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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
21/52

第19話 パジャマパーティーは突然に ― 後編

 そんで今あたしは一葉姉さんの部屋の中に入って

灯りを点けたわけだが、

相変わらず床がすごいゴチャゴチャしてる事に気付く。


 ナニでゴチャゴチャしてるかって、沢山の洋服なんだよなあ。

 まあどれもオシャレな奴ばかりだから、センスはいいんだろうね。


 んで、あたしが言うのもアレだけど

姉さんたらマジズボラすぎんぜ。


 ま、今はともかく姉さんをベッドに寝かせ付けるか。


「ほら姉さん、ベッドはこっちだよ?」

「ええ~、じゃあじゃあ二実も一緒に寝よ~?」

「バカ言いなさんな姉さん。

あたしは自分の部屋があるんだからそっちで寝るがな」


 そんでベッドの上に仕事で着てたスーツが散らばっとる。

 あかんなあ、ちょっと床に投げとこうかね。


 よし、これで何とかベッドは空いたぜ。


「さあ姉さん、ゆっくり降ろすから足元気を付けてなあ」

「お餅を食べたいよぉー!」

「わけわからない事言ってないで早く寝なさい」


 あたしは思わず強引に、

ベッドの上に姉さんを投げちゃったのさ。


 だが大丈夫、姉さんのベッドはフワモコで柔らかいし、

ホテルで見れる様な大きな枕だってある。


 なんら問題ないって。


「うーん……お母さんのイジワルー……」

「あたしゃ母さんじゃないよ」


 ダメだねこりゃ、完全に酔いつぶれてるわ。


「くー……すー……」


 はは、そんでベッドで寝転がったらこの通りグッスリだぜ。


「じゃあね姉さん、お休みー」

「あいあーい……すー……」


 うむ、若干意識はあるけど放っておいて風呂にでも入ろ。



「ぐす……ひう……!」


 というわけで1階廊下に戻ってきたあたしだったが、

居間からぐずるクレアさんの声が聞こえたもんで、

ちょいと気になって仕方がなくなりバレない様に近付き

耳を傾ける事にした。


「大丈夫よクレアちゃん、あなたのお父さんは

何も気にしていない様子だったわ」

「本当に……? わたくし、あんなワガママを言った挙句に

お父様のことバカ呼ばわりしたのに……っ」

「ふふ、むしろあなたのお父さんは笑っていたわ、

『娘が初めて駄々を捏ねた、これはいいものを見れた』

という感じでね」


 クレアさんは母さんに抱かれ、頭を撫でられながらも

宥められていた。


 うむ、娘のあたしがちょいと嫉妬しそうな程の甘えっぷりだなあ。

 いや、別にあたしは嫉妬しないけどさ。


「そうでしたの……良かった……

良かったですわ……!」

「ふふ、クレアちゃんはとても優しいのね」

「そんな……」


 そっか、母さんに抱き付きながら

クレアさんは泣いていたのか。

 そりゃあ後輩にこんな場面を見せるなんて、

嫌だろうな。


 ……いいや、これ以上聞いてるのも

クレアさんに申し訳ないから、さっさと風呂に入ろ。


 でも理由は後で母さんから是非とも聞きたいもんだ。



 そんなワケで更衣室で制服全部を脱いだあたしは、

浴室で体を洗ってから温かい風呂に浸かってたわけさ。


「はあ~、生き返るわあ……」


 なんか、全ての疲れが消え去ってしまうような

心地良さじゃあ。


「それにしてもクレアさん……かあ」


 初めて会った時は、何かこうミステリアスな感じがして

あたしの事を何でも見透かしていそうな

雰囲気を醸し出してた。


 だからあの時のあたしはクレアさんに対して

だいぶ距離を置いていた気がする。


 しかもテニスで心をフルボッコされたわけだしな。


「ふああー……」


 でも徐々にクレアさんがどんな人なのかが、

島百合団に入ってからよく分かったよ。


 大浴場に行くにも時間がもったいないからと横着したり、

時たま物凄く稚拙な言葉使いになったり、

誰にも相手にしてもらえなくてぐずったりする。

 そんでウチの母さんに子供の様に甘える普通の女の子なわけで。


 つまりなんて言えばいいのかね。


 そんなに心から冷たい人間とはあたしは思わないし、

無理して思う事もできない。


 だけども夏は確かにこう言ってた、

『外面がいい人ほど裏で何を考えてるか分からない』

 って感じでさ。


 なんだろうね一体、夏はあたしに何を伝えたかったのかね。


「なんだか……今は夏の心が一番読めないや」


 でも、それでもあたしに尽くしてくれる夏は

あたしの親友以外の何者でもない。


 だから夏の気持ちを蔑ろにはしないし、

裏切ることなんてあたしは絶対にしない。


 まあ、もしかしたら島百合団に入った時点で

あたしは夏の心を絆ごと引き裂いてしまったって

可能性もあるんだが。


 今朝だって、あたしを置いて先に学園へ

行ってしまったって話だったし……。

 夏が学園を休んでない時はいつもなら絶対、

あたしをぷんぷん怒りながらも起こしにやってくるんだけどな。


 しかも何の連絡もないもんだから、

待ってて遅刻しそうになっちゃったわけだし……。


「……ああもう、らしくないぞあたし!」


 あたしは大量の浴槽の湯を両手で汲んで

思い切りバシャリと顔面にぶち撒けた。


 少し痛かったけど頭がちょいとだけスッキリしたわい。


 とにかくアレだ、考え過ぎるなあたし!

 今は自分のできる事だけでもやるべきだろ!


 それに島百合団に入ってまだ1日だ、

きっと夏も今朝は急いでてあたしの存在を忘れたんだろう!


