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第二十五話 作戦会議その二 過去に希望し、未来に絶望す

 火曜日。あと、二週間くらいで五月も終わりか。

 時刻は十二時過ぎ。ちゃちゃっと、昼飯を食べた俺は石川の所に来ていた。

 一応、言っておくが、別に自分から来たわけじゃないんだからねっ!!

 うん。メールで呼び出されました。しかも、珍しく屋上ではなく教室に来いだってさ。

 ちなみに今、教室には坂本も栗原もいない。栗原は、三浦の所だろうけど坂本は何処に行ったんだろうか?


「さて、今回、大島君を呼んだのは、訊きたい事が、あったから、なんだけどね」


 もぐもぐと弁当を食べている石川が言った。

 食べながら喋るなよ、汚いな。


「ゴクン。……去年までの、青木の立ち位置なんかについて訊きたいんだよ」

「青木の?」


 意外だな。てっきり、そういった事も調べてあると思ってたんだけど。


「俺らや女子らについては調べてるのに、肝心の青木については調べてないのな」

「まあ、君と仲が良かった事くらいしか……いや、そうだね。彼自身、あまり交友関係が広くないからね」


 あれ? 今、少し目が泳いだか?

 っても、別にいいか。追求しても上手くはぐらかされるだけだろう。


「で、何について話せばいいんだ?」


 長話になりそうだな。しゃがむか。


「そこの椅子使ってもいいよ。で、話す内容だけど、シンプルに君の知ってる範囲の青木剛志という人物が知りたい」

「俺の知ってる……か」


 取り敢えず、椅子に座るか。

 さて、何から話そうかな…………。






 俺が、青木剛志と出会ったのは一年の秋くらいの時だった。友人の少なかった、というか当時、別のクラスだった坂本しか友達がいなかった俺に同じクラスだった青木が話しかけてきたのがキッカケだったろうか……違ったかな? まあ、形はどうあれ、あっちから話しかけてきたのは間違いない。


 そんな青木の第一印象は典型的な「リア充」。つまり、人生が充実してそうなタイプだと思っていた。

 そりゃそうさ。顔もいいし、これは知り合って暫くしてから知った事だが、勉強もそれなりに出来るし、スポーツだって無難にこなす。そんな完璧超人、と言えば言い過ぎだけど、そういう印象を誰だって持つようなタイプの人間だった。


 でも、次第に俺の、この青木に対する見方は間違いなんじゃないかと考え始める。それが、青木と知り合って一月経つかどうかくらいの時だった。

 一番最初に疑問を持ったのは体育の授業の時。あいつは、授業でペアを組む時も組まない時も、いつだって俺と一緒に居たのだ。まあ、別に友人であれば、そこまでおかしくない気もするが、それにしても毎時間常に俺と一緒にいるというのはおかしくはないだろうか。

 「こいつは他に友人がいないのか?」。

 当時、感じた些細な事が、まさか本当の事だとは、この時点で俺も本気で思ってはいなかった様に記憶している。


 実際に、青木の友人が俺を含めて二、三人しかいないと分かったのは、そこから数週間後の事だった。

 はっきり言おう。当時は凄く、びっくりした。

 なんでかって? 実際に青木と毎日の様に話していたら分かる。あの性格で友達が少ないわけがない。まあ、そりゃ良くも悪くも普通ではある。しかし、だからといってここまで友人が少ない理由にはならない。そもそも、俺に話しかけてきたということは、少なくとも積極性はあるということになる。つまり、自分から友人を作りに行けないというわけではない。


 まあ、今は違うけどね。相変わらず同性の友人は変わらずだけど。






「その、青木の数少ない友人と君は面識があったの?」

「そりゃ、あったよ。でも、青木の周りに女子らが来て、青木の友人ズも来なくなってからは全然だけどさ」


 つか、まだ話の途中だって。そりゃ、この後の見所と言えば二年の末に女性陣らが登場するまで無いけどさ。


「その友人ズとは、会おうと思えば会える?」

「うーん、クラスが分からないからな。顔は憶えてるし、名前も大丈夫だけど……つか、どうしてだ?」

「いや、もしかしたら戦力になり得るかもってね。まあ、あんまり仲間を増やしても、動きづらくなるだけではあるけどさ」

「だよな。それに俺もオススメはしないかな。あいつらは、あんまり行動的では無いし。俺が言うのもなんだけどさ」

「ふーん、つまりその友人ズは例えるなら鳥谷君の様だと?」

「……お前はナチュラルに俺の友人を貶すよな」

「そう考えるということは、俺の発言が悪意を持ってると君が思うからだろ?」

「??」

「まあ、いいや。じゃあ、仲間に誘うのは、やめといた方がいいかもね」


 それよりも、といつの間にか弁当を食べ終わっていた石川は続ける。


「君から見て、石川さんと青木の仲はどう見える?」

「どうって……」


 そりゃ、仲はいいよ。よく話してるし。やっぱ、同じクラスってのは大きいだろうよ。


「はっきり言って、端から見ればカップルだよ」

「ふーん……そう。でも、その方が燃えるかもね」


 そう答えた石川は微笑を浮かべた。

 でも、何故だろう。石川は言葉通り本当に楽しんでいるように見えない。なんつうか、微妙な差なんだけどさ。前々から度々見せている笑みとは少し違う。何処か余裕が無い笑み。

