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後日談中編《そして……》

ついに迎えた結婚式。


式が始まるまでの間、ハルは紫音達と過ごす。

結婚までたどり着くには、色々あったようで……。


 六月某日。

 蒼井の墓がある小さな教会は、かつて無い賑わいに包まれていた。

 今日この場所で、新たな夫婦が誕生する。

 幸せな空気は、青く澄んだ空まで届くほどだった。



 新郎控え室。

 ハルは既にタキシードに着替えを終えていた。

 そこに、

「ハルちゃ~ん。入るわよ~」

 返事を待たずに、ローズと千景、それに紫音がやってきた。

「ローズ、せめて返事を聞いてから入ってくれ」

「ひょっとしたら着替え中かもと思ってぇ」

「……さいですか」

 相変わらずのローズだった。

「ハル、おめでとう」

「ありがとうございます、紫音様。すいません、無理に予定を空けてもらって」

「何を言う。お前の結婚式に勝る予定などない」

 ドレスで着飾った紫音は、不敵な笑みを浮かべる。

 本当の意味で、人の上に立つ風格が出てきたように感じられた。

「ハル君の準備は終わったようですね」

「男は大した手間は掛かりませんから」

 何せ、服を着替えて身なりを整えれば終わりなのだから。

「その点、女の子は大変よねぇ」

「今頃はウエディングドレスの着付けに、てんてこ舞いでしょう」

 その光景を想像し、苦笑する千景。

「しかし、結婚相手を聞いたときは本当に驚いたぞ」

「……千景さんのお陰です」

「私は選択肢を用意しただけ。選んだのはあなた達です」

「そうよぉ。なかなか決心できる道じゃないわぁ」

「全くだ。まさか、奈美と柚子、二人と結婚するとはな」

 紫音は呆れたように言った。



 昨年、千景は一つの法律を改正した。

 それは日本国内における、重婚の許可だった。

 日本を支配したハピネスにとって、法律の改正は問題なく行えた。

 反発も大きく、メリットもほとんどないこの改正。

 全ては、ハルの選択肢を増やすための、千景の小さな思いやりだった。


「今のところ、重婚の申請はありません。ハル君が、第一号と言うわけですね」

「そう言われると、責任重大ですね」

「大丈夫よぉ、ハルちゃん達なら、ねぇ」

 ローズに肩を叩かれ、ハルは少しだけ気持ちが楽になった。

「だが、奈美や柚子の両親の説得は大変だったんじゃなかったか?」

「俺も初めはそう思ってたんですが……」

 ハルは苦笑いをしながら、その時のことを話し始めた。



 ~ご両親に挨拶 奈美の場合~


 都心から大分離れた山奥に、奈美の実家はあった。

 時代を感じさせる日本家屋は、ハルの予想を遙かに超える大きさだった。

「ここが私の実家よ」

「……大きいですね」

「奈美って、ひょっとして良いとこのお嬢様なのか?」

 しかし奈美は首を振り、

「古いだけの家よ。それに私は勘当同然で飛び出したから」

 あっさりと否定する。

「確か、父親とご兄弟を半殺しにしたんですよね?」

「う~ん……多分」

「何だよそれ」

「生死を確認してないから、半殺しかどうかは……」

 何とも恐ろしいお嬢様だ。

「じゃあ、ご実家との関係はあまり良くないんですね」

「難航するかな……」

 ハルはこれからの事を考え表情を曇らせる。

「あ、多分大丈夫。寧ろ直ぐに決着すると思うわよ」

 奈美のその言葉の意味を、ハルは直ぐ後に知ることとなる。


 事前に連絡していた為、ハル達は直ぐに屋敷の応接間に通された。

 そこには既に、奈美の両親が待っていた。

「こんな所に、よくいらっしゃった」

 熊殺しが得意です、と言わんばかりの風貌の父親。

「どうぞおくつろぎ下さい」

 優しそうな笑顔を浮かべる、奈美によく似た母親。

「初めまして、御堂ハルと申します」

 ハルはいささか緊張の面もちで、挨拶をする。

「さあどうぞ、お座り下さい」

 奈美母に促され、ハル達は両親と机を挟んで正面に座る。

