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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
19/52

第17話 パジャマパーティーは突然に ― 前編

 学園から歩いて20分足らずであたしとクレアさんは

あたしん家の前に辿り着けた。


「はいクレアさん、ここがあたしん家だよ?」


 まあ、以前に少しだけ見せてた気がするけど一応ね。


「ふふ……アットホームでいい感じですのね」


 それはクレアさんにとっては狭いと捉えるべきなのか、

それともこのくらいの広さのがちょうどいいってのか

判断し兼ねるわ。


 つうかあたしん家はこれでも120坪の2階建て、

且つ一軒家だし新築だから割といい方なんだぜ。


 それにしても時刻は夕方7時かあ。

 さっき連絡したばっかだから晩御飯は

間違いなくできてないだろうしなあ。


 どうしよっかな。


 まあこんなところで突っ立ってても仕方ないし

家の中に入るか。


「まあとりあえず入ってくださいよクレアさん」

「あ、失礼しますわ」


 そんであたしが先にドア前に行って扉を開けて待ってると、

呆けてたクレアさんが慌てて門からこちらに走ってきた。


 別にそんな慌てなくてもいいんだけどなあ。


 それから玄関へクレアさんを入れると、

とにかく遠慮させないようにあたしは先に靴を脱いで

我が家の床に足を着けたのさ。


「ただいま母さん!」

「あ、お客さん来たのね! ちょっと待っててねぇ!」


 あたしが大声で母さんを呼ぶと、

ドタドタとこちらに足音が近付いてくる。


 あれ、クレアさんまだ靴脱いでなかったのか。

 やっぱり遠慮してるのかな。


「ええとクレアさん、遠慮なく靴脱いで入ってくだせえ」

「あ、では失礼して……」


 そんでクレアさんは屈んで丁寧に靴を脱ぎ始めた。

 うむ、仕草がなんか優雅で絵になるなあ。


 あたしなんか、靴のかかとをかかとで踏んで

適当に脱いでるからなあ。

 あらやだ行儀悪いって感じだぜ。


 だが、それがいい。


「では、お邪魔しますわ……」


 そんで遠慮がちに我が家の床に足を着けてた。

 この感じだと、マジで遠慮してるのかもしれない。


 考えてみれば一応お嬢様だからなあ。


「あら、可愛らしいお客様ね♪」


 そんなこんなで玄関へやってきた母さんが

クレアを一目見た開口一番がコレ。


 まあ確かに可愛いんだけどさあ。


 それとクレアさんに興味津々だったおかげで

あたしは抱き付かれずに済んでたから良かったわ。


「あ、お、お邪魔いたします……」


 そんで控えめに丁寧なお辞儀をするクレアさん。


 あれ、なんかクレアさんの様子がいつもと違くない?

