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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
3/52

第2話 平和主義、一葉は静かに暮らしたい

 時刻はそろそろ夕方5時30分てとこか。

 さてと、もう少しで完成するぞ。


「よし、これくらいでオッケーだろう」


 何がと言えばもちろん晩ご飯だよ、

今日はめんどくさかったからカレーにしたのさ。


「ただいまー……いい匂いがするー!」


 ほれ早速腹を空かした三香みつかのやつが

玄関からご機嫌そうに大声をあげて帰ってきたぞ、

やっぱ子供だわあ。


 あたしも三香にならって、

大声で返してやるとするか。


「おかえり三香ー!

今日はあんたの大好物ポークカレーだぞ!」

「おおーっ、早く食べたーい!」

「ははっ、まずは手を洗ってきなよ?」

「ふみちんに言われなくても分かってるしー!」


 相変わらず口の減らない我が妹様だ、

まあ慣れてるけどさ。


「ああそうかい、

それじゃあ用をすましたら居間でおとなしくしてなー」

「分かってるー!」


 やれやれ、こりゃ完全に舐められてんなー。

まあどうでもいいけど、どうでもいいけどさホント。


「さてと、もうすぐ姉さんも帰ってくる頃かねえ……

酒の準備でもしとくか」


 あたしは面倒と思いながらも、

冷蔵庫の中で冷やしてある缶ビールを

キンキンに冷やすために二本冷凍庫へ入れ直した。


「はあ、こんな苦いもんのどこが美味しいんだかねえ」


 まったく、大人の舌ってのはどうもわからないよ。


「ただいま、我が妹達よ~っ!」


 おっと、早速帰ってきたな姉さん。あたしの読み通りだ。


 ていうか、今日はやたらと機嫌がいいんだな。


 いつもの姉さんと言えば、

あたしに職場での愚痴ばっかりこぼしたり、

男とうまくいかないとか言った感じに、

負のオーラ全開なのにな。


「今日の私はとっても気分がいいんだよ~んっ!」


 実は飲んでるんじゃないだろうな、一葉(いちば)姉さん。


 なんかテンション高すぎて、逆にそんな気がしてきた。


「まあいいや……姉さん晩飯の用意できてるよー!

食べんのー?」

「ふっふ、もちのろんよー!」

「先に風呂入るかーい?」

「当たり前じゃない!

