最終章8《今こそ全てに決着を》
祝100話到達です。
これも読者の方々のご支援のお陰。深く感謝致します。
と言いながらも、「悪の組織はじめました」本編はこれが最終回です。
最後は千景のターンです。
国会議事堂本会議場。
日本の政治の中心部にして、心臓部。
今その場所は、悪の組織に占拠されていた。
本会議場に突入してからの、ハピネスの行動は素早かった。
警備を物理的に眠らせ、動けないように拘束する。
それと同時に出入り口を完全に塞ぎ、逃げ道を断つ。
配置に付いたハピー達が、手に持った小銃で政治家達を狙う。
全ては、テレビ放送が始まる数分の間に行われた。
完全に議場を制圧したことを確認し、紫音と千景は壇上へと上がる。
その横に、ハピー達が大型モニターを設置する。
ここまでは、全て計画通り。
そしてここからは、全て自分達次第だった。
時を刻む時計の音が、議場に重く響き渡る。
無言の重苦しい空気の中、時は静かに進み続け、やがてその時が来た。
カメラを操作するハピーが、キューサインを送る。
「…………全国民の皆様。突然のご無礼をお許し下さい」
千景は、静かに語り始めた。
「私達は、ハピネス。世に、悪の組織と呼ばれる存在です。
本日は皆様に伝えたいことがあり、この場をお借りしております」
千景は語り続ける。
今の日本の現状、政府の腐敗、そしてハピネスが改革を目指していることを。
そんな千景を、政治家達は嘲笑する。
理想論を語ったところで、そんなことは無意味だ。
言葉というのは、信じられないほど無力なのだ。
そして何より、この中継を見ている人間などごく僅か。
この事態も、何の意味もなさずに終わる。
政治家達は、壇上の千景をあざ笑いながら見続けていた。
「――――そして、私達は闇の競売という存在を知りました」
その千景の言葉に、余裕だった政治家達の顔が一斉に強張る。
「それは、人身売買を行う、人間として最低最悪の犯罪行為でした。
危険を顧みず潜入した私達は、遂にその実態を掴むことに成功したのです」
千景の言葉と同時に、用意されたディスプレイに映像が映る。
それは、ハルが持ち帰った、闇の競売の光景だった。
予想外の事態に、動揺を隠せない政治家達。
高画質の映像には、今この場にいる人間もハッキリと映っていた。
「更に調査を進めた私達は、驚くべき真実に辿り着きました。
この人身売買の主催者は、……日本政府そのものだったのです」
千景の発言は、全ての人に衝撃を与えた。
「ば、馬鹿な。出鱈目だ!!」
「こんな奴の言うこと、誰が信じるか!」
「証拠はあるのか!!」
口々にヒステリーな叫びをあげる政治家達。
そんな彼らを、冷たい視線で一瞥すると、
「勿論、その証拠も掴んでいます」
キッパリと言い放った。
それと同時に、ディスプレイが切り替わる。
闇の競売に参加していた人間の名簿と、その競売内容が次々に流れる。
その中に政府高官、そして現役首相の名前もしっかり入っていた。
「国家予算の中には、出所不明の歳入があります。
その出所は、この闇の競売。……日本政府は国の運営に、人身売買を利用したのです!」
千景の言葉は熱を帯び、心に訴えかけようとする。
「そんなもの、でっち上げだ」
「そうだ。偽装した物に違いない」
「悪の組織が用意した証拠なんか、嘘に決まってる」
がなり立てる政治家達。
すっかり追いつめられ、さっきまでの余裕は微塵もなかった。
NHKの管制室。
「……様子はどうかしらぁ?」
「順調です。日本各地で同調する動きが見られます」
「ドクター様々ってわけねぇ」
千景の演説は完璧だが、それを見てる国民が少なければ効果は薄い。
可能な限り、大勢の人にこの映像を届ける必要があった。
それを可能にしたのが、ドクターだった。
「全部のチャンネルをジャックして、この放送が流れてますし」
「それどころか、電源の入っていないテレビも、勝手に電源が入ります」
「街頭テレビなんかも、全部これが放送されてますよ」
ハピー達の言葉に、ローズは満足げに頷く。
既に国民へのアピールは充分。
自分達に与えられた役割は、全て果たした。
「後は千景ちゃん、貴方次第よぉ」
画面の向こうの千景に向かって、ローズはそっと呟いた。
国会議事堂本会議場。
