第三十話 隠された月と太陽は唐突に顔を出す
木曜日。あと一日な木曜日であり、試練の木曜日である。
昨夜、俺は俺なりにハーレム崩しの作戦を考えていた。
といっても、石川の「ドミノ倒し作戦」には継続して参加するけどね。さすがに、あいつを敵に回すと相当めんどそうだからな。形だけでも、協力はしといた方がいいだろう。
本当は、石川を仲間に引き入れるのが一番いいんだけどね。ただ、やっぱり個人的には石川の行動力やら何やらは尊敬するけど、人としては嫌いなんだよ。
さて、話を戻して、どんな作戦を考えてきたか。
それは、名付けて「誘爆作戦」!!
ネーミングセンス? さてさて、何処に忘れてきたのやら。多分、お母さんのお腹の中だろうな。ふふふ、取りにいけない……。
この作戦の内容は、簡単に言えば青木の本性について証明出来る確かな情報を能見、吉見、前田、石川さんに同時に公開するという手である。
同時公開された裏の取れた確かな情報を、本人に確認するために四人の女子は一斉に青木の元に行くだろう。そこで、他の情報を手に入れた者たちと出くわす。これによって、情報の確実性が更に上昇する。これが「誘爆」。
つまり、情報という名の「爆弾」を持たせ、青木の元で爆発させる作戦といったところだ。
そして、この作戦が成功するか否かは「確かな情報」にかかっている。故に、これは慎重に且つ確実に手に入れなければならない。
そして、同時に爆弾を持たせる方法も重要になってくる。そもそも、直接言うならともかく、メールだと一度俺の方に確認に来る可能性があるのだ。
まあ、一番は坂本らの協力が得られればいいんだけど。無理だった場合は、先ず何とかして能見と石川さん――まあ石川さんのメルアド入手はそんなに難しくないだろうけど、アドレスを手に入れなくてはならない。
そして、同時にメールによって情報を公開し、公開した当の本人は風邪で休んでる事にすればいい。まあ、修羅場を見たいから、やるなら教室のロッカーにでも隠れていようか。
といっても、この作戦には恐らく穴がある。だから、確かな情報を手にするまでは、もう少し練る練るしなければならないだろう。
そして、あらゆる可能性を洗い出すことも重要だ。いざって時に対策を直ぐに取らなければならないからな。
とにかく、この作戦は一発勝負。出来る限りの準備をして望まなければならない。
……さて、取り敢えず石川さんとメルアド交換しようかな。いや、青木経由でアドレスを教えてもらうか。そっちの方が楽だしな。
さて、時刻は昼休み。
石川に呼ばれて、俺は屋上に来ていた。
「四日目だ」
そう、日の照る暖かい屋上で石川は切り出す。
「しかし、進展は無い」
「青木と能見ちゃんのか?」
「ああ。見てる限りでは、毎日毎日情景が変わらない。席に座る青木の前に立つ能見。この構図から全く変わらない」
目に見えて、石川はイライラしてるようだった。珍しい。
「いや、そりゃそうだろ?」
「話が盛り上がってる気配もないと、追加したら?」
「…………」
「能見ちゃんの性格を考えれば、ある程度は予測できたさ。にしても、変化が無さ過ぎる」
「そんな焦らなくてもいいだろ? 夏までだとしても、まだ二ヶ月以上あるし」
「無いんだよ」
彼は続ける。
「石川さんと直に話して分かった。あの子は、青木の事が好きなんだ」
「…………」
あくまで、石川の感想。でも、こいつがそう言うという事は九割方そうなのだろう。
しかし、冷静に考えると、だからといってそこまで問題が発生するわけでもないと思う。例え、青木と石川さんが引っ付いても、石川の目的である前田ちゃんをゲットするチャンスは発生するのだ。
なのに、こいつは何をそんなに焦ってるのだろう?
「この際、石川さんを青木に引っ付けたらどうだ?」
「……それは、ダメだ」
「えっ?」
「…………そうだね。ここまできたら君に喋ってもデメリットは無いか」
何の話だ?
「……大島君。俺の苗字を聞いた時に、先ずどう思った?」
「どうって……特に……」
石川、平凡な苗字だな、としか……。
いや、待てよ。
「石川さんと苗字が被ってるな」
「そうだろ? でも、石川なんて平凡な苗字だ。被っても不思議じゃないよね」
「そりゃ、そうだ」
「でもね、今回は偶然被ってるわけじゃないんだよ」
ん?
「俺と華、石川華は双子だ」
……………………えっ?
「ふ、双子?」
「そう。先生にしつこく聞けば本当だって分かるよ」
双子…………いや、何そのカミングアウト。
いや、驚きすぎて逆に驚いてないというか……唐突で意外な事実に頭が追いついてないというか。
いや、待て。
なら、なんで今まで石川さんの方は双子について言及しなかった? 普通するだろ。ファーストコンタクト、いやセカンドコンタクトぐらいに自分から言ってくるだろ。
それに、青木も三浦も何も言わなかったし……どうなってるんだ??