もちろん、アレも頼むからねー!」


 姉のアレっていうと、ビールしかないんだよなあ。


「分かった! いつもの様に冷凍庫で

冷やしてっから急いでなー!」

「おうよー!」


 姉はそのまま食卓には来ず、

風呂場の方へと向かってった。


「てわけだから、あたしらだけで先に食べるか三香?」

「そーだねー、わたしも腹ペッコだし」

「だな、じゃあすぐにつぐわ」

「ふみちん頼んだー!」

「ふみちんはやめんかい」

「やだよーだっ」


 しゃあないやつだなホント、

1年前はちっとは大人しかったんだけどな。


 まあとにかく腹も減ってるだろうし、

ここはおとなしくついどくかね。


「まったく、もういいから行儀よく食いなよ?」

「はーいっ! あっ、大盛りがいい!」

「へーへー」


 あたしは三香の意のまま、

多めにカレーとご飯を盛ってやった。

 通常の三倍ぐらい。


「ふふんっ、ありがとふみちん!」

「オッケー、まあおとなしく食えよな?」

「分かってるって、いっただきまーすっ!」


 三香は手を合わし終えると、

すごい勢いでカレーを食べ始めた。


 やっぱかなり腹減ってたんだろうな、

まるで飲みものの様にカレーを口に頬張ってたし。


「はむっ、はふハフ!」

「ははっ、美味いか?」

「ごくん……! ふみちんにしてはまあまあだね!」


 カレーは甘口だが、辛口なんだねこの野郎は。

まあ軽口は子供の特権って事で許してやるかね。


「そうかい、じゃあ美味いって意味で捉えとくよ」

「はむっ、もぐもぐ」


 うん、この食いっぷりなら

少なくとも不味くは無かったんだろうな。


「さて、あたしも食べっかな」


 三香の食いっぷり見てると、なんか腹減ってきたし。


「おかわりーっ!」

「はやいな、おいっ!」


 三香が食べ始めて3分、

中皿へ多めに盛ったカレーライスは

もうすっからかんだった。


「動きすぎてお腹空いてるしーっ!」

「ああそう、さすがだねぇ」


 仕方ないから、

あたしは三香に二杯目のカレーライスを盛ってやったよ、

さっきよりも多めにさ。


「ほれ、こんくらいあれば満足だろ?」

「えー、この量はさすがのわたしでも食べらんないー!」

「いいから食べな、どうせ文句いいながらも食べきるでしょ?」

「ぶーっ!」


 三香は不満そうに頬を膨らましながらも

カレーライスをガツガツと食べ始めた。


 やっぱ食べ切る気満々だわ、この子。


「今度こそ、あたしも食べっかな」


 とにかくあたしも

自分の分だけでもカレーライスを盛っておいた。


「よしっ! これくらいあれば、あたしには十分だな」


 量は三香の3分の1くらいだけど、余裕で足りるって。


「さてっ、あたしも頂くかね……いただきまーす」


 あたしは行儀よく手を合わせると、

とっととカレーを口に頬張り始めた。


「うん、我ながらまあまあすぎる」


 別に料理が得意なわけじゃないしなあ、

と思いつつもいちおう反省するかな。

 たかがカレーされどカレーだ。


「おかわりー!」

「だから早いよ!

ていうか、あんたお腹いっぱいじゃなかったの?」

「気が変わった、食ってやるよー」

「ああ、はいはい。まあ想定済みだったし大丈夫だけどさ」


 あたしは仕方なく、妹様の3杯目のカレーをついでやった。


「ほれ、流石に次はないよ?」

「さすがにいらなーい」

「そうだと嬉しいね」


 そんで、さっきと同じ勢いで食べ始める我が妹様よ。


「はあ、まだ10分経ってないと言うのにこの減りっぷり……

姉さんの分もあるっちゃあるんだけど、どうだかねえ」

「はむはむ!」

「それにしても一心不乱に食いおって……

こういう時は可愛げあっていいんだけどな」

「ごくん……ふみちんてば何を失礼な!」

「き、聞いてたんかい!」

「当たり前だよ!

いまニンジャであるこのわたしにスキはないのじゃー!」


 何言ってんだこいつ、

とは心で思ったけど流石にそれは口にしてやらなかったよ。


「へえ、それ学校で流行ってんの?」

「うん、はやってないよ?」

「はいっ?」


 三香、イマイチ言葉が伝わりにくい!


「だから、はやってなんかないのじゃー」

「その語尾やめろ、なんか腹立つから」

「アイエエエ!? なんで!?」


「いいからやめなさい。

なんかキャラがよく分からなくなってきてるし。

それで、どうしてニンジャなわけ?」

「“かみさま“のてきとーな気まぐれ」

「ああそう、それじゃああたしには何も言えんわ……

とでも言うと思ったか!」

「ふみちん、わたし将来忍びの道を極めるからっ!」

「人の話を聞きなって!

いいか? 別に流行ってないもんを

躍起になってやらんでもいいじゃないか」

「どーして?」

「そ、それはだなあ」


 よく考えたら、別に流行ってないからそれを

極めないってのもおかしな話な気がしてきた。


「言えないんでしょ?」


 ああ、だんだん三香があたしを見る目も

鋭くなってきてやがるし。


「べ、別にぃ?」

「じゃあ言ってよー」


「いや、よく考えたらあんたに

話すにはもったいないかなーってさ……」


 うん、我ながらひっどい言い訳だよなあ。


「そうやっててきとーに話を流すのは良くないって

誰かが言ってた」

「ばっ……わ、分からないものは誰にだってあるんだよ!

