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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
14/52

第12話 ガチのお嬢様は伊達じゃない

 クレアさん専用部屋こと〈クレア・ミラージュの間〉へと戻った

あたしは、テニス部部室で脱いだ筈のあたしの制服が

この部屋にあるテーブル上に何時の間にか

置いてあった事に気付いた。


 とにかく今は何も考えず急いで制服に着替えといた。


 そんでクレアさんにソファーで座って待つように

言われたんでそのままダラーっとして待ってたのさ。


 なんかこれもう、どっちが下僕なのか分からないなあ。


 そんでクレアさんも壁際の更衣室の中で制服に着替えると

冷蔵庫から2本のコーヒー牛乳っぽい液体が入った瓶を

あたしの前に持ってきてくれた。


「はい二実、スイス産コーヒー牛乳ですわ」


 そんで差し出された1本をあたしは

少し遠慮がちに受け取った。


「あ、ありがとうござんすねクレアさん」

「いえ、これはせめてものお礼ですので」

「あれクレアさん、

あたし何かお礼される様なことしましたっけ?」


 記憶にないんだけどなあ。


「あら、先週わたくしの誕生日を祝ってくれたでは

ありませんか」


 あ、なるほどねえ。


「そう言えばそうでしたねえ」

「それで二実の誕生日も4週間程前に

あったと聞きましたので、せっかくですから

おもてなしという形で二実を祝ってますのよ?」


 な、なんでそれを知ってるのさ!


「だ、誰から聞いたんです!?」

「あら、あなたが明日行くことになる

ありすちゃんからでしてよ?」

「うわあああ……個人駄々漏れとか

ヤバすぎるんですけど……」

「まあありすちゃんの裏のお仕事は、

そんな感じで2万人いる生徒全員の

個人情報をある程度仕入れる事ですから」


 いかんでしょ!


「な、なんか若狭さんに会うのが

怖くなってきたんですけど……」

「なあに大丈夫ですわ。

その調べた情報を他に漏らす様な事や

悪用なんかは絶対にいたしませんから」


 そういう問題じゃないっすよクレアさん!


 思わずあたしはコーヒー牛乳を一気飲みしちゃったよ。

 喉も渇いてたしね。


 うん、とんでもなく美味しい。


 でも気分は最悪っす。


「はああ……なんかヤバい宗教団体に

掴まってしまった気分だなあ……」


 しまった!

 また本音漏れてるよあたし!


