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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
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第3話 二実の散々な日常

 夕飯の後片付けを全て終えたあたしは

三香が風呂から上がった後に入り、

さっとシャワーで一浴びしてから

二階にある自分の部屋へと歩を進める。


 そして今思い出した。

あの忌まわしき漆黒の昆虫――頭文字G。


「やばっ、そういえば二階にあいつが

飛んでいったんだっけか……」


 姿を思い出しただけでもゾッとするあの黒い奴な。


「まずいな、二階に行くのが怖くなってきた……」


 さてどうしたもんかと考えた結果、

あたしは台所に置いてあった頭文字G専用

イチコロスプレーを取りにいき、

そのまま二階に上がる事にした。


「これは気休めにしかならないけど、

何も無いよりマシだろう……」


 おそるおそる階段を上がるあたし、

その一歩一歩がまるで地獄の奥底へと

落ちて行ってる様な感覚。

 昇ってるのにね。


「くそ怖い……つか気持ち悪い……」


 何事もなく自分の部屋の前までやって来たあたしは、

かなりホッとしてた。


 だがそれも束の間のことだったよ。


「マジかよ、閉めてた筈なのに開いてるじゃないか……」


 今朝たしかに閉めてたんだけどなあ。


 まあそれは仕方なしとして非常にまずい。


 ドアが開いてるという事はソコから

頭文字Gが侵入している可能性も

高いという事なのだから……!


「お、落ち着けあたし!

と、とにかく灯りをつけよう……」


 あたしはそっと、

ドアの横にある部屋のスイッチをオンに切り替えた。


 その瞬間パッと部屋全体が明るくなり、

中の全貌が明らかとなる。


「……よし、何もいないな。

これはあたしの完全勝利っぽいぞ!」


 何が完全勝利なのかはあたしにもよく分からなかったが、

心底ホッとしている自分がそこにはいたよ。


「さて、早く宿題済ませてゲームでもして寝るか」

「ニャーン」

「はっ!?」


 あたしが机に座った瞬間、

なんか足元当たりからネコの声が聞こえてきた気がしたんだよな。


「ニャーン!」

「ま、マジかよ!?」


 とにかくその声が気になったあたしは、

自分の机の下をそっと覗き込んでしまったのさ。


「ミャーッ!」

「うわ、ちょっと待……ぎゃあっ!」


 するとそのネコはあたしの顔めがけて

スゴい勢いで飛び掛かってきた。


 首輪のない黒猫だったね。


 そんであたしは思いっきり後ろに

倒されてしまったわけなんだわ。


「痛たたたたぁ……な、なんなんだよ一体……」

「ミャーン!」


 ネコは仰向けで倒れてるあたしの胸元に乗っかって、

楽しそうに笑ってた……気がした。


「はあ……、てっきりゴキかと思ったら黒ネコだったのかあ」

「ミャ」


 なんというか、顔に飛び掛かってきたのが

こいつでホント良かったわ。


 頭文字Gだったら立ち直れんよ。


「それよりおまえ、どこからやってきたんだよ?」


「ミャー?」


 ネコはあたしの言葉が分からずに可愛らしく首を傾げてた。

まあ当たり前だけど。


「あっ!」


 あたしは乾き物が無くなった事にハッとして、

机の下を見るため起き上がった。


 この時ネコは抱っこしてやったよ。しゃあなしで。


「やっぱな……」


 あたしが座り込んで机の下を見た結果、

そこには姉さんの大好物である

たくさんの乾き物が入った袋が

開封されずに散らかっていたのだ。


 ファミリーパックってやつさ。


「ミャ~ン」


 ネコはあたしに乾き物が入った袋を開けて欲しいのか、

ゴロゴロと猫なで声をあげてあたしに媚び始める。


「おまえなあ……おわあっ!」


 あたしの腕からすり抜けたかと思ったら、

崩した膝の上に乗っかってくる。


「ゴロゴロ……」


 そんで膝の上でゴロゴロし始める意地汚いネコ。


 ったく、そんな姿を見せられたら反応せざるを得ないだろう!


「ああもう分かったよ!