 なんかこう、『汚い家ですけれど遠慮なくお邪魔しますわ!』

ってな感じで毒吐きそうじゃんか。


「ふふ、行儀よくていい子ね。どうかゆっくりして行きなさいな」

「は、はい……」


 うーん、なんだろうこの妙なモヤモヤ感。

 なんかクレアさんの意外な一面をモロに見て

拍子抜けしてしまった感覚だぜ。



 とりあえず居間に案内してテレビ前のソファーに

クレアさん座らせてるけど、これからどうしよっかな。


 うーん、とりあえずお風呂に入らそう。


「ねえ母さん、お風呂準備オッケー?」


 あたしは大声で台所にいる母さんに叫んだ。


「ええ、いつでも入れるわ!」

「わかったー! ありがとね母さん!」

「気にしないでー!」


 そんな感じで二人大声で会話してたら

クレアさんが何故かキョトンとしてた。


「あれ、クレアさんどうかしました?」

「あっ、いえ。なんて言えばいいか分からないけれど、

普通の家庭ではこういうやり取りをするものなのですね……」


 ああそっか、クレアさんはお嬢様だもんな。

 きっと家では畏まってて会話も厳格なんやろなあ。


「ねえクレアさん、あたしに提案あるんすけどいいすか?」

「ええ、よろしくてよ?」

「じゃあウチでは敬語禁止ね!」

「えっ!?」


 あ、やっぱり驚いてら。


「そ、そんな事をして何の意味が……?」

「ほら、簡単なことですって。

一般的な家庭の体験ってやつですよ」

「そ、そう言われても

どうやって普通の言葉を使えば……」


 うんうん、この初々しい反応が堪りませんなあ。


 お、あたしとクレアさんが話し込んでたら

母さんがお盆に紅茶を入れたティーカップを

2個持ってきてくれてら。


「母さんサンキュー」


 だからあたしは即座に1個取っちゃったよ。

 そんでちょい飲み。


「ちびちび……うん、体が温まるね!」


 もう10月中旬だからね、

体もどことなく冷えちゃうからホントちょうどいいわあ。


「ふふ、ええと……」


 そっか、そういや母さんにまだクレアさんの

名前を教えてなかったや。


 ここは教えとかないと……。


「クレア・ミラージュです……

その……クレアって呼んでくださいまし……」


 と思ってたら、自分で自己紹介するクレアさん。

 でも、すごく控えめな声だからビックリっす。


「そう、クレアちゃんて言うのね!

とてもいい名前だわぁ」


 そんでお盆をテーブルに置いて、

クレアさんの頭を笑顔で優しく撫でる我が母親よ。


「わっ……」

「うへっ!?」


 ちょっ、そんなことしたらまたクレアさんが暴れる……。


「えへへ……」


 と思ってたのに、なんかすごい嬉しそうやんこの子!

 だが顔は相当真っ赤だけどな。


 でもなんかあたしは納得がいかんかった。

 だっていつもなら殴ってくるんだもんよこの人は。


「うーん、なんか解せないんだけど……」


 あたしがそう言ったら母さんは撫でるのをやめ、

あたしに笑顔を向けた。


「ふふ、二実ちゃんはもうちょっと“遠慮”

というものを覚えるべきね」

「遠慮って……あたしはこんなにも

遠慮がちな性格してんのに?」


 とか言ったら、二人して『ありえません!』って

感じで息ピッタリに叫んでたし。


「あれえ……そうだっけなあ?」

「う、うん! クレアちゃんちょっといい?」


 なんか母さんは悩んでるあたしをスルーしてるしい。


「あ、はい何でしょう?」

「二実ちゃんが敬語禁止がどうとか言ってたけど、

別に付き合う必要なんてありませんからね」


 うぐ、あたしのやり方が否定されてるやん。

 ショックだわあ!


「そうなんですの?」

「ええ、どちらかというとクレアちゃんが

一番落ち着く喋り方で話せばいいんですから」

「わたくしが一番落ち着く話し方……ですね」

「そうよ、それでちょっとずつ崩していけば……

とりあえず紅茶はいかが?」


 そんで母さんはお盆を持ってクレアさんに近付ける。


「ええ、頂きますわ」


 そいで少し申し訳なさそうにティーカップを

両手で受け取ったクレアさんが口元に近付け、

ゆっくりと傾けて飲み始める。


「……あ、この味はフォトナムズの紅茶ですのね?」


 なんだい、その装甲騎兵っぽい名前の紅茶は。


「ええ、よく分かったわね。

ご名答よクレアちゃん!」

「懐かしいお味……

祖国の風景が浮かび上がります……」


 でも、なんかよく分からないうちに

クレアさんが満足してたし良かったよかった。


「どうクレアちゃん、少しはリラックスできた?」

「はい、少し肩が軽くなった気がいたします」


 なんだろうね、あたしは二人の会話に混ざれないよ。


 べ、別に寂しくなんかないけどな!


「ふう……美味しい……」

「ふふ、おばさんの淹れた紅茶がクレアちゃんの

お口にあってもらえてよかったわぁ」


 そんで母さんの眩しい笑顔。


「あの……また来ても……いいですか?」

「ええ、クレアちゃんの様ないい子はいつでも歓迎するわ♪」

「ありがと……です……」


 ううむ、流石に本心からありがとうを言うと

恥ずかしいんだろうね。

 すっごい顔が赤いし俯き気味だわ。


「じゃあ二実ちゃん、ワタシお料理の続き作るから

クレアちゃんをお風呂に案内してね」

「へーい」


 そんで母さんは台所に戻っちゃったよ。


 その母さんの背中を見送って悲しそうにするクレアさん。

 なんだろう、母性的な人が好きなのかね?


