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幕間《ローズを探せ》

暫く登場しないと思ったら、失踪していたローズ。

彼女……ではなく彼を捜すため、ハルと奈美は色々な意味で危険な夜の街へと向かう。

果たして、二人は無事に生きて帰り(貞操含む)、ローズを連れ戻すことが出来るのでしょうか。

 その異変は、午後のお茶の時間に起きた。

「はい、紫音様。……千景様。……はい、ハル」

 奈美がみんなにお茶を注いでいく。

「あ〜暇だな〜」

「そうですね。ハピネスもハッピーハピーも、ちょうど一段落したところですから」

 のどかな午後の時間。だが、

「あれ?」

 奈美が困り顔で首を傾げる。

「奈美、どうかしたか?」

「あのね。カップが一つ余ってるの」

 なるほど。

 確かに奈美が持っているお盆にはカップが一つ残っている。

 だが、室内にいる全員にお茶は行き渡っている。

「何、単なる勘違いだろう」

「奈美は少しおっちょこちょいなところがありますからね」

 お茶をすすりながら紫音と千景が言う。

「ん〜、そうなのかな……」

「そうですよ。だって、紫音、私、ハル君。そして奈美以外にお茶を入れる相手がいないじゃないですか」

 納得しきれない奈美に、千景が諭すように言う。

 だが、ハルは何かが引っかかっていた。

 本当にこのメンバーだけだっただろうか……。

 何か、忘れているような気が……。

「それじゃあ、次の作戦について――」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 思い出してしまった。

