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第十三話 自分がしたい事、やりたい事、分からないけど若いからそれでいいのかもしれない

 お前は何がしたいの?

 確か、最初に坂本に青木の事を話した時にも同じようなことを言われたっけな。


 まさか、また言われるなんて。


「何がしたいって、そりゃお前が言った通りだろ? 青木のハーレム解消、加えて俺らがそのおこぼれを貰うんだよ」


 その予想だにしない一言に、少し間を置いてから栗原君が答えた。

 そう。俺たちはその為に動いている。それは分かってる。だけど、なんでだろう。俺は、素直に栗原君の言った通りの反論を石川に返せない。何かが、その意見を俺の中で止めている。よく分からない、何かが。


「ねえ、あいつの言った事は本当なの?」


 不意の小声に、俺は思わずビクついた。

 なんだ、三浦ちゃんか。ちょっと、びっくりした。

 つか、そうか。三浦ちゃんはまだ作戦の事を説明されてないんだよな。


「うん。詳しくは後で話すよ」


 同じく小声での俺の答えに、三浦ちゃんは少し不満顔だ。

 取り敢えず、今は石川だな。なんで、石川はそんな事を俺らに訊いたのか。


「栗原君、俺が聞きたいのはそんな事じゃない。それに、これは出来れば発案者である大島君に答えて欲しいな」

「…………」


 真剣な面持ちで石川は言った。

 当然といえば当然。今回の事は、俺が皆に持ちかけたのが原因だ。だから、その質問には俺が答えるべきなんだ。

 でも、俺はその質問に対する答えを今は持ち合わせていない。

 今まで勢いでやってきた。楽しんでやってきた。だから、そこまで深く今回の事を考えた事は無かった。

 でもさ、真面目って思われるかもしれないけど、でも、そんな単純に適当にこれからも進むべきなのかな?

 今回、石川に訊かれて、ようやく立ち止まれたのなら、今一度、考えてみるべきなのかな?


 それとも、俺は考え過ぎなのか?


「あのな、そんな事どうでもいいだろ? 面白いからやるじゃダメなのか? 真面目ちゃんかよ……ったく」


 そう不満顔で反論したのは栗原君だった。

 栗原君らしい答えだな。そうだよ、栗原君も、それに坂本や鳥谷も面白そうだから参加してるに過ぎないんだ。

 でも、俺はそうじゃない。今一度、考えてみよう。俺が、この方法を選択した理由を。


「なあ、それは今直ぐに答えなきゃダメか?」

「今すぐじゃなくていいよ。まあ、早いに越した事はないけど」


 石川は、爽やかな笑顔で返した。


「じゃあ、今日はこれにて解散で。石川ちゃんに関しては僕なりに調べとくけど、三浦ちゃんも出来れば大島から訊いといてね」


 そう言い残し、石川は屋上を後にした。


 ……残された五人。最初に声を発したのは栗原君だった。


「なんなんだよ、あいつは!!」


 校舎への扉が閉まったと同時に、栗原君はフェンスを蹴り飛ばした。


「お前もだよ! 一々、真面目に返してんじゃねえよ!!」


 栗原君の怒りの矛先は俺にも向けられた。

 こんなに、栗原君が感情を剥き出しにしているのは初めて見る。つか、友人から怒鳴られたのもえらく久々な気がする。

 でも、栗原君の怒る理由も分かるから……俺は、何も言い返せない。


「くそっ!」


 行く先の見えない怒りを溜めたまま、栗原君は屋上を出て行く。

 それを皮切りに、鳥谷、坂本も続いて行った。


「三浦ちゃん。なんつうか、ごめん」

「何で謝ってんのよ。それより、さっきの作戦について詳しく聞かせて」


 そうか。そういや、そんな事言ってたな。怠いけど話さなきゃ。頭の中ぐちゃぐちゃだけど話さなきゃ。


 俺は、とっくに欠かれた集中力を何とか高め、石川について、そして作戦について三浦ちゃんに話し始めた。











 土日を挟んで月曜日。

 やっと休日だー!! とテンションが上がってからの、もう月曜かー、という急降下のように、俺のテンションもガタ落ちしていた。

 そりゃ当然だろう。久々に友達から、栗原君から怒鳴られたんだぜ? 結構、ダメージデカいよ……。


「大丈夫か?」


 そんな俺を気にしてか否か。前の席の青木が話しかけてきた。


「ああ、大丈夫大丈夫……」


 心配かけまいと普段通りの調子で返すことも出来ない。

 そうか。そうだよな。慣れてないもんな。


「……まあ、大丈夫ならいいけどさ」


 結局、青木も何かを察してか否か、それ以上言葉をかけてこなかった。

 大体、ここで理由を追求する奴とほっとく奴に分かれるが、青木は後者のようだ。いや、相手によって使い分けてるのかもしれないけどさ。

 何にせよ、俺としては今は後者の方がいいな。ほっといてくれた方がいい。変に心配かけたくないからな。


 大丈夫。その内、解決する。











 結局、そんな状態のまま放課後が来てしまった。

 例によって、青木の周りには女子が集まっており、またその中には三浦ちゃんも居た。


「今日はいいのか?」

「うん、特に用も無いし」


 チラッとこちらに目をやった三浦ちゃんの目を俺は見れなかった。

 特に大した理由などない。

 ただ、昨日の作戦内容について話した時の三浦ちゃんの顔が記憶に残ってただけだ。


 「そう……ありがとう」

 作戦について説明した後、三浦ちゃんはただそう言った。表情もいつも通りだった。いや、ほんの少し暗さを見せてた気もする。

 そもそも、自分の恋愛をこんな都合よく使われ、利用されていると知って三浦ちゃんはどう思うだろう?