 状況は、あまりよろしくない。青木と石川さんの近くに居るからこそ、よりはっきりとそう思う。


 負け濃厚。


 しかし、石川ならなんとかして見せるのではないか? という淡い期待を俺はいつの間にやら持っていた。少し前まで嫌っていた奴に、まさか期待する日が来るなんてな……。

 まあ、あんま良くないんだけどな。他力本願って。











 さて、少し時は進んで五限目。

 何故そうなったのか、この時間は調理実習の時間となっていた。

 憂鬱だ。昼飯の後に調理実習とか、ただの嫌がらせだろうよ。

 それを置いといても、そもそもこういったグループ活動自体が嫌いなんだよ……。まあ、料理なら最低限は出来るからいいけどさ。体育とか悲惨だぜ?

 まあ、ともかく今回のグループは席順で決められてるから青木と石川さんと一緒になってるし。知ってる人が居るだけマシだろう。欲を言うなら、この二人の関係に、もう少し距離が置かれてれば良かったかな。


「青木くん、野菜切るの上手いね」

「そうか? こんなもんな気がするんだけどな。なあ、大島」

「うん? ああ、そうかな」


 急に振るなよ、答えづらいだろ。

 つか、他の同じグループの人が空気読んで距離置いてるしよ。いや、俺にまで置かなくてもいいんだよ?


 にしても、石川さんはエプロン姿が可愛いな。ピンクだし。ふふふ。多分、今の彼女に視線をあげてる人たちは良い妄想材料が出来たと喜んでるだろう。

 ……俺もだよ。


 はーだーかーエプロン、でも、ぺったんこー、でーも、それも、よしー。


 しかし、こう見てると青木と石川さんは夫婦に見えるな。他の女子陣が見たら悔しがるのだろうか。特に内海ちゃんは発狂するんじゃ……。


「大島、塩取って」

「ん? ああ、はい」

「ありがとう」


 さっきまで野菜切ってたのに……。

 しかし、暇だなあ。二人が万能だから、やる事が無い。よくあるよね。グループ内に特化した奴がいて、何かしたくても出来ない状態になるの。一応、グループ活動なんだから、俺にも仕事回せよってね。いや、楽ではあるけどさ。でも、先生の目もあるからね。


「なあ、……えっと、大島?」

「えっ??」


 唐突な聞いた事のない声に、俺は思わず振り返る。すると、そこには知らない短髪のスポーツ系男子が……いや、同じグループの人か。


「ああ、悪い。考えごとでもしてたのか?」

「えっ、あっ、いや……大丈夫」


 うーむ、久々に知らない男子に話しかけられたな。ったく、相手は女子じゃないんだから落ち着けよな、俺。


「そうか。……なあ、青木と石川さんって付き合ってんの?」

「えっ?」

「いや、ほら大島はよく青木と話してるだろ? だから、何か知ってんのかなってさ」


 そうか、やっぱ外野も気になってるのか。そりゃそうか、あんな可愛い石川さんをほっとく男はいねえよな。いるとしたら、俺みたいな奥手くらいか。

 うーん、何て答えようかな。付き合ってはいないだろうけど……多分。


「……いや、多分付き合ってないと思う」

「そうなのか? じゃあ、あの二人は昔からの友達とか?」

「そこらへんは、俺もよく知らない」

「そうか。つか、青木の周りって、いつも女子がいるよな。男子つったら大島くらいだし」

「そうだな」


 ……あっ、やべえ会話が終わった。

 うーん、なんか話さなきゃ……。


「そういうのってどう思う?」

「えっ?」

「いや、青木の周りに女子が沢山いる状況」

「……どうだろな。羨ましいとは思うけど、疲れそうだな」

「そうか」


 疲れるか……そりゃ相手は女子だもんな。一人二人ならともかく三人四人だもん。疲れないなんてことは、ないんだよな。


「さて、俺らもそろそろ作業しますか」


 会話が途切れた所で、名の知らない男子は食器を取りに行った。

 うーむ、なんか久々に新鮮な気分になったな。こういうのも悪くないかも。まあ、形だけだろうけどな。どいつもこいつも、裏で何考えてるか分かったもんじゃないよ。


「大島ーちょっと手伝ってくれ」

「了解ー」


 さて、俺も作業しますか。

「美味いな」

「美味しいね」

「…………(意外とボリュームがあるな。昼は軽めにしたんだけど、全部食えるかな……)」

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