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駆け落ち結婚致します。

作者: 下弦の月

初めての短編です。

異世界〜とは違うのを書きたくて。

ちょっと長いかもですが。

《兄様、兄様! さっきの人はだあれ?》


館の近くにある庭園から帰ってくると、ルミナの大好きな兄が見た事のない青年と話しているのが見えた。


兄には友人がたくさんいるのだが、初めて見たその青年が気になったルミナはすぐに兄の元へ行こうとしたのだが、先ほどまで土を触っていた為、手が泥だらけなのに気づき急いで洗って兄の側へ駆け寄ったのだが、すでにその青年はいなくなっていた。


《あぁ、つい先日知り合ったんだよ。 なんでも今まで遠くにいたらしいんだが、最近こちらに帰ってきたとかで。 初対面の時から気さくですぐに仲良くなったんだが、勉学の為別の国へ行くらしく今日は挨拶に来てくれたんだ。》


兄の言葉にもうあの青年とは会えない事を悟る。


《どうしたんだ? クロイツェルの事を知ってるのか?》


《クロイツェル?クロイツェルというの?さっきの人は。》


《あぁ。 クロイツェル・アイゼン、アイゼン侯爵の次男だ。 》


私が12才を迎える少し前、クロイツェルを初めて見たのはこれが最初だった。


あれから何度かクロイツェルの事について兄から話を聞いた。


《あちらでは成績優秀で教師から表彰されたそうだ。》

《クロイツェルの誕生日には住んでいる門の前にプレゼントを持った女性が多勢訪ねてきて、家の者を困らせたらしい。》

《クロイツェルのやつ、今度はあちらでも有名な美人の令嬢から告白されたんだと。》

など、兄とクロイツェルは離れていても中の良い兄弟のように文でやり取りをし、その内容を私に教えてくれていた。


そして初めてクロイツェルを見た日から6年が過ぎ、そろそろ私の結婚話が両親からきかされるようになっていた。


そして17の誕生日を迎える一ヶ月後、社交会デビューと同時に婚約ー結婚を発表する事になった。

この国での婚約は結婚と同じ意味になる。

式を挙げるのは親族への披露目の意味があるだけで、婚約と同時に教会での宣誓を行うのだ。


「お相手はトローデル伯爵の次男である、ロドウェル・ダンガス子爵だ。ロドウェル氏は最近功績をあげられて次男にも関わらず子爵となった凄い方だ。 この上ない良縁だぞ!顔合わせは一週間後になるからそもつもりでな。」


この国は爵位制度があり、上から侯爵・公爵・伯爵・子爵・男爵になる。 そして後継となるのは、直系第一子男子のみ。 女子には資格がない為、もし後継が女子のみの場合は結婚後男子が産まれた時のみ、その子どもが望めば成人と同時に継承が認められる。 しかし、どうしても後継がいない場合は、その爵位を領地と共に王へ返上しなければならない。

そして次男三男には爵位がつかない為、騎士団に入団するか市政に出て独り立ちするかを選ばされる。 だが例外もあって、国の為に功績をあげれば子爵か男爵いずれかを賜わる事ができるのだ。


そして、ロドウェル氏は功績を挙げこの度ダンガス子爵と名乗る事を許された例外だった。 ダンガス子爵は10年以上前に後継がいなくなり、子爵位を返上していたが今度ロドウェル氏がダンガスを名乗る事になり、元々のダンガス子爵の領地をも受け継ぐ事になっている。


父親がもってきた話はそのロドウェル・ダンガス子爵との結婚だった。

この国では親がもってきた結婚を断ることはできない。 結婚を回避する方法はただ一つ。

それは、好きな相手とある教会で式を上げそして一日を一緒に過ごすこと。


その教会はいわゆる駆け落ち教会と呼ばれ、その昔、好きな人がいた伯爵令嬢。

しかしその令嬢には結婚話が持ち上がった。

親の決めた結婚相手。 断る事は許されない。

どうしても好きな人と一緒になりたかった令嬢は男性と駆け落ちし、ある教会で二人きりの式をあげた。 そしてその令嬢を手助けしたのが当時の王。 娘の良い友人だった令嬢を気の毒に思い、一つの教会を紹介したのだ。