「ハル、何事だ」

「……俺たち、ローズのことすっかり忘れてました」

 一瞬の静寂。そして、

「「「あぁぁぁぁぁぁあ」」」

 三人の叫びが見事に重なり合った。


「うむ、どうやら剛彦は怪人作りの時には既にいなかったようだ」

「ってなると、最後の登場はあのビキニですか……」

 思い出したくない苦い記憶だ。

「ええ。どうやらその出来事がきっかけのようです」

 そう言いながら、千景は手に持っていた便せんをハルに見せる。

「自分を見つめ直す為、原点に戻ります。探さないでねぇん。ローズより愛をこめて」

 達筆なギャル文字で、一行だけ書かれてあった。

 リアクションをしづらい空気があたりを包む。

 つまりは、家出であった。

「参ったな。剛彦がいないと業務に支障が出る」

「彼はああ見えて優秀でしたからね」

 ああ、とハルは納得する。

 つまりあれだ。

 最近ハルが忙しいのは、ローズの分の仕事が回ってきていたからだ。

「それに、やっぱりいないと寂しいですよ」

 お前、気づいてなかっただろうが。

「やはり、探しに行かなくてはならないだろう」

「その意見には賛成です。ですが、彼の行き先はまるで見当がつきません」

「う〜ん。ローズさんが自分を見つめ直す原点って何だろう」

 女性陣三名が言う。

 だが、ハルには心当たりがあった。

「多分。あそこだと思いますよ」

「ハル君。心当たりがあるんですか?」

 ええ、と頷くハル。

 こうしてローズ捜索大作戦は幕を開けた。



「ねぇ、本当にこんな所にローズさんがいるの?」

「多分、な」

 そう答えたが、ハルには確信があった。

 間違いなくローズはこの街にいる。

 眠らない街。その筋の方が大勢いらっしゃる、この街の二丁目に。

「な、何か凄いね」

「離れるなよ。迷子になったら洒落にならない場所だからな」

 ギュッと奈美の手を握るハル。

 奈美が何か小声で言っているが無視する。

 ネオンが輝き、あちこちでお店への呼び込みが行われており、街は非常に賑わっていた。

「それで、何処に行くの?」

 奈美が不安げに聞く。

「ちょっとした知り合いがいてね。そこで聞き込みをしようと思う」

 あんまり会いたくない部類の人だが、この際仕方がない。

 ハルはこれから出会うであろう人の顔を思い浮かべ、憂鬱になる。

「……ここだよ」

「クラブ、ロスト・ボール……」

 如何にも、な店は小さなビルの二階で営業をしていた。

「あらぁごめんなさい。今日は定休日なのよぉん」

 店に入った瞬間、野太い男の声が聞こえる。

「ローズさん?」

 気持ちは分かるが違う。

 入り口に立っていたのは、ローズによく似た大柄な……男だった。

「あらぁ、ハルちゃんじゃないの。今日はどうしたのぉん。可愛い恋人まで連れて」

「こ、恋人………」

 赤くなっている奈美は放って置いて、

「ちょっとママに聞きたいことがあってね」

「ママに? 良いわよ。呼んできてあげるから、席で待っててねぇ」

 男はウインクを残して、店の奥へと入っていく。

「ほら奈美。取り敢えず席に着こう」

「……恋人……」

 まだ夢の中を彷徨っているような奈美を連れて、ハルは空いている席へと座る。

 U字形のソファー。真ん中に置かれた机。典型的な接客用の席だった。

 待つこと数分。

「おやおや。本当にハルが来てるじゃないのさ」

 現れたのは、さっきの男とは比較できないほど綺麗な男だった。

「ご無沙汰してます。ママ」

「ああ。二年ぶり位かね。相変わらずいい顔してるじゃないか」

 ママと呼ばれた男は、豪快に笑って見せた。

「それで、そっちの子はどうしたんだい」

「ああ。今俺がやってる仕事のパートナーだよ」

「は、初めまして。早瀬奈美と申します」

 まるで彼女の両親に初めて挨拶をする男のように、がちがちだった。

「おや、丁寧な挨拶を頂いちまったね。

 あたしはこのロストボールを取り仕切ってる、西園寺要って言うんだ。みんなはただママ、って呼ぶけどね」

 あんたもそう呼びな、とママは笑う。

 口調や見かけからよく間違われるが、ママは男だ。

 着物を着た京美人と言うのが一番しっくりする表現だろう。

 だが、中身は普通の男よりもよっぽど男らしい。

「それで、あんたがわざわざあたしの所に来たんだ。よっぽどの用件なんだろうね」

「うん。人を捜してるんだけど……。ママの情報網に頼ろうと思って」

 ハルは懐から写真を一枚差し出す。

 ローズがウインクに投げキッスをしているブロマイドだ。

「あら……この子……」

「知ってるの?」

「ええ。確か昔、プライド・オブ・ボールってお店にいた、ローズちゃんだと思うわ」

 ビンゴだった。

 て言うかローズって源氏名だったのか。

「でも、少し前に店が潰れちゃってね……」

「そうか……」

 ハルは残念そうに表情を曇らせる。

 ママはこの街では屈指の情報網を持っている。

 そのママが知らないのだ。見つけるのは難しいかもしれない。

「ふん、そんな顔しなさんな。

 あたし以外にも情報通はいるからさ。そいつらにも聞いてやるからさ」

 にやり、と笑顔のママ。

「あ、ありがとうママ」

「ただし、タダって訳にはいかないよ」

 少しシリアスな表情になる。

「金はそんなには払えないけど……」

「あん。そんなのはいらないよ。身体で払ってくれればね」

「か、身体……」

 ママの言葉に、再び真っ赤になる奈美。

 今日は体調が悪いのだろうか。

「身体って事は……やっぱり」

