表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第四話 下僕初休日

大変長らく更新をさぼってしまいました(涙)

本当に申し訳ありませんです。


「そういえば兄ちゃんさぁ、こないだ言ってた話はどうなったの?」


「えっ?何が?」


自宅での夕食時、のほほんと母さんの手料理を楽しんでいると、竜仁が思い出した様に俺に切り出す。

要点を掴めない俺は話に首を傾げてしまう。


「ほら、兄ちゃん言ってたじゃん、彼女が出来るかもしれないかもって…」


「…あ…」


確かに言った…

あの日…ケンジに紹介してもらう前日、俺は期待を膨らませたあまり、調子に乗って竜仁にまで話を洩らしてしまっていたんだ。


「何だよ、やっぱりダメだった?」


「リュウちゃん…」


母さんが泣きそうな顔で見てくる。


「い、いや!ダメなんて事ないぞ!ちゃんと遊んだりしてるし!」


「本当かよぉ〜、兄ちゃん中学ん時から女とマトモに話せなかったじゃぁん」


もちろん嘘っぱちだったが、竜仁があからさまにバカにして言う。


カチーン


「バカにすんな!お前の遊んでるコよりよっぽどかわいいわい!」


あ…


「いよっし!じゃあ連れて来いよ!」


あ…


「丁度明日は土曜日だし決まりだな!」


「ち、ちょっと待てい!いくらなんでも急過ぎる!」


ヤバイ!


反発した勢いで言っちまったがそんな女何処にも居ない。


「何だぁ〜やっぱり嘘かぁ〜」


くっ…コイツ読んでやがる…


「い、一応訊いてみるよ…まだ付き合ってる訳じゃないからさ…」


「よーし!俺もエミを呼んじゃおうかな、紹介しあったりしてみる?」


あわわ…何だか話がそれしかない状況に持ってかれてる。


「………リュウちゃん…」


俺と竜仁が言い合っていた時から終始泣きそうな顔を崩さなかった母さんが呟く。


「か、母さん…どうしたの?」


俺がモテないのが悲しいのだろうか…?

だとしたらとてもつらい。


「…うぅ…リュウちゃんが『じごろ』に…」


「はあ?母さん?」


「いくら優しいリュウちゃんであっても女性を食いものにする『オス』には違いないのね……うぅ…」


「はあ?ちょっと待ってよ!」


よよよと泣き崩れる母さん…

ぷるぷる笑いを堪える竜仁…


俺はもうため息をつくしかなかった…


どないせぇっちゅうねん。







自分の部屋…


俺は悩んだ挙げ句…


「――という訳なんだ…」


『ああ〜?ダメだよ』


ケンジに甘える事にしたんだが…

明らかに煩わしそうに言ってくれちゃうケンジ…


「そんな事言わないでくれよぉ」


『俺の女友達は全員ヒロコと繋がってるからさ…お前何だか評判悪いし』


ガーン


頭の中で効果音が響く。

俺は今まで何事にも当たり障りなく過ごしてきた…お陰で誰からも嫌われない位置を維持してきたと自負していた。

どうやらそんなものはあっけなく決壊してしまったらしい……


『…まあ、諦めろ…じゃあな』


無慈悲な言葉を最後に無慈悲に電話を切る親友…

少し苛つくがケンジの言う事ももっともだ、元はといえば俺が調子に乗って竜仁に口を滑らせたのがいけないんだし…

俺の家庭内での威厳が下がるのは致し方無い……


……いや……ちょっと待てよ…


俺にも責任は有るが、責任の一端を担っているヤツがもう一人居た。


八神だ。


そりゃあ、俺が廊下を走っていたせいでぶつかったんだし、携帯が入れ替わったのもそのせいかもしれない…

しかしヤツの口の悪ささえ無かったら上手くいってたかもしれない…多分…


性格はともかくとして、八神の容姿だったら竜仁も納得するだろう。


よし、八神に責任を取ってもらおう!


