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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
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第1話 暴れん坊、三香は元気な女の子

 ざわめく木々の並ぶとある馬鹿でかい学園の中央口から

あたしは親友の女の子と帰りを共にしてた。


「はーあ、最近暇だねえ?」

「仕方ないよ、私達は平凡な女の子なんだし」

「平凡な女の子、ねえ?」


 隣に歩いてる親友の名は日向夏(ひゅうがなつ)

モミアゲ長めで黒髪ショートボブの似合う可愛い系女子。

瞳はどことなくおっとりしている。

身長は157センチだけど、割と育ちがいい。


 まあ、はたから見れば可愛い普通の子なんだけどなあ。


「……何か言いたげね、二実ふみ

「ちょ、ちょっと! 拳を握らないでくれる!?

暴力は反対だよ!」


 この通り喧嘩っ早いのさ。


 因みにあたしの名前は秋月二実あきづきふみ

 身長165センチ、体型痩せがた、目はキリッとしてるらしい、

オレンジのナチュラルショートに、

うなじ上に一本のやや細い髪を結わえてる。

 スレンダー過ぎて胸すらナインダー……死にたい!


 そんであたしはゲームとか漫画とかラノベとか大好きで

影響受けまくってんだけど、

それ以外に特徴なんて何もない所謂普通の女の子なのさ。

 本当だよ?


「だって二実の目線に悪意を感じたんだもの」


 落ち着いた夏は握っていた拳を緩めて、

ゆっくりと元の位置に戻してた。


「あははっ、だって空手道場の一人娘で

黒帯持ちの女の子なんてさあ。

ちょっとあり得ないじゃん?」

「まあ、そうかもしれないけどね……。

でも私その事をつつかれるのは好きじゃないかも」

「うんごめん、あたしが悪かった」

「それにしても二実?」

「ん?」


 とつぜん真剣な眼差しをこっちに向けてくる夏に、

あたしは疑問を浮かべた。


 こりゃ夏の嫌な部分が見れるかもな。


「もう少し勉強した方がいいんじゃないの?」

「いや、でもさあ。あたし勉強とか苦手だしぃ……」

「そうやってやな事から逃げてるから点数悪いんだよ?

特に数学とかね」


 ほら見たことか。


 あたしの夏が嫌なところはこの部分かな、

ちょっとおせっかいがすぎるんだよね。


 まあ、あたしの事を心配してくれてるのは分かるけどさ。


「あはは、まあ大丈夫だって!

まだ一年生の2学期目だし、

なんとか赤点は取ってないしさー」


 あたしはケラケラ笑ってた。後で後悔しそうだけどね。


「二実、その油断があとあと命取りになるんだよ?」

「分かってるよー、あたしは大丈夫。

やればできる子だからさー」


 あたしがそんな無責任な事言ってると、

夏の顔に影を帯びてくる。おお怖い。


「……あのね、二実が勉強の事でつまづいても

私は何も手助けしないよ?」

「ごめん、それだけは勘弁してっ!」


 頭いい夏に見捨てられたら、

あたしは今度こそ試験に落ちそうだって!


「それがイヤなら少しは勉強の方にも力を入れなよね?」

「わーい、ありがと夏ー! そんな夏が

あたしは大好きだよー!」


 と、あたしは勢い余って歩きながらも夏に抱き着いた。

 そんで二人で歩道の真ん中で立ち止まっちゃうってね。


 もちろん、ただのスキンシップだよ?


