正義のヒーロー倒します(1)
悪の組織と言ったら、天敵はヒーローでしょう。
と言うわけで、ヒーローとの初対決です。
前編にあたること話は、ヒーローの説明が長く読みにくいかもしれませんが、ご容赦下さい。
今回の話、ギャグ分はかなり少な目です。
「むむむ、これは由々しき事態だ」
とある朝、紫音は新聞を読みながら唸る。
「何かあったんですか?」
お茶をすすりながら奈美が尋ねる。
朝食後の穏やかな一時だ。
はて、そんな問題になる記事があっただろうか。
素潜り世界記録達成の、写真付き記事には感動したが……。
「うむ。また正義のヒーローによって悪の組織が一つ壊滅したらしい」
「あら、嫌ですわ。最近物騒ですね」
いえ、むしろ平和なんじゃ。
「前から疑問だったんですが。結局正義のヒーローって何なんですか?」
「ああそう言えば、まだ説明してませんでしたね」
ハルの質問に、千景はコホンと咳払いを一つ。
「ヒーローは大きく分けて二種類に分けられます。公務員なのか、民間なのか、です」
「何が違うんですか?」
「公務員のヒーローは、通常の公務員と同じ月給制です。国の命令で活動をするので、当然活動には国の支援が受けられます」
警察への指揮権とか、活動中の軽犯罪の免罪とかね、と千景は言う。
「一方、民間のヒーローはあくまで一般人です。善意の協力者という扱いですので、給料は出ませんし、民間人立ち入り禁止の現場には入ることすら出来ません」
なるほど。
公務員が優遇されるのは、裏社会でも同じなのか。
「でもそれじゃあ、民間のヒーローなんていなくなるんじゃ」
「いえ。民間のヒーローがいなくなってしまえば、公務員も困ります。何せ悪の組織の数は多すぎて、国の組織だけでは対応し切れませんからね」
公務員を優遇しすぎて民間がふて腐れては困る訳だ。
「なので、国は悪の組織を壊滅させた民間ヒーローに報奨金を払っています。悪の組織のランクに合わせて金額は大小ありますけどね」
やる気を出させるためのエサか。
馬の前に吊したにんじんと同じだとハルは思う。
「なるほど。公務員は固定給、民間は歩合制って事ですか」
「簡単に言ってしまえば。なので、公務員ヒーローよりも、民間のヒーローの方が活動が活発です。ハングリー精神に溢れてますし」
そいつは手強そうだ。
「そうだな。今日のニュースも、民間のヒーローによるものだ」
紫音が新聞記事をハルに見せる。
そこには確かに、民間のヒーローが悪の組織の首領を捕らえている写真が写っていた。
「悪の組織ランクはCか。……そう言えばハピネスってランクはいくつなんですか?」
「……Gだ」
紫音は不機嫌そうに唇を尖らせて答える。
「流石に出来たての組織ですからね。ただ、」
千景は言葉を句切り、
「うちは公認証があるので、他の組織に比べてランクアップが早いと思いますよ」
「あ、ちょうど良い機会だから聞きますけど、その公認証ってどんな効果があるんですか?」
ハルの質問に千景は少し苦笑いをする。
「私たちのメリットは、自己満足や他の組織に自慢できる位ですね。むしろこの制度は、正義のヒーロー側の為に作られた物と言えますね」
「何故です」
「公認証がある組織を壊滅させると、報奨金が倍増します」
ラッキーカードみたいだな、とハルは思う。
「もっとも、私たちのようなGクラスの組織はいくら公認証があっても、ヒーローと戦う事は、まず無いでしょうから、それほど心配いらないと思いますよ」
そう言って、にこりと千景は微笑んだ。
「前言を撤回します」
千景がいきなり宣言した。
「あの〜千景さん、何があったんでしょうか……」
恐る恐る尋ねるハル。
「奈美とハル君には、ヒーローと戦って貰います」
「撤回しすぎでしょう!」
ハルの突っ込みに、横から紫音が助け船を出す。
「事情が変わったのだ。事は急を要する」
「非常事態というわけですね」
奈美の答えに、紫音は頷く。
「先ほど、うちと協力関係にある悪の組織から救援要請が入りました。作戦行動中にヒーローと遭遇してしまって大ピンチだと」
そいつは大変だ。
ヒーローと言うのがどれほど強いのか分からないが。
「そこで二人には救援に向かって貰います」
「正義のヒーローを倒すのは、悪の組織のメイン活動だ。しっかりやってこいよ」
そんな二人に見送られ、ハルと奈美は出撃していった。
出撃した二人を待つヒーローとは。
ちょっとシリアスな展開を目指して、話は後編へと続きます。
ギャグ分が少な目なのは意識してなので、次の話からまたギャグだらけになります。ギャグ好きの方には申し訳ないですが、また読んでいただけたら幸いです。