 あたしは浴槽から出て桶に冷たい水を

蛇口で注いでから、覚悟を決めて頭から被った。


「ちべてえー!」


 ガチで冷たかったけど、これで頭は完全にスッキリした。


「さあ秋月二実、ウジウジするのはやめて

今宵はクレアさんを楽しませることだけに徹するのだ」


 鏡で自分の顔を見ながらそうやって自己暗示を掛け、

あたしは水色パジャマに着替えて

まず母さんのいる台所に向かったのさ。



 時刻はもう9時半、今日は父さん帰ってくるの遅そうだから

母さんが怒ることはないだろうね。


 そんで台所に行くと、夕飯の後片付けをしてる母さんがいた。


「母さーん」

「あら二実ちゃん、クレアちゃんならあなたの部屋に

ご案内しておいたわよ?」


 母さんは食器を洗いながら会話を続ける。


「そっか、もちろんベッドだよね?」

「ええ、その代わりお部屋の床を少し掃除して

お布団敷いておいたから

今日だけでも二実ちゃんはそこで寝なさい?」

「うん、分かってるさ」


 それにしても布団かあ、久しぶりな感じだなあ。


「それじゃあ、ワタシは後片付けが終わったら

お隣さんに戻るから

二実ちゃんはもう部屋に戻っていいわよ。

朝6時頃に、御飯の用意しに戻ってくるから」

「うん、分かった」


 因みに何故朝6時かって言うと、

父さんが既に出勤している時間だからなのさ。


 早いなあ、うちの父さんたらちょいと

仕事熱心すぎやしないかいって思っちゃうわ。


 そうか、つまり深夜12時に帰ってきて

朝6時前に出勤するから飯やいろいろ準備の

時間とかを考えると実質4時間しか寝てないのか……。


 あたしには考えられないわあ。


 とにかくあたしは、そんなことを考えながら

自分の部屋へと向かっていたわけですわ。



 んで部屋に来てみたらクレアさんは、

あたしのベッドには寝転ばずに何故か

床に敷いてある布団の上に

足を崩して座ってたわけ。


 そんで部屋中をチラチラと物珍しそうに見回してた。


「あれ、どうしたんすかクレアさん?」

「あっ、ごめんなさい二実。

ごく一般的な家庭の一室に泊まるのは

わたくし初めてでして……」


 ああ、一応部屋を見回してたことを

申し訳なく思ってるのか。


 へへ、別に気にせんでいいのになあ。


「大丈夫ですよクレアさん、

別に見られて困るような物はないすし」

「そうですの?」

「そっすよ。それよりもクレアさん?」

「どうかしまして?」


 クレアさんキョトンとしながら首を傾げる。


「いえね、母さんからあたしのベッドに寝る様に

言われなかったのかなって思ってですねえ」

「あっ……ええとそれは……」


 なんだろ、クレアさんがあたしから目を逸らすなんて

割と珍しいぞ。


 なんせ、いつもはキッとこちらを睨み付けながら

話すからなあ。


「あっ、もしかしてあたしのベッド……くさい?」

「そんなことは決してありませんわ!」


 うお、そんな大声で発したら三香とか起きちゃうって。


