必殺技会得します(2)
続きです。
今まで書く機会が無かったのですが、ハピネスの幹部はハル以外は超人ばかりです。
そんな彼らの力の一部。どうぞご覧下さい。
場所を地下訓練所へと移動した一同。
何故か全員ジャージ姿に着替えていた。
三本ラインの入った、一応ハピネス指定のものらしい。
全員準備運動を済ませたとき、紫音が告げた。
「まずは、他の者の必殺技を見せて貰おう」
「そうですね。ハル君の参考になるかもしれませんね」
「じゃあ、私から行きます」
元気いっぱいの奈美が挙手をする。
無駄に広い訓練所。
トレーニング器機の備え付けられた部屋と、体育館のような部屋の二部屋に分けられている。
今一同がいる体育館のような部屋は、一辺が百m以上ある広大はフロアだ。
その中央に、奈美は進んでいく。
そこには、奈美の三倍はありそうな岩が置いてあった。
と言うかどこから、どうやって運んだんだろうか……。
そんなハルの疑問を軽く無視して、話は進んでいく。
「一番、早瀬奈美。行きます」
宣言すると、両手をそっと岩に触れる。
すぅ〜、と息を吸い込み、
「振動滅砕掌!」
ボスゥゥゥゥゥゥゥ…………パラパラパラパラ
手が微かに動いたと思ったその瞬間、岩が空気の抜けるような音を立て、粉砕された。
「……………………」
言葉がなかった。
いつもの奈美の怪力なら、岩を砕くことは可能だろう。
だが、今のは根本から違った。
岩が細かい粒子にまで分解されたように、粉々に散ってしまったのだ。
「うむ、見事だ」
紫音が満足そうに賞賛の声を挙げる。
と言うか、もう人間業じゃないだろう。
「奈美、今のはどうやったのですか?」
「今のはですね、刹那の更に刹那の間に、衝撃に衝撃を何十回も重ねて伝えることで、原子レベルでの物質の破壊を可能とする技です」
サラッと言うが、それはとんでもないことだぞ。
「なるほど……参考になります」
「やるわねぇ、奈美ちゃん」
「むむむ、流石なのである」
「凄いです……奈美さん」
あっさりと受け入れるみんな。
この場には変人ばかりしかいないのだろうか……。
「なかなか良いものを見せて貰った。それでは、次は誰が行く?」
紫音がみんなを見ながら言う。
流石に今のを見た後は無理だろう、とハルの予測は、
「私が行くわぁ〜」
やる気満々のローズにあっさりと潰された。
「おお、意外な奴が来たな」
「ふふ、楽しみですね」
紫音と千景の言葉に、
「私のはぁ、奈美のと違ってぇ、地味なのぉ。許してねぇん」
ちっとも可愛らしくないウインクを一つ。
「それじゃあ、見ててねぇん」
体育館の中央へと移動するローズ。
そこには、ハピーが用意した瓦がセットされていた。
その枚数、実に二十枚。
「あれ、少ないな」
「そうね。でも、あれを普通に割るだけとは思えないわ」
ハルの呟きに、奈美が答える。
ただ割るだけじゃない。
全員の視線が、ローズに集中する。
「二番、ローズ。行きまぁす」
こぉ〜、ほぉ〜、と腹に力を込めるような深い呼吸を繰り返す。
そして、
「秘技!貫手!!」
コツゥゥゥゥゥゥゥゥン…………パリン!
力強く瓦に叩き付けられた、ローズの拳は、確かに瓦を砕いた。
……一番下の瓦だけを。
「なんじゃ……こりゃ」
唖然とした表情で呟くハル。
目の前の光景が理解できない。
何で上の十九枚の瓦は無事で、一番下だけが砕けたのだろうか。
「なるほど……だから貫手なんですね」
何かを納得したように、奈美はしきりに頷く。
「むむむ、これも見事だ」
「ええ。綺麗に決まりましたね。……今のは、力の貫通ですか?」
千景の問いかけに、
「ええ。力の流れや方向性を完全に統制することによって、無駄な力を一切発生させず、純粋に目標にだけ破壊の力をぶつけることが出来るのです」
もはやハルの理解を遙かに超えていた。
今まで一度も戦闘をしてなかったが、やはりローズは強かった。
まるで格闘家のような佇まいも……。
って、あれ、何か変だ。
「ローズさん。言葉遣いが違いませんか?」
それだ!!
