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第十六話 接触その2 その二つの枠から何が見えている? 何を見つめてる?

 木曜日、あと一日で、休みだよ。

 自転車置き場へ伸びる寂しげな道を、俺は一人で思考しながら歩いていた。

 結局、この日いつものように青木の元へと来た前田ちゃんからコンタクトは一度もなかった。

 恐らく、他の女子から怪しまれないためだろう。周りの女子は、彼女から見ればライバルだし。あの前田ちゃんが、急に剛志くんと親しい後ろの席の男子と仲良くしてる!? と色々勘繰られることを避けたいのだろう。


 つか、たった一ヶ月で今まで女性との接点がゼロだった俺にも、これで四人の女子との接点が出来たんだな。

 これって、凄いこと……だよな?


 つか、これって青木から少しづつハーレムパワーを貰ってると解釈できるんじゃ!?


 まあ、そんな事は置いといて。俺が前田ちゃんと接点を持った事は皆には黙っておこう。

 特に石川には。

 あいつは、ダメだ。言ったらこき使われるし、あいつにこき使われるのは何か嫌だ。


「大島君?」


 !?

 急な礼儀正しそうな女性の声に、俺は反射的にふわふわしていた目線を声の方へやる。

 振り返った先には赤縁メガネをかけた女子……っと、吉見ちゃんだったか? 確か、坂本が狙ってる知的女子だったよな。


「えっと、何か……」


 やべえな。昨日の昼休みの情景が頭に浮かぶ。つか、こうやって真正面から吉見ちゃんを見るのは初めてだな。

 なんつうか、美人っていう表現がよく似合う。


「今日、これから暇?」

「うん、暇だけど……」


 やべえ、昨日と全く同じ展開に顔がにやけそう。

 つか、さすがは知的系女子。ハキハキしてて、声が聞き取りやすい。

 それに引き換え、俺の声の小さいこと。いい加減、女子との会話も慣れなければなあ……。だいぶ、吃らず話せるようにはなったんだけどな。


「じゃあ、ちょっと話があるから。あなた自転車よね?」

「……はい」

「じゃあ、自転車に乗って着いてきて」


 何だろう、彼女は普通に話してるだけなのに昨日の事とダブって吹きそう……。我慢我慢……。

 取り敢えず、俺は笑いを堪えつつ自転車置き場に向かった。











 学校から出て暫くした後。

 ある程度、うちの学校の制服を着てる奴がいなくなった所で、ようやく吉見ちゃんは自転車を押して歩く俺の横へスピードを落としてくれた。

 そんなに、俺と歩くのが嫌か。そうか……。

 いや、きっと他の女子たちに俺との接触がバレたくないからだな。うん、そうに違いない。つか、絶対そうだ。そうに決まってる!


「で、話というのはね」


 前を見ながら彼女は話し出した。


「…………」


 と、思ったら黙ってしまった。

 うーん、取り敢えず話し出すまで待つか。どうせ、青木云々についてだろうし。昨日の前田ちゃんみたく恥ずかしいんだろう。


「えっと、その……つまり……あれ……その……」


 焦れったいな!!

 どんな事言われるか、ある程度分かってるから尚更焦れったい。


「…………その、私のコイの協力をして欲しいというか」


 ほら、やっぱり前田ちゃんと同じじゃん。

 つか、そもそも今時、恋愛の協力をしてもらうのにここまで恥ずかしがる女子っていたんだな。昨日もだけど、俺はてっきりそういうのは二次元、つまり創作世界だけの存在だと思ってたよ。

 まあ、初めてなんだろうけどさ。人を好きになるのも、こうして相談するのも。

 そう考えると、ちょっと嬉しいな。初めての相談相手が俺なんだぜ? 数週間前まで女子との接点がゼロだった。


「えっと、つまりどういう……」


 俺も中々余裕というものが出てきたらしい。

 ここで、ワザと青木の名前を出さずにちょっといじめる。少し前の俺じゃあ考えられない、俗に言うリア充スキルである。リア充というかコミュ力というか。


「えっと、だから私は青木の事が好きで……」

「つまり、青木との恋愛の手助けをして欲しいと」

「……うん」


 横からだけど、頬を染めてる吉見ちゃんかわええ。

 つか、メガネがより一層、可愛さを引き立ててやがる。サンキューメガネ。ナイスメガネ。グッジョブメガネ。

 つか、何で俺なんだろう? やっぱ、前田ちゃんと同じ理由? つかさ、冷静に考えたら前田ちゃんもそうだけど相談相手って女子じゃダメなの?


