第十二話 隠しキャラって美味しい立ち位置と思ったけど、出てくる前と出た瞬間がピークになるかもしれないからあんま美味しい立ち位置では無いのかもしれない 後編
金曜。天気は……曇り、かな……。気持ち風が強めだ。
明日から休みだなーな金曜日、の朝。朝礼前。いや、朝礼までまだだいぶ時間がある時間帯。
俺がいつものように眠気に彩られながら教室に入ると、そこには例によって青木他、数名の女子の姿があった。なお、朝早いためか彼女ら以外に人はまだ殆どいない。
えっと、能見ちゃんに前田ちゃんに内海ちゃんか。
相変わらず無表情を貫く能見ちゃんに、ぴょんぴょんと可愛らしい笑顔を振りまく前田ちゃん、そしておしとやかな笑みを浮かべる内海ちゃん。
まさか、俺が人の、まして女子の名前を覚える事が出来るなんてな。まあ、下の名前は知らないけどさ。
そんな、輝かしい青春の一ページを描いている青木らの後ろの席に鞄を置き、俺は逃げるように、いや避けるように教室を出て行った。
大した理由は無い。ただ、眩しすぎるだけだ。そう、眩しすぎるから珍しく俺は教室の外へと出て行くのだ。
っても、何処行こうかな。
坂本、他はもう来てるのかな?
俺は、ゆっくりと坂本と他二人の居るであろうE組へと向かった。
さすがに早過ぎたか。
E組内に坂本らの姿は無かった。というより、人が全然いなかった。
まあ、仕方ない。俺も、まさかこんな早くに起きてしまうとは思わなかったからな。まったく、珍しい事もあるもんだ。
そんな事を考えながら、俺はA組へと戻ろうと踵を返そうとした。
「あれ? もしかして、大島君?」
ん? 誰だ?
振り返った俺の視界に入ったのは、こちらを向いている不思議な雰囲気を纏った男子生徒だった。
少し大人びた、落ち着いた外見。しかし、髪が所々跳ねているため子どもっぽさもある男子生徒。
そのような、矛盾を持った生徒。
「えっと、そうだけど……」
「やっぱり。どっかで見たことあると思ったんだ」
「……えっと、何処かであったことが?」
「俺は石川。君の仲間だ」
石川? 仲間? つか、石川。昨日も同じ苗字の人を……そうだ、六人目の病弱少女だ。いや、それよりも仲間?
「あの、仲間って?」
「ん? 坂本、鳥谷、栗原の友達だろ?」
「えっと、つまり坂本たちの友達?」
「ああ、坂本の友達だな。で、青木から女子を引っぺがすメンバーの一人でもある」
「……へっ?」
「ほんとは暫く黙りで行こうと思ってたんだけどね。坂本がヘルプ求めてきてさ。一応、今日顔見せするつもりだったんだ」
うーん? イマイチ話が読めないな。
えっと、坂本の友達で俺らの仲間なんだよな? でも、今まで黙りだった?
「イマイチ理解出来てない顔だね」
「そりゃそうだよ。つか、仲間ならなんで今まで俺らの前に現れなかったんだよ」
「それは、裏役の方がカッコいいからだよ。それ意外の理由は無い」
「はあ、そういう理由で」
「そっ。でも、今回坂本曰く協力者を得たけど同時に新たな問題が発生したらしいじゃないか。だから、俺もそろそろ裏から表に出てこようと思ってね」
「なら、今までも裏役として俺たちに協力してくれてたって事?」
「そう。例えば、坂本が撮った写真を元に俺が彼女らの最低限の情報を調べたりね」
「へー」
そうだったのか。でも、それならそれで坂本も言ってくれればよかったのに。それじゃあ裏役じゃなくなるのか? つか、カッコいいから裏役って……分かるけども。
でも、俺たちは石川に知らずの内に力を借りてたんだな。
「ありがとう」
「ん?」
「いや、色々調べてくれてさ」
「大した事はしてないよ。それに、俺も楽しんでるからね」
「でも、なら今後は表に立って俺らと一緒に作戦に参加してくれるんだよな」
「そうなるね」
なんだろう。凄く心強い。今日、初めて会ったのに。
「さて、じゃあ、俺の自己紹介は放課後、屋上にて改めてやる予定なんで宜しく」
「放課後? この後でいいんじゃないか?」
「ダメダメ。俺と大島君らとの接点は青木らには知られない方が都合がいいんだよ」
そんなものなのか? つか、今はいいのか。
「それじゃ、また放課後ねー」
そう笑顔で言って、石川は自分の席へと戻って行った。つか、E組だったんだな。全然、気づかなかった。
まあ、いいや。俺もA組に戻るとしよう。
で、放課後。
俺は、青木に一緒に帰れない事を言いに来た三浦ちゃんと共に屋上に来ていた。
つか、これで三日連続になるんだよな。青木は変に詮索するタイプじゃないからいいけど、能見ちゃん辺りは疑い始めてるんじゃないだろうか。いや、何に対して疑ってるんだよ、て話ではあるけどさ。
「お、君が三浦さんね」
扉を開け屋上へと入ったと同時に、聞いた事のある声が飛んで来た。朝に出会った石川だ。
「何? てか誰?」
「大丈夫。俺らの仲間だから」
既に屋上に来ていた坂本の紹介を経て、石川は三浦ちゃんの前まで歩いて来た。なお、栗原君も鳥谷も既に屋上に来ていた。
「E組の石川です。宜しく」
「……よ、宜しく」
笑顔で差し出された手に、三浦ちゃんは少し間を置いて応えた。
多分、石川のようなタイプは苦手なんだろう。表向き真っ直ぐなタイプ。栗原君とは真逆なタイプだな。
「さて、じゃあ早速作戦会議を始めよう」
そう言って、坂本の方へ石川が戻っていったと同時に……三浦ちゃんが、俺に顔を近付けてきた!?
