第二十一話 落ちて、落ちて、落ちて……深く深い暗い底で
「なあ、大島。宿題やってきたか?」
……宿題?
「……何の?」
「いや、数学のだよ。あの、量だけ無駄に多いやつ」
「……ああ、忘れてた」
「大島くん、宿題忘れてきたの?」
石川さん?
「つか、大島大丈夫か? なんか、朝から元気ないというか、顔色が悪いというか」
「大丈夫? 保健室に行ったら?」
大丈夫?
保健室?
いやだな。俺は、元気だよ。
でも、宿題忘れたし、ちょっと保健室に逃げようかな。あの先生、怖くはないけど、めんどくさいんだよね。
「……ちょっと、保健室で休んでくる」
っとと、躓きかけた。
「大丈夫!? 私も付いて行こうか?」
「いや、大丈夫。一人で行けるから」
二人とも、そんなに心配そうな顔するなよ。本当に、大丈夫だからさ。
別に、風邪とか、じゃないんだ、から。
そう、かぜ、じゃない。フラフラするけど、だいじょうぶ。ちゃんと、あるけるから。にしても、こんなにからだってかるかったっけ?
ふとん、フカフカだな。
……………………………………。
…………うにゃ?
「………………」
ああ、保健室か。
そうだ、寝てたんだっけ。
今、何時だろう。
つか、先生居るのか? 普通、一時間しか寝かせてくれないよな。
って事は、まだそんなに時間が経ってないんだろうか。
「………………」
えっと、一時間目が数学で……ああ、そうだ宿題、忘れてきたんだった。
はあ。出来るだけ、良い子でいたかったんだけどな。まあ、一回くらいいいか。
それより…………。
「ひでえな、本当に」
今でも、しっかりと憶えている。
三浦と栗原の本音。
そうか、そう思ってたのか。
ふふふ。
やっぱ、誰にだって裏はあるんだよな。
ああ、落ち込んだ。めっちゃ落ち込んだ。めっちゃくちゃ落ち込んだ。
だから、今度は上がってきた。ゆっくりと、しかし確実に。
怒りと憎しみが。
あいつら殺そう。嘘だけど。でも、貶めよう。本気でな。
ちょっと元気出てきたかな。
嘘だけど。
本当は、凄く泣きたいけど。
でも、男だし。こんな所で泣いたら、教室に帰った時に目が赤くてバレるし。
だから……今は、我慢。
……そう、今は抑える。抑えて、もっと現状を把握するんだ。
最低最悪のシナリオを描くために。