「ちょっと二実っ、離れなさい!」

「えっへっへ、よいではないかよいではないかあ!」


 よく考えたら昔っからこういう事ばっかして

夏をからかってる気がするなあ。


 だって夏の顔がいっつも照れくさそうで可愛いんだもんよ。


「もうっ、いいかげんにしないとゲンコツあげるよ!?」

「おお、こわいこわい。分かってるってば、すぐ離すからさあ」


 あたしは夏からサッと離れて隣に並んで歩き始めた。


「あーあ、それにしても彼氏欲しいなあ」

「……なんでそんな話をいきなり?」


「んー、だってさあ。夏の抱き心地がこんなにいいんだから、

男の子に抱き着いたらもっと心地いいのかなって……」

「ふ、二実の変態っ! 抱きつき魔!」


 夏にいきなり罵倒されて、あたしは吃驚した。


「ちょっ、いきなり叫ばないで……」

「この、このっ!」

「痛、痛い!」


 しかもあたしの肩をバンバン殴ってくる始末。

 わけがわからない。


「あたっ、拳! 拳で肩を殴らないでっ! いたーっ!」

「バカ、バカっ!」

「ちょっ、やめてぇー!」


 でもすぐに夏は肩を殴るのをやめてくれた。


 その代わり夏の家に辿り着くまで

ずっと口聞いてくれなかったな。

 何か悪いことしちゃったかなあ、あたし。



「ただいまー」


 そんなこんなで家へ帰って来たあたしはドアを開け、

誰かいないかの確認も含めて挨拶してみた。

 けど、誰の返事もないみたいだし居ないんだろうな。


三香みつかぐらいいると思ったんだけどな。

いや、この時間なら外で遊んでるか」


 三香はあたしの妹でさ、いま初等部6年なんだよね。

 初等部ってのは小学生相当の学年のことでさ、

今通ってる学園独自の学年になるわけ。

 だけどめんどいから小6でオッケー。


 三香はいつも髪を変えててね、

最近は水色のロングヘアを

頭上の少し後ろで束ねた大きなポニテしてる。

モミアゲが長し。

 身長は140と小6にしては小さいね。


 クソ元気だけど、たまにワケがわかんない子なんだわ。


「はあ、とりあえず喉乾いたし台所にでも……」

「アイエエエ!」


「はっ!?」


 とつぜん妙な叫び声が聞こえてきたと思ったら、

玄関と台所を繋ぐ短い廊下の天井から、

子供用忍者服を着た三香のやつがオモチャの刀を構えながら、

あたしの脳天目掛けて振り落としてきたのさ。


「甘いよ三香!」


 だからあたしはサッとその攻撃を横に躱してやった。


「避けられた」

「ばーか、いくらオモチャでもそんなもん

まともに食らったら痛いからな。

避けるしかないじゃん」

「下手に叫ばなきゃよかった」

「ていうかあんた、何してんの?」

「見ての通り、ニンジャごっこ」


 相変わらず訳わからない遊びばっかしているが、

今日はマシな方だよホント。


 この間なんかサムライごっことか言って

頭にチョンマゲの様なもの乗せて、

あたしが中2の時に修学旅行で買った木刀を

家の中で振り回してくれやがったもんな。


 その時もちろん反省させたよ。

 あんまし効いてないかもだけど。


「それであんたはあたしの頭を遠慮なく狙ったのかい、ええ?」


 あたしがキッと睨むと、三香は少しシュンとした。


「だって、誰もいなくてつまんなかったし」

「まったく、あんな高いところから飛び掛かる元気あるなら、

いつもの友達と外で遊びなよな?」

「だから、今日はさゆりちゃん遊べないから退屈だし」


 三香は悲しそうにしょんぼりする。

そんな顔されると怒るに怒れなくて困るよ。


 でも注意だけはさせてもらうがね。


「そっか、まあそれはそれとして家の中で

暴れるのはやめておきなって。

母さんに見つかったら、

またうるさく言われるよ?」

「どうせママはお隣さんとこだし」


 そうだった、

母はお隣さんのうちによく遊びに行く人なんだった。

 まったく、我が母ながら困ったお人だよ。


「ああ、確かにそうだなあ……。しゃあないな、

それじゃああたしとゲームして遊ぶか?」

「別にいいよ、ふみちん強いし。それよりお外で遊びたい」


 この姉を姉と思ってない呼び方と態度、

マジでかわいくない!