 それにまかり間違って酔っぱらいの姉さんなんかが

起きた日には、目も当てられない事になりますばい!


「クレアさん、シーッ!

三香や姉さんが起きちゃうってば……」

「あっ、ごめんなさい。

わたくしとしたことが……」


 そっか、この感じだと臭いの問題じゃあないんだな。


「大丈夫ですよクレアさん。

それじゃあ、どうしてです?」

「だって……二実のごにょごにょ……」


 うん? 声があまりにも小さすぎて聞き取れなかったぞ。


「クレアさん、もっとハッキリと言ってくだせえ」

「あっ……とにかく!

あなたに申し訳がありませんし……」

「ん? 別にあたしは布団でも硬い地面でも

どこでも寝られるんだけどなあ」


 むしろ久しぶりに布団で寝たい気分だぜ。


「そう言うわけですので、わたくしはお布団で

寝かせて頂きますわ」


 困るなあ、それだとあたしの良心の呵責が

落ち着かずに寝られないんだよなあ。


 どうすっぺかなあ。


「そうだクレアさん、あたしいい事思いついたんだけど」

「なんでしょう?」

「あたしと一緒にベッドで寝ません?」

「ぶふっ!」


 あたしがそう提案したら、

何故か知らんが思い切り吹き出すクレアさん。


 でも笑ってるわけではなく、

非常に驚いてる顔してたね。


「ゴホッ、ケホッ、ケホッ!」


 そんですごい咳しまくってるし。


「ど、どうしたんすかクレアさん。

だ、大丈夫すか?」

「……二実が変な事を仰るから

嫌な汗掻いてしまいましたわ」

「ええー?」


 どういうことやねーん。


「と、とにかく……そんな提案……

受け取って……あげなくもないけど……

やっぱりその……心の準備とか……

いろいろと……」


 あれ、なんかこの人自分の世界に

トリップしてないかい?


 しかも顔が真っ赤だ、熱でもあるのかもしれんな。


「おーい、クレアさん大丈夫ですかーい?」


 とりあえずおデコ触ってみるか。


「ひっ……」

「うん、とりあえず熱は無いみたいだなあ」

「あ、あの……二実……?」

「どうかしました?」

「わたくし……やっぱり二実のベッドで

一人で寝ますから、

もう放っておいてくださいましーっ!」

「おわっ!?」


 んで、クレアさんはものすごい勢いで

あたしのベッドの上に乗ると、

掛け布団を頭から被って

そのまま動かなくなっちゃたよ。


 なんというかダイナミックだなあ。


「はは、それじゃあお休みクレアさん」

「……まだ寝ませんけどね」

「おわっ」


 クレアさんが亀の様に掛け布団から

頭だけ出してた。


 その顔はすっかりいつものキリッとしたクレアさんだから、

もう大丈夫なんだろうね。


「いい機会ですから、

お互いの悩みかなんかをお話しませんこと?」

「え、まあいいですけど」


 悩みかあ、あたしにとっての悩みって言ったら

アレの件しかないんだよなあ。


 女の子にしかモテないという、アレの件しかな!