開けてやるからそれ以上あたしを萌えころすなー!」

「ミャー♪」


 あたしがスルメの袋をバリッと開けると、

ネコは待ってましたと言わんばかりに

スルメに飛びかかり咥えて持ってってしまった。


「ったく! それやったんだから、もうどっか行けよ!」

「ミャミャーン!」


 それからネコはスルメを咥えたまま、

部屋の窓から外へとすっ飛んでいったのさ。


「ふっ、やっぱネコは所詮本能で生きる動物だ。

恩知らずに一目散に飛び出してしまったよ」


 気付けばあたしの胸に、

ちょっぴり切ない気持ちが芽生えてたわけだが。


「さて……気晴らしにゲームでもするか」


 もう宿題なんてやる気は

とっくに消えていたあたしだった。



「ふわーあ……!」


 次の日の朝、夏と一緒に登校中だったあたしは、

昨晩ゲームのやり過ぎて寝不足に陥っていたのだ。


 だって紅玉出ないんだもんよ、仕方ないじゃんか!


「すごい欠伸だね、ちゃんと寝たの?」

「ゲームやり過ぎて眠い」

「もうっ、相変わらずひどいね……

ちゃんと宿題はやったの?」


 あんたはあたしのお母さんかっ!

 ってツッコミたいけど、

そんな気力すら寝不足のあたしにはない。


「やってない」

「はあ……それで、どうするの?

今日しなかったら居残り確定じゃなかった?」

「まずっ……忘れてた!」


 居残りなんて勘弁だ、

今日発売する新作ゲームをやる時間がなくなるじゃないか!


「言っておくけど、私は手伝いませんからね?」

「そんな事言わずに助けてくれっ!」

「ダメ、ここで助けたら二実のためにならないもの」

「夏の言う事ならなんでも聞くからっ、な!?」

「な、なんでも……?

そうね、それならちょっと考えてもいい……かな」

「よしっ、それじゃあ決まりだな!

学校着いたらすぐに宿題、写させてくれよー!」

「もうっ、調子いいんだから!

まあ私も同罪なんだけど……」

「なんか言ったか?」


 突然小声で喋るもんだから夏の声が聞き取れなかったよ。


「な、なんでもないです! とっとと行きましょう!」

「お、おう!」


 そんでいきなり大声で騒ぐ夏、

あたしゃビックリせざるを得ないよ。


 とにかくあたし達は急いで学園へと駆けつけたのさ。



 めちゃくちゃデカいたくさんの校舎に、たくさんの施設、

ここの敷地全部合わせたら東京ドーム四個分ぐらいあるんかね。


 今あたしと夏はその敷地の南門前を歩いているってわけ。


 ここは私立豊饒女学園と言って

小中高大貫通のマンモス女子校で、

そこの高等部1年生として今通ってるところ。


 妹もここに通ってるし、姉もここの元学生なんだよな。

まあ初等部――所謂小学生相当の校舎と、

高等部――高校生相当の校舎は

入る門が違うから三香と会うことは殆ど無いけどね。


 そんで生徒人数も半端ないだけあって校門前は

登校中の生徒による人集(ひとだか)り。


 だがあたしはこの人集りが不満で仕方が無い。

何故ならそれは……これ全部が女の子だから!


 だったらいっそ男として産まれたいと考えちゃうわけだよ。

 まあ実際あたしが男だったら、

こんなところとは無縁なんだろうけどさ。



 そんなこんなで、あたしと夏は南門をくぐっていた。


「はーあ、相変わらずバカみてえにデカい学園だよなあ」


 校庭を歩くあたしは、

この学園のデカさに毎度の事ながら鬱々してしまう。


「仕方ないよ、

初等部校舎から大等部校舎まで全部あるんだから」

「まあ、ここは偏差値も言うほど高くないし、

制服も結構かわいいからどうでもいいんだけどさ」


 制服は小から大通して白シャツの上に紺色のブレザーと

一緒だけど、首に巻くリボンは学年別で色が違うんだ。

 今あたしが着けてるのは桃色で超可愛い。

あたし桃色大好き。乙女っぽいだろう?


 そんでスカートも普通のチェック柄だけど、

割と短い丈がこれまた可愛い。


 とは言え胸がなさ過ぎてつんつんした髪と男らしい顔した

あたしが着てるのを鏡で見ると、

たまに女装してんじゃないかこいつって思っちゃう。


 あっ、自分で言っててちょっと死にたくなってきたぞ。


「確かに制服は可愛いけど……ううん!

だからといって勉強を怠るのは良くないんだからね?」

「はいはい、分かってますよー!

はあ、せめて男の子もこの学校にいたら

少しは青春できそうなんだけどなあ……」

「ここは女学園よ!

