表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/103

後日談前編《あれから……》

後日談……格好良く言えば、アフターストーリー。

いえ、言ってみただけです。


あれから数年後の春。

ハピネスの面々は、どの様な姿を見せてくれるのでしょうか。



 空は雲一つ無い青空。

 春麗らかな午後だった。


 都心から少し離れた場所。

 心地よい風が吹く丘の上に、小さな教会があった。

 敬虔なシスターと神父が運営するそこは、訪れる人などほとんど無い。

 そんな場所に、一人の女性がやってきた。

 長い黒髪の目目麗しい女性は、入り口の掃除をしていたシスターに一礼する。

 そしてそのまま教会の裏手にまわった。

 丘の上、一番見晴らしが良いその場所には、一つの墓石が立っていた。

 飾り付けもない質素な墓。

 女性はその前に立つと、手にした花束を添え、両手を合わせて目を閉じる。

 穏やかな風が、女性の髪をなびかせた。


 ふと背後に気配を感じ、女性は目を開ける。

「……剛彦ですか?」

「ええ。直接合うのは久しぶりねぇ、千景ちゃん」

 女性、千景はそっと立ち上がった。

 横に並んだローズは、同じように花束を墓に添える。

「……早いものねぇ。あの日からぁ、何年経ったかしらぁ」

「今日で丁度、四年ですね」

 あの日、つまりハピネスが日本を支配してから、もう四年の歳月が流れていた。


 悪の組織であるハピネスが日本を支配したことに、少なからぬ反発があった。

 外交問題など、計り知れぬ困難があった。

 それをハピネスは、知恵と勇気と団結、そして力業で乗り切った。

 まあ、殆ど力業だったのは、ご愛敬。

 とにかく、今現在ハピネスは名実共にこの国を支配していた。


「忙しいのにぃ、貴方は毎年ここに来てるわねぇ」

「それは貴方も一緒でしょ」

「そうねぇ。でも、どんなに忙しくても、今日だけは必ずここに来るって決めてるわぁ」

「……私もです。今日という日は、私にとっても大切な日ですから」

 一際強い風が、二人の間を吹き抜けた。


 そうしていると、賑やかな声と足音が近づいてくる。

「……気持ちは、みんな同じみたいねぇ」

 ローズの言葉に、千景は苦笑する。

 ドタバタと近づいてくる足音。

 そして、

「お、千景にローズ。先に来ていたのか」

「二人とも、お久しぶりです」

「こんにちわ~」

「ご、ご無沙汰してます」

 いつもの面々が声を掛けた。


「しかし何だな、律儀というか何というか、やはり今年も全員来ていたか」

 集まった一同に、紫音は笑いかける。

 四年という歳月は、紫音を大きく成長させた。

 小さかった背も、成長期を逃すことなく生かし、同年代の女性と同等に伸びた。

 若干幼さが残る顔立ちも、徐々に大人の女性へと変わりつつあった。

「あらぁ、紫音様。何時帰国したのよぉ」

「昨日着いたばかりだ」

「今はイギリスに滞在でしたっけ?」

「うむ。あの国は、食文化以外は学ぶことが多い」

 現在紫音は、千景の帝王教育の真っ最中。

 見聞を広め、視野を大きくするために、世界各地へ海外留学をしていた。

 やがて日本の支配者として君臨するため、紫音は己を磨いている。

「順調のようで結構です。中間レポート、期待してますよ」

「確か……滞在している国の言葉で書くんですよね?」

「むむむ。……まあ、スワヒリ語よりましか」

 変わらぬスパルタ教育だった。

 将来はグローバルな人間になることだろう。



「つもる話は後にして、ひとまず花を手向けましょう」

 ハルは手に持った花束を持ち上げて見せる。

 成長期を過ぎていたハルは、四年前と変わりない姿を見せる。

 少しだけ男らしくなった、とは本人弁。

 ただ残念ながら、他の人にはその変化は見極められなかった。


「そうね……。まずそれをしなくちゃね」

 ハルの言葉に、奈美が頷く。

 奈美は今年成人式を終え、大人の仲間入りを果たした。

 四年前はまだ子供っぽかったが、今ではすっかり美人に成長していた。

 とは言えその性格までは、残念ながら成長しなかったようで。

 トラブルを起こしては、ハルや千景の頭を悩ませている。


「……今年も来ましたよ」

 柚子は墓石の前に膝を立てて座り、花を添える。

 手を合わせ、黙祷をする柚子。

 その姿に、全員が同じ思いを抱いていた。

(全く老けない……。てか、むしろ幼くなってる……)

 和泉柚子、御歳三十才。

 今日も変わらず小さいです。


 柚子に続いて、ハル、奈美、紫音も黙祷を捧げる。

 質素な墓石は、色とりどりの花で埋め尽くされていた。

 彼らが黙祷を捧ぐ墓石。それにはこう記されていた。


『天才科学者 蒼井賢 ここに眠る』と。


 一陣の風が吹き抜ける。

 それでも彼らは、祈るのを止めなかった。














「って、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 雰囲気ぶち壊しの叫びが、ハル達の背後から響く。