「初めは言いだしっぺのわたくしから仰いますわ」

「おっ、珍しいすねクレアさん」

「何がですの?」

「えっと、なんでもありませんすわ」


 以前はこんな積極的に自分の事話さないじゃんとか

口が滑っても言えないべ。


「そう、それならよろしくてよ」

「あははーっ」

「それでは始めますわ……。

わたくし今日……お父様をとっても下らない理由で

一方的に怒ってしまったの」


 あ、これってさっきの件かな。

 まさかクレアさんが自分から話してくるとは

思ってもなかったぜ。


 とにかく今は何も知らない体で聞いとこ。


「そうだったんすね、理由はどんな感じです?」

「ええ、昨晩ネットサーフィンをしててふと

どうしても欲しくなってしまったネックレスが有りまして

それを強請ったのです」


 あら、意外と可愛い理由なのねクレアさん。


「へえ、因みにどんなネックレスです?」

「ええ、10カラットの大きなブラックダイヤモンドを

一粒下げた純金のネックレスですが」


 は?


「ええと、因みにそれの相場はいくらぐらいです?」

「さあ、あまりお値段を気にしてませんので

あれですけれど……換算すると1億程度ではなくて?」


 あれ? 次元が違い過ぎて着いて行けないぞ。

 つうかあれ? あたしのお小遣い何年分だっけ……

あたしの月のおこづかい5千円だからあ……

約1600年分かあ。


 あっは、不老不死じゃないと賄えないじゃーん。

 って、そう言う問題じゃねえよ!


 いや待て、とりあえずあたし落ち着け、落ち着けあたし。

 素数を数えるんだ……2、3、5、7、9……

9は素数じゃないじゃん!


 まあ少し落ち着いたからいいや。


「ええっとクレアさん、そりゃいきなり1億のモンを強請ったら、

そりゃ幾ら親でも喧嘩になるんじゃ……」


 いや待て、たしかクレアさんは

一方的に怒ってたって言ったな。


 あれ、クレアさんが一方的に怒ってた、

で良かったんだっけ?

 なんかこれ、普通に構図が逆じゃないか?


 あかん、1億という単位のせいで頭がこんがらがって

正常な判断ができん。


「いいえ、喧嘩ではなくあたしが一方的に

怒ってしまったの……」


 ほら本人もやっぱりそう言って……

尚更分からんわ!


「いえねクレアさん、なんかクレアさんが怒る理由が

まだ分からないのですけど……」

「あら、だってまだお話は続くもの」

「あっ、さいですか」


 まあいいや、とりあえず話を全部聞いてから

頭の中を一度整理しよう。


「するとお父様ったら、

『クレアに似合うのはどちらかと言えばこっちの20カラット

ブリリアントカットダイヤのプラチナネックレスの方が

可愛らしくていいんじゃないかな』

なんて仰るもの!」

「ええと……20カラットのダイヤってなんですか?」


 そんなクソ重量級のダイヤ、

聞いた事すらありませんが何か問題でも?


「重量とかお値段とかはこの際どうでもいいんですの!」

「ええー?」


 いえ、どうでもよくありませんよ。

 庶民のあたしから言わせてもらえればね!


「もう16にもなるわたくしにお父様が

お子様が着けるような可愛らしいネックレスを

選んだことがわたくし許せませんの!」


 ああ、本当にどうでもいい理由だった。


 というかお子様はダイヤなんて身に付けねえよ!