「……突然のご訪問、失礼しました。実は……」

「話は全て、奈美から聞いておりますよ」

 奈美母の言葉に、ハルは横に座る奈美に視線を送る。

 抜かりないわ、と奈美はウインクを返す。

「奈美と結婚、それもそこのお嬢さんと重婚と言う話だが……本当か?」

「……はい。ご両親にとって、到底納得できない事は承知の上です」

 奈美父の威圧感に負けないよう、ハルは腹に力を込める。

「二人は私を愛してくれ、私も二人を愛しております。私は、二人と添い遂げたい」

 ハルの言葉に、奈美と柚子は頬を染める。

「……私に、奈美さんを下さい」

 奈美父の視線から目を逸らすことなく、ハルは言い切った。


 奈美父は無言のまま、身体をプルプルと震わせる。

 当然の反応だ。

 娘をくれ、しかも他の女とも結婚する。

 そんな不誠実きわまりない男に、怒りを覚えるのは父親として当たり前。

 ハル自身が、それを分かっていた。

 だから、

「……ハル殿」

 奈美父が立ち上がり、ハルに歩み寄っても驚かなかった。

 震える腕。恐らくハルに怒りの拳が向けられるだろう。

 それも覚悟の上だ。

 ハルはその怒りを全て受け止めても、奈美と添い遂げる決意を抱いているのだから。


 だが、その予想は大ハズレに終わる。

 奈美父はハルの前に膝を突くと、ハルのハルの両手を握りしめると、

「本当に、本当に良いんだな? このじゃじゃ馬娘を嫁にしても」

 凄い嬉しそうな顔でハルに尋ねた。

「……え、ええ」

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 奈美父は喜びの咆哮を上げた。

「いや~有り難い。このじゃじゃ馬を嫁に貰ってくれる男など、いないと思っていたからな」

 豪快に笑いながら、ハルの肩をバンバンと叩く。

「勿論いい。好きなだけ貰ってやってくれ」

「……重婚という形ですが、よろしいのですか?」

「全然構わん。寧ろ男はそれくらいの甲斐性があるほうがいいぞ」

 がっはっは、と奈美父は笑う。

「儂も若い頃は何人もの女と同時に付き合って…………ごべぇぇぇ」

「……あなた、少しはしゃぎすぎですよ」

 奈美母が放った湯飲みを後頭部に受け、奈美父はその場に崩れ落ちた。

「ハルさん」

「は、はい」

「私達は奈美が幸せなら、それ以外のことは望みません」

 奈美母は真剣な眼差しで、ハルを見つめる。

「貴方は、奈美を幸せに出来ますか?」

「……分かりません。でも努力します。私と奈美、それに柚子の三人で」

「その言葉で充分です。……どうか、奈美をよろしくお願い致します」

 深々と頭を下げる奈美母に、ハルも慌てて頭を下げた。


 帰り道。

「ね、言ったとおり直ぐだったでしょ?」

「まあな。俺は親父さんに殴られる位は覚悟してたけど」

「それは無いわ。だって、親父はハルと同じくらい弱いもの」

「マヂでか? 見た目凄い強そうで、熊殺しくらい出来そうだったぞ」

「見かけ倒しよ。あ、でも熊殺しは確か母様がやってたと思うけど」

「本当ですか?」

「うん。だって早瀬流古武術の当主は母様。親父は婿養子だもん」

「……人は見かけによらないか」

「勉強になりました」

 親父さんとは良い酒が飲めそうだ。

 ハルはそんなことを思いながら、帰途についた。



 ~ご両親に挨拶 柚子の場合~


「前にお話ししたとおり、私の両親は既に亡くなってますので、問題ありませんよ」

 ハルと奈美は、無言で柚子を抱きしめた。



「と、まあこんな感じでしたね」

 ハルが話し終えると、千景達は何とも言えない表情を浮かべる。

「ま、まあ無事に終わったのは何よりだ」

「ご両親への挨拶が、結婚への最大の障害ですからね」

「順調に終わったのねぇ」

「ええ。二人に関しては」

 ハルの言葉に三人は暫し考え、

「「……なっちゃん」」

 その言葉に、ハルは頷いた。



 ~ご両親に挨拶 ハルの場合~


「そういえば、ハルさんのご両親にご挨拶してませんね」

「なっちゃんか。一度ちゃんと挨拶すべきよね」