「そうさね。またうちで働いておくれよ。

 あんたなら……一日でお釣りが来るくらい稼げるだろうさ」

 嫌な記憶がよみがえる。

 生活費を稼ぐため、やむを得ず行ったバイト。

 人生の汚点だ……。

「ハル……女みたいだとは思っていたけど」

「頼む。そんな目で見ないでくれ。出来たら忘れてくれ」

「いやその、ハルのそう言う姿もちょっと見てみたいっていうか……」

「勘弁してくれ」

 本気で凹んでいた。

「はっはっは。あんたら二人、いいよ。気に入った。

 働くのはあんたの都合のいい日でいいさね。期限は決めないから、のんびり待ってるよ」

 さて、とママは最初に会った男を呼ぶ。

「後払いとはいえ、お代を貰っちまったんだ。対価はきちっと払うよ。

 まずは、うちの店の子達から聞いてみるさ。生憎今日は定休日だから新入りの子しかいないけど、聞かないよりはマシさね」

 数分後、その新入りの子がハル達の前に現れた。

 二メートルを超える巨体、鍛え抜かれた鋼の肉体、類人猿に近い三十過ぎの顔って、

「あらぁ、二人ともぉ。どうしたのぉん」

「お前かぁぁぁぁ!!」

 ハルの突っ込みが店内に響く。

 こうして、目的の人物は、あっさりと見つかったのだった。



「つまり、ミスコンで自分の魅力が足りないと感じて、修行に来ていたと」

 ハルの言葉に頷くローズ。

「あたしもビックリしたさね。いきなりうちに来て、一から鍛え直して欲しいって。その一本気なところが気に入って、働かせてたって訳さ」

「狡いぞママ。ローズの行方を知らないって言っただろう」

「あん。勘違いしなさんな。あたしは一言も、知らないって言ってないよ」

 少し前を思い出す。

 ……確かに、知らないという言葉を使ってない。

「まだまださね。もっと狡くならないと、この世界じゃ生きていけないよ」

 いや、生きていかないから。

「とにかく、約束は守ってもらうよ」

「……はぁ」

 ご機嫌なママに、ハルはため息混じりに頷いた。

「でも凄いですね。カツラを着けるだけで、こんなに印象が変わるなんて」

「あら奈美ちゃん。これはね、ウイッグって言うのよ」

 言いながらローズが付けていたウイッグを外す。

 セミロングだった髪型が、角刈りへと変貌する。

 ローズは変装のつもりで付けていたようだ。

 でも、普通は気づくぞ。

「奈美ちゃんも付けてみたらどう? 今ショートだから、イメージが大分変わるわよ」

「え、そうかな……」

 奈美がチラチラとハルを見る。

「ん、どうした?」

「ハルは、髪の長い女の子の方が好きかな?」

 言われてハルは考える。

 髪型には特にこだわりはないのだが、あえて言うなら、

「どちらかというなら、長い方が好きかな」

「じゃあ、付けてみるね」

 言うやいなや、奈美がウイッグを装着する。

 サイズは?と言う突っ込みはスルー。

「ど、どうかな?」

 恥ずかしげに頬を染めながら奈美。

 髪型一つでこれほど印象が変わる物だろうか。

 勝ち気で活発な印象だった奈美が、物静かで儚げな印象に早変わりした。

「ほ〜、これは見事なもんさね。男ならうちの店にスカウトしたいくらいさ」

 ママ、日本語が変です。

「奈美ちゃん、よぉく似合ってるわぁ。そうよねぇ、ハルちゃん」

「あ、ああ。似合ってるぞ」

 ローズに促され、ハルも感想を言う。

 赤くなる奈美。ニヤニヤするママとローズ。

 何故だろう。馬鹿にされているような気がする。

「そ、そう言えばハルもこういうの似合いそうだよね」

 なんて事を言うのだろう。

 恥ずかしさの限界だったのだろうが、この場面で一番言ってはいけないセリフだ。

 ピリピリと空気が張りつめていく。

 ハルは表情が引きつっていくのを感じながら、

「それじゃあ……俺はこの辺で……」

 ガシッ

 立ち上がるハルの右手、左手がそれぞれ掴まれた。

「あの…………なんでしょうか………」

 手を掴むママとローズにハルは笑いかける。

「まあまあ。焦らなくてもいいでしょう、ハル」

「そうよぉ、時間はたっぷりあるんだからぁ」

 ギラリと目が光る。

 冗談抜きで怖いっす。

「な、奈美。助けて――」

 くれ、と言葉は続かなかった。

「ごめんねハル。私も……ちょっと見てみたくて」

 恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうにウイッグを手に近づいてくる。

 万事休す。

「さぁ、ハル。お楽しみの時間だよ」

「い、いやぁぁぁぁぁぁ」

 乙女のようなハルの悲鳴が、夜の街へと吸い込まれていった。



「もう……お婿にいけない」

 事後、乱れた服のハルが涙ながらに呟く。

 こうして、一人の男の犠牲によって、ローズはハピネスへと無事に戻ってきた。


 めでたし、めでたし。


「めでたくない!」

「だ、大丈夫だよ。ハルのとっても立派だったから」

「何を見たぁぁぁぁぁ」

 事件後、ハルがトコトン凹んだ事は、言うまでもない。



何だか奈美のキャラがすっかり変わってしまったような気がしますが、元々こんなキャラです。……多分。

新キャラのママは、実在のモデルがいます。個人的にかなり好きなキャラなので、何とか登場させたいと思ってます。

次回から、ハピネスへ新キャラが加入します。かなり濃いめのキャラになっているので、また読んでいただけたら幸いです。

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