 それにしてもマジで怒ってるのな。

 だってここまでヒステリー起こすんだもんよ。


「そ、そうですか」

「ですがその……

わたくしちょっと言いすぎましたわ……」


 ヒステリーが治まったら、

お次はいきなりのダウン系ですわ。


「えっと、どんな風に怒ったんです?」

「はい……バカとかアホとか……

挙句にお父様の顔なんて

見たくもないと言ってしまって……」


 うん、完全に小学生が親に対して行う

ほろ苦い青春的な罵倒だ。


 つうかこの人、たまにクソ汚い言葉吐くじゃんか。


 だけどまあそれは置いといて、

今あたしは猛烈にこの人を抱き締めてやりたい。


 でもそれやっちゃうと話が進まないんで自重しよ。


「そっか、つまりクレアさんは言ってしまった事を

後悔してるってワケなんすな?」

「ええ……その通りですの……」

「クレアさん一言いいですか?」

「なんでしょう……」

「ぶっちゃけ、クレアさんの父さんは

全然気にしてないと思うな」


 これなら、あたしがまだ思春期の頃

父さんに対してクソひどい事言った時よりも

マシだしなあ。


 え、あたしが昔父さんに対してなんて言ったかって?

 そんなの決まってるじゃないか。

 今となっては、とても口にはできないひどい事さ。


 だからあたし、もうそんなひどい事しないってば。

 え、答えになってねえだって?


 と、とにかくクレアさんの顔が

なんか落ち着いてるしいいじゃないか、ほら!


「二実もそう思いますの……?」

「当り前ですよ、むしろその程度の罵倒で

落ち込むほど精神の弱い人だって言うならすね、

世界を占める製薬会社の社長なんて

やってられないんじゃないすかねえ」

「……そうですわね、二実の言う通りですわね!」


 よし、やっとこさいつもの様な元気を取り戻したかあ。


「そうそう、だから明日学園が終わったら

真っ先に戻って謝った方がいいってば」

「ええ、是非ともそうするわ。

ふふっ、本当に二実の家庭は居心地が良すぎます」

「へへ、別に悩んでない時でも

遊びにきてもいいんですぜ?

母さんが紅茶を用意して待ってるからさ」

「ええ、今度は手土産を持って

失礼させてもらいます!」


 おおう、クレアさんが持ってくる手土産かあ……。

 こりゃヤバいぐらい高級なお菓子が来るに違いない!


「えへへー……」

「二実、顔がバカみたいに緩んでますけど

どうかしまして?」


 あかん、あたしの考えが顔に出てたし!


「な、なんでもないっすーっ!」

「そう?」

「本当ですよクレアさーん」

「そう、それならよろしくてよ。

では、次は二実の悩みを聞きたいわ」

「そりゃもちろん、おん……」

「女の子にモテる関連はこの一言だけで済んでよ?」

「ま、マジすかクレアさん!」


 そんな極意、あたしは早く知りたいんだけど!


「ええ、簡単ですわ。

優しくしなければいいし、

冷たく当たればいいわ」

「はい却下」


 即答さ。


 あたしは女の子の心を傷付けてまで

男の子にモテたいわけじゃないからね。


 女の子の可愛らしい笑顔を眺めつつ、

男の子と円満な恋をしたい。


 ワガママかもしれないけれど、

それがあたしのモットーってやつなのさ。


「でしょうね……。

では、他に悩みはありまして?」


 他の悩み……悩みねえ。

 三香の事もだいぶ心配だが、

それは家族であるあたしだけで解決したいし。


 だからって他に悩みは……ん?