仕方ないじゃん!」


「なんだ、やっぱりふみちんも分からないんじゃん」

「もって……他の奴にも聞いてたのかよ!」


「べつにー、ふみちんには内緒だしっ!」

「はあ……まあいいや、とっとと食べようぜ?」

「そーだね、

これ以上ふみちんに話しても時間の無駄だもんね」

「なんか、今日はいちいちトゲがあるよなお前?」


 あの日か? とか口にしようと思ったけど、

さすがにそれは妹相手でも言っちゃダメな気がする、

あたしが女だとしてもね。


「べつにー、今日はちょっと遊びすぎて疲れただけだし」

「そっか、んじゃあ飯食い終わったら風呂入って、

歯磨いて寝るんだな」

「言われなくてもなー! がつがつ……」


 はああ、もっと言うと2年前はあたしの後ろを

勝手に着いてきてくれるぐらい可愛かったというに、

それに比べて今の三香ときたら。


「まあそっか……

どんな可愛いやつでも成長はするんだよなあ」

「なんか言ったー?」

「なんでもないよ」


 とにかくあたしも残ったカレーを全て口に頬張り食べ終えた。

 涙をのみこみながらね。


「食器は自分で持っていけよ?」

「分かってるー」

「さて、そろそろ姉さんも風呂からあがる頃だし

晩酌の準備でもするかね」


 ははっ、姉の晩酌の用意をする妹とか考えられんわな~。

 いつもは母さんが準備してるんだけどさ。


「えっと、つまみはどこだっけな?」


 台所の戸棚、冷蔵庫、食器置き場と探したけど

どこにも見当たらなかった。


「あら、もう切らしてたっけ?

なあ三香ー、姉さんのお菓子何処あるか知らないかー!?」


 お菓子は三香に対するつまみの隠語でね。

 三香にこれ以上悪影響を与えない苦肉の策さ。


「知らなーい! 言っとくけど、わたし食べてないよー?」


 流石に姉さんには逆らえないもんな。

 普段姉は大人しい人だから、怒らせると逆にヤバい。


「そっか、まあいいや」


 ちっとめんどくさいけど、

あたしは仕方なく冷蔵庫にある野菜を

ちょちょいっと調理する事にした。


「まあ、サクサク切ってマヨネーズぶっ掛けるだけなんだけどねー」


 ははっ、ものの一分でおつまみ完成だぜ。


「さて、これはあっちで(冷蔵庫)で冷やしとくとして、

汚れた皿でも洗って片付けるか」


 ふと時計を見てみれば、

いつの間にか姉さんが風呂に入って30分は経ってる事に気付いた。


「もうそろそろだろうな、あとはテーブルを拭いてと……」


 そんな時突然、

黒い物体の様な何かが二階の階段にいた気配がした。


「んっ? 今なんか2階の方に何か……まさかっ!」


 例の黒くてテカるアレか……マジかよおい!

 考えるだけでもおぞましい、頭文字Gのアレが!


「見なかった事にしよう……

アレはあたしにとっては手に余る存在だ……っ!」


 黒いアレにしてはデカい気もするが

、どっちにしたって見たくないわーっ!


「二実ー、アレの用意はオッケー!?」


 浴室前の洗面所から姉さんの大きな声が聞こえてきた。


 一応だけどアレってのは晩酌の事ね。

頭文字Gじゃないからね、

あたしも今神経超過敏なんだからさ!


「おーう、オッケーだよ姉さん!」

「さんきゅー二実! 褒めて遣わしてあげるわー!」

「はいはい」

「はい、は一回でしょー?」

「分かってるよ姉さんたら!」


 まったく、相変わらず人の事を子供扱いする姉だな。


 それから姉は3分ぐらいして、

年甲斐もなく可愛らしい薄紫色の寝巻きを着たまま、

ボディタオルで綺麗な緑色のストレートロングヘアを

拭きながら食卓へとやってきたのさ。


 そんで姉の胸は豊満……羨ましくなんかないっての!

 本当にね!


「はあーっ、いいお湯だったわ~っ!」

「それは良かったよ」


 気を取り直したあたしは早速、

冷凍庫でキンキンに冷やした缶ビールと

即席おつまみのきゅうりサラダを食卓に並べた。


「あら、いつもの乾き物は無いの?」

「ごめん姉さん、隅々まで探したんだけどどこにも無くってさ」


 乾き物が無いと分かった時の姉さんの顔ときたら、

そりゃとんでもなく落ち込んでた。


「ガーンっ! まあ仕方ないわね、

このキンキンに冷えたビールがあるだけでも有難いしねっ!」


 いつもならちょっとでもおつまみを忘れると

相当グチグチ言うのに、

今日は何も言わないもんだから逆に怖いがな。


「ははっ……なんてこったい」

「どうかしたの二実、私の顔に何かついてる?」

「いや、なんでもないよ。

ただ、今日は姉さん気分良さそうだったから気になってさ」


 あたしが話してる間に缶ビールのタブをパチッと開けた姉さんは、

「ゴクゴクゴクっ!」と勢いよくビールを飲み始めた。


 というか一気飲みだ。体に悪そうだな、もう。


「ぷはぁーっ!