「まったくワガママなやつだね……

それといつも言ってるけどさ、

そのふみちんって呼び方はやめな!」

「かわいいからヤダ!」

「ったく……あんまし聞き分けないと、

くすぐりの刑を実行するぞ!」


 あたしが両手の指をワキワキさせると、

みるみる内に三香の顔が青ざめてゆく。


「ひっ! やめてよふみちんの変態!」

「言うたな、このじゃじゃ馬め~!」

「きゃーっ、こっちくんなー!」


 あたしが両手をわきわきしながら

三香の脇あたりに近付けようとしたら、

すごい速さで逃げ出しちゃったよ。


「待てこの~! 逃がさんぞ貴様だけは~!」

「ひいー、誰か助けてーっ!」


 いくら全力とはいえ、高校生かつテニス部のあたしが

小6の足に負けるわけがない。すぐに追いついてしまうさ。


「ほれほれ、もう少しで鬼に捕まるぞぉ~!」

「やだぁ……オニババ怖いよおーっ!」


 今こいつ高1のあたしを

オニババ呼ばわりしたな……許せん!


「こんのぉ、もう許さんぞ!」


 あたしが最後に軽いスパートを掛けたら、

あっけなく三香はあたしの魔の手に

捕まってしまったわい。


「はーなーせーっ!」

「さあ捕まえたぞ三香。

どれ、くすぐりの刑をやってやろうじゃあないか~っ!」

「やーだーっ! やーめーてーよーっ!」


 あ、なんだか段々楽しくなってきたぞ。

三香の嫌がる反応もなんかいいし、

何よりニヤニヤがとまんない。


「へっへっへ……」


 だがここはガマンだ、

この分からずやな妹に姉の権限を見せつけねば。


「さあ、くすぐりの刑を食らいたくなかったら、

ふみちんと言う呼び方はやめて二実お姉さまと呼ぶんだな!」

「それはもっとやーだーっ!」


 うーん、実に頑固。こりゃ親父譲りだな。


「この分からずやめえ……。しゃあない、

この姉が直々に極上のくすぐりを

味合わせてやろうじゃないの!」

「やぁーだぁーっ!」

「ぐっへっへ……よいではないかぁ~」

「ひくっ……うう……」


 あ、ヤバいやり過ぎたかも……

今にも泣き叫びそうだぞ三香のやつ。


「あっ、ま、待って三香! 泣くのはちょっと……」

「うわぁーん、ふみちんがイジメるー!」


 あーあ、泣いちゃった。悪いのはあたしだけど、

いや悪いのは三香か、でもまだ小6だし……。


 て、そんな事はどうでもいいんだって!


「ああーんっ! うわああああん!」


 とにかくあたしは、

どうにかして三香を泣き止む様に行動した。


「ほ、ほら泣き止みなって!

お姉ちゃんもう、くすぐりなんてしないからさー!」

「うわぁーんっ! 離してよー!」


 だけど三香は全然泣き止んでくれなかった。


 ていうかよく見たら三香の格好、

子供用の忍者服が着崩れてて

小さな谷間が見えそなくらい乱れとる!


 これじゃあ、まるであたしが

三香を乱暴しちゃったみたいじゃないさっ!


「ヤバい、ヤバいって三香!

とにかく服を直してやるからこっち向きなって!」


 こんな姿を人様に見られたんじゃあ、

あたしが変態確定じゃないのさ!


「やーだーっ! ふみちん怖いよおっ!」

「ええいっ、いいからこっちを向きなって!

このあたしが直して……」

「二実ー、忘れもの届けに……」


 はい案の定見られた。しかも夏に。


 あたししゅーりょー!


「うわーん、ふみちんにやられるーっ!

誰か助けてー!」


 三香は一目散に夏の胸にダイブさ。


 そんで今、あたしは猛烈にヤバい状況っす、

まさか夏がこんなタイミングで

あたしン家にやってくるなんて。


「……あ、あのね夏、これにはワケがあってね?」

「……ワケは聞かないよ?

とりあえず、今目の前にいるみっちゃんを

襲う猛獣さんを叩きのめすまではね?」


 夏さんはポキポキと拳を鳴らしまくる。


「ていうか、

あたし等はいつの間にか玄関に来てたんだねっ?」

「知らないよっ! この妖怪シスコン女!」

「あべしっ!」


 夏の綺麗な正拳突きがあたしの右頬っぺを貫いた瞬間、

あたしの体は玄関から台所まで直に吹き飛んだ。


 距離はそうだね、多分5メートルくらいかなあ?


