幕間《ハピネスのとある休日》
本編からは完全に関係のない話です。
人物紹介をじっくりやる事がなかったので、一話まるまる使ってやってみました。
説明文が非常に多いです。ごめんなさい。
始まりは、紫音の一言からだった。
「……すいません。よく聞き取れなかったのですが……」
「何だハル。しっかりしろ。もう一度言うからよく聞けよ」
コホン、と咳払いをして、
「我らハピネスはミスコンに出ることになった」
こうして、ハピネスの長い一日が始まった。
「ご町内ミスコン大会実施」
ハルは手に持ったチラシを読み上げる。
「参加条件は町内に住むこと。未婚であることの二点」
「優勝商品は……ブレズテ3!?」
最新ゲーム機であるブレズテ3をプレゼントとは、随分気前の良い町内である。
「なるほど……紫音がどうして参加したがったのか、ようやく分かりました」
「ち、ちがうぞ千景。私はご町内の親睦の為にだな……。
決して、千景がゲームを買ってくれないから、これで手に入れてやる、なんて思ってないぞ」
……今の一言で全員が理解した。
「えっと、審査は水着姿で行われ、審査員の得点が高い人が優勝だって」
「水着か……流石に水着で人前に出るのは恥ずかしいな」
「ははは、今更何を。普段はもっと凄い格好をして……ぐべぇぇ」
奈美の渾身右ストレートにハルは沈んだ。
「とにかく、こんな大会に出場はしません」
「ふ〜ん、千景ってば自信ないんだ」
ピク、と千景の眉がつり上がった。
「そうだな。千景はもういい年だし、人前に水着姿を晒すのは厳しいよな」
挑発的に紫音は続ける。
「ああ私が悪かった。今回は私たち若い者に任せて、千景は――」
「参加しましょう」
「千景さん!?」
奈美が驚いた声を上げる。
「ごめんなさい奈美。でも、女には決して引いてはいけない時があるのよ」
それが今ですか……。
「よし、それじゃあ、明日は全員ミスコンに出場するぞ」
紫音の嬉しそうな声が、作戦司令室に響いた。
そして、翌日。
ハルはこっそり楽しみにしていた。
紫音はともかく、奈美と千景はかなりの美人だ。
そんな二人の水着姿が見られるとなれば、喜ばずにはいられないだろう。
そんなウキウキ気分で会場へと向かいそして、
「……あの、これ何ですか?」
「ん、見て分からないか。水着だよ」
絶望へと突き落とされた。
「昨日言っただろう。全員出場するって」
いや、確かに言いましたけど。
「あれは女性はって事でしょう。大体俺は男なんだし」
「その点はぬかりない。カツラは用意してあるし、パレオがあるからバレないって」
ぐっと親指を立てる紫音。
そう言う問題ではない気がするが……。
「とにかく、もう登録はしてしまったからな。……もし逃げ出したら、分かっているな」
「……了解です」
こうなりゃやけだ。
ハルは全てを諦めた。
「みなさ〜ん。ようこそお越し下さいました。
ただ今より、町内ミスコン大会を開催いたしま〜す」
大会は、川原に作られた特設会場で行われた。
休日と言うこともあり、ハルの予想を遙かに超える観客の数だった。
「それじゃあ、最初の参加者から行ってみようか」
タキシードに蝶ネクタイの司会者は、酒屋のおじさん。
硬派で通していた普段の姿を脱ぎ捨てて、生き生きと司会をしていた。
参加者は、意外なことに多かった。
少なくとも、ハピネスの面々だけ、と言う事態にはならなくて安心した。
「さぁて、お次はエントリーナンバー八番。結城紫音ちゃん、十二歳だ」
どうやら紫音の出番らしい。
ハルは控え室からステージを覗く。
シンプルなスカートが着いたワンピースの水着。
だが、太陽の光を受けて輝くウェーブのかかった青い髪、少し生意気そうな笑みを浮かべるお人形のようなかわいらし顔、透き通る海のような瞳が力強い光を放つ。
後何年かしたら、絶対に美人になる。
それが観客ほぼ全ての感想だった。
「これは可愛らしい。ボディの方はまだまだ破壊力不足だが、将来性を十分に感じさせてくれますねぇ。五年後が楽しみだ」
おじさん。貴方は一体何者ですか。
「さぁて、お次はエントリーナンバー九番。早瀬奈美ちゃん、十六歳だ」
「奈美って俺より年下だったんだ」
ハルの呟きは、男どもの歓声にかき消された。
奈美が選んだのは、あまりミスコン向きではない競泳用の水着だった。
露出は少ないが、ショートカットで活動的な奈美にピッタリだ。
茶色の瞳は、つり気味の目のせいで勝ち気な印象を与える。だが、恥ずかしがる今の姿とのギャップが男どもの心を掴んだようだ。
「これはなかなかのスタイルですね。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。まだまだ成長の余地を残したボディがグッドです。
さらに勝ち気な外見とは反して恥ずかしがる姿。これは堪らない」
……おじさん。そろそろ危ない人になってきてるぞ。
警察に通報する用意をしながら、進行を見守るハル。
「さあて、どんどん行こう。エントリーナンバー十三番、柊千景さん、二十四歳だ」