 そうだ、一つだけあったぞ。


 割と重要な悩みがさ。


「クレアさん、真面目な話でアレなんすけど

聞いてくれます?」

「ええ勿論。

むしろあなたから真面目だなんて単語が

出てくるとは思いもしなくってよ」


 あはは、あたしゃ万年

テンションマックスガールだからねえ。


 ちょっとやそっとの事じゃあ落ち込み話なんて

口にしないっすわあ。


「では話しますけど……。

最近、夏の考えている事がよく分からないんす」

「夏さんってたしか、いつもあなたの側にいる

黒いボブヘアをした大人しめの方でしたか?」

「そうです、でもあたしが島百合団に入ってからと言うもの

全然一緒にいてくれないんです。

今朝方もあたしの家に寄る事無く先に学園行っちゃうし」

「うーん、二実の気のせいではなくって?」

「え、やっぱそうなんすかね?」

「だって、あなたが島百合団に正式に入ってから

まだ1日しか経っていないですもの」

「ですけど……いつもの夏と何かが違うんすよ」

「何が違うと?」

「なんか、夏の態度が若干冷たいと言うか……

もう2度とお前となんか話すもんかってな感じなんすよね」

「そう……」


 ん、何故かクレアさんが落ち込んでらっしゃる?


 ああそうか、もしかしたら自分のせいだと

思い込んでるのかもしれないな。


「えっと、クレアさんがそんなに悲しまなくてもいいんすよ?

きっと夏にも何か考えがあってやっているのかもしれないすし」

「いえ、別にわたくしは夏さんの事を気にしてはないのだけど」

「えっ?」

「ですが、それで二実が苦しんでいるのなら……

本当に申し訳ない事をしてしまったと思って」


 そっか、クレアさんは一応あたしの心配を

してくれているわけか。


「ありがとうクレアさん」

「いえ……」

「ですがあたしは大丈夫っす。

島百合団にいざ入って見れば、

たったの1日で悩みの多そうな

女の子を見掛けたわけですし」

「それはどういう意味ですの?」


 決まってるじゃんクレアさん。


「それは島百合団の健気な女の子全員を

幸せにしてあげようといった

あたしのくそお節介プロジェクトなワケなんですわ。

もちろんそれは団長も入ってるっすよ」

「あなた……心底バカではなくて?

団長からもあんなひどい事をされて、

よくもまあそんな事を……」


 なんだ、クレアさんも団長のやり方は嫌いなんだな。

 そりゃそうかあ。


 それにしてもやっぱり、あたしゃクソバカ野郎だね。


 でも心のどっかで寂しそうにしてる女の子は

全員救済するのだ。


 それが、昔のあたしみたいに一人寂しく遊ぶ奴を救う

唯一のやり方だと信じてるからね。


 そんで、この事を気付かせてくれたのが……

日向夏(ひゅうが なつ)、あたしの無二の親友だもんな。


「ええ、大バカですとも。

だが、あたしは諦めませんぜクレアさん」

「ええ……もうあなたのその癖はどんな事があっても

直せそうにないもの。

……これは夏さんも気苦労を起こすわけですわ」


 ん、最後の言葉が小さくて聞き取れなかったんだけど。


 そんで何故か呆れた顔をあたしに向けてるし。


「何か言いましたかクレアさん?」

「何でもありませんわ。

いいわ、そこまで二実がそう仰るのなら、

あなたの好きな様にしてみれば

良いのでは?」

「ええ、言われなくてもそうしますよ」


 あたしがそう言ったら、

いきなり満面の笑顔を向けてくるし。


「まあ、そこが二実のいいところですものね。

わたくしも心の底からあなたを応援してますわ!」


 そんな笑顔で言われたら

あたしもなんかニヨニヨしちゃうじゃんか。


 だからベッドに飛び乗ってでも抱き付いてやんよ!


「わーんっ、マジ可愛いよクレアさ~ん!」

「こ、こら二実!

いきなり抱き付くのはやめなさい!」


 やだねっ、そんな可愛い反応されたら

尚更離せないもんね!


「デュフフフフ!」


 ああ、あたしは今猛烈に幸せやあ……。


 とはいえ、夏の事は本当にどうにかしないといけない。

 だってこのままだと、

2度と夏とは話ができなくなりそうだもんな。


 この精神状態、割とキツいな……。


 いつも近くにあるモノが近くに無くて、

心にポッカリと穴が開いた感じ……本当に辛い。


「……二実、顔が辛そうでしてよ?」


 いかん、今は無理して笑ってなきゃ!