 気にしないだろうか? 最終的に自分の恋愛が成就すればいいと思うだろうか?

 ……何にせよ、この状況を作り出したのは俺だ。俺の軽い考えが、馬鹿げた先を見ない考えが作り出したんだ。


 俺は彼に健全な恋愛をしてもらう為、余計なひっつき虫を青木から取ってあげる事にする。だったか。

 笑える。ほんと、馬鹿馬鹿しい。

 何様のつもりなのか。ほんとに、調子に乗り過ぎだ。


 …………はあ。なんか、疲れたな。


 でも、ここで終わる訳にはいかないよな。

 こんな、進めるだけ進めて。色々考えて後ろめたさを感じ始めたのでやめます、とか。

 坂本たちからしたら迷惑な話だよ。


 俺には責任がある。自分の口で言った、言葉の責任が。

 みんなは優しいから、そんな事言わないだろうけど。でも、そういうわけにもいかない。


 …………結局、俺も無責任に楽しみたいだけなのかもな。

 だから、適当な理由並び立ててさ。ったく、自分で自分を見失いそうだよ。


 えっと、なんだっけ? 「お前は何がしたいの?」、だっけな…………。


 さて、俺なりの答えを言いにE組へと向かうか。











 E組には、既に俺の目的の人物の姿は無かった。

 なので、屋上に来たわけだが……俺の予想は大当たりだった。


「やあ、まさか一日目で来るとは思ってなかったよ」


 俺の目の前の好青年、石川は緩やかな風が吹く中そう言った。

 てことは、俺が来るまで毎日ここに居るつもりだったのか。なんか、めんどくさい人だな。


「で、答えは見つかった?」

「ああ。見つかったよ。案外、単純だった」

「そうか。じゃあ、聞かせてよ」

「その前に、何でこんなこと俺に訊いたんだよ」

「うむ……まあ、ちょっとね。ただ単に意地悪ってやつかな」


 意地悪?


「意地悪って、何が?」

「そりゃ、正直、外野から見ていて君らの行動は凄く鼻についたんだよ。なんつうか、モテない奴らが馬鹿やってるって感じ」


 …………。


「でも、実際は何かしらの意思を持って動いてんのかなって。ほら、人は見かけによらないって言うだろ?」


 石川は、いつも通りの変わらぬ笑顔を交えてそう言った。

 まるで素人が台本を読んでる様な中身の無い声で。


「そうか、そんな事のために……」

「そんな事って言うけどさ。大事な事だろ? 違うか? つか、だから大島君はこの問題に対して真剣に考えてくれたんだろ?」

「……そうだよ。真剣に考えたおかげで、今日一日生きてるというより死んでるみたいだった」

「なら、俺が質問した理由も分かってくれるよな」

「ああ、よく分かったよ……この質問に意味は無いって」

「……意味は無い? どうして?」


 急に、彼の表情が微妙に変わった。飄々としていて掴み所のない顔が、少し引き締めたものに変わった。


「確かに、そんな事を訊かれなかったら、俺は今回の作戦がどのくらい人を巻き込むかしっかり考えなかったろうよ。でも、同時に俺はこんな事考えたって仕方なかったんだ」

「仕方ない?」

「そう、仕方ない。この作戦は、ダメだからって後悔したって途中でやめたりしない。だからこそ、俺が自分の気持ちを再確認したところで意味なんてないんだよ」

「……結局、君は何が言いたいんだ?」

「俺の行動理由なんて、はっきり言ってどうでもいい」

「つまり、質問の答えは『理由は無い』と? 意外だな。君は、意味を持って行動するタイプだと思ったんだけどな」

「無理矢理意味を持たせるなら嫉妬だろうけどな。まあ、そういうタイプなんだよ。そんな大層な理由なんて持ち合わせてない」


 俺の言葉に石川は眉を顰めた。

 よく考えるけど、それによって出てくる結論は単純ってね。そういうタイプだよ、俺は。


 暫くの間、風の吹く音だけが屋上に鳴り続いていた。

 そんな、心地よい様な良くない様な空間がどれだけの間続いただろう。

 そんな、不思議な状態は石川の声によって終わりを告げた。


「じゃあ、月曜に再度ここに集まるから。放課後空けといてね」


 先ほどまでの真面目な顔は何処へやら、石川はいつもの表情に戻って屋上を出て行った。


 ふう、よく喋ったな。ちょっと疲れた。


 でも、凄え清々しい気持ちだ。

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