 それでもクレアさんは全く気にしてないといった様子で

話を続けるわけだけども。


「まあまあ、それでも客観的にものを見るのが

お上手な子ですから偏向的な記事も書きませんし

みんなに平等な意見を巡らす

とてもできた子ですのよ?」


 よく考えたら中3の時点でそげん秀才なのか。

 そら放送委員長に抜擢されるわけだわ。


「わかりました。わたしも女ですし

クレアさんの言葉を信用しますよ」

「ええ、しっかりと頼みましたわよ!」

「任せてください!」


 そんで気になったから腕時計を見ると、

もう夜の7時半を回ってたことに気付く。


 これ以上遅いと流石に母さん達も心配するな。

 ちょいと切り上げないとな。


「それではクレアさん。あたしもう先に帰りますんで、

この辺で失礼を……」

「いいえ、その必要はありませんわ」

「えっ、それってどういう……」

「もうすぐお付の者が島百合団の館前に来ますから」

「はえ?」


 そう言えばなんか館の外で車のエンジン音が聞こえるんだよなあ。

 なるほど、それに乗ればすぐに帰れるってわけかあ。


「ああ、でも洗濯物が……」

「それならメイドに取りに行かせて

こちらの部屋に持ってくるように

頼んでますのでご安心なさい」


 なにこの人、マジでお嬢様すぎて恐ろしいんですけど。


 というよりもそっか。

 だからあたしの制服はこの部屋に置いてあったわけかあ。


「心底おったまげたわあ……」


 とか言ってると、クレアさんは林檎のマークのスマホを

ポッケから取り出して誰かと電話してた。


「もしもし……あらもう着きましたの。

ええ……すぐに行きますわ……

もちろん先ほど話した通り後輩も連れていきますので……

ふふ、頼みましたわ」


 そんで電話を切るとスマホをポッケにしまって

あたしに笑顔を向けてた。


「さあ二実、もう館玄関前にベンツが1台来てますから

早く行きましょう」

「あ、はい……」


 なんか凄すぎてあたしはアホの子みたいに

口をポカンと開けるしかできんかった。




 館の出入口に来てみれば、

黒いスーツを着てグラサンを付けた

かっこいいお姉さんが礼儀正しく

あたしとクレアさんに頭を下げてきた。


「お待たせしましたわね。

こちらがわたくしの大切な後輩ですの」

「そうでしたかお嬢様。では慎重に慎重を重ねて

送迎いたしますので、どうぞこちらへ」


 お姉さんはクソ長ったらしい黒いベンツの

後ろ側のドアを開け、あたしに入るよう促してた。


「あ、失礼します……」


 そんで恐る恐るあたしが車内に乗り込むと、

続いてクレアさんが乗ってきた。


 つうか中もだいぶ広いやん……なんか畏まってしまうぅ。


「それではまずこの者を家に送ってくださいまし」

「畏まりました。

すみません、あなた様のご実家はどちらに御座いますか?」


 そんでクソ丁寧な言葉使い……

マジ勘弁してください息苦しくなっちゃうんで。


「ええと……南門から出て左折して

真っすぐ行ったところの突き当りを

右折して5分ぐらい歩いたところに

赤い屋根の家があります。

んで、そこがあたしの家なんです」

「畏まりました。すぐに送迎いたしますわ」


 そんでお姉さんはギアをローに入れてベンツを

走らせ始める。

 その発進は驚く程滑らかで、不自然に揺れる事なんて

一切なかったのさ。


「う、運転お上手ですね……」

「ふふ、有難う御座います」


 あたしが褒めるとお姉さんはグラサン越しに

笑顔で笑ってくれてた。

 つうか夜中にグラサン着けてて見えるのだろうか、

なんか心配なんですけど。


 とか思ってたらグラサンをきっちり外してたたみ、スーツの

胸ポケットに納めてたよ。


 そんでその人の目は恐ろしく鋭かった。

 というかクレアさんを護るために神経を張り巡らせた、

そんな感じの目をしてたね。


「うーん、クールでかっこいいなあ」

「あら、あなた様もとてもかっこいいお方では

ありませんか」


 うお、冗談を言ってくる人だったのか。

 これは意外だったなあ。


真虎(まとら)の言う通りですわ。

二実はそんじょそこらの男性なんかよりも

かっこいいですもの」

「お嬢様の言う通りでございます」

「ちょっ、二人して乙女なあたしを

かっこいいとか言わないでください!

あたし泣いちゃいますから!」


 マジで泣ける、屈辱的な程!


 でもそんなあたしを見て、

付き人のお姉さんこと真虎さんは

朗らかに笑っていた。


「ふふ、冗談ですからそんなに怒らないでくださいませ。

その様子を伺ったところ、あなた様は誰よりも

乙女らしい感情を持ってらっしゃいますわ」

「う、嘘でしょ真虎さーん!?」


 そんな事言われたのは初めてだから、

マジで何とも言えない気分。


 まあ強いて言えば照れくさいところが一番多い。


 そんで真虎さんは笑顔だけども

真剣に話をしてくれてたよ。


「嘘ではありませんよ。

あなたは言葉使いを荒くして野性的に振舞ってますけど、

実のところは誰よりも臆病な性格をしているのですから」


 あ、あたしが言葉をわざと荒げてるのも

バレてらっしゃる!


 こ、この人何者やあ!


「そうですわね」


 そんでクレアさんもドヤ顔でうんうんと頷いてらっしゃる。

 ああ、この人は分かってない感丸出しだわ。


「まあ大体あってますけど……

どうしてそこまで分かるんです?」

「そうですね、同じ乙女の勘……ですよ」


 ああなる程、この人もあたしと同じ女の子にモテるタイプの

人間なのかもしれないなあ。


 だったらかっこいいなんて言われたら傷付くよな。


「そうでしたか、かっこいいなんて言って

すみませんでした真虎さん」

「いいえ、別に構いませんよ」

「え、なんで二実は真虎を謝ってますの……?」


 へへ、どうやらクレアさんはこの悩みを理解できない

みたいだなあ。


 そんなもんだから、真虎さんも行儀よく微笑んでるし。


「ふふ、お嬢様には理解できない

真の乙女の悩みですのよ?」

「そうですよクレアさん」


 あらやっぱり拗ねてむくれちゃったか。


「ふぅん……何かつまりませんわね」

「お嬢様も乙女心が分かりましたら、

きっとこの意味を理解できる筈ですわ」

「そうなんですの?」

「勿論ですよ」


 とか話してたら何時の間にか

あたしの家の前でベンツが停まってた。


 はああ、もっと真虎さんと話してたかったんだけど

これでお終いかあ。


「着きましたわ、さあどうぞ」

「ありがとうございます真虎さん」


 あたしはお礼を言うと嫌々ベンツから降りて

運転席に顔を向けた。


「二実様、本日はお嬢様のお相手をなさってくださり

誠にありがとうございます」

「ちょっ、真虎!?」


 おうおう、これにはクレアさんも困ってらっしゃる。

 なんか見てて微笑ましい主従関係ですなあ。


「いえいえ、こちらこそクレアさんの

世話を焼けてとても光栄ですよ」


 くふふ、嫌味だろう?


 それにクレアさんの顔もぷくっと膨れてらっしゃる。


「むうぅー……もういいですわ!

さっさと行きましてよ真虎っ!」

「仰せのままに」


 そんで真虎さんは最後にあたしに

満面の笑顔を見せてから

前を向いて車を発進させて行ってしまったよ。


 うむ、名残惜しいぜ。


「さあてと、久しぶりに母さんの顔でも

見ますかねえ」


 最近ずっとお隣さんにいたから、

2週間ぶりの再会となる。


 まあ別に毎日見に行っても問題ないんだけど、

それだと父さんの顔が立たないからね。


 いろいろと大変なのさウチも。


 とにかくあたしは、

ふうっと一息吐いてから家の中へと入ってった。


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