いやぁ、今日のビールはいつも以上に美味しいわーっ!」

「ははっ、ホントに美味しそうに飲むよね。

特に今日の姉さんはさ」


 いつもはグチグチ文句言いながら飲んでるのにな。


「当たり前よー! 実は今日ねえ……なんとねえ!」

「うんうん」


 勿体ぶってないで早く話して欲しいもんだ。


「少し気に掛けてたイケメンの同僚さんと、

ランチを共に過ごしたのよっ!」


「へえ、そうだったんだ」


 ああはいそうですかって思っちゃった自分がいるけど、

それだけは死んでも言葉にできんな。主に自分の平穏のために。


「マジヤバいっ!

まさか、あの人から私を誘ってくれるなんて……くくうっ!」


 確かに姉さんは身長も168と背も高くてスタイルもいいし

顔もそれなりだ。まるでモデルさんだね。

 だが性格の方はちょいと難があってワガママなんだよなあ。


 かと思えば自分に自信がないというかなんというか……

とにかく気まぐれ屋さんなんだよホント。


「そっか、ついに姉さんにも念願の春が訪れるのかー」

「なんかその言い方は引っかかるけど……まあいいわ!

だって、私大勝利だしぃ~っ!」


 まだその噂のイケメンさんと付き合ってるワケでも無いのに

このはしゃぎよう、我が姉ながら実に幸せそうである。


「あははっ! まあこれで姉さんも、晴れて彼氏持ちになるってワケだ」


 そう簡単に上手くいくかは知らないけどさ。


「そうよーっ! 二実、あんたも悔しかったら

私のように積極的に行動をしなさいな~っ!」


「うん、分かってるってば」


 分かってはいるけど、うちは女子校だし出会いが無いんだってば!


「ゴクゴク……ぷはぁーっ!

ああ、ビールがこんなに美味しいなんて……し、あ、わ、せっ!」


 さっそく、姉さんは2本目のビールを開けて飲み始めてしまった。

 これはもう止めらんないな。残りのビールは後で隠しとこっと。


「姉さん、明日も仕事あるんだからあんまり飲み過ぎないでよね?」

「分かってるってばーっ! 二実ちゃんのいけず~っ!」


 そのちゃん付けはやめて欲しいっ、何故なら気持ち悪いから!


「はあ……まあ姉さんもオトナだし、飲み方ぐらいは分かってるか」


 でも一応、酒は隠させて頂きますがね。


「ところで二実?」

「な、なに!?」


 ちっさい独り言が姉さんに聞こえてたと

勘違いしたあたしは非常に驚いた。


「えっとお……私って女として魅力ある……のかな?」

「えっ、いや、そりゃまあ」

「そりゃまあ?」


「……歳の割にカワイイ顔だし、

それでいてスタイルいいし、

肌や髪のお手入れも完璧でしょ、

だからあるんじゃない?」


 自分の姉をここまでベタ褒めるなんて恥ずかし過ぎる……。


「二実、あなたって我が妹ながらエロい子なのね~!」

「う、うるさいよ姉さんっ!

あたしはただ、本当の事を言っただけだよ!」

「ふふっ、ただの冗談だからそんなに怒らないで」

「まったく、姉さんはいつもさ!」


「いつもありがとね」

「えっ?」


 今、姉さんはなんて?


「二実にはお世話になりっぱなしだからね」


 ああ、そっか。


「別に……ただあたしは自分のしたいようにしてるだけだし」

「ふふっ、いつかはお母さんの問題も私がなんとかあげるから」


 いつもは頼りないと思う姉さんだけど。


「うん。でもその時は、あたしも手伝うから」

「お願いするわね」


 なんだかんだで、頼りになる姉なんだなあ。


「というワケで3本目の缶ビール、ちょーだいっ!」

「ダメです! 一日2本までって決めてるでしょうが!」


 まあそんな事だろうと思ってたけど、

せっかくの姉の威厳が台無しだよっ!

 でもまあ、こっちの方が姉さんらしくていいかなって思うんだけどさ。


「うふふふっ!」

「あはははっ!」


 気付けばあたしら2人は楽しそうに笑ってたよ。

 よくわからないけど本当に楽しくて仕方なくてさ。

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