「ああ、それなんだがな……」

 ハルは言いづらそうに言葉を詰まらせる。

 その様子に柚子は察した。

「まさかハルさん。結婚のこと、連絡してないんですか?」

「実はその通りだ。相変わらず連絡先が分からなくて」

 ホワイトデーの時のメアドに、メールを送ったのだが、宛先不明で帰ってきてしまった。

 世界中を移動してるらしく、今どこにいるのかも分からなかった。

「駄目よハル。こういう事は、ちゃんとしなくちゃ」

「分かってるけど、連絡がとれなくちゃどうしようもないだろ」

 奈美はしばし考えて、

「呼べば来るんじゃない。……すぅぅぅぅ、お~いなっちゃ~ん。ハルが結婚するよ~」

 空に向かって大声で叫んだ。

 が、当然無反応。

「あのな、いくら母さんでも、流石にそれで呼べたら苦労は……」

「な~ん~で~す~っ~って~」

「……なんか幻聴が」

「ハルさん……あれ、空から何か近づいてきて」

 柚子が指差す方へ、ハルは視線を向ける。

 小さな黒い点が、徐々に近づいてきて、そして、

 ドッゴォォォォォォォォォン

 地面に追突した。

 土煙が立ち上る中、人影がゆらりと揺れる。

 人影はクレーターをはい上がり、ハルに向かって歩いてくる。

 そして、

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん♪」

 無傷の菜月が現れた。


「久しぶりだね、ハルちゃん。それに奈美ちゃんとゆーちゃん」

 ニコニコ笑顔で声を掛ける菜月。

 四年前と全く変わらぬ姿は、不老不死を本気で信じさせる程だった。

「久しぶりじゃないよ母さん。一体何事だよ」

「それはこっちの台詞よ~。ハルちゃんが結婚するって、本当なの~?」

「ああ、それは本当だけど……。てか母さん、今まで何処にいたんだ?」

「ヨーロッパだよ~」

「ど、どうやってここに来たんですか?」

「トランポリンで遊んでたら奈美ちゃんの声が聞こえてね~、そのまま飛んで来ちゃった♪」

 唖然とする奈美と柚子。

「母さんに関しては、考えたら負けだぞ」

「そう見たい……ですね」

「流石に私でも無理だわ」

 三人は改めて、目の前の人物の非常識ぶりを認識した。


「それでハルちゃん、結婚って本当なの~?」

「あ、うん。本当だよ。今年の六月に、式を挙げる予定なんだ」

「そっか~…………ハルちゃんももう大人だもんね……おめでとう♪」

「ありがとう、母さん」

 菜月は本当に嬉しそうな笑顔を見せた。

「出来れば父さんにも報告したかったんだけど……」

「ご一緒では無かったんですか?」

「あれ~、そう言えばパパがいないね~」

 菜月はキョロキョロと周囲を見回す。

「なっちゃんは、ハルのお父さんと一緒にいたんですよね?」

「そうだよ~。それで一緒に飛んできた筈なんだけど~、はぐれちゃったみたい」

「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 ヨーロッパからの大ジャンプ中にはぐれた。

 どう考えても無事では済まないはずだが。

「二人とも、気にするな。父さんも……こういう人だから」

 菜月を指差すハルを見て、奈美と柚子は納得してしまった。

 ハルの父親にして、菜月の旦那。どう考えても普通の人ではあり得なかった。


「それにしてもハルちゃんが結婚か~」

「結婚式の招待状を送るから、連絡先は教えてくれよ」

「うん、それは良いけど~」

 菜月は何やら思案顔。

「どうしたの?」

「ハルちゃん、結局、奈美ちゃんとゆーちゃん、どっちと結婚するの?」

「ああ、それは……」

 ハルは菜月に事情を説明する。

 四年の歳月を過ごす中で、異性として意識し、交際をしていたこと。

 日本の法律が変わり、重婚が可能となったこと。

 三人で何度も話し合い、その結論に至ったことを。

 菜月はハルの説明を、黙って聞いていた。

「……ハルちゃん、本気?」

「本気だよ」

 ハルの言葉に、奈美と柚子も頷く。

「そっか~……」