早速八神に電話する。


……………


「――という訳なんだ」


『寝言は寝て言えや、ふにゅカニが』


ツーツー


ふにゅカニ?


取り付く島も無かった。

余りのあっけなさに口を開けたまま途方に暮れてしまう。


冷静になって考えたら八神が俺の頼みを聞いてくれるなんて有り得なかった……


諦めるしかないじゃん……とほほ…









翌日土曜日の朝。


ピリリリリリ!


休日という事で惰眠を貪る俺に耳障りな電子音が響く。

自慢じゃないが俺の携帯はほとんど鳴らない…驚いた俺は一瞬で覚醒してしまう。


時間は8時、番号通知を見ると八神だった。


「……もしもし?」


『集合』


ツーツー


???


「えっ?」


通話時間2秒…

集合?解りやすいんだか解りづらいんだかよく解らん…

これは八神の家に来いって事だよな…


なんで俺が……



いそいそと出かける準備を始める俺…遅いと怒られるので急ぐ…寝癖もそのままに八神の家目指して自転車に股がり…立ち漕ぎ全快で駅前に到着する…息も絶え絶えだよ…


…………ん?


「な!何をやっているんだ!俺は!」


八神の集合に疑問を持っておいて、無意識に従ってしまっているとは…

まるで俺が下僕みたいじゃないか!


「よ〜し下僕、なかなか早かったやん、感心しちゃる」


むかつくタイミングでやたらと高圧的な声が掛る…

どうやらご主人様のご登場らしい…

見てみると私服の八神…何か新鮮だ…Gパンに長袖のTシャツのみと些か味気ないが、八神らしいかもしれない。


何ともやるせない気持ちになってしまって苦笑してしまう。


「店の掃除手伝えや」


絶句した。


何を言ってるんだコイツは…顔はさも当然の様に自信満々だし、胸まで張って少しのけぞってる…つぅかちょっと大きいな…胸…体格はチビだけど中々……


「あんだよ、変な目しやがって…嫌なんかい」


「い、いや、うん、いいよ………あっ……」


しまった…!胸を見ていたのを怒られたのかと思った、誤魔化そうとしたら了承してしまった。

ここに来てしまった以上従う他無い様な気もしたが……


「おうおう下僕〜、素直やん」


うわぁ…むかつくなぁ…


「………はあ、まぁしょうがないな…」


肩をすくめてため息をはいてやる、わざと嫌味っぽくやってやった。


「……なんじゃい!むかつくな!今の!」


当然の様に怒る八神。


「あらあら仲良しそうね、河本さん、おはようございます」


八神の後ろ、お店の入り口から八神のお母さんが出てきて挨拶してくれる。

とてもじゃないが仲良しにこよしには見えなかった気がするけど…


「あ、おはようございます」


怒ってる八神越しに恐縮して挨拶を返す。


「遊びに来てくれたのね、なっちゃん、良かったわね」


ほんわかした雰囲気を放出しながらぷるぷるしてる八神に微笑み掛けるお母さん。


「違うよ、お母さん!コイツは掃除を手伝わせる為だけに呼んだんだよ!コイツは掃除を手伝わせる為だけに呼んだんだよ!」


二回言った?


「なっちゃん!お友達になんて事を言っていますか!」


お母さんの一喝。


「…ごめんなさい…」


おとなしくなる八神…

おお、八神が普通の女の子に見える、どうやらお母さんには全く逆らう気が無いらしい。







そして貴重な休日になぜか八神の家の掃除をしている俺…


落ち着いて考えてみると、俺の頼みは完全無視されたのに、なんで俺はこんな事をしているんだろう…


…と、頭で自問自答をしてはいるが、体は素直に従ってせっせと掃除してるし…なんか悲しい…


掃除といっても八神の自宅『居酒屋はつみ』は清潔だった。

だから掃除は大変という訳ではなかった。

俺は店内の拭き掃除、お母さんは厨房の掃除、八神は買い出しに行ってしまった。



「河本さん、お茶を煎れたので飲んで下さいな」


ほんわかお母さんが気を遣ってくれる。


「あ、すいません………って、えっ?そのお茶は何処ですか?」


お茶を煎れてくれたみたいだが、肝心のお茶が見当たらない。


「なっちゃんの部屋に置いて来ました、なっちゃんも行かせるから先に行って待っててあげて下さいな」


えっ?