どよめきが、会場を包み込んだ。
「千景さん、まさかビキニとは」
よっぽど紫音に言われたのが悔しかったのか、大胆なビキニで勝負をかけてきた。
思わずため息がでる。
腰まで伸びる美しい黒髪が、透き通るように白い肌に見事に映える。
和風美人という言葉がピッタリな美しい顔は、穏やかな微笑みをたたえている。
「いや〜、今年はレベルが高いですね。スタイル、容姿ともに非常に高レベルです。落ち着いた物腰と微笑みも評価が高いですよ。さすが、今大会最年長の貫禄です」
ああ、終わった。
おじさん、ちょっと調子に乗ってしまいましたね。
最後まで微笑みを続けていた千景だが、去り際の一瞬、おじさんを見る漆黒の瞳からどす黒い光が見えたのは、ハルの気のせいでは無いはずだ。
「さぁて、お次はエントリーナンバー十四番、御堂ハルちゃん、十九歳だ」
「本名で登録すんな!!」
とはいえ、呼ばれてしまった物はしょうがない。
ハルは渋々ステージへと進み出る。
瞬間、
「おおおおおおおおお」
大歓声が起こった。
「可愛らしいお嬢さんが登場してきたぞ。十九歳という年齢とは思えないほど幼い顔と、未発育のボディ」
そりゃ、発育してたら怖いだろうよ。
「しか〜〜し、きれいな黒髪と神秘的な薄紫の瞳、そして〜、どこか女性として無防備で危なげな仕草が高評価だ」
左様ですか。
ハルはげんなりした。
「個人的に、今まで登場してきた中で、おじさん一番タイプだな〜」
勘弁してください。
逃げるようにしてステージから退場するハル。
そして最後の一人となった。
「さあ、この楽しいイベントも後一人となってしまいました。非常にハイレベルな今年の大会、そのトリを飾るのはこの方。
エントリーナンバー十五番、ローズさん、二十歳だ!!」
瞬間、会場は凍り付いた。
威風堂々とステージへと進み出るのは、間違いなくローズだった。
ビキニタイプの水着、だがサイズがギリギリなのか非常にきわどい。
「えっと……どうしたものか……」
百戦錬磨のおじさんが動揺している。
無理もない。
二メートルを超える、筋骨隆々の大男がビキニを着て現れたのだから。
角刈りにされた茶髪、格闘家のような男らしい顔。クネクネと体を揺らす動作。
会場は完全に恐怖により混乱に陥っていた。
「今日はぁ呼んでくれてありがとぉう」
野太い声が、乙女チックなセリフを吐く。
誰も呼んでねよ、とは誰もがつっこめない。
「とぉってもぉ、ローズ幸せよぉ。だ・か・ら、特別サービスぅ」
ローズが指を唇に持っていく。
「はっ、いけない。みんな、逃げろ!!」
ハルが叫ぶ。だが、
「ん〜ちゅっ!」
まさに大量破壊兵器だった。
ローズの放った投げキッスによって、会場の大多数の男が崩れ落ちる。
「間に合わなかった……」
こうして、町内ミスコン大会は幕を閉じた。
「お前のせいで、この、この」
「あぁん、ごめんなさぁい」
ミスコンが終わってから、ずっとこの調子だ。
結局ミスコンは中止となり、優勝商品はお預けとなった。
「私のブレズテ3が〜」
涙目の紫音。
これは長引きそうだとみんなが覚悟したとき、
「紫音、いい加減にしなさい」
千景だった。
そう言えば、作戦司令室に姿が見えなかったが。
「しかし千景。こいつが邪魔をしなければ……」
「あなたが優勝してたとは限らないでしょう? 人にあたるのは止めなさい」
む〜、と紫音は子供のようにむくれる。
「千景さん。そう言えば何処に行っていたんですか?」
「ええ。ちょっと、お礼参りに」
ニッコリと微笑む千景。
明日、酒屋がやっているか確認しなくては。
「あの、その紙袋は?」
奈美の問いかけに、千景は悪戯っぽく笑みを浮かべ、
「ある方が、お詫びにどうしてもと言うので頂いてきました」
そう言って袋を紫音へと渡す。
「これは・・まさか……」
袋を開けて中身を見る。そこには、
「ブレズテ3だ〜」
天使のような笑顔で喜ぶ紫音。
早速プレイしようと、作戦司令室のスクリーンにつなごうとしている。
「いいんですか、千景さん」
「ええ。本当は最近頑張っているご褒美に、買ってあげるつもりだったんですよ。
でも、ただ買ってあげるだけじゃつまらないでしょう? だから」
「全部あんたの差し金か!!」
ハルの絶叫に、しかし千景は余裕の笑顔で、
「そんな人聞きの悪い。私はちょっと町内会の方々のイベントに協力しただけですわ。それも、種目と商品を決めただけですよ」
ハルは悟った。
やっぱりこの人に逆らっては駄目だと。
「おい、お前達も入れ。全員でやろう」
何時の間にやらゲームを始めていた紫音が呼ぶ。
「まあ、たまにはいいじゃないですか」
「そうですね」
今日はせっかくの休日だ。
みんなで遊び尽くすのも悪くないだろう。
こうして、ハピネスのとある休日は過ぎていった。
さて、登場人物の外見のイメージが大分つきやすくなったのではないでしょうか。
他の部分の紹介も、幕間でいずれやりたいですね。
因みに、ローズの年齢はサバよんでます。実際には、35歳という設定です。
それでは、次回のお話も読んでいただければ幸いです。