悪の怪人つくりますR(2)
悪の怪人つくりますRの中編です。
区切りが悪かったせいで、今回は非常に短い話になっております。
後編へのつなぎとなりますので、お気軽にお読み下さい。
ハルは疲れていた。
ピークを過ぎ、客の姿がまばらになった喫茶店。
その原因となった少女は、向かいの席で優雅に紅茶を楽しんでいた。
「いや〜、お兄さんのお陰で助かっちゃった」
「……そいつは良かったな」
明るい葵とは対照的に、ハルの表情は冴えない。
葵との買い物は、過酷だった。
相当な田舎から出てきたらしく、常識がとにかく無いのだ。
「並んでる野菜を勝手に食べるな!」
「だって、味見しないと美味しいか分からないじゃないですか」
仰る通りですが……店員の目が怖い……。
「プロ野球チップスのカード開けるな!」
「だって、開けないと小宮山が入ってるか分からないじゃないですか」
渋いところを突いてくる。
いや、問題はそこじゃなくて……。
あぁ、子供を連れた親御さんの視線が突き刺さる……。
万事がこんな調子だった。
そのくせ、財布の中には万札がギッシリ詰まっていて、ますます正体が分からなくなった。
「お前、良いとこのお嬢さんなのか?」
「そうだったらどうします? 逆玉狙いますか、お兄さん」
にやり、と冗談めかして葵が言う。
「いや、そんなお嬢さんが、どうして一人で都会に来たのかなって、気になってね」
「ん〜、一応秘密なんですけど……」
そうして少し悩んだ後、
「実はとある組織にスカウトされたんです」
秘密はあっけなく暴かれた。
「とある組織って?」
「それも秘密なんですけど…………正義の味方の組織です」
お前、全国の秘密達に謝れ。
しかし、聞き捨てならない単語が聞こえた。
正義の味方。
それ自体は問題ない。立派なものだ。
ハルの立場が問題だ。
悪の組織の幹部見習い。
これはマズイ。
今のこの状況は、警察とお茶している泥棒のようなものだ。
となれば、とるべき道は一つ。
気づかれる前に、戦略的撤退をする。
「さて、それじゃあ俺はそろそろ行こうかな」
「随分と急ですね……あ、ひょっとして、私の正体を知って怖くなったとか?」
エスパーですか。
ハルは顔が引きつりそうになるのを、何とかこらえる。
「い、嫌だな。正義の味方をどうして怖がるんだよ」
「そうですよね。悪の組織の幹部見習いとかならともかく……」
ピンポイント過ぎる。
しかも直撃。
冷や汗が、ハルの頬を伝う。
「そう言えば、私も待ち合わせがあったのでした。もう行かなくちゃ」
「それじゃあここでお別れだな」
「……何だか嬉しそうですね」
なかなか鋭い。
「そんなことはない。俺も買い物した荷物を持ち帰らなくちゃさ」
「ふ〜ん。まあいいです。それじゃあ、駅前まで一緒に行きましょうよ。紅茶のお礼に、そこまで荷物を持ってあげますよ」
席から立ち上がりながら、葵は言った。
それは困る。でも、ありがたい。
非常に悩ましい選択だ。
目の前の少女を見る。
目の前に積まれた拷問のような荷物を見る。
「…………お願いします」
ハルは深々と頭を下げた。
新キャラの葵。残念ながらハピネスへの加入はありませんが、正義の味方側の主人公として頑張ってもらう予定です。
さて、次回で悪の怪人つくりますRの完結編です。
もう一人の新キャラが登場します。待望のトラブルメーカー&やられキャラなので、お楽しみに。
次回も読んでいただけたら、幸いです。