それに男の子までいたら、

それはもう私の立つ瀬が……」


 夏は何かを言おうとして途中でやめてた。

 よく分からないけど。


「夏、いま何か言おうとした?」

「な、なんでもない!」

「今日の夏はテンション高いなあ、

何をそんなに興奮してるのさ?」

「べ、別に興奮してないよ!」


 とは言いながらも、夏の顔がすごく赤いんだよね。


「大丈夫か夏、もしアレだったら保健室にでも――」

「いいからとっとと教室に行きましょう。

でないとノートを写す時間が無くなるよ?」

「そ、それはまずい! 早く行かんと!」


 あたしは夏の手を強引に掴んで、

人の波にぶつからない様気を付けながら、

南門ど真ん中の道を走り出した。


「ちょっ、な、なんで掴んで……!」

「あたしはこう見えても足が速いんだ!」

「いえ、それは私も……!」

「だったら話は早い、

飛ばすからしっかりあたしについてきな!」

「わ、分かったからそんなに引っ張らないでーっ!」


 あたし達はそのまま、

割と距離のある高等部校舎玄関前まで駆け抜けた。



 そんで辿り着いた高等部校舎玄関内にある

下駄箱の中を見たあたしはゾッとしていた。


「またかよ……これで何通目だよ!」

「相変わらず……すごいわね」


 なんと、中にはあたし宛のラブレターくさいハート形の

ピンクシールで封された封筒が10通ぐらい入っていたのさ。


「バカな……あたしは女だぞ! なんで同性相手に、

こんなにまでラブレターが入ってやがるんだー!!!」


 そんなもの見たら、あたしは絶望するしかないじゃないかっ!


「あはは、仕方ないね。

二実は下手な男の子よりもかっこいいし男らしいしね」

「はあ……いちいちコレ全部に返事するのがめんどいんだよ」

「えっ、こ、これ全員に返すつもりなの?」


 夏はすごく驚いてた。無理もないけど。


「悪い? 流石に無視するなんてかわいそうでしょ」

「確かにそうだけど……」


 あたしは夏と話しながらも、

サッとラブレターの束をカバンの中に押し込んだ。


「はあ……行くぞ夏」

「あ、うん。なんていうか頑張ってね?」

「はい、はい……」


 どっと疲れてどんよりとしたまま、

あたしは夏とともに教室へ向かった。




 玄関から少し歩いた突き当たりのすぐ右側に

1-D組の教室入り口が見えるの。

 つまりそこがあたしの通うクラスなのさ。


 そんで教室に入るや否や、

中にいた奴らの視線があたしに降りかかる。


 その目は明らかに――あたしをからかう目をしてたな。

 いや、よく見たら――なんか艶かしい視線を向ける奴もいる。

 もちろん目は合わさないよ。なんか後が怖そうだからね。


「よっ、二実~。今日も大変モテモテだね」


 あたしがクラスのみんなを観察してると

茶色いソバージュセミロングヘアの女が立ちふさがる。

顔はイケメン系。スタイルは全身あたしと同じぐらいだが

胸は多少あるかね。

目は自信に満ち眉をキリッと斜めに上げてた。

身長はあたしより高く170ぐらいかね。


 そんでニヤニヤとイヤラしい目付きをして、

あたしに向けやがる。


「うるせえ、そうやってからかうのは

やめろっていつも言ってるだろ」


 このあたしをイライラさせる女は橘花由子(たちばなよしこ)


 高等部1年から出会った奴なんだけど、

すごく馴れ馴れしいんだよな。


「なんせ私、今朝も見たからねえ。

あんたの中にお手紙を突っ込む

たくさんの健気な少女達をさ」


 靴箱の中だ、バカやろう!


「その言い方はやめろ、この変態が!

だいたい、なんで毎日あたしに絡んできやがるんだ!?」

「はっ、決まってるじゃん!

あんたは毎日可愛い女の子から

手紙ばっか貰ってさあ……少しは自重しろ!」


 とつぜん怒り出すとか訳が分からないぜ。


「てか靴箱に手紙を入れてるのはあたしのせいじゃない!」

「そんなの関係ないね」

「つうかおまえ……まさかそれだけで

あたしに突っかかってくるんじゃないだろうな?」

「当たり前でしょ?」

「当たり前ってお前……ワケがわからないんだけど!」

「この四天王の私を差し置いて可愛い女の子から

ラブレターを貰ってるうえに、日向さんみたいな

可愛いクラスメイトまではべらかすなんて、

まさしく我ら島百合団のかたき!」

「しま……ゆりだん……?」


 なにを言ってるんだこいつは、本当に意味がわからないぞ。


「えへへ、私が可愛いなんてそんなぁ……」

「って、照れながら笑ってる場合かよ夏!