「まったく……いくら彼氏が手に入らないからって、

みっちゃんをこんなに虐めて……」


 いや、それは夏の勘違いって奴です。

 まっ、今あたしは台所で吹き飛ばされてて

それを伝えられないんだけどさ。


「わーい、なっちゃんありがとー!」

「あら、よかったわね~。あそこに転がってるお姉ちゃん、

とっても怖かったでしょう?」

「ううん、なっちゃんが

側にいてくれるから三香は平気だよ!」


 遠めで見てたけど三香は夏にギュッと抱き着きながら

胸元に顔を埋めてたよ。

 バキュラみたいな胸したあたしには

もちろんできない芸当だけどねっ!


 べ、別に悔しくなんてないし! ホントだし!


「ふふ、みっちゃんはいつも素直でいい子ね~」


 やっとこさ体勢を立て直したあたしは玄関に戻る。

 そんで夏に真実を教えてやる事にした。


「はあ、はあ……そいつ猫被ってるだけだし……」


 だけどやっぱり夏は聞いてくれなかったよ。


「あいだだっ! 頬っぺ痛いってえ!」


 しかもあたしのプニプニはしてない頬っぺを

馬鹿力で抓る始末。


「ちょっとはその減らず口を慎みなさい、二実!」

「そーだぞ、慎めよふみちーん!」

「あんた、まだ言うかこのっ……あいたっ!」


 お次は脳天にチョップ、

これじゃああたしの頭がイかれてしまうわ!


「子供相手に向きにならない!」

「へっへっへーんっ! べーっだ!」

「ううう……可愛くないやつめぇ!」


 夏が帰ったら思いっきり叩きのめしてやろうかこいつめと、

もはやそう思うぐらいあたしは頭にきてたのさ。


「だけど、そうね……。みっちゃん、私の目をじっと見て?」

「んっ、なあになっちゃん?」


 姉であるあたしの言う事はぜんっぜん聞かない三香だけど、

夏の言う事はまるで忠犬の様に聞いてくれる。


 あたし、泣いていいかな?


「みっちゃんもね、

あんまりお姉ちゃんの事をからかっちゃダメよ?

あれでも一応お姉ちゃんなんだからね?」


 一言余計だよ、夏っ!


「うんっ、わたし気を付ける!」

「よしっ、いい子いい子~っ!」

「えへへ~!」


 夏に頭を撫でられて三香はかなり嬉しそうにしてやがった。


 やっぱあたし、涙いいすか?


「それじゃあ、今から家の道場でする事あるから私帰るね」

「うん、なっちゃんさよーなら!」

「うん。じゃあねみっちゃん、

お姉ちゃんと仲良くするのよ?」

「わかってるよー!」


 とか三香は言いながら絶対聞かなそう。あたしわかるわあ。


「それじゃあね、二実」

「あー……へへっ。夏、忘れものありがとな」


 そんであたしに手渡してくれたのは、

一枚の宿題用数学のプリント。


 だからあたしは適当にお礼を言ったんだけど、

それでも夏はニッコリと微笑んでから家を出てった。


 ちょっと悪意が混じってそうでイヤなんですけど。


「……ぶーっ、わたしつまんないから外で遊んでくる!」

「あ、おい! もう4時を回るんだから、

1時間で帰ってこいよ!?」

「ふみちんに言われなくても分かってるしー!」

「あっ、ちょい待てって……! なんだよあいつ、

いったい何を怒ってんだよ」


 よく分からないけどあいつも子供なんだ。

 なあに、1時間も遊び回ればイヤな事なんて忘れるし、

腹も減って帰ってくるさ。


 それよりも今日の夕飯だ。


この時間に母さんが家に帰って来ないって事は、

つまり今日もお隣さんで泊まるって事だしな。


「はあ、こりゃ母さん今日も帰って来ないな、

とにかく夕飯でも作っかな」


 そんであたしは自分の部屋で

制服から部屋着にササッと着替え、

台所に移動してエプロンを着けてから

簡単に料理を作り始めた。


 もちろん、帰ってくる父と姉と妹のためにさ。

 あと、あたしの分もね。

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