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必殺技会得します(4)

更新が遅れてすみません。

大分長くなってしまいましたが、ハルの必殺技習得はこれで完結いたします。

 数日後




 周囲を崖に囲まれた荒野で、正義の味方のヒーローと対峙する、ハルの姿があった。

 黒いライダースーツに黒マントをつけた、作戦時の完全装備。

 ただし普段の作戦とは違い、完全な一対一だ。

「ふふ、この元ゴレンジャーの一人、ドドメ相手に一人とは……舐められたものだな」

 余裕のコメントのヒーロー。

 戦隊もののに良くあるデザインのヒーロースーツだが、ドドメ色が全てを台無しにしていた。


「………………」

「どうした、恐怖で声も出ないのか」

 ヒーローの挑発に、ハルは首を横に振る。

「ん? では一体どうしたのだ?」

 ハルは質問には答えず、崖の上の一角をアゴで示す。

 そこには、


「お〜い、早く始めろ〜!」

「まあまあ、今は戦い前のお約束、ヒーローとの会話を楽しんでいるんですから」

「ん〜、燃えてきた〜〜」

「ハルちゃぁん、頑張ってぇ」

「ハルよ負けたら吾輩が改造してやるから、安心して戦うのだ」

「ハルさん……頑張ってください」

「「ハルさ〜ん。頑張れ〜〜〜〜!!」」

 ハピネス一同、全員が揃っていた。

 ビニールシートを敷いて、くつろいでいる。

 弁当に飲み物、誰が持ってきたのか、酒まで用意して、すっかり宴会モードだ。

 応援に来たのか、宴会に来たのか既に分からない。


「……一応聞くが、アレは……」

 ヒーローの言葉に、ハルは申し訳なさそうに頷く。

「そうか……お前も大変なんだな」

 目に大きな隈をつくり、頬はこけ、疲れ果てているハルに、ヒーローは同情する。

「……とにかく、戦おう。それ以外に選択肢は無いし……」

「でもさ、お前体は大丈夫なのか…………」

 仲間以上に体を気遣ってくれるヒーローに、ハルは目頭が熱くなるのを感じた。

 だが、残念ながら今は敵だ。

「全力で来てくれて構わない。……俺も今は加減できそうに無いし……」

 言いながら、ハルは懐から一冊のメモ帳サイズのファイルを取り出す。

「何だそれは?」

「……客にタネを教える手品師がいるか?」

 ニヤリと笑うハルに、違いないと、ヒーローも苦笑する。

 もはや言葉はいらない。


「それじゃあ、行くぞぉぉ!!」

 一直線に突っ込んでくるヒーロー。

 距離を一気に詰め、勢いを付けて左右の拳をハルに打ち込む。

 だが、

「甘い。劣化模倣ヘタなモノマネ発動!!」

 まるでアニメの主人公のように、必殺技の名前を叫ぶハル。

 すると、瞳は赤く変色し、巴の紋様が浮き出てきた。


 ハルが見たのは、某忍者漫画に出てくる、相手の動きを読む瞳術だ。

 ヒーローの動きを先読みし、繰り出される拳を簡単に回避する。

「っ……解除!」

 直ぐさまモノマネを止める。

 頬を汗が流れ、心臓の鼓動が早くなる。


「おお、見事だ」

「良いモノマネでしたね。タイミングも訓練の成果が良く出ています」

「でも、どうして直ぐにモノマネを解いたんでしょう」

「スタミナの問題じゃないのぉ?」

「モノマネの持続時間も関係してるのでは……」

 すっかり観戦モードになっている一同。

 身内の批評ほど嫌なものはない。

 ハルは意識を目の前の男に集中する。

「……なかなかやるな、小僧。だが……負けん!」

 気合いを入れ直し、再びヒーローの攻撃が始まる。

「はぁ、はぁ、……上等だ!」

 息を切らしながら、ハルはヒーローを迎撃する。



 ヒーローの力とハルのモノマネが、激しくぶつかり合う。

 拮抗する実力は、戦いを長引かせ、そして……。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「ぜぇぜぇ、ぜぇぜぇ」