お前、島百合団って何か知ってるのか!?」

「えっ? それはまあ知ってるけど……」

「そのワケわからん集団の正体、

あたしに一字一句逃さず教えろ!」


「その必要はありませんわ?」


 今度はあたしの背中から、

落ち着いたお嬢様っぽいしゃべり口調の

甲高い声が聞こえてくる。


 と思ったらみんながざわつくし、

何故か怯えてる奴もいた。


「こ、今度はなんだ!?」

「み、ミラージュ……!

どうしてここに来てるのさ!?」


 そんでこの通り橘花が一番驚いてた。てか焦ってた。


「ふふっ、呼び捨てはおやめなさい橘花。

仮にもわたくしは、あなたの先輩なのですよ?」

「ふんっ! 同じ四天王同士なんだから、

そんなのは関係ないでしょ?」


 さっきから団とか四天王とか、

あたしの頭はちんぷんかんぷんっす。


「ですからお黙りなさい。

近頃成績のよろしくないあなたの事を、

あのお方に告げてもよろしいのですよ?」

「そ、それだけはやめてくださいお願いします!」


 なんと、あの気性の荒そうな橘花が

お嬢様口調の先輩に土下座していた。哀れだなあ。


 つか、あたしを板挟みするの

やめてほしいんですけどな、お二人さん。


「ふふっ、分かればよろしいのです」


 そんで橘花からミラージュと呼ばれた

左右のもみ上げにドリルを生やした

全体的にふわぁっとした銀髪。

身長は多分150ぐらい。

身体的には、残念だが幼児体型かね。

目は釣りあがって、ちと冷めた感じかな。


 そんな人があたしに目を合わせてニッコリ微笑んだのさ。

 それで何故かあたしはゾクッとした。

 気のせいかもしれんけど。


「それでは秋月二実あきづきふみさん、

あなたにわたくし達が入団する島百合団という

組織の全貌をお教えしてさしあげましょう」


 なんであたしの名前知ってんだろうね、

なんか怖い感じがするわ。


「あ、はい。その前に先輩の名前を知りたいのですが」

「ふふっ、これは失礼いたしました。

わたくしの名前はクレア・ミラージュと申します」

「その青い瞳と銀色の髪からして

日本人とは思ってませんでしたけど、

とても美しい方ですね」


 まあ本当に美しい人だったから、

あたしにはそう言うしかなかったのさ。


「まあっ、ありがとうございます。

それではそんなお優しいあなたに免じまして、

島百合団の細部事項までお教え……」

「ちょっと二実っ、あなたはなんで可愛い子とか美しい子を

見ると、そうやってすぐベタ褒めするのよ!」


 あたしがミラージュ先輩を褒めると何故か夏が怒り出した。


 まあこれに関してはいつもの事だけどね。

 この間だって、スイーツ屋グランスイーツで働く

とても可愛い瞳をした歳上の女性店員の瞳を

少し褒めただけで不機嫌になるんだもんな。


「ま、待て夏! あたしはただ本当の事を

口にしただけなんだって! だからその拳を握るなっ!」

「うるさいっ! 私はあなたのそういう性格のせいで

何度もヒヤッとさせられてるんだからっ!」

「わかった、わかったから落ち着け夏!

今度から気をつけるからっ!」

「おいおまえら! ミラージュがこうして珍しく

機嫌良さそうに話してるんだからちゃんと聞いてやれって!」


 橘花の叫び声にハッとしたあたしは、

すぐにミラージュ先輩の方に目を向けた。

 するとそこには、悔しそうな表情で

涙をグッと堪えていたミラージュ先輩がいたんだわ。


 というか橘、お前も先輩呼び捨てにすんなって。


「ちょっ! 先輩、そんなに泣きそうな顔をしないでください!

あたしが悪かったですからっ!」

「ぐすっ……べ、別にわたくし悔しくなんてない……

ですもの……!」


 とか言って、そんな悔しそうに涙ぐまないでください先輩。

ちょっと可愛すぎですから。


 この何とも言えない空気の矛先は、

夏に向けるっきゃない!


