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第九話 ツンツンツンツンデテレデテレデテレデテレ

 火曜日、快晴。しかし、俺の心は厚い雲に覆われています。

 鳥谷と栗原君の穴を埋めることが決定してから夜を挟んで翌日、俺は暗いマインドで三限目の体育を迎えていた。

 三浦ちゃんとの接触期限は今週中。

 放課後の報告の後、決めたことだが。もう、今日中でも一月以内でも変わんねえよ。


「どうしたよ、大島。元気無いけど」


 と言ってきたのは、ご存じ今回の体育における体力測定のパートナーである青気だ。

 俺も青木くらいコミュニケーション能力があればなあ。こんな時でも悩まずにすむのに。いや、そもそも、それくらいコミュ力あれば俺はこの作戦に参加してないかもだが。

 つか、本当なんでこいつはこんなコミュ力あって二年程、俺と同じ立ち位置に居たのだろうか? そりゃ、こいつはキッカケに恵まれないだけ、と何度も何度も思ってはいたけど……。キッカケだけだろうか?


 つか、うーん、もうこの際こいつに頼もうかな。正直、頼まれた時は青木に頼めばいいやって思ってたけど、二回目だから不審な目で見られるかなあ、て思っちゃうんだよなあ。

 いや、でも青木なら不信感持たない気がする。いい奴だし。


「なあ、青木。ちょっと相談があるんだけど」

「なんだ? 体力の上げ方か?」

「ちげえよ。いや、それも気になるけど……実はさ、知ってると思うけど俺って異性の友達が少ないんだよな」

「そうなのか? それは、初耳だ」


 落ち着け俺。彼は悪気があって言ってるんじゃないんだ。そう、決して悪気があるわけ、では…………ふう。


「でさ、さすがに、ほら学生生活に異性の影が無いのは……な? 華やかじゃねえだろ? だから、俺も異性の友達を作りたいんだよ。でもさ、そんな作りたいからって直ぐに作れたら苦労は無いわけで」

「確かにな」

「だから、ほら、お前っていつの間にやら女子の友達が多くなってんじゃん? だから、友達の友達的な奴から作ってこうかなって」

「うん、いいんじゃないか。俺で良かったら協力するぜ」


 即答だった。

 そうか、これが俗に言う性格がイケメンってやつか。通りでモテる筈だぜ。

 にしても、本当に自然に話しやがるな、こいつは。急にお前の周りに女の子がいっぱい出現して、説明も何もなしで、俺がなんの疑問もなく受け入れてると思ってんのか? さすがに俺も、そこまで柔軟じゃねえよ。


「でも、さすがに一気に紹介するのはあれか。疲れるな。取り敢えず、一人ずつでどうだ?」

「ああ、いいよ。あと、内海ちゃんとは昨日喋ってるから、内海ちゃん以外で」

「オッケー。じゃあ、そうだな、先ず桜辺りいってみるか?」


 ワオ、ビンゴ! 狙い澄ましたようにビンゴ!!

 つか、呼び捨てなんだな。そうか、そういう仲にまで発展してやがるのか。

 新情報が出てくる度にイライラしてくる……。ガマンガマン。


「ああ、出来れば皆と仲良くなりたいしな。誰からでもいいよ」

「だよな。なら、桜だ。あいつも男子の、つうか同性でも異性でも友達が少なくてさ。前々から誰か紹介してやりたいと思ってたんだよ」


 ヘー、イガイダナー。つか、三浦ちゃんは友達が少ないのか。

 にしても青木、嬉しそうだな。そんなに三浦ちゃんに友達を作らせたかったのか?


