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第二十八話 表、裏、おもて、うら、オモテ、ウラ……そして、やっぱり裏

 何故、彼らは出会ったのだろうか?

 きっかけは何だったのだろうか?

 何をどうすれば、短い期間でそれだけの出会いを発生させる事が出来るのだろうか?


 俺が悪いのか?

 行動力が偏り過ぎな俺が悪いのか?

 じゃあ、行動を起こせば全てがトントン拍子で上手くいくのか?


 いくわけねえだろ。


 結局は、運だよ。

 結局は、生まれ持った才能だよ。

 結局、抗う事なんて出来ないんだよ。


 諦めが早い? そりゃそうだよ。俺は、それでいいと、今の状況に不満がないと、勝手に自己満足しちゃってるんだから。


 人の裏を見たのも影響してるかもな。

 おかけで、全てに対して疑いの目を向けてしまう。

 それでいいのだろう。しかし、疲れるから絶対にいいとはいえない。


 ああ、疲れたなあ。

 でも、このまま指を加えて見てるだけじゃつまらんしなあ…………。






 火曜日。超憂鬱の火曜日であり、だるだるの火曜日である。


 そんな憂鬱な日が半分以上終わって、放課後、俺は二年の時以来に青木と共に帰っていた。

 終礼が終わって何時ものように青木と一緒に帰ろうと女子たちが来た中で、青木は「今日は、ちょっと用があるから一緒に帰れない」と彼女らに言ったのだ。

 そして、そのまま振り向き「大島、今日これから暇か?」と訊いてきたのだ。

 女子たちも俺もポカーンとしたよ。今まで、無かった事だもん。


 で、結局、用とは何なのか分からずに一緒に帰る事になり、今に至るわけです。


「なんつうか、凄い懐かしいよな」

「ああ、そうだな」


 夕陽が背を照りつける。

 影が前に真っ直ぐ伸びている。自転車を押す俺と歩く青木。

 それは、二年の時、ほぼ毎日見た光景だった。


「なあ、大島」

「ん?」

「最近、桜が来ないんだけど……何か知ってるか?」

「…………」


 桜……三浦か。

 一瞬、言おうか言わまいか迷ったが、俺は青木に三浦と栗原が付き合っている事も含めて話すことにした。

 隠す理由が無いからな。

 でも、取り敢えずは噂話にしておこう。


「噂で聞いたんだけど、三浦ちゃん、栗原と付き合ってるみたいなんだよね」

「桜が??」


 当然だが、青木は酷く驚いた様子だ。


「……えっと、栗原君って誰だっけ?」

「ほら、俺の友人でさ。いつだったか、能見ちゃんに話しかけてた」

「ああ、あの中学生、って言ったら失礼か」


 まあ、中学生だな。中身も外見も。

 つか、よく考えれば、あの面子で青木と話したことのある奴はいないんだな。ちょっと意外。


「……そうか」

「っても、噂だけどな」

「いや……でも、本当だったとしても不思議じゃないな」

「えっ?」

「少し前に大島と桜と……その栗原君とで話してる所を見てさ。久々にあいつが、笑ってる所を見たなって」

「笑ってる?」

「意外か? あいつは基本的に笑う事はないんだよ」

「そうだったのか」

「それにな、いつだったか、あいつが言ってたんだ。『私は愛が欲しい』って」

「愛が?」

「そう。あいつの家庭環境は少し複雑でな……だから、とにかく他者からの愛情が欲しかったんだろう」


 思わぬ形での個人情報ゲットとなった。

 もしかしたら、三浦は俺らが接触した時点で青木への想いが薄れていたのかもしれないな。そこに相性のいい――のか悪いのか分からんが、栗原が現れて、栗原にいつの間にか「愛」を求めるようになっていったと。


「でも……」

「ん?」


 「余計な事してくれたな」


「……えっ?」

「桜が外れたのは痛い。はっきり言って、あいつほど性格が面白い奴もいないからな」

「青木?」

「そうだろ? いわゆる、ツンデレって奴。あそこまで露骨なのは、中々お目にかかれるもんじゃないと思うんだけどな。つか、もしかして髪型変わったのも栗原の好みに合わせたからか?」


 何を言ってるんだ?


「……青木、何が言いたいんだ」

「ああ、悪い。実は、その事について今回、大島に話があるんだよ」


 話? そういえば、まだ要件を聞いてなかったか。


「……お前、前に異性の友達がいないって言ってたよな?」

「? ああ、言ってたような……」

「今でもそうか?」

「……いや、まあ、石川さんとか知り合いは増えたけど……友達は居ないかな」

「そうか、別に彼女とかもいないよな?」

「いねえな」


 何が言いたいんだ? あれか、俺に女子を紹介してやるとかか? この前、紹介してもらった三浦はクソだったぞ。


「……なんつうか、まあ、友人だからな。お前とは」

「ん? 何が??」

「好きなのを選べよ。俺の周りに居る女子からさ」


 ん? どういう意味だ??

 俺は、話を理解するために歩を止めた。


「なあ、俺にも分かるように説明してくれよ」

「だから、(すみれ)、藍、椿姫、友梨の中から一人好きにしていいって言ってんだよ。まあ、言い換えればおすそ分けだな」

「…………」


 ダメだ理解できない。こいつは何を言ってるんだ?


「さあ、誰がいい? お前は、俺の高校生活において唯一の同性の友人だからな。特別だぜ」

「…………」

「俺的には胸の大きい菫も、引き締まった身体の藍も、一々反応が初々しい椿姫も、可愛い声で鳴く友梨も、みんなオススメだ」

「…………」

「出来れば桜も選択肢に入れたかったんだけどな……そうか、栗原な。憶えた」

「いや、だから何言ってんだよ。お前は……」


 意図して脳が考えることを、その言葉の意味を理解することを拒否しているのだろうか。視界がフラフラとしてきた。

 それでも、隣の青木がため息をつくのだけは分かった。


「そのままの意味だよ。襲うもよし、そういう友人にするよし、一夜限りでも、この先、一生のパートナーでも……いや、それはちょっと厳しいかな」


 拒否しようとする脳を、俺は無理矢理、動かした。

 そうか。こいつは、周りの女子を都合のいい女としか見てなかったんだ。だから、こんな、まるでオモチャを貸してあげるように俺に言ってるんだ。


「別に一回限りじゃなくてもいい。一生は厳しいけど」

「…………」

「あいつらはもう俺の奴隷だからな。ある程度、無茶な願いでも受け入れてくれる。いや、受け入れるしかない」

「…………」

「本当に利用しやすいよな。ひとりぼっちはさ。俺も、大島と出会うまではひとりぼっちだったから、よーく分かるよ」

「…………」

「で、どうする? 何なら全員とヤってもいいぜ?」


 空虚な感覚。胸にぽっかりと穴が空いたような。そんな、以前にも経験した思いが、俺の中に渦巻いていた。


「……お前みたいな友人を持てて良かったよ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 はあ。本当に良かった。お前が……。


「悪いけど、少しだけ考えさせてくれねえか?」

「いいけど……迷ってるなら全員とヤってもいいんだぜ?」

「まあ、そうなんだけどさ。でも、初めての相手はよく考えたいんだ」

「……ああ、そうか。そうだな。初めては大事だもんな。分かるよ」

「悪いな」


 いつもの笑顔から、聞きなれない言葉が沢山飛び出した。

 見なれない感情が沢山飛び出した。

 そうか、それが本当のお前か。

 やっと、本当の意味で友人になれた気がするよ。


 ありがとう。青木剛志。

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