 あたしも母性キャラ目指してみようか……いや、やめとこ。

 想像したらなんかキモいを通り越してうざい気がしたぜ。


「それじゃあクレアさん」

「どうかして?」


 そんであたしが声を掛けるといつものクレアさんやん。

 なんか落ち着くけど、なんかしょんぼりしてしまうわ。


「ええと、お風呂場に案内しますんで

着いてきてください」

「お願いするわ」


 で、どことなく言葉もあたしに対して

馴れ馴れしくなってないかね?

 いや、それは寧ろ嬉しいんだけどさ。


 とにかくあたしは先頭を歩いてクレアさんを

お風呂場前洗面室まで案内し始めたのさ。



 で、洗面室に着いてあたしはビックリしてた。


 何故ならあたしのお古の桃色パジャマが

洗面台横の籠の中に入っており、

その上に母さんのメモ書きが乗っていたからだ。


 そのメモにはこう書いてた。


『これがお客様の分だから、後はよろしくね♪』


 て感じで。

 ううむ、ちょっと用意ができすぎてて

あたしゃぐうの音も出んよ。


「とりあえずクレアさん」

「どうかして?」

「そこの戸の先がお風呂場になってますんで、

あがったらそこの桃色パジャマを使ってくだせえ」

「ええ、分かりましたが……」


 ああ、やっぱりあたしのお古を見て困惑してらっしゃる。


「ええと、大丈夫すよクレアさん。

これでもちゃんと洗ってる奴なんで」

「それは別に構わないのだけど、

何かここまで懇切丁寧なおもてなしをされると

二実のお母様に申し訳がなくって……」


 ああそっちか。


「あはは、まあいいじゃないすかクレアさん。

今日だけは母さんを自分の母さんとでも思って

快く甘えればさあ」

「……そうよね。

今日だけでも二実のお母様に甘えてもいいのよね?」

「ああ、クレアさんがしたいならそうするべきさね!」

「ありがとう二実、なんだかわたくし吹っ切れたわ」


 何が吹っ切れたのかよく分からないけど、

まあ元気だしいいんじゃね?


「それではクレアさん、ゆっくり入っててくださいな」

「ええ」


 そんであたしは洗面台で手を洗い、うがいを済ませてから

ブレザー脱いでリボンを外した。


んで白シャツとチェックスカート姿のまま廊下へ出て、

更衣室のドアをゆっくりと閉じたのさ。


「おわっ!?」


 すると母さんが目の前にいたんで、

あたしは思わず驚いた。


「び、ビックリしたあ……」

「二実ちゃん、ちょっと居間へ来て」

「あ、うん」


 言われてあたしゃ母さんに着いていき居間に来た。

 そんで、50インチの大型テレビ前にあるソファー二つに

二人して対面するように腰掛けたのさ。


 母さんは何故か真剣な顔をしてたから

あたしに何か大切な話でもあるんだろうね。


 だからあたしも真面目な顔で

母さんに話を聞くことにした。


「で、なんだい母さん」

「ええ。クレアちゃんのことなんだけど、

クレアちゃんのご自宅の連絡先は分かるかしら?」

「ああ、知ってるよ母さん」


 さっきこっそりとありすにメールして、

クレアさんの連絡先を聞いといたからね。


 へへ、流石の新聞部副部長だわ。


「そう。クレアちゃんのあの様子だと、

ご親族の方に連絡していない事が明らかなのは

二実ちゃんも分かるわよね?」

「うん、まあ本人も連絡取りたがらなかったって言ってたし」

「知ってるならいいの。

それではご親族の方にワタシのほうから

よろしく伝えておくから、連絡先を教えて?」

「あたしが掛けなくていいの?」

「いいわ、クレアちゃんのご両親様に失礼があっても

ワタシが困りますし」


 そこまで言うかい!


 まあでもそうだね、ここは親同士で話した方が

スッキリするだろうな、普通に考えて。


「それじゃあ二実ちゃんはお鍋の様子を見てて?