「へへ、あたしゃ全然大丈夫だよ!

へーきへーき!」

「……そんな無理して笑っていないで、

今は泣いた方が楽になってよ?」


 あかんってあたし、今泣いたら……。


「涙……止められないじゃん……」


 ダメだ、涙腺崩壊だ。

 無理して笑顔作ってもダメだ、止まんない。


「いいの……

今はわたくしの胸で泣きなさいな……」

「ありがと……クレアさん……」


 あたしは甘える赤ちゃんの様に、

クレアさんの頼りない胸に顔を埋めて涙を流す。


 でも包容力はかなり頼りになる。


「うう……ひぐっ……」


 ヤバいわ、

どうしてか知らないけど涙が止まんないわ。

 大泣きはしないけども、ジワジワと出てくる。


 おかしいなあ、こんな事……

いつもなら絶対にないんだけどなあ。


 やっぱりアレかな。

 あたし、夏から見捨てられたのかな。


 まだ1日しか経ってない筈なのに、

それがこんなに辛いなんて

思いすらしなかったし……。


 最後に7階の自由食堂で、

あたしに飛び掛かった時の夏の寂しそうな顔が

尚更不安な気持ちにさせてくれるし。


 あれならまだ、素直にぶん殴られた後いつもの様に

呆れ顔された方が何十倍もマシだわ。


 ダメだ、考えれば考える程

マイナスに事が進んでいく。


 その度に涙が止まらなくなる。

 まさに負のループって奴すわ。


「大丈夫、

今はわたくしが着いてますから……」


 そんなあたしをクレアさんは落ち着くまで、

いつまでも受け止めていてくれたよ。



 そんなこんなであたし、どれぐらい泣いたっけ。

 もう夜の10時を回ってたから、30分ぐらいかな。


「ありがとう……クレアさん」


 やっとこさ落ち着いたあたしは、

クレアさんの胸から顔をどかしたよ。


 あーあ、きっと今のあたしは目元が真っ赤で

不細工なんだろうなあ。


「ふふ、らしくないわね二実」


 そんでイヤミなクレアさんのその一言。


「そんな事言われても……」

「さあ、そこまで悲しむのなら二実も明日、

やる事があるのでは?」

「……うん、分かってますクレアさん」


 明日全てやる事が終わったら、夏と二者面談だ。

 時間はどんだけ遅くなっても構わないさ。


「そう、じゃあ最後に一つだけよろしくて?」

「なんすか?」


 そんでクレアさんは何故か左手を上げ、

かと思ったら勢いよく下げて

あたしの左頬をビンタしてきやがった。


「あぎゃあああっ!」


 バチーンと凄い気持ちいい音と共に、

あたしの左頬からとんでもない痛みが走る。


「闘魂注入って奴ですわ」

「い、いきなりひどいっすクレアさん!」

「でもほら、これでスッキリしたでしょう?」


 ええまあ、とんでもなくスッキリしましたとも。

 むしろ、あたしもクレアさんに闘魂注入してあげたい気分だわ。


 だけどまあ、あたしの中で何かが吹っ切れたわけですし、

これで良かったんすわ。


「ええ、なんか考えがまとまりました」


 その代わりあまりの衝撃にちょっと、

頭のネジも数本飛んでそうですがな!


「さあ二実、こんなところでウジウジと悩むぐらいなら

明日はきっといいことあるさって思い直して

前を向いて歩くのですわ!」

「もちろんですとも、クレアさん!」


 とまあ夜も10時を回った時間帯にあたし達は

はしゃいでいたわけで。


 そんで11時を迎えて急激に眠くなった

あたしが床に敷いた布団に潜ると、

クレアさんもあたしと同じ様にベッドに潜り、

そのまま夢の世界へと落ちていってしまったんだ。


 これで今日のパジャマパーティはお開き。


 クレアさんの意外な一面が見れて良かったと思った。


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