前編
前作を読んでくださってからこの話をお読みください!
(前作) http://ncode.syosetu.com/n7049ce/
あの時から6年後――。
私、古森流花と高倉連は結婚した。小さい頃からの付き合いで、周りから「二人はお似合いね。」なんてよく言われたものだ。
そんな二人だったが、喧嘩もしたこともあるし、価値観が合わなかったことがある。ずっと一緒にいるからといって絶対に分かり合えることはないということが分かった。それでも二人で頑張っていきたい。そう思ったから今こうして生きている。他人同士だけど1つ屋根の下で共に生活している。
「ただいま~。」
玄関先から少しくたびれた、でも安心する声が聞こえてきた。旦那様のお帰りだ。
「おかえりなさい、お仕事お疲れ様。」
私は労いの言葉をかけると、彼はにかっと笑って、
「流花も、お疲れ様。」
と言ってくるものだから恥ずかしくて、顔が赤くなる。おそらく今、私の顔は茹でだこのようだろう。
「流花、茹でだこみたいだよ~。」
案の定、彼にも指摘されてしまった。
「流花先生、原稿は出来上がりましたか~?」
連はハンガーにスーツを引っ掛けながら聞いてくる。彼の質問からお察しの通り、私は小説家である。高校時代に文芸部に所属し、大学で文学を学んだおかげで、学生の頃からの夢を叶えることができた。
「まあ、ぼちぼちね。」
私はパソコンに向かったまま答える。
「どんなの書~いてるのっ!」
彼は急に私に寄りかかってくる。連はなんだかハイテンションだ。と思っているとふわっとお酒のような匂いが。
「アルコール引っ掛けただろっ!」
わざと怒った素振りを見せると彼は、
「いいじゃないの~。」
おどけた調子で返してきた。ダメだ、完全に酔ってる・・・。
そんな彼を無視して原稿のほうに集中する。
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『秘密の恋心』
浅岡英美理は恋していた。小5からの片思いだが、中3になってもその関係は変わらない。恋する相手とは離れ離れになってしまったから。
「優樹くん、今、何してるのかな~?」
優樹くん、基――山下優樹は小5の時に転入してきた。(同時期に英美理も転入していた。)もともと彼の家族は転勤族なため、小学校卒業と同時にまた引っ越していった。それでも英美理とはたくさんの接点があった。学級代表や、行事活動など。何かとセットになることが多かった。周りもあえてそうさせていた部分もあったかもしれないが。
「手紙書こっ。」
現代社会において、手紙を書く機会なんて減ってしまったのではないか。しかし、英美理は手紙というコミュニケーションツールを変えるつもりはない。
「ええと、」
『山下優樹くんへ
こんにちは、お元気ですか?ここ最近は学校行事で忙しく、なかなか手紙を書く機会がなかったことをお許しください。あと、堅苦しいので敬語を使いません。勝手な理由でごめんね!
(中略)
優樹くんの顔を最後に見たのはもう、3年前のことになるんだね。こうしてまだ関係が切れてなくて嬉しいな。卒業式の日に、優樹くんが言ってくれた言葉、今でも忘れられないよ。
もしもまた会えるなら今度は一緒に・・・なんでもない!
その時まで元気でいてね。会える日を楽しみにしているよ。 浅岡英美理より』
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「わっ。」
「きゃっ!」
彼が耳元で脅かしてきたせいでキーボードを間違えて打ってしまった。
「何するのよ!」
私は怒った真似はするが、やっぱり本気では怒らない。彼は「えへへー。」と陽気に笑っている。
「終わった~?」
彼は甘えた声を出し椅子を揺らす。連は酔っ払うと甘え出す性格なんだ。新発見である。あ、そうだ。
「まだよ。すぐには終わらないわよ。」
ちょっと意地悪したくなって、冷たくしてみる。
「え~、そんなあ・・・。」
ショボンとしている彼の顔もまたレアだ。意外な一面だなと考えていると、ピロリ~ン♫とスマホの着信音が聞こえる。
誰からだろう?不思議に思いつつ、バッグからスマホを取り出す。
確認するとどうやらメールのようだった。差出人は美琴からだった。
美琴は高校の後輩だったのだが私が卒業したあと、全く連絡を取っていなかった。私たちの結婚式にも参加していなかったため、今彼女がどこで何をしているのかわからない。
―――そんな彼女から連絡が入るなんて・・・。
どうしたんだろう?急いでメールを開く。
『流花先輩!久しぶりです。明日時間があるので会いませんか?話したいことがいっぱいあるので来てくれると嬉しいです♪』
がくっ・・・。緊急かと思っていたばかりに脱力する。さすがだ。この空気読めないっぷりは彼女らしい。6年間も顔を合わせていない人に、都合も聞かずに話を進めようとするなんて。やっぱり面白いわ、この子。
明日は大した予定もないので「了解!」と返信する。
「じゃあ、明日も用事があるから寝るね。おやす・・・。」
しょぼくれているはずの連に挨拶したが、仕事疲れなのか、ただ拗ねていただけなのかわからないけど。彼は椅子に寄りかかったまま寝ていた。
「おやすみ、連。」
さっき冷たくした分、今は優しく挨拶して彼にタオルケットを掛けてあげた。 〈続く〉
シリーズにまとめましたー。
続くのでもうしばらくお付き合いください!
ここまで読んでいただきありがとうございます!