「あら、今年はちょっと早かったですね」

「も~、良いところだったのにぃ」

 千景とローズは悪戯っ子の笑みを浮かべる。

 ハル達も振り返り、声の主に向き直る。

 そこには、

「毎年毎年、いい加減にしろぉぉぉぉぉ!!!」

 四年前と全く変わらぬ姿の、ドクターこと蒼井賢がいた。


「やあ蒼井。元気そうだな」

「元気だよ! ず~と元気だ! なのに貴様らは……」

「いいじゃないの、別に」

「良い訳あるかぁぁぁ!! 大体何で墓参りなどするのだ!!」

「だって……作っちゃいましたから」

 悪びれず答える柚子。

 まあ、つまりはそう言うことだった。


 あの日、蒼井は柚子のドーピングの副作用で、生死不明の状態に陥った。

 一時は本気でやばい状態までいった。

 そこで柚子は、

「お墓を作っておきましょう。人の迷惑にならないよう、出来るだけ目立たないところに」

 と進言してお墓を作ってしまった。

 お墓は完成したのだが、問題が起きた。

「…………あ、助かっちゃいました」

 あまりに高い柚子の治療能力は、蒼井を死の淵から救い出してしまったのだ。

 困った一同は考えた末、

「まあ、この墓参りのお陰で全員集まれるのだから」

「同窓会のようなものですね」

 年に一度、全員が集まる日として、ここに墓参りに来ることに決めた。

「自分の墓を参られる気持ちが、貴様らに分かるのかぁぁ!!」

「「ううん、全く」」

「うがぁぁぁぁぁぁ」

 このやり取りも、毎年続けられる恒例となっていた。

「まあ落ち着いて下さい。美味しいご飯を用意してますから」

「全く……。それが無かったら割りにあわん」

「じゃあ、行きますか」

 墓参りの後は、千景お薦めの店で食事会。

 その場で各自近況報告をし、雑談に花を咲かせるのがいつもの流れだ。

 蒼井を加えた一行は揃って店へと向かった。




 お店に着いたハル達は、料理に舌鼓を打ちながら、談笑をする。

「……奈美は最近どうですか?」

「例の親衛隊が居るお陰で、大分楽になってます」

「親衛隊か……」

 ハピネス親衛隊。

 司令直属の部隊で、国内の治安維持や国外へ武力によるけん制を任務としている。

 そのメンバーは、殆どが旧正義の味方だった。

 悪の組織に仕えることに反発があるかと思われたが、

「構わない。やるべき事は、今までと変わらないからね」

 と言うジャスティスボスの言葉通り、大部分の正義の味方が受け入れた。

「……まあ、しっかり手綱を握って下さいね」

「任せて下さい。バッチリ鞭を入れてますから」

 奈美の辞書に飴は無かった。



 こんな調子で和やかなムードで会話が進む。

 その流れのなかで、

「そう言えばハルちゃん。あれぇ、日取りは決まったのぉ?」

 ローズは思い出した様にハルに尋ねる。

「あ、まだ言ってなかったか。うん、今年の六月に決めたよ」

「なるほど。いい時期ですね」

 ハルの答えに、千景は笑顔で頷いた。

「ん? 何の話だ?」

「ハルちゃん、ひょっとして」

「……そう言えば、紫音様にはまだ言ってませんでしたね」

 しまった、とハルは頭を掻く。

「一体何事だ?」

「えっと、実はですね」

 ハルは紫音に向き直り、

「俺、結婚します」

 ハッキリと言い放った。

 紫音は暫し沈黙し、