 戦いから数時間。

 既に両者、戦いを続ける体力は残っていなかった。

「お前……ぜぇ、ぜぇ、強いな……」

「そっちこそ……はぁはぁ」

 二人は地面に仰向けになって、荒い呼吸が少しでも収まるのを待つ。

 青春ドラマで殴り合った二人が、友情を深める気持ちが、少しだけ分かった。

「悔しいが……これ以上は戦えそうに無いな……」

「俺も……もう限界だ……」

 もはや戦う意志もなかった。

 引き分け。

 これが二人が選んだ結末だった。


「ぶ〜ぶ〜、戦え〜〜」

「引き分けは……微妙ですね」

「まあ、それなりに良い戦いでしたし」

「そうよねぇ、ハルちゃんも頑張ってたしぃ」

「立派でしたよ……」

 宴もたけなわ。

 ほとんどのハピー達は片づけを終え、帰還していて、残っているのは幹部達だけだった。

 日も暮れ始め、お開きの空気が周囲を包む。


 暫く無言の時間が過ぎ、そして、

「俺は戻る……。決着はまた今度付けよう。……お前も早く戻った方がいいぞ」

 派手にやりすぎた、とヒーローは苦笑い。

「そうだな……俺も基地に戻るか……」


「それは困ります」


 声は、ハルとヒーロー以外のものだった。


 驚いて声の方を向くと、そこには、

「美園さん…………」

 正義の味方、美園美樹が立っていた。


「こんにちは、御堂ハル。そして……」

 ハルに向けた笑顔は、一瞬で消え冷酷な表情へと変わり、

「仮にも正義のヒーローが情けない……」

 冷たい蔑みの視線でヒーローを射抜く。

 その視線を無言で受け止めるヒーロー。

「まあいいです。貴方への罰は後で与えるとして、今は……」

 美園がハルを見つめ、

「御堂ハル。貴方を逮捕します」

「な、何だって。いきなり何を言い出すんだ! 俺は何も悪いことはしてないぞ!」

「……貴方、自分が悪の組織の幹部だって、忘れてません?」

 言われてみればそうだ。

 確かに、逮捕されて当然の立場だった。


「さっきの戦闘を見せて貰いましたが……貴方は危険です。貴方の存在は、ハピネスの力となり、必ず正義の大きな敵となるでしょう」

 断言されてしまった。

 今まで平凡な扱いを受けていたハルは、評価されたことが少し嬉しかった。

「ですので、危険人物として排除させて貰います」

 前言撤回。

 評価されるなんてろくな事がない。


「と言うわけで……一緒に来て貰えますか?」

「断る事は……」

「出来ますが……結果は変わりませんよ。……力ずくでご同行願います」

 本気の目をしていた。

 しかも、強者のオーラが全身からにじみ出ている。

 今まで戦闘を見たことは無いが、強いに違いない。

 となると、戦闘を回避するのが賢い生き方だ。


「そう簡単にはいかないぜ。今日は他の幹部達も……」

 いるんだ、と言いかけてハルは全身を硬直させた。

 さっきまで、本当についさっきまで騒いでいた幹部のみんなは、いつの間にか姿を消していた。

「さっきの人たちからこれを預かったぞ」

 ヒーローが一枚のメモをハルに差し出す。

 いつの間に渡したのだろうか……。

 取り敢えず、ハルはメモを読む。


 ―ハルへ

 ―急ぎの用事が出来たので、帰る。

 ―乱入は悪役にとっても見せ場なので、頑張れ!

