表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
16/52

第14話 秘報、父さんどうするの?

 父さんがお隣さん家にいる母さんのところへ行って10分経過した。


 あたしと一葉姉さんはその場でジッと立ち尽くしてたけど、

むしろ時間が経てば経つ程心配で仕方が無かったわ。


「……ねえ一葉姉さん」

「言わずもがなよ。

あたし達もすぐにお隣さんの家に行くわよ?」


 流石姉さん、あたしの考えを察してたみたいだ。


 だからあたし達二人は急いでお隣さんへ

向かったわけなのさ。


 ちゃんと家の鍵を閉めてね。



 お隣さん――雪風(ゆきかぜ)と書かれた大理石のプレートが

飾ってある門前から雪風さん家玄関前の扉まで

一直線に歩いて入っていくあたしと姉さん。


 異様なまでに静かだったから、

きっと中でお話してるに違いない。

 間違ってもサスペンス劇場的展開は

勘弁してほしいぜ。


 そんなもんだからあたし達二人は

玄関扉前で心の準備をしてたわけさ。


「さあ二実、今から修羅場に首を突っ込んじゃうけど

覚悟は大丈夫?」

「うん、あたしは万事オッケーさ」


 まあ、こんなに頼もしい姉さんがいるんだから

怖いものなんて何もないさ……

何もないったらないのさ!


