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我、回顧す

「晩御飯は和食でいいですかー?」

「あ、あぁ…構わんぞ」

「はーい、りょーかいでーす♪」


「むぅ…」


我がこの女、斑鳩飛鳥の問いに答えると、

こいつは何が可笑しいのかへらへらと笑いながら台所へ向かっていった。

我はしばらくの間物思いにふけっていたが、向こうのほうからやってくる、一定間隔で刻まれる金属音につられて深い眠りへと落ちていった…





―――― 突然だが、我はこの世界の者ではない。 ――――――


我はウパヌシャヌス世界における大国アクィヌヌスの統治者の家系、つまりは王子として生まれ、

政治、哲学、魔術など、次期国王に相応しい英才教育を施されて育った。

人民を力で支配するのではなく、愛をもって抱擁し、意見を聞き入れ、物事の本質を見極め、国をさらに豊かにすることができるような哲人王が我の理想であり、そうでった我が父への憧れでもあった。


しかし、我が間もなく成人になるかという年の収穫期、我が国の代表的な食物ナヌルスが実る頃、

歓迎するどころか目にもしたくない、奴は突如としてやってきた。



そう、誰もが恐れる悪名高き魔獣ヌヌンムスである。


ヌヌンムスはまず大都市アクルヌスに現れ、家屋という家屋を破壊しつくし、生物という生物を喰らい尽した。

アクルヌスが落とされた事で各都市に指令が出せず、体制を整えてヌヌンムスに立ち向かうことは絶望的かと思われた。

しかし、日頃より愛に満ち溢れ、互いに信頼し合うアクィヌヌス国民の団結力は、我が想像していたもののそれを遥かに上回るものだったのだ。

なんと、アクィヌヌスの民は自ずから戦闘の最前線である農村アヌルムスに集結したのだ。

我は驚きと感動の余り一人一人に抱擁して感謝の言葉を叫んで回ろうかとも思ったが、戦闘はヌヌンムスの抵抗により激しさを増し、そのようなことをしている場合ではないという事は興奮気味の我にも理解できた。

そして、我らがアクィヌヌス軍は果敢に立ち向かった。

ヌヌンムスには我が軍の誇るヌスサス系魔術も通じず、一人、また一人と果敢無く散っていったが、当時最新鋭の魔術であったヌルムス系魔術により徐々に我が軍が優勢となっていった。

そして、三日三晩ヌルムス系魔術を受け続け、弱り切ったヌヌンムスに一瞬の隙が生まれた。

我はここぞとばかりに宝具ヌル・ヌススを構え、ヌヌンムスめがけて跳び、がら空きとなったヌヌンムスの腹を一突き、さらに、宝具ヌル・ヌススに宿る精霊を解放、ヌルムススの細胞という細胞を破壊し尽した。


こうして魔獣ヌヌンムスを無事討伐し、大都市アクルヌスの復興を終えた我がアクィヌヌス国民は無事ナヌルス収穫祭を終えることができたのである。


 ――――――――――――――――――


目を覚ますと台所からは鼻を引く香りが漂ってきた。

まもなくすると我の定位置、折り畳み式の丸机の前にはその香りの根源がやってきた。

白米、味噌汁、漬物、魚。 我はこの世界に召喚されてから余り長くはないので詳しくは知らないが、これが一般的な和食というものらしい。

ちなみにこの魚とやら、我が故郷アクィヌヌスではカヌルスというのだが、この知識を披露して関心を示してくれたものは今のところいない。なぜか病院というところに行くように勧められたことならあるが。


「うむ、美味いな」


我が飛鳥の料理の腕を改めて認識し直していると、


「あら、アキナス人でも気を遣うなんてことできるのね」


などと言う。なんだか馬鹿にされた気分だ。 それと我はアクィヌヌス人だ。 決して弁当に入っているあの緑の葉っぱ「アキナス」と間違えてはいけない。 ちなみにこれは余談だ。


「まぁ、ここに呼び出されてからかなり経つのでな…それなりにこの世界の決まりは理解したつもりだ」

「そういえばあんたって、いつからこの世界にいるんだっけ」

「ふむ…この空気からすると今日で丁度3ヌストゥスといったところか」


我が青年時代に学んだ、空気の変化から季節の移り変わりを読む術を誇らしげに披露すると、飛鳥はしかめっ面になる。 ちなみに今の我の顔をこの世界では「ドヤ顔」というらしいがこれは余談だ。


「日本語でお願い」

「この前教えたばかりであろう…この季節の変化からすると、我が国の時間の単位ヌストゥスは、1ヌストゥスがこの世界の2か月に相当するのだと…。」

「つまり半年ってわけね。 というか、あんたの国の言葉、やたら「ヌ」とか「ス」とか「ゥ」とか使うから何が何だかわからないのよ!」

「だが、この世界の言葉にも似たような単語はいくらでもあるぞ。 降るアメに食べるアメなどがいい例でろう。この世界には食物を空より召喚する高等魔術の使い手が存在するのかと思ってしまったぞ」


我は食べ終えた和食の皿を片しながら日本語という言語の不自由さについて弁をふるう。


「それもそうね… というか、他の世界だっていうのに単語以外日本語と全く同じ言語が存在しちゃうってことに驚きよね」

「それには我も同意見だ」

「まぁご都合主義ってやつね」

「何のことだ?」


ご都合主義とは何のことだろうか。誰かにとって都合がいいのだろうか。我にはわからぬ 我にはわからぬ


「何でもないわ。それと、他にも季節や考え方も似ているみたいだし、言語の一部と文明以外は私たちの世界とほとんど同じなのかもしれないわね」

「ふむ… 飛鳥は肝心なことを忘れておるぞ。 我がウパヌシャヌス世界には神より授かりし素晴らしき道具、魔術があることをな!」


ウパヌシャヌス世界の住人であった頃、我の魔術の腕はウパヌシャヌス世界の中でも両手の指に入るほどのものだと言われていた。 故に魔術の話題になると我は息を荒げて興奮してしまうのだ。


「でもあんた、ウチに来てから魔術なんて一度も使ったことないじゃない」

「そのことについては我が呼び出された日に説明したであろう… 何度も言うが、我は決して魔術が使えないというわけではないからな!」


そうだ、決して魔術が使えないというわけではないのだ、我はまだ本気を出していないだけなのだ。

いつか本気出すから。 我、明日から本気出す!


「あーそういえばそんな設定あったわね」


我の熱弁が軽く流されてしまったような気がする。やはり疑われているのだろうか。ちなみに我が昨日見たアニメによると今の飛鳥は「ジト目」という目をしているそうだ。


「まぁいいわ。今日は学校でいろいろあって疲れちゃったしもう寝る」

「そうか。では我も眠りにつくとしよう。」

そう言うと飛鳥はベッドに、我はいつも通り部屋の床に横になる。


一度、我もベッドというもので横になってみたいと思いすでに飛鳥が横になっているベッドに忍び込んだ事がある。そうしたら飛鳥、なんて言ったと思うか?  「もぅマヂ無理。。。。」 だって。

いくら人種が違えどとりあえず我が本能的に最大限拒絶されているということはわかった。

人肌のぬくもりが欲しかっただけなのだが… 飛鳥曰くそういうところが気色悪いらしいが。

それ以降我は床で寝るという身分に甘んじている。

だが我は微塵も悲しまない。

今思うとベッドとかただ腰が沈むだけだし!

床、最高。我、少しも冷たくないわ!




そんなかんやで、我は本日二度目の眠りについた。


 



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