その教会の司祭は、平民だろうと爵位持ちだろうと人は人、皆平等を唱えていた人物だった。 そして無事その教会で式を挙げた令嬢と青年は一日たって結婚した事を両親や王に告げた。 教会で認められ、一日を過ごした二人は夫婦となり

一生を幸せに過ごした。

そしてそれ以来、その教会は駆け落ち教会と名付けられる。


ロドウェル子爵との顔合わせは結婚が決まったも同然。 そんなルミナの頭に浮かんだのは、5年前出会ったクロイツェルだった。

クロイツェルとは話をしたこともない。

ただ見かけただけ。

だけど、ルミナはクロイツェルの事を忘れられなかった。

兄から聞かされるクロイツェルの話。

そして兄も時々クロイツェルに私の話を文に書いていたらしい。

【会ってみたいな】

クロイツェルからの文にそう書いていた事を聞かされ、胸が何故だかドキドキした。

そして、気づいたのだ。


私はクロイツェルに恋してる。


ロドウェル氏との結婚がせまっている中、ルミナのする事はただ一つ。

駆け落ち教会でクロイツェルと式を挙げること。

兄の話によれば、クロイツェルは二日後にこの国に帰ってくるらしい。

隣国での功績が認められ、伯爵位に叙せられるのだ。

功績により伯爵位を賜わる事はこれまで4人しかいないのだが、クロイツェルは5人目となり、その偉業に現在この国では大変な騒ぎとなっている。


そんなクロイツェルに女性達やその親が黙っているわけもなく、アイゼン侯爵邸には結婚話をする為、人だかりが出来ているらしい。

アイゼン侯はクロイツェルが次男だったのもあり、結婚の話は直接本人に伝えるよう通達だけ出して侯が手を出す事はしないそうだ。

なので、ルミナがクロイツェル本人を捕まえる事ができれば、いいだけとなる。


「6年前には気づかなかったけど、私はクロイツェルが好きなの。だからクロイツェルと結婚するわ!」

そう兄に告げ、両親には顔合わせまでには帰るから。と言い残し、別邸へと向かった。


別邸はクロイツェルが隣国から帰る道のすぐ側にあり、クロイツェルをそこで待ち伏せする事に決めたのだ。


そして二日後。

クロイツェルの帰還する日。

その朝ルミナは、陽の出ないうちから道上でクロイツェルを待つ。


そして、そろそろ朝日が眩しく照りはじめた時、遠くの方に馬に乗った青年がこちらへゆっくり近づいてくるのを目敏く見つけたルミナは両手を横に広げてその道を塞ぐ。


その事に気づいた青年はモニカの目の前で馬を降りると、少し低い声で「何用か。」とルミナに問いかけた。

初めて聞くクロイツェルの声に背筋が震える。 昔より少し落ち着いた銀の髪に青い瞳。そして、腰にくるような少し低い声。

クロイツェルの何もかもがルミナを魅了していた。


「クロイツェル・アイゼン様。 私を貰って下さいませ!」


いきなりのルミナの言葉にクロイツェルは微動だにせず、

「良い家のご令嬢とお見受けする。 私などにお声をかけずとも、良縁があることでしょう。 早く邸にお帰りなさい。」

そう言うと、馬に乗る為くるりと背中を向ける。


このままではクロイツェルは行ってしまう。

そう感じたルミナはその背中に抱きついた。


「ずっとお慕いしておりました。 どうか私と共にロザリーヌ教会へ行って下さい!」


ロザリーヌ教会、別名"駆け落ち教会"。

ルミナの言葉にクロイツェルが振り返った。


「ロザリーヌ教会」

そう一言いったクロイツェルは、馬に乗りこちらへと手を伸ばす。


「詳しい事は後で聞きます。とりあえずは乗って下さい。」

そう言うと、ルミナを馬に乗せ走らせた。


そして、馬に乗って半日。

とうとうロザリーヌ教会へ到着した。