「じゃあ押すわ」


 そいで姉さんがインターホンを押すと、

静まり返った夜に混じってピンポーンと

電子音が鳴り響いたのさ。


 そのインターホンが鳴って数十秒後、

お隣さんのイケメン主夫――雪風雄高(ゆたか)さんが

玄関扉を開けて姿を見せてくれたのさ。


「あらぁ~一葉ちゃんに二実ちゃぁん。

こんな時間にどうしたのぉ?」


 そんで雄高さんはオカマ……

いわゆるお姉系なのだよマジで。


 だが、両刀だ。


「ふふ、いつも母がお世話になってます。

実は今、うちの父と母がこちらでお話し合いをしてると

聞きましたので、

家族である私達もお話合いに混ざろうかと思い、

夜分遅くですがやって来ました」


 姉さんはいつものズボラな感じの発音をやめ、

まるでマニュアル営業みたいに丁寧な言葉を捻り出してた。


 なんか知らんがその姉さんの言葉使いに

鳥肌が立ってしまうんだよなあ。


「あたしからもお願いしたいっす」


 だからあたしはいつも通り軽めに返事しといた。


「あらやっぱりそうだったのぉ、それじゃあ上がってぇん」


 そしたら雄高さんはニッコリと微笑んで

あたし達を雪風家の中へ招待してくれたのさ。


「はい、では失礼しますね」

「おじゃましまーっす」



「こちらよぉ、足元気を付けてねぇん」


 家の中に入ると雄高さんは居間に向かって真っすぐ

あたし達二人を案内してくれた。


 そしたら居間にある長足テーブルの席に

ポツンと俯きながら座る父さんと、

父さんからそっぽを向いて腕を組み

黙って顔を膨らませている母さんが

父さんの目の前に座ってた姿を目撃してしまう。


 ううむ。サスペンス劇場的展開は起きてないけど、

すっかりと押し黙ってる父さんがいるこの構図。

 これじゃあ話は一行に進まないよなあ。


 とにかくあたしと姉さんは空いてる2つの席に

対になるように座った。


 これでバランスよく長方形のテーブルを囲めたわけさ。


「ねえお母さん、黙って俯いてるお父さんの代わりに

私の話を聞いて?」


 先に話し掛けたのがまさかの姉さん。

 これには思わず母さんも姉さんに振り返る。


「うん、話してみて?」

「あのね、これからは二実も学園生活が

とっても忙しくなるからあまり家事を任せる

事ができないの」

「ええ、それはこの人から聞いてるわ」


 な、なんか二人とも冷静に探り合ってる感じだなあ。

 なんか怖いよホント。


 コレが大人バーサス大人ってやつなのか。


「本当は私も家事をしたいところだけど、

お仕事が忙しいからあんまり手伝う事ができないの。

それはお母さんも理解してるよね?」

「ええ、もちろん」

「それならいいんだけど。

そして三香はまだ12歳になったばかりの女の子。

そんなものだから家事なんて任せられないし、

ましてや一人で家に留守番させておくのも危険だわ」

「それもちゃんと考えているわ」

「だったらさ、お母さん。

優華(ゆうか)ちゃんの子守りをするのもいいんだけど、

三香の事ももちゃんと考えてあげられないかな?」


 うむ、それにはあたしも賛成だ。


 でも二人の何とも言えない迫力がすごくて

いっさいの無駄口を叩けんよ。


 そんで熟考する我が母。

 何考えてるか分からないけど、いい事考えてればいいなあ。


「……わかりました、ではこうしましょう。

ワタシは三香が帰ってくる16時には

うちの事は全て準備しておくし、

その間にこの人が帰ってくるまでは

三香のお世話をするわ」


 なんか母さんが不満そうに父さんを指さしてるし。


「そう、それなら二実も私も安心して家の事を任せられるよ。

でも本当にそれだけでいいの、お母さん?」


 姉さんは明らかに父さんと母さんの縒りを戻そうとしてるけど、

母さんは全力でそれを否定してる。


 よっぽど仕事を選んだ父さんを許さないんだろうね。


「……別にいいわ。

この人の顔なんてもう見たくもありませんし」

「でもねお母さん。

そんなんじゃ三香の教育に……」

「いいの! 今は放っておいて!」


「……うああん……うあああん!」


 とつぜん母さんが大声で叫ぶもんだから、

2階の寝室で寝てる優華ちゃんが起きちゃったみたい。


 そんでこれまた大きな声で泣いてるし。


「あぁん! 急いで優華を落ち着かせなくっちゃぁ!」


 雄高さんは2階に向かってオカマ走りで忙しく走り去っちゃったよ。


「あ、ご、ごめんなさい……ワタシったら……」

「ううん、今は気にしなくていいよお母さん。

この中に悪い人なんて誰もいないんだから……」


 そんで何時までも黙って俯いてる父さんと

なんか辛そうにしてる二人に

押し黙ったあたしだけが残るこの空間。


 何というか死ぬほど息が詰まっちゃうんですけど。

 流石に勢いで盛り上げようにも優華ちゃんが

寝れなくなって迷惑だし……。


 あたしゃ、どうすりゃええねん!


 とか考えてたら父さんは俯くのをやめて静かに席を立ってた。


「すまんな母さん……ワシの押しが弱いばかりに

仕事量を増やしてしまってな……」


 それを聞いても母さんは無言を貫き通す。

 しかしとっても寂しそうだったな。


「じゃあ、ワシは先にもう帰るよ。

三香を夜一人にさせておくのも危険だからな」


 そんで父さんはトボトボと玄関に向かって歩いてったよ。


 そんなこんなで、すっかりと落ち着いた優華ちゃんを

優しく抱えた雄高さんが居間へと戻ってきた。


「よーしよしよしよし、怖くないでちゅからねぇ」


 うーむ、雄高さんはすごく手慣れた感じで優華ちゃんを

あやしてるなあ。


 オカマだけど。


「ふふ、それにしても優華ちゃん可愛いわねえ♪」


 姉さんは大人しく自分の指をおしゃぶりの様に咥える

優華ちゃんを見て、すごく嬉しそうに微笑んでた。


「そうだねえ、こんなに可愛い女の子だもんねえ」


 でもそれはあたしも一緒で、もう優華ちゃんが可愛すぎて

食べちゃいたくなるぐらいニヤニヤしてた。


 ああ、我ながらキモいさ。


「あだあ、だあっ」


 そんで優華ちゃんの頭を撫でるとあたしの手を

ギュッと握ってくるなんていう超絶可愛い反応が

返ってくるのです。


 マジでたまらんぜよ。


「えっへっへ、ホントに優華ちゃんは可愛いなあ」

「きゃっきゃっ」


 ああー、癒されて浄化されるんじゃあ。


 まったく、三香にも優華ちゃんの爪の垢を呑ませたい気分だぜ。


「さあ二実、もう10時を越えるし優華ちゃんも

落ち着いて眠れないから、今日はもう帰りましょう?」


 姉さんからそう聞いて思わず腕時計を確認すると、

確かにもう10時を越えてた。


「そうだね。それじゃあ母さん、

あたし達今日はもう帰るけど体には気を付けてね」


 そう言うと母さんは少しずつ笑顔を取り戻していき、

最終的にはいつもの朗らかな微笑みをあたし達に見せてくれた。


 でも、どことなく影があるがね。


「ええ、なんだか今日は二実にばかり嫌な思いさせて

ごめんなさいね」

「ううん、こればかりは母さんが納得するまで

どうしようもないって、あたしそう思うからさ」


 そうだよ、父さんには父さんの事情があるし、

母さんには母さんの事情があるんだ。


 まあ姉さんもそれを理解してるからこそ、

これ以上首を突っ込まないんだろうけどね。


「じゃあねお母さん」

「ええ、一葉も飲みすぎないように気を付けてね?」

「えへへ~、それはちょっと守れるか分からないかなあ」


 うむ、説教混じりな冗談まで言えるようになったんだ。

 とにかく母さんも完全に落ち着いたみたいだな。




 そんなこんなで雄高さんは優華ちゃんを抱いたまま、

あたしと姉さんを門前まで送ってくれたのさ。


「じゃあねぇ一葉ちゃんに二実ちゃぁん!」

「ええ、大変お邪魔しました」

「あはは、優華ちゃんもさよならな!」

「あーいっ」


 あたしの挨拶に優華ちゃんは大きく両手をひろげて

無邪気に振ってくれてた。


 ヤバすぎやん、もう!


「いつでも遊びに来てもいいんだからねぇん」

「ふふ、本当でしたらもっと

お邪魔したいところなのですけど……」

「それだと父さんに申し訳ない気がしてさ」


 遠慮するあたし達の顔を見て、

雄高さんは穏やかな表情で続ける。


「……ふふん、あなた達もいろいろと大変なのねぇ」

「はい、残念ですが」

「なんでかなあ」

「大丈夫よ。こうして家族揃って話し合いを続ければ、

きっと全ては解決するんですから」


 雄高さんは優華ちゃんを揺り籠のように優しく揺らしながら

なんかいい事言ってた。


「そうですよね……」

「だといいなあ」

「じゃそういうわけでぇ、今度はみっちゃんも連れて来てねぇん。

美味しいお料理作ってお待ちしてるからぁん!」


 何というか雄高さんはすごい人格者って感じだなあ。


 オカマだけど。


 そりゃあとんでもなく美人な春華さんもこの人を選ぶわけだぜ。


 オカマだけど。


 そうしてあたし達二人は雄高さんに見送られながら

我が家へと戻っていったのさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