必殺技会得します(1)
悪の組織の幹部には、必殺技は不可欠。
と言うことで、必殺技の話です。
今回はプロローグなので、非常に短いです。
それは、とある昼下がりの事だった。
食堂で昼食をとり、食後の一時をお茶を飲みながら過ごしている幹部一同。
たわいない雑談をしているときだった。
「なあ、みんな聞いてくれ」
紫音の言葉に、ハル達は会話を止める。
「どうかしましたか、紫音?」
「うむ。みんなに聞きたいことがある」
千景の問いかけに、真剣な顔をして答える紫音。
ただ事ではない。
一同に緊張が走る。
ゴクリ、と唾を飲む音さえ聞こえそうな沈黙のなか、紫音は静かに告げた。
「必殺技って、持ってるか?」
「つまり、悪の組織の幹部なら必殺技を持っているべきだと」
千景が紫音の言葉を要約する。
「そうだ。むしろ悪の幹部が必殺技の一つや二つ、持っていなくてどうするのだ」
どうもしないとだろう。
持っている方が少数派だと思うが。
「それでどうだ?必殺技を持ってる奴はいるか?」
幹部一同を見回す紫音。
いるわけがないだろう、とハルが突っ込む前に、
「「「はい」」」
ハルを除く全員の声が、綺麗に揃った。
……マヂですか。
「そんなこと聞くまでもないでしょう」
千景さん。何を言ってるんですか。
「悪の組織で幹部やってるんだもの。持っていない人なんかいないわよ」
奈美……勘弁してくれ。
「まあぁ、私はぁ三つくらいしかぁ、もってないけれどもぉねぇ」
三つもあるのかよ。
「吾輩くらい天才になると、手の指じゃ足りないくらいはあるな」
何か無性に悔しいのは何故だろう……。
「わ、私は……その……簡単なものなら……」
控えめに言ってるけど、持ってるんですね。
そして、視線はハルへと集まる。
「それでハルよ。お前はどうだ?」
紫音の期待に満ちた視線が、ハルへと突き刺さる。
困った。
そんなもの持っていたら、平凡なんて修飾詞はつかない。
「いや……持ってないけど……」
瞬間、空気が凍った。
ハルを除くみんなの視線が、何か信じられないものを見るように変わる。
「まさか…そんなことがあり得るなんて……」
「必殺技を持たない幹部が、存在したなんて……」
「ちょっとぉ、信じられないわねぇ」
「吾輩の予想を裏切るとは……流石はハルである」
「その……何と言葉を掛けて良いか……」
口々に驚きの声を発する幹部達。
そんな中、紫音だけが腕組みをし、瞳を閉じたまま沈黙を守っていた。
気まずい沈黙。
やがて紫音は何かを決意したように瞳を開ける。
そしてハッキリと言った。
「特訓だ」
「はい?」
「こうなったら形振り構っている場合ではない。特訓して、ハルにも必殺技を使えるようになって貰うしかない」
何が貴方をそうさせる。
どうやら悪の組織に必殺技は欠かせないらしい。
無論、ハルには理解できないが。
「お前には今日中に最低一つでも、必殺技を会得して貰う。……もし出来なかったら」
「出来なかったら?」
「ハピーに降格だ!」
「マヂっすか!!」
何か久しぶりのパターンだ。
とはいえ、あの黒タイツを着る恐怖は今も変わらない。
高すぎるハードルだ。
双眼鏡を付けても天辺が見えない。
だが、超えない訳にもいかないだろう。
こうして、ハルの必殺技習得大作戦は幕を開けた。
またしても、平凡な男であるハルには厳しい注文が付けられました。
果たしてハルは無事必殺技を会得して、ハピー降格を免れるのでしょうか。
またお読みいただけたら幸いです。