「あの、何で俺なの?」

「それは、青木と仲が良く見えたから」


 仲がいいから、か。なら、異性でもいいのか。そんなものなのか。それとも、三浦ちゃんと同じく同性の友達がいないのか……。

 まあ、それよりも、どうしようか? 既に前田ちゃんに手伝うと言ってる以上、吉見ちゃんの頼みを聞き入れる訳にはいかないけど……。


「………………」


 そういうキラキラとした不安も含まれてる目で見られたらさー、断りづらいじゃん? そういうのって本当に女子の特権だよね。まあ、男子相手に限るけど。

 ……しゃあない。俺の目的はあくまで三浦ちゃんと青木を引っ付ける事だ。ここは、心を鬼にして吉見ちゃんを騙そう。


「分かった、手伝うよ」

「ほんと!?」


 そう言った彼女の目のキラキラ度といえば……。本当に子どものような、いや子どもだけど少なくともさっき迄の吉見ちゃんに比べたら、よっぽど子どもっぽいかなーって。

 でも、我に返ったのか吉見ちゃんは俺に背を向けてしまった。多分、今彼女の顔は真っ赤なのだろう。

 可愛い奴め。


 少しだけ間を開け、吉見ちゃんは再度こちらを向いて一つ咳払いをした。


「先ずは、ありがとう。あと、まだ名乗ってなかったわね。私の名前は吉見椿姫」

「俺は大島翠」

「ミドリ……いい名前ね」

「女の子っぽいから、あまり好きじゃないけどね」

「そう? まあ、あなたがそう言うなら、これからは苗字で呼ばしてもらうわ」


 苗字で呼ばれる権利をゲットした。

 つか、吉見ちゃんは何で青木の事を好きになったんだろう?


「えと、吉見さんは何で青木の事を好きになったの?」


 えっ? と、吉見ちゃんは、まさかそんな質問が飛んでくるとは、といった表情だ。しかも、また顔を赤らめたし。

 でも、普通は気にするもんだと思うよ。まして、恋愛の手伝いをして欲しいって言われたんだから余計にさ。


「それは……その」

「…………」

「青木は、本当の私を見てくれたから……」


 俯いてしまった。まあ、これ以上はいいか。

 つまり、表面上の真面目な私じゃなく、本当の私を見てくれたから好きになった。といった感じだろう。

 ……ふっふっふ。国語は得意なのだよ。


 そ、それよりも! と彼女は顔を真っ赤にしながら手を鞄の中に突っ込みゴソゴソと何かを取り出す。アドレス交換の時間か。

 俺は、昨日と同じように携帯をアドレス交換画面にパパッと操作した。ふふふ。こんな事もあろうかと、アドレス交換方法をチェックしておいたんだぜ。


 吉見ちゃんが取り出した赤い携帯と、俺の黒の携帯のアドレスをスムーズに交換する。

 よし、これで通算三つ目の異性のアドレスゲット! 二つは前田ちゃんと吉見ちゃんの、後一つはお母さんのだ。

 つか、まだ三浦ちゃんのアドレス登録してないな。


「じゃあ、また何かあったら連絡するから。よろしくね」


 じゃあ、と彼女なりの笑顔で言って、吉見ちゃんは歩いて行った。

 ……帰る方向、同じなんだけどな。まあ、いいや。


 さっきから、頬を撫でるような気持ちのよい風が吹いている。

 そうか。あれが、坂本の好きになった人か。知的そうだから、と好きになった人。

 坂本よ。吉見ちゃんは、知的な性格に隠れた裏性格もいいぞ。


 メガネ女子もいいもんだ。

 差出人 吉見さん

 宛先 ********@****………


 こんばんわ

 2013年5月2日 19:27


 メール、ちゃんと届きましたか?


 これから、よろしくお願いします。




「吉見ちゃんからメールが来るのは予想通りだな。にしても、飾りっ気のない質素なメールだな。敬語だし、彼女らしいや」

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