「例え母さんが反対しても、俺は結婚を止めるつもりは無いよ」

「反対なんかしないよ~。二人と結婚なんて、二倍お目出度いじゃない♪」

 意外にもあっさり菜月は賛成してくれた。

「そ、そう。何かもう少し反対されると思ったけど……」

「三人の事だもん。外野がとやかく言う事じゃないでしょ~」

 それに、と菜月はニヤリと笑い、

「奥さんが二人居れば、孫が早く見れそう何だもん♪」

 とんでもない事を言ってきた。

 真っ赤になる奈美と柚子。

「ちょっと、母さん。それセクハラだぞ」

「何言ってるのよ~。大切な事じゃない。それで~どうなの?」

「そ、そんなこと、まだ考えられないよ」

「ふ~ん。でも~、二人は満更じゃ無さそうだけどね~」

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを、奈美と柚子に向ける。

 すっかり中年親父モードに入ってしまった。

 こうなったら、止められるのは一人しかいない。

「父さぁぁぁぁぁぁん。カァァァァァム・ヒアァァァァァァ!!」

 魂の叫びを、空に向けて放った。


 響き渡った声が、虚しく消えるかと思われた、その時だった。

 空に、小さな黒い点が現れた。

 それは段々と近づいてきて、

 ズドッゴォォォォォォォォォン

 地面と追突し、巨大なクレーターを作り出した。

 舞い上がる土煙が晴れると、

「…………呼んだか、ハル?」

 クレーターの中央に立つ男が、ケロッとした様子でハルに声を掛けた。


「は、ハル。この人って」

「ひょっとして……」

「ああ。この人は俺の……」

「パパ~」

 ハルが紹介する前に、菜月は男の胸へと飛び込んだ。

「おお菜月。途中ではぐれたから、心配したぞ」

「も~、迷子になったのはパパの方でしょ~。何処に行ってたのよ~」

「ははは、ちょっと高く上がりすぎて宇宙空間まで出てしまったんだ」

「うふふ、パパってばドジっ子さんね♪」

「大気圏突入は初めてだったが、なかなか面白いものだった」

 に、人間の会話じゃない。

 和気藹々とした夫婦のやり取りを聞きながら、奈美と柚子は顔を引きつらせた。

 もうすっかり慣れっこのハルは呆れ顔だ。

「……久しぶりだね、父さん」

「うむ。大きく……なったな?」

「疑問系やめい!!」

 少しは空気を呼んで欲しいものだ。

「ははは、すまんすまん」

「全く……。それで、実は父さんに話が」

「説明は不要。落下中に風の声が、全てを教えてくれた」

「さっすがパパね♪ 話が早い男って素敵だわ♪」

 もう、勝手にしてください。

「それで、そちらのお嬢さん方が、お前が選んだ女性か」

 ハルが頷くと、

「お初お目に掛かる。私は御堂冬麻。ハルの父親だ」

 奈美と柚子に向かって、一礼した。


 ローズ並みの巨体に、荒くれ者という言葉がしっくりする容姿。

 ハルとは共通点を探す方が難しいほど、似ていなかった。

 呆気にとられた二人だったが、

「は、初めまして。早瀬奈美と申します」

「和泉柚子です。ご挨拶が遅れて、申し訳ありません」

 慌てて挨拶を返す。

「奈美君に柚子君か。……ハルには勿体ないほど、出来た娘さんだ」

「も~パパったら。そんなこと言って~、ホントはお似合いだと思ってるでしょ~」

「ふ、菜月には敵わないな。まあ、それはさておき、ハル」

「何?」

「お前が選んだ道は険しいものだ。人の倍以上、苦労するだろう」

 覚悟はあるのか、と冬麻は暗に尋ねる。

「……その分、幸せも喜びも倍以上ある。だろ?」

「ふん、ガキだガキだと思っていたが…………いい顔をするようになったじゃないか」

 冬麻は優しくハルの肩を叩いた。

「なら、俺が反対する理由はない。精々必死に生きて見ろ」

「ありがとう、父さん」

 父子は視線を交わし、小さく頷いた。



「さて、それじゃあそろそろ戻るとするか」

「え~もう~。もう少しお喋りしようよ~」

「気持ちは分かるが、俺たち作戦の途中で抜けてきたからな……」

「む~~~」

 作戦中にトランポリンで遊んでたんですか?