 ―五体満足で帰ってくることを期待する。

 ―でわ…………紫音より。


 ハルは無言でメモを握りつぶした。

 状況は最悪だ。

 モノマネの連発と、長時間の戦闘で体力は空っぽ。

 頼りの幹部達は逃げやがった。

 そして目の前には、強そうな正義の味方。

 ……絶体絶命だ。


「手荒な真似はしたくありません。大人しくして頂きたいのですが」

 まるで悪役のようなセリフだ。

 何にせよ、今のハルにはこの現状を打開する切り札などあるわけが……

「……あった」

 一つだけ、このピンチを抜け出せるモノマネがあった。

 ボース粒子をつかった、時空転移の大技が。


 しかし……。

「成功率は良くて一割……。しかも発動まで時間がかかりすぎる」

「その様ですね。そしてその発動までの時間を、私が与えると思いますか?」

 ハルの思考をあっさりと読み、冷静に告げる美園。

 万事休すか。


「さて、まずはモノマネの素材となるそのファイルを、こちらに渡して下さい」

 一ミリの油断もなく、美園はハルに近づく。

 不意打ちなど出来ようもなく、捕まる事を覚悟したハルだったが、

「……何のつもりですか?」

 美園の歩みが止まる。

 ハルの前には、仁王立ちしたヒーローが美園の行く手を遮っていた。


「あんた……」

「逃げたまえ……。ここは私が引き受けた」

「正気ですか? これは立派な反逆行為ですよ」

 少し苛立ったように言う美園に、ヒーローはニヤリとい笑みを浮かべ、

「構わないよ。私は正義の味方であって、正義の組織の味方では無いからね」

 ハッキリと言いきった。

「それに、一騎打ちをして弱った悪役を捕まえるなど、正義に反すると思うがね」

 格好いいセリフだった。

 正直、ドドメ色のヒーローはどうかと思ったが。

 今、最高に格好いいヒーローだとハルは感じていた。


「さぁ、急ぎたまえ。私と言えど、彼女相手では長くは持たないぞ」

 ヒーローの言葉に、ハルは急いでファイルを開く。

 漆黒のロボットを操る男が、光に包まれワープするシーンを脳裏に焼き付ける。

劣化模倣ヘタなモノマネ発動!!」

 かけ声と同時に、ハルの全身が光に包まれる。


「させません!」

「おっと……やらせはせんよ」

 駆け寄ろうとする美園の前に立ちふさがるヒーロー。

 何とも頼もしい姿だと感動したのもつかの間、

「お退きなさい!!」

 パシィィィィン

 美園の平手打ち一発で、ヒーローは地面に沈んだ。


 弱っっ!!