「えっ?えっ?ちちちょっといいんですか?アイツの部屋なんて?」


絶対『ふざけんな』とか言われるに決まってる。

それに当人の了解も無しに女の子の部屋に入るなんて恐れ多い。


「いいから、いいから、ほらほら、こちらですよぉ」


ほんわか笑顔でぐいぐい連行される、その完全平和主義の笑顔に逆らうのは酷で従ってしまう。



あっさり部屋に放り込まれて、ばたんと扉を閉められてしまった…


八神の部屋…


意外だった。

八神の部屋は如何にも女の子の部屋といった感じだった、ピンク等のうすいパステル満開で、ぬいぐるみが所狭しとひしめきあっていた。

ベッドには八神のお気に入りなのかクマのぬいぐるみが当人の代わりに布団を掛けられて寝ていた、もしかしたらいつもは一緒に寝ているのかもしれない。

ちょっと子供っぽい感じもしたが、なんとなく俺は好きだった。

女の子の部屋らしい甘くていい匂いにぽわ〜っとしてしまう。


どたどた〜


「ん?」


がらぁ!


「てめぇ!何人の部屋に不法侵入してやがる!バカ!変態!たれコアラが!」


たれコアラ?


帰ってきた八神が大慌てで部屋に突撃してきた、よっぽど勝手に部屋に入られたのが嫌だったらしい。

かなり怒っている様子で今にも飛び掛って来そうだ。


「ちょっと待ってくれよ!お母さんがお前の部屋でお茶どうぞって言うからさぁ」


「お母さんとか言うなぁ!」


顔を真っ赤にして怒る八神にどうしようも無い俺だったが、そのお母さんの介入でどうにか八神は収まってくれた。

お母さんにたしなまれて静かになった八神とお茶を飲んだのだが、正直繋がれていない猛獣と檻の中に居る気分だった。





そして、昼過ぎ…ようやく掃除も終わり、居てもしょうがないので帰る事にした。


「すいません、お昼ご飯まで頂いてしまって……」


前回同様、ご飯をご馳走になってしまっていた。

前回でわかっていたが母さんに負けない位に美味しいので遠慮せずに頂いてしまった。

美人の女将と黙っていれば看板娘になりうる八神と美味しい料理ならこの居酒屋が繁盛するのも納得である。


「いいんですよ、なっちゃんの大切なお友達ですもの、いつでもいらして下さいね」


ほんわか笑顔で送り出してくれるお母さん…

なっちゃんの友達か…

そう言ってもらっただけで嬉しくなってしまう。

もし全国過保護ママ選手権大会があるなら、俺の母さんと決勝を争うに違いない。


「はい、お邪魔しました」



お母さんに挨拶をしてから、自転車に股がる。


「……………」


えーと……


「何してるの?」


運転手の了解も無しに自転車の荷台に股がっている八神に訊いてみる。


「………今度はおめぇの家だろが…」


???


「はあ?」


意味が解らなかった。

俺ん家?


「昨日言ってたべ?何だっけ…えっと…彼女候補を演じればいいんだろ?」


――マジで?


少しはずかしそうに言う八神とWで驚いてしまう。


言った、確かに言った。

昨日の竜仁とのやりとりから全部説明した、でも電話では断られた筈だった。


「でも、どうして?」


「ああ?文句言うなら行かんぞ?ドジごりらが」


ドジごりら?


「い、いや、来てよ!いや、来て下さい!」


どういう訳か昨日の事を了承してくれたみたいだ、しかもちゃんと彼女候補を演じてくれる気らしい。

何としてでも連れて帰らねば!


「まぁいいやん、行ってやるから、さっさと漕がんかい下僕!」


「サーイエッサー!」


「…アホかい…」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