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 蒼井と共に驚きの叫びをあげた。

「何で蒼井まで驚くのよ」

「吾輩も聞かされてないぞ」

「……そうなんですか、ハルさん?」

「ああ、そう言えば言ってなかったような気が……。ま、いいか」

「「ドクター(蒼井)だし♪」」

「うわぁぁぁぁぁぁん」

 蒼井は泣きながらトイレに走り去ってしまった。


「まあ冗談はさておき、準備は進んでますか?」

「ええ。式場なんかの手配は終わってますし、今は招待状の作成に追われてますよ」

「それも楽しみの一つねぇ。懐かしいわぁ……」

 昔を思い出すように、ローズは遠い目をする。

「みんなも当然招待するんで、出来れば来て欲しいんですが」

「「勿論っ!」」

 笑顔で即答した千景達に、ハルも笑顔で頭を下げた。


 その後も結婚の話題で盛り上がっていると、

「なあハル。一つ気になることがあるんだが、いいか?」

 不意に紫音が切り出す。

「何でしょうか、紫音様?」

「うむ。今更聞くのも何だが……お前、誰と結婚するんだ?」

 その紫音の問いかけに、ハル達は意味深な笑顔を浮かべる。

「えっと、俺の結婚相手は…………」

 ハルは少しだけ照れくさそうに、その名を告げた。



 そして六月。

 ハルの結婚式の日を迎える。


何というか、もうやりたい放題って感じです。


あれから四年、色々な変化がありました。

ハピネスが支配する日本は、一言で言うなら良い国になりました。

悪の組織としては、そう言われるのは不満でしょうが……。

こんな国だったら、と夢見ていた国。

正義に囚われない、悪だからこそ出来る事でもあります。


メンバーでは紫音の成長が著しいです。

外見もさることながら、内面が大きく成長しました。

更に数年もすれば、名実共に立派なボスになると思います。


ドクターはあれだけ死亡フラグを立てたので、まあ当然の仕打ちと言うことで。

あくまでギャグ小説ですので、誰も殺したくなかったので、このような形で死亡フラグの処理をさせてもらいました。

何だかんだで、本人も内心構って貰えて嬉しそうですし。


ジャスティスですが、本編の通りハピネスの手先になりました。

彼らにしてみれば、今までの日本政府よりも、ハピネスの方がよっぽど日本の国を動かすに値する存在だと認めました。

本質を理解せず、形だけの正義にこだわった正義の味方は、容赦なく粛正しています。だって、悪の組織ですから。

刃向かう悪の組織も消していきます。だって、悪の組織ですもの。

汚職や不正も徹底的に潰します。だって、悪の組織だし。

そんなこんなで、ハピネスの支配は盤石のものになっています。


ハルの結婚に関しては、最初から物語の締めにすると考えていました。

ただ、相手をどうするかは、最後まで迷っていました。

今まで恋愛描写が全く描けていないので、急に結婚の話で違和感があると思います。

そこは空白の四年間に色々あった、と想像してください。


中編・後編はハルの結婚式の話になります。

最後までご都合主義満載の話ですが、お付き合い頂ければ幸いです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