表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/103

悪の組織はじまりました(2)

悪の組織はじまりました、の完結編です。

いよいよ初任務、二人は無事にこなすことが出来るでしょうか?

 ガタンゴトン、ガタンゴトン

 ヒソヒソ、チラチラ

「……なあ、奈美」

「お願い。分かってるから、話しかけないで」

 奈美は悲愴な顔をして答えた。

 目的地までは少し距離があった。

 そして残念なことに、ハピネスには移動用の車が無かった。

「だからって」

「電車はないわよね」

 二人はため息をついた。

 普段着なら問題ないが、今は格好が格好である。

 正直羞恥プレイだ。

「ハピーのみんなは平気かな」

 ハルは車内を見渡す。

「ほら、飴をあげるから泣かないでね」

「こら、優先席付近で携帯電話を使うな!」

「はいお婆ちゃん。どうぞ座ってください」

「えっと、元町駅は次の次の駅ですね」

 平気だった。

 というか、普通に溶け込んでいた。

「誰もあの格好を疑問に思わないのかな」

「変な格好も行き過ぎて一回転すると、普通に戻るのかも……」

 車内のマナーを守るハピー達をみて、奈美は呟いた。


「ようやく、到着か」

「……この怒り、全部ぶつけてやる」

 お手柔らかにお願いします。

 さて、ハル達一行が着いたのは、駅から少し離れた郊外のビル。

 二階建ての建物には、悪の金融業者と看板が……。

「って、そんなの告知すんなよ」

「まあまあ。わかりやすくて良いじゃない」

 確かにわかりやすいが……。

「それじゃあ、作戦を立てましょう」

 奈美の言葉にハルは頷く。

 事戦いに関しては、奈美に一日の長がある。

「えっとね、私があの建物に風穴開けて中に突っ込むから、あとよろしく」

 この子は何を言ってるのだろうか。

 そもそも作戦ですらない。

 だが、

「それじゃあ、行くね!」

 静止する暇さえなかった。

 奈美はビルの駐車場に止めてある、自動車へと移動する。

 そして、

「ほいっと」

 メキメキメキメキ

 ボンネットに手を乗せ、文字通り掴みあげる。

「……まぢっすか」

 マヂだった。

「てりゃぁぁぁぁぁ」

 気合一発。

 掴んだ車をビルの入り口に向かって放り投げた。

 ドッッカァァァン

 もう何というか、やりたい放題だった。

「何じゃこりゃぁぁ」

「野郎ども。出入りじゃ」

「殴り込みか」

 当然、自分たちの事務所がこんな事になれば、中の人も黙っていない訳で。

 いかにもその筋の人たちがゾロゾロと現れた。

「何じゃい、お前らは………………ほんとに何ですか?」

 丁寧語で聞かれてしまった。

 気持ちは分かる。

 殺る気満々で下に来てみれば、全身黒ずくめの男と、黒タイツの集団。そして、やたら露出の多い女が待ちかまえてるのだ。

 戸惑う男達に奈美は拳を握りながら近づく。

「私たちが何者なのか。そんなことはどうでもいいの」

 怖い。笑顔が怖い。

 明らかに男達はひいていた。

「おい、お前ら。たかが女一人に何ビビッとるんじゃ」

 リーダーと思わしき男が声を張り上げる。

 懐から黒光りする拳銃を取り出し、奈美に向ける。

「何者かは結局わからんかったが……落とし前つけてもおうか」

 男はニヤリと笑い、引き金を引く。

 パン

 コキン

「……………………」

 気まずい沈黙が周囲を支配した。

 パン、パン、パン

 コキン、コキン、コキン

「……………………」

 男達は言葉を失っていた。

 そりゃ、鉛玉を爪で弾かれちゃショックだろう。

「あのねぇ、そんなモデルガン何発打ったって効かないわよ」

 姉さん、実弾です。

 ハル以下ハピー一同も同じ意見だった。

「ば、化け物女や」

「単なる露出狂じゃ無かったぞ」

 その一言で全ては終わった。

「……みんな、行くぞ」

「奈美様に加勢するんですね」

 ハピー三号の言葉に、しかしハルは首を横に振り、

「いや、死人が出ないように頑張ろう」

「……了解です」

 こうして、大乱戦が始まった。


「全く、歯ごたえがないにも程があるわ」

 大乱戦の後、奈美は一人だけ元気だった。

 男達は全滅。

 ただし、ハル達の文字通り命がけの奮闘により、死者は出ていない。

「と、とにかく……後は裏金の証拠とお金を頂くだけだ」

「面倒くさいわね」

 奈美の言葉に、ハルはふむ、と頷くと、

「それじゃあ、奈美はここで見張りをしててよ。俺とハピー達で後は済ませちゃうから」

「了解。早く終わらせてね」

 手を振る奈美を表に残し、ハルとハピー達は事務所の中へと入っていく。

「手分けしよう。三号から七号までは一階を、残りは俺と二階だ」

「了解!」

 手早く作業を行う。

 さほど広くない建物だからか、目当ての物は直ぐに見つかった。

「ハルさん。見つかりました」

「おっしゃ。九号、お手柄だぜ」

 ハイタッチを交わす。

「そんじゃあ、一階の連中と合流してさっさと――」

「そうはさせません」

 声が聞こえた。

