵な笑みを浮かべる。
「ハルよ。いいフリだぞ」
後悔先に立たず。
そんな言葉をハルは今かみ締めていた。
「確かにこれだけ揃えば強盗はたやすいだろう。それでは面白くない」
何を言っているんだろうか、この人は。
「そこで、私が特別ルールを用意した」
余計なお世話だ、とは言えない。
「名づけて、第一回銀行強盗入手金額競争〜〜〜!!」
どこから用意したのか、紫音の手元にはフリップが用意されていた。
そこには、第一回銀行強盗入手金額競争のルールが記されていた。
・1チーム2人で、ペアはクジで決める。
・1チームにつき、襲撃できる銀行は1つまでである。
・強盗は本日中に行うこと。
・強盗によって得られた金額が、一番多いチームを優勝とする。
・ビリのチームには罰ゲームとして、今後の任務で過酷な役割を担ってもらう。
「どうだ。面白そうだろう」
ニンマリと満足そうな笑顔を向ける紫音。
何処がですか、とハルが言う前に、
「楽しそうね。う〜ん、腕が鳴るわ」
「嫌だわぁ、……血が騒ぐじゃないのぉ」
「ふふふ、ついに我輩の時代がやってきた!!」
「頑張りましょうね、ハルさん」
何故か非常にやる気満々の幹部達がいた。
というか、俺が変なのか……?
確かに……競争したほうが楽しいとは思うが……。
唯一の味方だった柚子をも失い、ハルは真剣に悩み始めた。
無理もない。
ハルは訓練こそしているが、あくまで普通の人間。
捕まることを全く考えていない超人たちとは、元々の考え方が違っていた。
「それでは、クジを引いてください。割り箸の先に同じ数字が書いてある人がペアですよ」
千景のグッと握られた右手には、5本の割り箸。
はて……ちょっと待て。
何かおかしい。
「……そうだ、奇数じゃおかしいじゃないですか」
はっと気づいたハルが声を上げる。
奇数ならば、誰かが一人になる。だが、それではルールに反してしまう。
しかしそんなハルに千景は笑みを浮かべて、
「大丈夫です。余った方は、私とペアを組んでもらいますから。……ふふ、楽しみです」
この瞬間、全員が思った。
絶対に千景さんと組んではいけない、と。
「さあ引いてください」
差し出される割り箸。
ゴクリ、とつばを飲む音が聞こえる。
遊○王やカ○ジのような緊張感があたりを包む中、ハルはゆっくりと手を伸ばす。
そして、ペアが決まった。
「ふむ、ペアが決まったようだな。これからは作戦から何までそのチームで決めてくれ。
それでは、これより第一回銀行強盗入手金額競争を、開始するぞ。よ〜い、ドン!!」
戦いが始まった。
遂に明かされたハピネスの目的。
……ですが、それが話に絡むのは当分先になりそうです。
銀行強盗作戦は成功するのか、否か。
またお読みいただけたら幸いです。