「…………そ、そんなことぉ無いわよぉん」
少しの沈黙の後、慌てて元の口調に戻すローズ。
照れ笑いを浮かべ、小指を立てているローズと、さっきの修行僧のようなローズ。
どっちが素なのかは分からない。
触れてはいけない闇のような気がする……。
「破壊のエネルギーが…………瓦の強度……拳の速度は……ぶつぶつ」
「ほぇ〜。すごいです」
何やらブツブツと計算をしているドクターと、純粋に感心している柚子。
この二人もビックリ人間なのだろうか……。
「さあ、次は誰がやる?」
「はい……私がやります」
おずおずと手を挙げたのは、意外にも柚子だった。
そう言えば、治療の腕は知っているが、戦闘はどうなのだろうか……。
そんなハルの視線に気づいたのか、
「ふふ、ハルさん。私は戦いは苦手なので、医療行為の必殺技をお見せします」
苦笑しながら言った。
なるほど、医療行為の必殺技か。
確かにそれなら柚子にピッタリだ。
だが、そうなると一つ問題が出てくる。
「医療行為って事は……怪我の治療とかだよな」
「もちろんですよ。健康な人には、治療の必要はありませんから」
当たり前です、と柚子は言う。
じゃあ、それを見せると言うことは……。
「それじゃあ、誰か怪我をして貰えませんか?」
笑顔で。
天使のように無邪気な笑顔で、ハッキリと柚子は言った。
本人は全く自覚がないのだろう。
悪意のカケラもない、純粋な笑顔に、誰が文句を言えるだろうか。
自然と、みんなの視線は一人の方向へと集中していき……。
「ん、みんなどうして吾輩を見てるのだ?」
一人状況が掴めないドクター。
ご就床様。
グイッと、ドクターの手を、柚子が掴む。
「蒼井さん。協力してください」
ニコニコと天使の笑顔を向ける柚子。
ここに来て、ようやくドクターも非常事態に気づいたようだ。
だが遅い。
「それじゃあ、三番、和泉柚子。行きます」
腰にかけられたポーチから、外科医が手術に使う、あの刃物が取り出される。
キラリ、と鈍い光を放つ。
「ちょ、ちょっと待つのだ。……お願い、待ってくださ……ぎゃ〜〜〜〜」
白刃が煌めき、ドクターの悲鳴があたりに木霊した。
柚子の必殺技は、確かに凄いものだった。
溢れ出る血を、一瞬で止血したり、ちぎれた手足を元通り縫合したり。
全てが終わった後、満足そうな柚子とは対照的に、ドクターはグッタリとしていた。
「いやですよ、蒼井さん。別に怪我をしたわけじゃないんですから」
「…………心に……深い傷を負ったのだ」
絞り出すようなドクターの声が、全てを物語っていた。
ドクターこと蒼井賢…………再起不能(嘘)
「……色々あったが、取り敢えずこれで一通り終わったな」
「そうですね。私のをお見せできなかったのは、残念ですが……」
残念そうなに千景が言う。
最後は千景が締めるはずだったのだが、
「千景のは危険すぎる。今回は見送ろう」
「そうですね。ここで使うと、全員一緒にあの世行きかも……」
という紫音と奈美の意見で中止となった。
何か非常に気になるのだが……
「ハル、好奇心は猫を殺すというだろう」
「ハル。お願いだからここは私たちの言うことを聞いて」
この二人がここまで言うとは……。
千景さん、貴方は一体何者ですか…………。
「とにかく、これで全員の必殺技を見せて貰った訳だが、さて、ハルよ」
「何でしょうか?」
紫音の言葉にハルが聞き返す。
「どれでも良いから真似して見ろ」
無茶を仰る。
人間離れもいいところの、今のどれを真似しろと。
「いや……無理でしょう」
「何だ、情けない。…………まぁいい。こんな事もあろうかと、秘策を用意している」
何だか非常に嫌な予感がする。
今まで非道い目に会い続けた、ハルのシックスセンスが告げる。
だが残念ながら、それを回避する方法までは教えてくれないようだ。
「そんな不安そうな顔をするな。お前にとっても、そんなに悪い事じゃない」
そうして告げられた秘策は、ハルを不安のどん底に叩き落とすのに、十分なものだった。
超人達の技に、完璧に引いているハル。
そんなハルに紫音が授ける秘策とは……。
次回、必殺技会得しますの完結編です。