 ハルとハピー達は周囲を見回す。

 いつの間にか、部屋の出口には一人の男が立っていた。

「……どうして」

 ハピーの呟き。

 どうしてここにいる、と言う意味。そしてもう一つ。

「どうして警官がここに……」

 男は警察官の制服を着ていた。

「いや何、上司の命令なんですがね。貴方の持っているそれを公表されると、大変困るそうなんですよ」

 三十代の男は嫌らしい笑みを浮かべる。

「なので、取り返させて貰いますね」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

 男は予想外の早さで九号に近づき、右手に持ったスタンガンを突き立てた。

「九号!大丈夫か」

「駄目ぷー」

 本当に駄目そうな答えを返し、九号は崩れ落ちた。

「さて、次は貴方です」

「いえ結構です」

「まあ遠慮なさらずに。痛いのは最初だけですから」

 男は足に力を込め、ハルへと突っ込んできた。

 ああ、終わった。

 男の動きがスローモーションのようにゆっくり近づいてくる。

 右手に持ったスタンガンを、ハルへと突き立てようとする。

「ごべぇぇぇ」

 情けない悲鳴を上げて、床へと倒れた。

 警官が。

「おおお、ハルさん凄いっす」

「強かったんですね」

「一撃じゃないですか「

 ハピー達が賞賛の言葉を浴びせる。

「……ああ、そう言うことか」

 ハルは納得した。

 出撃前に奈美に喰らった回転回し蹴り。

 どうやらまた自動的にモノマネをしていたようだ。

「もう少し自由に出し入れが出来ればな……」

 使い勝手の悪い自分の特技に突っ込みをいれながら、ハルは下の仲間と合流をした。


 ハル達が立ち去った後、事務所の中にはしかし人影があった。

 スーツにメガネの女性、美園であった。

「一足遅かったか……」

 荒らし尽くされた事務所の惨状に、一人呟く。

 どうやら先を越されたようだ。

 美園はため息をつくと、携帯を取り出す。

「儂じゃ。どうしたのかのう」

「一足遅かったようです。既に襲撃を受けた後でした」

 美園の報告に、男は面白そうに笑う。

「まあ構わんよ。こっちで警察側の犯人を捕らえておる。不正の証拠も掴んだわい」

「……流石ですね」

 美園は不条理を感じていた。

 どうして職務に忠実な自分よりも、不真面目なエロじじいの方が良い結果をもたらすことが出来るのだろう。

「とにかくご苦労じゃったな。今日はそのまま帰宅して構わんぞ」

「直帰ですか?」

「うむ。いや、実は今日これからお偉いさんの接待で、お姉ちゃん達とウハウハ……」

 ピッと美園は電話を切った。

 あのエロじじい。体に教えなくては駄目か。

 危険な思考をしながら、ある部屋へと辿り着く。

 荒らされた部屋。

 真ん中に縛られている警察官姿の男。

 美園の目的の一つだ。

「もう不正な金の流れを調べる必要はない。だが、一体どの組織が襲撃したのか……教えて貰おうか」

「し、知らないんです。本当です」

 涙ながらに訴える男の声。

 だが美園はそれを無視して男の頭に手を乗せる。

「知らないのは事実だろう。だが、君は見たはずだ。相手の姿を」

 意識を手に集中する。

 すると、心の声に映像が加わった。

「……全身黒タイツの集団に…………この青年は」

 黒ずくめの格好をしているが、顔は知っていた。

 悪の組織の申請をしにきたあの青年だ。

「……御堂ハルと言ったか……。なかなか手強いな」

 回転回し蹴りの映像を見て美園は呟く。

 手を離し、立ち去ろうとする美園へ、男がすり寄る。

「自分は利用されただけなんです。どうか、見逃して下さい」

「……見苦しいな。クズはクズらしくしていればいいものを。身の程を知れ!!」

 床に腹這いになる男の鼻っ柱に、美園のケリが直撃する。

 悲鳴を上げることもなく、仰向けにピクピクと倒れる男を一瞥することもなく、美園はその場を離れていった。


「おお、よく戻った」

 司令室では、紫音が満面の笑み浮かべて待っていた。

「お前達の活躍はしっかりと見させて貰ったぞ」

「はぁ、ありがとうございます」

 どうやらまた、ローズが撮影をしていたらしい。

 司令室のスクリーンにはビデオのエンドロールが流れていた。

「二人とも、本当にご苦労さまでした」

 今度は千景がねぎらいの言葉をかける。

「これで、これで何とか借金を返せそうです」

 意外にギリギリだったんですね、ハピネス。

「さぁ、今日は祝勝会よぉ。ごちそうを一杯用意したわぁ」

 エプロン姿のローズはウインク一つ。

「よし、今日はハピネスの初勝利を祝って、宴会だ!」

 紫音の号令の元、祝勝会が開かれた。

 この祝勝会が、後に薔薇と百合の悪夢と呼ばれる事になるのを、今は誰も知らなかった。


薔薇と百合の悪夢は、今のところ書く予定はありませんが、要望があれば幕間で書くかもしれません。

今後、一話完結の話も盛り込んでいきたいと思いますので、お付き合いいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