途中一度休憩を挟んだが、その時にもルミナはまだ説明をしていなかった。


しかし、説明する間もなく教会の扉を開けたクロイツェルはルミナを修道女に預け、司祭と共にどこかへ行ってしまった。


【少しでも綺麗にしましょうね。】

修道女に連れられて小部屋に入ったルミナは軽い化粧をされ小さなブーケを渡される。


そして、その小部屋から続く大きな扉の前に立たされた。

「あの、一緒にきた人はどこですか? 私、彼に言う事が!」

ルミナの言葉に修道女は「こちらの扉の前でお待ち下さい。」と言うと部屋を出てしまった。


クロイツェルに何も説明できないままルミナは扉の前にたつ。


するとーーー

ギギギ

扉から音が聞こえ、ゆっくりと扉が開いて行く。


目の前の扉が開いていくのを見つめていると、祭壇の近くにクロイツェルが立っているのが見えた。


クロイツェルの伸ばした左手に導かれるようにルミナは一歩一歩赤い絨毯の上を歩く。


そしてクロイツェルの伸ばした手に重なるように自分の右手を置くと、クロイツェルの横に並ぶ。

司祭の言葉が聞こえるが、ルミナにはそれが言葉として頭に届いていなかった。

ただ、クロイツェルが「はい。」と言った後に見つめられ、同じように「はい。」と頷くことが精一杯だった。


そして、長いようで短いその時間が終わるとクロイツェルの方を向かされ、そっと唇に何かが触れた。


その後はクロイツェルに手を取られたまま、教会を出て近くの宿へ向かう。


そこで、ルミナは式が終わった事に気づいた。

「クロイツェル様。どうして・・」

ルミナの言葉に

「君が結婚してしまう前に私の物にしてしまいたかった。」

そう言うと、事の顛末を話し始めた。


きっかけは、兄の一言だったのだそうだ。

以前から私の事を兄に聞かされていたクロイツェルは興味があって、邸を訪問した事があったそうだ。

私は会っていなかったのだが、庭園で花や蝶と戯れる私を兄と共に見ていたらしい。

「そこで、貴方を始めて見たんだ。 貴方は蝶に夢中で気づいていなかったみたいだけどね。」

そう教えてくれた。

「あの日はとても天気の良い日で、空から降り注ぐ太陽の光がまるで天からの光のように貴方へ届いていた。 そして、ふと空を見上げていた貴方が輝くような笑顔をこちらに向けた。 多分貴方は兄へとその笑顔を向けたんだろうが、その時私は思ったんだ。 この笑顔を独り占めしたい・・と。」

その後、クロイツェルは今のままでは伯爵令嬢である私には、爵位無しの自分では釣り合わないと考え、爵位を取るために隣国へ向かったのだそうだ。


「叙爵がようやく叶うというのに、貴方の兄からの文には貴方の結婚が決まりそうだと知らされた。 親からの結婚話を無くする為にはロザリーヌ教会へ行かなければならない。 貴方は私の事を兄から聞かされているとは言え、会った事のない私に貴方とロザリーヌ教会へすぐに行く事は出来ない。そう思い、叙爵にはまだ間があったが、帰国することにしたんだ。帰国途中の道で貴方と出会い、ロザリーヌ教会へ行くと言う言葉に少しでも早く貴方と式を挙げたかった。」


クロイツェルの言葉に涙が溢れる。

「私、クロイツェル様が隣国へ旅立つ前の日にクロイツェル様を見ました。 そして、その時から貴方をお慕いしておりました。」


「まだ完全には結婚を回避出来ない。私と一日過ごしてくれるかい?」


「・・はい!」


6年前はまだ恋だと気づかなかった。

既に式を挙げ、神に夫婦と認められたがまだこの恋は始まったばかり。

でも私はこの恋がいつまでも続いていくことを確信している。






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