「ああもうっ、夏がいきなり変な事言い出すから

先輩がこうして悲しんでんだぞ!?」

「えっ!? 別に私、何も悪い事は……」

「本当にもうっ!」


 あたしは仕方なく、ミラージュ先輩を慰める為に

彼女の頭をそっと撫ではじめた。


 だって泣いてる女の子にはこうするのが一番って

とある少年漫画で学んだんだもんよ。


「……えっ?」

「先輩、元気出してください。

あたしはあなたを放ったりしませんから、ね?」

「や、やめてください無礼なっ!」


 先輩があたしの手を、パシィっと強く払う。


「あいたた!」

「あ、ごめん遊ばせ……。ですがわたくし何も悪いとは

思ってませんし……。だいたいあなたは人の心に

ズケズケと入り込む助平ですし……」

「ご、ごめんよ先輩。なんかあたし、悪いことしちゃったかも?」


 とにかくあたしは先輩に頭を下げまくった。


「くっ……! わたくし、あなたのこと絶対に忘れませんから!」

「あっ、先輩待って……帰っちゃった」


 ミラージュ先輩は悔しそうにうちの教室を出て行ってしまった。

結局何も教えてくれなかったし。


「あーあ、島百合団の話を聞きそびれちゃったじゃんかー、

主に夏のせいで」

「ちょっ、私は別に悪くは……」


 とか言いながら、夏は申し訳なさそうに俯く。


 あっ、これあたしが嫌いなシリアス展開って奴だ。

すぐに回避せねば!


「まあまあ夏、そりゃあたしにも悪いところは

あったし全部夏が悪い訳じゃないってば」

「そんなの当たり前じゃないの」


 俯いて悲しんでたかと思ったら

すぐに立ち直って勢いよく顔を上げる夏さん。


「ビックリした……立ち直り早過ぎ!」

「私、さっきのこと言う程気にしてないし」

「うーん、クールだなあ夏は。名前は暑苦しいけど」


 夏はあたしの渾身のギャグを無視して続ける。


「まあでも島百合団の知識は少しだけなら

私が教えるとして……

二実、あなたのした事って相当重大なことなんだよ、

分かってるの?」


 挙句に、なんでかあたしは夏に怒られてしまうし。


 とにかく細かい事は気にせず、

あたしは話を続ける事にした。


「えっ、重大って泣きそうだった先輩の頭を

おもわず撫でちゃったこと?」

「ち、違いますっ!

まあそれもある意味重大だけどぉ……」

「なんだい? 小声だと聞こえないよ?」

「あ、違くてっ……ああもう!

二実がした事ってのは島百合団を

敵に回しちゃったって事なんだよ!?」

「だから、その島百合団ってのが

あたしにはよく分かんないんだってば」


 大体なんで団なの?

もっとこう、会とか組の方が読みやすいじゃんか!

 ごきげんようとか聞こえてきそうだし!


 ってあたしは思っちゃうわけよ。

あっ、でも組だとカタギじゃ無くなっちゃうかあ。


「はあ……まったく二実ったら本当に」


 あれ、それにしてもなんであたしこんなに怒られてるんだろう。

 よく考えたら、ただ島百合団ってのを知らないだけなのにさ。


「まったく、この学園も島百合団もイマイチわからんぜ」

「お前、少しは口を慎め!」

「あん?」


 なぜか橘花の奴がひどく焦っていた。


「あのな、もしかしたら島百合団ミラージュ派が

このクラスの中にいるかもしれないんだぞ!」

「あんたもその一員じゃん」

「バッカ! 確かに私は島百合団員だが派閥が違うんだよ!」


 派閥とはまた、たまげてしまうことを。


「ていうかなんだっけ、おまえは四天王だったか?」

「そうっ、私は島百合団に初等部4年生の頃から入団してて

四天王まで登りつめた所謂エリート団員なんだよ!」


 はっ? 初等部から有ったなんて、あたし初耳なんだけど。

 つかエリート団員ってなに!


 でも何となく、それを口には出来なかった。

 あたしだけが知らなくて恥ずかしい奴とか思われそうだし。


「皆からは“口説きのよっしー”と呼ばれてるんだよ!」

「なにそれ、きもい」

「きもいって言うな! この二つ名、気に入ってるんだよ!」


 まあいいや、こんな奴は無視無視。


「そんなことより夏、

早くあたしに島百合団が何なのかを教えてよ?」

「えっ、まあいいけど」

「無視するなぁー!」


 あっ、やっぱり吠えたか。仕方ない奴だなあ。


「――今は忙しいんだから他を当たってくれよ?」

「ったく、もう何があってもお前のこと助けてやらないからな!」

「いいよ別に、トラブルくらい自分で回避するからさ」

「ああそう、それじゃあね!」


 橘花は激おこな表情のまま、自分の席へと戻ってった。

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