「ちゃんと仕事終わらせれば、ハルの結婚式には出席できるから」

「…………わかった。このイライラ、全部ぶつけちゃうわ」

 敵対組織様、ご愁傷様です。

「と言うわけで、俺たちはヨーロッパに戻る」

「あ、ああ、うん。気を付けて」

「でもどうやって戻るんですか? トランポリンなんて無いですけど」

 周囲にはクレーターが二つあるだけ。

「ふふ、そこは私とパパの愛の力でね♪」

 菜月と冬麻はハル達から少し離れると、両手を繋ぐ。

 そして、冬麻はその場でグルグルと回転を始めた。

 菜月の身体が宙に浮き、周囲に竜巻が起こる。

「人の強さは、心の強さ。愛があれば、何でも出来るのだぁぁぁぁぁ!!」

「これが二人のツープラトン技。愛の逃避行よ~」

「いざ、ヨーロッパにぃぃぃ!!」

 回転が最高潮に達したとき、冬麻は手を離し、菜月は音速の早さで吹き飛ぶ。

 同時に冬麻は大地を蹴り、空を飛ぶ菜月を胸に抱く。

「ばいば~い、ハルちゃん、奈美ちゃん、ゆーちゃん」

「結婚式、楽しみにしているぞ~」

 二人の姿はあっという間に、空の彼方へと消えていった。


 後に残されたハル達は、呆然とそれを眺めていた。

「……本当に、人間?」

「医学的には証明出来なさそうです」

「……考えるな、感じもするな。ただ、そう言う生き物だと思ってればいい」

 実感のこもったハルの言葉だった。

「あの……ハルさん」

「何だい?」

「……これ、どうしましょう」

 柚子が指差すのは、道路の真ん中に作られた、二つのクレーター。

 どう考えても、誤魔化しようが無かった。

「……始末書だよな~」

「警察に捕まらないだけ、良かったじゃない」

 それよりも怖い千景の顔を思い浮かべ、ハルは深くため息をつくのだった。




「……と言う感じでした」

「ありましたね、そんなことが」

 千景は思い出したように苦笑を浮かべる。

「ところで気になったんだが、なっちゃんはハルが悪の組織だと知らないのか?」

「知ってると思いますよ。多分、あの時から」

「ならぁ、よく会ったときに無事だったわねぇ」

 もっともな疑問だが、ハルには何となく分かっていた。

「今のハピネスを、悪の組織と認識してないんだと思います」

 ハピネスが支配している日本は、以前よりも豊かで笑顔の満ちた国になっている。

 勿論裏では色々やっているのだが。

「母さんは正義の味方のくせに、善悪の判断を自分の感覚で決めますから」

「今のハピネスをぉ、善の組織だと認識してるのねぇ」

「う~む、それはそれで何だか不満だな」

「まあ、世界征服でも始めれば、直ぐにでもすっ飛んでくると思いますけど」

「……………………まだ止めておきましょう」

 賢明な判断です。

 てか千景さん、やる気だったんですね。

「ともあれ、現状では親子が敵対する事態にならないわけだ。……よかったな」

「ありがとうございます」

 優しい紫音の言葉に、ハルは心から頭を下げた。



「さて、そろそろ私達も手伝いに行くとしましょうか」

「そうねぇ。流石にドクターが可哀想だしぃ」

「そう言えば、蒼井はどうしたんですか?」

 ハルの問いかけに、三人は視線を逸らす。

「実はだな……私達四人で受付をやる手はずだったんだが」

「それは助かります。……ん、でも三人がここにいるって事は……今受付は……」

「「ドクターに任せちゃってました、てへ♪」」

 三人が揃ってウインクをして、舌をペロッと出す。

「蒼井……最後まで……」

 ハルは無言で合掌をした。





ハルの相手は、奈美と柚子の二人。

結局選ぶことが出来ず、両方選んでしまいました。

最終作戦前に千景が言っていた、「三人とも幸せになる」という選択肢は、法律改正による重婚の事を指していました。

ドラ○エⅤじゃ無いですが、どっちか選ぶというのは寂しい気もしますし。


初登場の奈美の両親。葵と奈美のエピソードで登場予定でしたが、カットしたため最終話直前での滑り込み登場となりました。


ハルの父親、冬麻も初登場です。とにかく強く、大きく、たくましい。そんな父親をイメージしています。

菜月とのコンビは、間違いなく世界最強。誰も勝てません。

夫婦げんかで世界終了の可能性もある、馬鹿夫婦です。



ハピネスは、目的のために悪を行っていました。

それを達した今、その存在は善とも悪ともいえない状態にあります。

なので菜月は自分の直感に従い、ハピネスを見逃しています。

本編であったように、世界征服でも企めば話は別ですが……。


長々と補足をしてしましましたが、次で正真正銘の最終話です。

もう余計な横やりは不要でしょう。

幸せな彼らの姿で、物語を終わりたいと思います。


最後まで、お付き合い頂ければ幸いです。


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