「じゃあ、昼休みに俺から話しとくから。えっと、俺は居た方がいいか?」

「いや、つか、三浦ちゃんはよく喋る方なのか?」

「どうだろ? 俺の前じゃよく喋るけど……」

「そうか、まあ俺が頑張ってみるよ。青木がいたら、そっちと話が弾んじゃうかもだから」

「それもそうか。なら、適当に用があるって事にしとくか?」

「うん。頼む」


 「分かった」。そう言った青木の顔は笑顔に包まれており、少なくとも俺はその顔を久々に見た気がした。

 まあ、とにかくこれで第一段階はクリアだな。

 問題は、ツンデレ三浦ちゃんからどうやって話を聞き出すかだ。

 俺のコミュ力が試されるな。











 で、昼休み。

 青木の作戦通り、俺の前の席には弁当を黙々と食べる三浦ちゃんの姿があった。

 にしても、目に見えて不機嫌そうな顔だこと。


「…………」

「…………」


 やべえ。怖えぇ……でも、何か話さなきゃ。

 つか、髪綺麗だな。触りた……いやいや。取り敢えず、用があって呼んだ事になってんだ。何か、用事……。


「あの」

「何よ」

「えっと、俺、その、何か悪い事したなら……謝る、よ」

「何もしてないわよ」

「でも」

「し、て、ない!」

「は、はい! すみません……」


 結局、謝っちまった。

 つか、凄えツンツンしてんな。まるでサボテンだな。


「で、用事って何?」

「えっ、ああ、えと」

「早くしてよ、私はこれから剛志くんとこ行かなきゃなんないのに」

「青木……そういえば、なんで三浦ちゃ、さんは青木の所にいつも来てるの?」

「はあ? あんたには関係無いでしょ」

「いや、でもさ」

「関係ない!」

「……はい」


 あかん。これはあかん。俺じゃ手も足も出ねえ。


「つかさ、何も無いんだったら、私行くけど」

「いや、用はあるから」

「じゃあ、早く……」


 「よう」。横からの聞き慣れた声に、俺は思わずその方を向いた。

 そこに弁当を持って立っていたのは栗原君だった。

 つか、栗原君。何故、君がここに……。

 俺と二人で、一度も飯を食ったことのない君が何故……。


「何? あんた?」

「あ? 俺は大島の友達だこの野郎」

「大島? ……ああ。で、その友達が何の用?」

「ちょっと用があってなあ、主にお前に」


 栗原君。何故、三浦ちゃんに対して高圧的なんだ。三浦ちゃんに何か嫌な事でもされたのか。つか、チンピラかお前は。


「あんたも? ったく、で何?」

「まあ落ち着けよ。直ぐに終わる」


 そう言った栗原君は、俺の横の誰も座ってない椅子を拝借し、俺の席に弁当を置きつつそれに腰を降ろした。

 しかし、用ってなんだろ? 正直、嫌な予感しかしないから早く帰って欲しいんだけど。


「お前、友達少ないんだってな」

「!?」


 !?!?!?!?!?

 びっくりした! いや、マジでびっくりした! 何度もびっくりした!!

 いきなり、何言い出すんだこの子は!

 つか、マジで何しに来たんだ!? 油に火でも点けに来たのか! ここは火気厳禁だよ!!


「異性は青木だけ。同性もその取り巻きだけ。しかも、その取り巻きとも実は上辺だけでそこまで親しくない」

「ちょ、栗原君!?」

「しかも、クラスにその取り巻きがいないから、教室では常に浮いている」


 栗原っ! 出かけた俺の言葉よりも先に、三浦ちゃんの手が栗原君の襟元目掛けて飛ばされる。

 ガタンっ。

 椅子が倒れる音と共に、三浦ちゃんに掴まれる形で栗原君は立たされた。


「まあまあ、落ち着けよ」

「あんたに、何が分かるってのよ」


 黒い感情の込められた女子の低い声。

 俺は、それをただ動けず座って見てるしか出来なかった。


「分かるさ。俺も同じだったからな」

「えっ……?」

「そのまんま。今こそ、隣で座ってる大島含めて友達はいる。いや、異性の友達はいないけど。でも、俺は毎日楽しく過ごしてる。まあ、別に最初からそうだったわけじゃねえけどさ」


 そういえば、俺が栗原君と知り合ったのは二年からだったな。

 栗原君が一年の頃、いや中学の頃になるのか? どっちにしろ、俺はどちらの栗原君も知らないけどさ。

 つか、会話の内容から察するに……まさか。


「だから、俺と大島で先ずお前の友達になってやる。お前の、高校での、青木以外のはじめての友達にな」


 その言葉を聞いて何を考えたのか、三浦ちゃんは栗原君から静かに手を放した。


「なによ、あれだけボロクソ言っといて、いきなり……」

「まあ、確かに言い過ぎたかもな。ということで、大島謝れ」

「!? 急に俺を会話に巻き込むなよ」

「んだよ、止めなかった大島も悪いだろ?」

「なにその、イジメを見て見ぬ振りしてた奴も悪い論。ごめんなさい!!」


 前方から漏らされた微笑に、俺はさっきまで泣きそうだった三浦ちゃんが笑っていることに気付いた。

 もしかして、栗原君はこれを狙ってたのか?

 っても、今は確認できないけど。


「あんた、性格最悪だと思ってたけど、意外と面白い奴じゃん」

「そりゃ、そうだろ。うん、そうだよ」

「あれれ? 栗原君よ、なに俯いてるんだい」


 うるせ、と返した栗原君は、倒れた椅子を直して座り、弁当を荒く開けはじめた。

 恥ずかしいんだろな。

 Sは褒められ馴れてないってか?

 にしても、栗原君の新たなる一面を見れた気がするな。


 ……って、本題――はいいか。また、今度で。

「あんた、意外と可愛い弁当ね」

「あ? これのどこが可愛いんだこの野郎」

「栗原君落ち着け。タコさんウインナーが入ってる時点で十分可愛いよ(つか、小学生の弁当かよ!)」

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