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可愛い保険医探します(3)

前回の続きです。

それぞれの方法で保険医を捜すメンバー達。

果たしてハピー達の希望は叶うのか?

 パターン1 奈美の場合



「やっぱり人捜しなら、職安よね」

 他の幹部と別れた後、奈美は公共職業安定所へと向かった。

「職安なら仕事を探してる人のデータがあるでしょう」

 奈美にしては考えた作戦だった。


「はい、どのようなご用件でしょうか」

 職安の受付カウンターには、背広姿の職員がいた。

 奈美は机を挟んだ席に座り、

「うちの会社でとある人材を捜してまして、もし該当する方がいたら是非とも紹介して欲しいと思いまして、こちらに伺いました」

「なるほど……では、検索をいたしますので、条件を教えてください」

 奈美の言葉に、男は傍らに置いてあるパソコンを操作しながら言った。

「えっと、まずは医師免許が必要です」

「ふむふむ、医師免許……。大分数が絞られますね」

 それはそうだ。

「それから、年齢は出来るだけ若く」

「となると、最年少は二十六歳ですね……」

 カタカタとキーボードを叩く音が響く。

「性別は女性で」

「ふむふむ、女性っと……」

「それに可愛くて」

「可愛い、と」

「癒し系で」

「なるほど。癒し系……」

「後は……そう天然系で」

「天然系ですか……」

「最後に、ドジっ子属性も必要です」

「ドジっ子属性は必須、と」

 男はキーボードを軽快なリズムで打ち込む。

 ピーッという音と共に、画面検索結果が表示される。

「結果は、どうでしょうか?」

「いるわけ無いじゃないですか」

 ですよね。

「どれか一つの条件でも欠けていれば、いたんですがね……」

 それも驚きです。

「医者じゃないか、女じゃないか、若くないか、可愛くないか、癒し系じゃないか、天然系じゃないか、ドジっ子属性がないか、と言うことですね」

「はい。ご希望の条件は非常に厳しいものがありました。お力になれずすいません」

 いえ、かなりハイレベルの人材をお持ちですよ。

「ん〜全部揃ってないと駄目みたいなんで、今回は諦めます。お邪魔しました」

 ぺこり、と頭を下げ職安を後にする奈美。


 ハピネス戦闘部隊長、早瀬奈美……妥協を許さない性格のため、任務失敗!




 パターン2 ローズの場合


「と、言うわけなのよぉん、ママ」

 ローズは体をクネクネと捩らせながら言った。

 他の幹部達と分かれてから、真っ先に向かった先は、

「話は大体わかったさね」

 某街二丁目のクラブ、ロスト・ボールだった。


 開店にはまだ大分早い、昼の時間。店内にはママとローズの二人だけだった。

「しっかし、お前達は面白い面倒ごとばかり持ち込むねぇ」

 キセルを加えながら、ニヤリと笑うママ。

 その姿は、面倒事を楽しんでいるようにすら見える。

「ママの人脈ならぁ、見つかると思うんだけどぉ」

 ローズの言葉に、ママは少しの間、目を閉じ、

「そうさね……あんたの条件に近い子なら紹介出来るんだけどね」

「ほんとぉ、どんな子なのぉ」

 ローズの問いに、ママは口から煙を吐き出す。

「まず、医師免許はもってる。年齢も二十六歳だから充分若いだろうよ」

「ふんふん、それからぁ?」

「見た目はハルに似てかなり可愛いと思うよ。笑顔がよく似合う子でね、いわゆる癒し系ってやつかね」

「……ドジっ子属性は?」

 ゴクリ、とのどを鳴らすローズに、

「もちろん持ってる。それもかなり強力なやつを」

 ハッキリとママは言い切った。

 冷静に考えると、恐ろしく強力な人材だ。

「完璧じゃない。ママ、是非とも紹介してよぉ」

 そんなローズの言葉に、しかしママは首を横に振る。

「ところが、だ。そうもいかないんだ」

「どうしてぇ?」

「その子はね……男の子なんだよ」

 考えてみれば当然である。

 そう言う街で、そう言う人脈を持っているママに聞いたのだから。

「……駄目かしらねぇ」

「あたしはアリだと思うけどね。ただ、あんたの話を聞く限り、そいつらはどんなに可愛くても男じゃ認めないだろうね」

 あたしの経験上ね、とママは悟り顔で言う。

「そう……残念だわぁ」

「まあそう気を落としなさんな。こういうのは、ハルが得意だからね。きっと見つけるよ」

 得意とかあるのだろうか。

「あいつは昔から、女の子との出会いフラグは立てるのが上手いのさね」

 ニヤニヤと笑うママ。

「まあ、楽しみに待ってな」

「は〜い、ママ」


 ハピネス福利厚生部隊長、ローズ……人脈の偏りのため、任務失敗!