「本当……なんだよな」
「ああ。だから、俺は華に用があるからって簡単に呼び出せた」
「……でも、石川さんも青木も何も言ってなかったし」
「青木はそもそも双子だと知らない。華には、前もって俺と双子だと話さないように釘を打ってる」
「なんで、そんな事……」
「一つに、双子だと分かれば注目度が上がるから。兄である俺が言うのも何だが、あいつは顔はいい方だからな。それに、双子の存在が明かされれば注目度は更に上がると思ったんだ」
「いや、注目度が上がっても別にいいだろ。……俺だったら嫌だけどさ」
「華もそうだよ。今は知らないけどな。でも、それ以前に華の患ってる病気はストレスに大きく反応する。だから、できるだけストレスは与えないようにしたかったんだ。だから、先生方も基本的には俺と華が双子であることは黙っててくれてる」
とても石川さんが恥ずかしがり屋には見えない。だから、性格という面では、もう目立っても大丈夫なのだろう。問題はストレス。大丈夫だと思ってても、何処かでストレスを感じる可能性もある。
「二つ目に、俺が君らに協力した本当の意味を悟られない様にするため」
本当の意味?
「俺は入院している華に見舞いに来た青木を何度か見てる。まあ、直接会ったわけじゃないから青木は俺の存在を知らないけどね」
「てことは、三浦ちゃんも」
「ああ、見てる。で、俺は青木と話す華を見て、何となく悟った」
「石川さんが青木に想いを寄せていると?」
「そう。だから、俺は三年になって青木の事を調べ上げた」
調べ上げた……か。
それって、見方によっちゃブラコン扱いを受けるぞ。可愛い妹が思いを寄せる男は、本当に妹に釣り合う男なのかって。
「調べた結果、青木が妹と三浦ちゃんの他に何人かの女子と仲がいい事を知った。正直、この目で直接見るまでは信じられなかったけどね」
「そりゃそうだ。それで、何人かの女子を侍らせてる青木はろくでもない男だと思ったと?」
「ああ。それは、お前もそう思うだろ?」
そりゃそうだよ。つか、ガチでお前が思ってる以上に青木はろくでもない男だよ。
「だから、俺は対策を練る事にした。その途中、坂本から青木の周りに居る女子を調べてくれって頼まれたんだ」
「そこで作戦の存在を知ったと」
「ああ。それで、これは使えるなと」
なるほど、繋がった。
つまり、石川は前田ちゃんと付き合うよりも、妹である石川さんに青木を諦めさす方が優先順位が上なんだ。通りで、坂本らに敵対したわけだよ。
「双子である事を隠す理由は分かった。それに、俺らに協力した理由も分かった」
でも、だったら……。
「でも、何で今このタイミングでそれをバラしたんだ?」
「いずれは言うつもりだったからね。それに、この状況において俺が明確な理由を出さなかったら、大島君は俺に協力する気が失せてただろ?」
確かに、いや、それ以前に別の問題で協力する気が失せてたけどさ……。
……あれ? これって、もしかして使える?
俺は、青木と内海を引っ付ける気でいた。そして、石川は青木をよく思ってない。
これは……。
「なあ、石川。今まで、双子の事を黙ってた事は水に流すからさ。代わりに、ちょっと協力してくれないかな?」
「協力? ああ、いいよ」
「ありがとう。実はな――」
俺は、先日青木との会話を全て嘘偽りなく話した。
その間、石川は特に反応を返さず、ただ黙って俺の話を聞いていた。恐らく、そんな予感はしてたのだろう。
行き着く先は欲求解消。
そういう年頃だからな。
「――という感じだな」
「一応、確認するけど嘘じゃないよね?」
「嘘じゃないよ」
「うん。信じるよ。にしても……そうか。やはり、俺の思った通りクソ野郎だったか」
「そうだな。まあ、俺もこんな衝撃的な告白される程に信頼されてるとは思わなかったけどな」
「……で、どうすればいい?」
「それは――」
誘爆作戦。
まあ、昨日考えたばっかの穴だらけの作戦だけどな。
「――といった、名付けて『誘爆作戦』という作戦を考えたんだけど」
「……まあ、名前はともかく内容に関しては文句は無いかな」
「そうなのか? いや、色々憶測で動かしてるんだけどな」
「それを徐々に完璧にしてくんだろ? なら大丈夫」
石川に言われると、なんか凄え大丈夫って感じがするな。
「さて、なら坂本らには暫く動かないように言っておくかな」
「ん? 一緒にやらないのか?」
「聞いてる限りじゃ、その作戦はできるだけ少数で動いた方がいい。というより、二人も居ればいいかな」
それもそうか。そもそも、確かな情報さえ手に入れば、後は情報公開のタイミングだもんな。それも、俺一人でやった方がいいだろうし。
坂本らは、その後で心にぽっかりと穴を空けた子らに近づく役目かな。
「さて、なら早速動くか」
「早速?」
「確かな情報だろ? 音声データごとき貼っつけられないほど技術は進んでないのか?」
「……なるほど」
レコーダーで青木の口から出た情報を記憶する。
これなら、確実性が……いや、声だけで分かるか?
「なあ、レコーダーを使うんだよな?」
「そうだね」
「それで、青木だって分かるのか?」
「微妙だね。クリアな音声を録音できるレコーダーだと値も張るだろうし」
「なら」
「分からない。だからこそ、青木本人に確かめに行くんだろ?」
「……そうか」
真偽不明の青木絡みの情報。そして、自分にとって大きく関わりのある情報。
なら、メールの送信主になるだろう俺よりも先に青木の元に行くのでは?
そして、確かめに来た者が自分だけではなかったら?
「じゃあ、タイミングについては俺がベストな時間を調べとくから。情報については、よろしくね」
ようやく、石川にいつもの当たり障りのない笑顔が戻った。
さてさて、最強の助っ人も得た事だし、俺も色々頑張りますか。