「とは言え、悪の組織である私達が提示した証拠では、信憑性を疑うのも当然です」
千景はあえて、政治家達の言葉を拾う。
「なので、この証拠を世界各国、国連、そしてICPOにリークしました」
政治家達は、今度こそ言葉を失った。
想定しうる最悪の事態に、その顔は蒼白に変わっていた。
「大変ショックを受けたようで、直ぐに調査に乗り出すと返事を頂きました。
ですが安心してください。みなさんが潔白であり、これが偽物なら何も問題ありません」
千景の言葉に、政治家達はもはや反論することは出来なかった。
それは、今千景が公表した事実が、真実であることを、何より雄弁に語っていた。
「国民の皆様、ごらんの通りです。……今お話ししたことは、全て真実なのです」
千景は何処か寂しげに、語りかけた。
「このままいけば、日本は悪の国家の烙印を押され、世界の地位を失うでしょう。
そしてそれは、国民の皆様が今の生活を失うことを意味しています。
それではあまりに無責任。そこで、私達から一つ事態を打開できる案を提案します」
千景はこの作戦の、最後の仕上げを行う。
「日本政府は現時刻をもって解体し、国の運営権限を放棄。
今後国家の運営を、私達ハピネスにお任せして頂きたいのです」
何を馬鹿な、と政治家達は思うが、千景は揺るがない。
「皆様の生活を守り、日本を守り、現状を打開することを……お約束しましょう」
千景はテレビの向こうにいるであろう、国民に向けて誓いを立てた。
「さあ総理大臣。その任を解き、国家を私達に任せるか。……ご返答を」
カメラは席に座る首相へと向けられる。
返答は如何に。
テレビの前の国民も、息をのんでそれを見守る。
首相はじっと目を閉じ、深く考え込む。そして、
「………………分かった。現時刻をもって、政府の解体、そして国家運営権を移譲する」
諦めたように、ため息と共に答えた。
どのみち、国際社会から目を付けられた以上、自分達に未来はない。
面倒事に巻き込まれる前に、身を引いた方が賢明。
他の政治家も同じ考えなのか、反対意見は出なかった。
「日本国の運営、確かに承りました。総理の英断に感謝を」
千景は優雅に一礼する。
「では早速、緊急の国家運営会議を実施します。これから告げる組織の長、そしてハピネスの全メンバーは直ちに国会に集結してください」
千景は日本の各組織の名を読み上げる。
「会議は二時間後。時間厳守でお願いします」
その指示を最後に、テレビ放送は終わった。
「……では、皆さんはどうぞ、ご退席下さい」
ハピー達は銃口を政治家達から外し、出口のドアを開放する。
放心状態のまま、ぞろぞろと本会議場を後にする政治家達。
「私達は会議の用意を。……さあ、忙しくなりますよ」
「「了解っ!!」」
こうして、ハピネスの日本支配作戦は終わりを告げたのだった。
「……なあ、千景」
「何ですか紫音?」
「本当に闇の競売の証拠を、リークしたのか?」
「する訳ないじゃないですか」
「なっ……」
「アレはブラフ。あの場では確かめようも無いですし、効果はてきめんだったでしょう」
「……魔女め」
「千景、もう一ついいか」
「どうぞ?」
「私、結局何もしてないんだが……。ここにいる意味あったのか?」
「ありません」
「……をい!」
「一人で留守番させるのが不安だったので、一緒に来て貰っただけです」
「うわぁぁぁぁぁぁん。ぐれてやる、ぐれてやるぅぅぅぅぅ!!!」
紫音の受難は終わらない。
何ともスッキリしない終わり方になってしまい、申し訳ありません。
一応、これでハピネスの国盗りは終わりです。
国の不正を暴いて、国の支配権を国民の前で譲って貰う。これが千景が最初から狙っていたシナリオでした。
作者の力不足で、尻つぼみになってしまい、反省しております。
これで終わるには、流石に後味が悪すぎると言うことで、
後日談という形で続きを投稿させて頂きます。
本編終了後から数年後が舞台で、前・中・後の全三話を予定しております。
この話と同時投稿も考えたのですが、流石に節操がないと思い、朝の6時に前編を投稿致します。
中編・後編は今までと同様の時間に投稿していきます。
最終話は何だったの? と言うテンションの話ですので、
どうぞ最後まで「悪の組織はじめました」にお付き合い下さい。