 パターン3 千景の場合


「と、言う訳なのです」

 千景は携帯電話で通話中だった。

 他の幹部達と分かれてから、すぐさま千景は携帯を手にとった。

 かける先はもちろん、

「話は分かりましたが……何故私に? 私は敵ですよ?」

 正義の味方、美園だった。

「こうした情報網はそちらの方が上手でしょう?」

「皮肉ですか? ネットワークを持つ貴方に、情報量で勝てるはず無いでしょう」

 ご機嫌斜めの美園。

 だが千景は怯まない。

「そう言わないで協力してよ。ちょっと特殊な人捜しだから、私の情報網に引っかからなくて」

 千景の言葉に、美園はため息をついた後、

「あのね、何処の世界に悪の組織のメンバー集めに協力する、正義の味方がいるのよ」

「この世界に」

 再び大きなため息をついた。

「それで、何なのそのふざけた条件は」

「まあ、若い子達が多いって事で」

 千景は苦笑いをする。

 ハピー達の気持ちも分かる。

 ハピネスで作戦をする以上、命の危機に晒されることも多々ある。

 重傷を負うこともあるだろう。

 だからこそ、治療をしてくれる医者には、癒しを求めるのだろう。

 少し行き過ぎのような気もするが……。

「とにかく、そんな人材はうちにはいないし、私の情報網にもいないわね」

「あらそう。残念だわ」

 ちっとも残念そうじゃない口調で千景が言う。

「貴方……元から期待してなかったでしょう」

「まあ、条件が条件ですからね」

 確かに仰るとおり。

「それでは私は職務に戻ります。……精々頑張ってください」

「ええ。期待して待っていてくださいね」

 通話を終えた千景は、小さく息を吐く。

「こちらは駄目でしたか……。みんなはどうでしょうね」

 散り散りになり行動している、他の幹部達へと思いをはせる。


 ハピネス、副司令兼その他沢山、柊千景……元々本気で探していないため、任務失敗!




 パターン4 ハルの場合


 さて、とハルは考える。

 人捜しなら、専門家に頼るのが一番だ。

 だが。

「名前も分からないし、写真もないの? そんなの探せないよ」

 と、あっさり断られてた。


 まあ、無理もないと思う。

「どうしよっかな〜」

 正直あてが無くなった。

 闇雲に探しても見つかるものでもない。

「……蛇の道は蛇で行ってみるか」

 懐から携帯電話を取り出し、登録したばかりの番号にかける。

 数回のコールの後、

「はい、葵です」

 目的の相手が出た。

「ハルだけど……」

「あ、お兄さんですか。お久しぶりです」

 葵の声はどこか弾んでいた。

「何かあったのか。やけにご機嫌だけど」

「もう、お兄さんが電話くれたからに決まってるじゃないですか」

 嬉しいことを言ってくれる。

「それで、何かご用があったんですか?」

「ああ、実はお願いがあって」

「何でしょう。私に出来ることでしたら頑張りますよ」

 そんな葵の言葉に甘え、

「女の子を紹介して欲しいんだ」

 これがまずかった。

 受話器越しに、葵の雰囲気が変わるのが分かった。

「………………………」

「あの〜、葵……さん?」

 恐る恐る聞いてみるハル。

「ハルさん」

「は、はい!」

 静かな葵の言葉。

 名前で呼ばれることがこんなに怖いことなのかと、ハルは初めて感じた。

「どんな女の子を紹介して欲しいんですか?」

 ゴゴゴゴゴ

 葵の背後に立ち上る炎が、見なくても見えてくる。

「あのですね……若くて、可愛くて、癒し系で、天然で、ドジっ子で……」

「ハルさん、軽く殺意が湧いたんですけど……どうしましょう」

 どうもしないで下さい。

 とにかく葵を落ち着かせないと、本気で命が危ない。

「落ち着いてくれ葵。これには深い訳があるんだ」

「……聞きましょう。でも、それ次第では……」

 ペキペキ

 指の骨を鳴らす音が受話器越しにもハッキリと聞こえる。

 失敗は許されない。

「軽い気持ちで言ってるんじゃないんだ。……今の俺には、そう言う女の子がどうしても必要なんだ!……俺は本気だ!!」

「…………ハルさん。今、会いに行きます」

 ああ、終わった……。

 どうやら失敗したらしい。

 こういう場合は、即時撤退に限る。

「また電話する。じゃあ」

 相手の返事を待たずに通話を終了する。

 いるはずがないと思いつつも、ついつい周囲を見回してしまう。

 次会う時が、人生の終わりだとハルは覚悟を決めた。


 

 ハピネス幹部候補生、御堂ハル……生命の危機により、任務失敗!?



見事に失敗したメンバー達。もちろんこれで終わるわけには行きません。

次回、保険医探しの完結編です。

お読み頂けたら、幸いです。

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