噴きこぼれそうになったら蓋を開けるだけでいいから」

「オッケー母さん」


 そんで母さんは玄関から台所に続く廊下の途中にある

電話置き場前に行き、

あたしは台所へと足を運んだ。



 台所にやってきたあたしは、

母さんに言われた通り鍋を見てた。


 ぐつぐつと小気味いい音と共に、

とんでもなく美味しそうな匂いが

あたしの鼻を刺激する。


「あー、腹減った」


 思わずそんな事を口走るぐらい

あたしは腹が減ってたわけだ。


 おかしいねえ、

特大ジャンボチョコパフェ食べたのにねえ。


 半分ありすにあげちゃったけど。


「ん、今日はポトフなのかねえ」


 鍋の蓋を開けてないから中身は分からないけど、

匂いでなんとなくそれっぽい気がした。


 それにしてもクレアさん、

いったい親御さんとどんな喧嘩をしたんだろ。


 いや、喧嘩って思ってるのはもしかしたらあたしだけ

かもしれないけれど、実際帰りたくない理由なんて

それ以外あたしには考えられないや。


「まあアレだね、たまにはこういう突発的にやる

お泊り会も悪くはないねえ」


 あたしは一人そうやってお気楽に笑っていたよ。

 だってそれが一番だからね。


 何事も根を詰めすぎなければどうにかなる。

 気張ってたってしゃあないよ、ホント。


 そんな時、ぐつぐつと鍋が煮えたぎる音が

あたしの耳に入った。


「おっと蓋を開けんと」


 そんで蓋を開けたら牛肉とニンジンやキャベツなんかが

ゴロっと入っていたから、やっぱりポトフだったよ。


 でもなんでだろうね、ただ食材を煮込んでいるだけなのに

母さんが作るポトフの味は異常なまでに美味しいんだよな。


「っと、火を弱めたいところだけど……」


 今はとろ火だし弱めるのも無理そう。

 それで勝手に火を消したら、母さんが怒りそうだしなあ。


「いいや、とりあえず吹きこぼれてないし大丈夫だって」


 という事で、母さんがここにやってくるのを待つことにしたわけ。




 それから3分後、電話を終えた母さんは

笑顔で台所にやってきた。


「お待たせ二実ちゃん、もう大丈夫よ♪」

「なんだい母さん、えらく機嫌がいいね?」

「ふふ。クレアちゃんのお父さんがすごくいい方でね、

ふんわりとした言葉使いでお家に誘われたの♪」

「ちょっ、それってどういうこと母さん!?」


 まさか浮気かよ!


「あら、家族みんなで来てくださいって

言ってたわよ?」


 ああそういう事ね、あたし勘違いしてたわあ。


「そっか、それならいい……ってマジかい!」

「ふふ、本当よ二実ちゃん。

来週の日曜日、是非とも来てくださいですって♪」

「うわあ……」


 どうしよう、あたし畏まった服なんて持ってないってばよ!


「というか母さん!」

「どうかしたの、さっきからそんな焦って」

「いや、父さんはどうするのさ?」

「もちろん連れてかないわ。

それにあんなろくでもない方連れて行っても

仕方がないでしょう?」


 笑顔でそんな事言わないで。


 マジ怖いから。


「いやいやそう言うわけには……」

「いい二実ちゃん?

あの人が今の現状を変えてくれるまでは、

ワタシ絶対にあの人を許せませんから」


 うーん、ダメだこりゃ。

 意固地になりすぎて二人の糸が交差する事が

ないって感じだわ。


「それと今あの人の話をするのはやめてね。

とても気分が悪くなるから」


 しかもそこまで言うか……あかんなあ。

 これ以上父さんの事を口にするのはやめとこ。


「分かったよ母さん。変に口出ししてゴメン」

「いいえ、悪いのは全てあの人なんだから」

「あはは……」


 あたしゃ笑うしかできないよ。


「それにしても母さん、三香は自分の部屋にいるの?」

「ええ、二実ちゃんのお友達が来るって言ったら

引っ込んじゃって……。

でもみっちゃんの御飯は済ませてるから安心してね」


 ううむ、まあ三香はああ見えて人見知りだからなあ。

 それはしゃあないか。


「そっか、それならいいよ」


 でもそうだなあ、そのうち三香の人見知りも直さないとなあ。

 そうでないと来週の日曜日も大変な思いしそうだしなあ。


「ただいまーっ!」

「あらら」

「おっ」


 一葉姉さんも帰ってきたかあ。

 時刻は19時半だし、まあいいところだろうねえ。


「二実ちゃん、悪いけれど一葉を迎えてあげて?」

「うん、任せて母さん」


 そんであたしはそそくさと玄関へ向かったのさ。


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