 思わず突っ込みそうになるのを、ハルは必死にこらえる。

 折角作ってくれたチャンス。

 無駄には出来ない。

「逃がしませんよ、御堂ハル!!」

 凄まじい勢いで突っ込んでくる美園。

 だが。


「ジャンプ!!」


 一歩の差でハルが早かった。

 光が収縮する。

 そして、ハルの体をここではない何処かへと移動させた。


 後には、倒れたヒーローと、悔しさに唇を噛みしめる美園、そして一陣の風だけが残った。




「ハルの容態はどうだ?」

「変わりません。絶対安静のままです」

 紫音の問いかけに、千景が硬い表情で答える。

 ハルが時空転移で基地に逃げ戻ってから、既に丸二日が経過していた。

 モノマネの反動で意識を失い、そのまま状態は好転していない。


「……やはりモノマネが原因なのか?」

「どうやらそのようです。

 非常にレベルの高いモノマネの連続使用、更には同時使用が主な原因かと……。

 それにどうやら、二次元の絵をモノマネするのは通常のモノマネよりも、何倍も負担が大きいようです」

 千景の言葉に、一同沈痛な面もちになる。


「あの、それじゃあ……今回倒れたのは……」

「ヒーローとの戦いだけではなく、私たちの特訓も大きな原因と言えるでしょう」

「では……今回の特訓は……」

「無駄だったわけねぇん」

 幹部一同に気まずい沈黙が走る。

 今まで三回もかけた話は、一体何だったのだろう……。


「むむむ、では今後はハルにはモノマネをさせない方がよいのか?」

 ドクターの問いかけに、しかし千景は首を横に振る。

「いいえ。それほど難しくないモノマネを、短時間で少数回なら、体にかかる負担も軽いはずです。大技は、ここぞと言うときだけ使うべきですね」

 千景の言葉に頷く一同。

 こうして、ハルの必殺技習得は、微妙な結果で終わった。





 時間は巻き戻り、ハルが時空転移した直後。

 荒野に取り残された美園とヒーロー。

「…………逃がしたか。さて、いい加減猿芝居は止めたらどうだ?」

「おやおや。猿芝居とはあんまりじゃないかね」

 美園の言葉に、地面に倒れていたヒーローが答える。

 ハルと死闘をし、美園に一撃で倒されたとは思えないほど、ケロッとした様子で立ち上がる。

「それで、一体どういうことだ?」

「どういうこととは? 質問はわかりやすく頼むよ、美園君」

 余裕を持って答えるヒーロー。

 先ほどまでの情けない姿は、もう何処にも無かった。


「……まずはその姿を止めろ」

「お気に入りなのだがね……仕方ない」

 ヒーローが指をパチン、とならすと一陣の風が舞い起こる。

 砂煙が舞い、それが収まると、そこには一人の男が立っていた。

 英国紳士、と言う言葉がピッタリだろう。

 黒を基調にした服とシルクハット、ステッキもしっかり用意している。

 灰色の髪と豊かだが整えられた髭。刻み込まれたしわが男の年齢を想像させる。


「さて、美園君。これで満足かね?」

「後は質問に答えろ。……何故貴様が私の邪魔をした。Mr.コレクト」

 怒気のこもった美園の問いに、しかしコレクトと呼ばれた男は余裕の表情で、

「邪魔などしていないさ。私は君を止めてあげたのだよ……悪の道からね」

「どういうことだ?」

「さっきも言ったが、あの子と私は正々堂々と決闘をしていたのだよ。そこで引き分けた相手を、君が襲うのは正義に反する行為だ。……私はそれを決して許さない」

 静かだが、ハッキリとした怒りを込めてコレクトは答えた。

 苦々しげに顔を歪める美園。


「君の言いたいことは分かるよ。確かに、我らジャスティスとしては、危険人物になりそうな彼は消しておくべきだろう。将来的にはともかく、今なら楽に仕留められるからね」

「だったら……」

「だからこそ……だよ。そんな相手をまだヒヨコのうちに倒してしまっては、それこそ面白くないじゃないか。……ボスだってそう言うはずだよ」

「……理解できないな」

 吐き捨てるように答える美園に、しかしコレクトは気分を害した様子もなく、

「まあいいじゃないか。もし取り返しのつかない事になりそうなときは……私がキチンと殺してあげるから……さ」

「……その言葉、信じるぞ」

「もちろんさ。紳士は嘘をつかないものだよ」

 気取った様子でシルクハットをとるコレクトに、美園はため息をつく。


「それじゃあ、久しぶりに本部に戻るとしよう。もうみんな揃ってるのかな?」

「大体はな。新人が一人いるから後で紹介する」

「ふふ、久しぶりに楽しくなってきたよ。……ああ、そう言えば私が戦った彼、何て名前かな?」

「……御堂ハル。ランクF悪の組織ハピネスの幹部候補生だ」

「ふむ……御堂ハル……か。憶えておこう」

 そんな呟きを残して、二人は荒野を後にした。 

ここまで引っ張って何ですが、結局ハルのモノマネは必殺技と呼べるほど強力ではありません。

あくまで平凡な一般人の、せめてもの抵抗だと思ってください。

今回はシリアス調だったので、幕間を挟んで少しギャグの話をやりたいと考えています。

では、また読んでいただけたら幸いです。

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