「ねえ、あいつ何なの? 昨日はいなかったわよね」
三浦ちゃんは、小声で俺に言った。
なんだそんな事か。まったく、初めての異性の急接近にびっくりしたぜ。
「今まで裏方として俺らを助けてくれてた人だよ。つか、俺も今日の朝に初めて会ったんだ」
「へえ。信じられるの?」
「……大丈夫だと思う」
「思うって……まあ、他の皆が信じるならいいけどね」
そう言って、三浦ちゃんは顔を戻した。
うーむ、もう接近タイムが終わってしまったか。
にしても、いい匂いがしたなあ……。
「ところで、二人は誰かに付けられたりとかしてないよね」
不意の石川の声に、俺はにやけ気味の顔を引き締め首を軽く縦に振った。
多分、大丈夫だろ。皆は、特に危ない能見ちゃんは青木らと帰ったろうし。
「それならいいんだ。あと、今後も気を付けてね。じゃあ、作戦会議だけど」
「ちょっと待った」
石川の次の言葉を遮ったのは栗原君だった。
なんだろう、最近栗原君が喋ると同時に身構えてしまう自分がいる。
「なんで、急に出てきたお前が仕切ってんだよ」
ほらやっぱり喧嘩腰発言。
でも、それは俺も少しは思ってた事だけどさ。三浦ちゃんもだろうし。鳥谷はどうだろう? 表情変えないから分からんな。
「ああ、悪い。こういうのは坂本の方がいいな」
「いや、そういう意味じゃなくてな。つか、俺はいくら坂本がお前が裏で頑張ってたって聞いても、俺にとってお前は今日初めて会った人に変わりないんだよ」
ああ、俺と三浦ちゃんがくる前に石川は自己紹介を済ませてたのか。
つか、確かにそうなんだよな。石川が頑張ってたのは分かったけど、でも仲間だって急に言われて素直に受け入れられるかっていうと難しいんだよな。
そこを問題にするかどうかは別にして、だが。
「それに坂本も坂本だ。いくら本人から黙っててくれって口止めされてたとしても、どうせ遅かれ早かれこうなるのは予想できただろ。なら、もっと早めに紹介してくれてもよかったんじゃねえの?」
珍しく栗原君が熱く喋ってるな。そのくらい、栗原君の中じゃ大事な事なんだろう。
俺も……いや、そうでもないな。現に朝にそう言われた時は、何も思わなかったし。
「まあ、坂本を責めるなよ。元は俺が悪いんだ。さっきも説明したけど、俺のわがままに付き合ってもらってただけなんだよ」
そう、あくまでカッコいいから裏方に徹していただけ。そんな適当な理由から、石川を栗原君が素直に受け入れられない事態になっている。
「どっちも悪いだろ」
「いや、三人とも悪いな」
ここで鳥谷の低い声が挟まれた。校外な為、ちょっと聞き取りづらい。
「はあ? なんで、俺まで悪いんだよ。つか、お前だってそう思うだろ?」
「確かにそうだとは思う。でも、そんな事を言い合ってても先には進めない」
おっ、鳥谷いい事いうな。確かに、些細な事ではあるもんな。でも、大事な事でもあるんだよな。
今回の作戦はチームワークがモノをいう。なら、どんな些細な事でもモヤモヤは潰した方がいいんだろう。
「今は素直に協力者が増えた、くらいに考えるべきだと思う」
調子を変えずに鳥谷はそう言い切った。
……どっちがいいとは言えないな、俺は。卑怯だけど。
「……はあ、分かったよ」
あまり納得してない様子だが、栗原君は珍しく引いた。
さすがに鳥谷に言われちゃ引くしかないか。鳥谷は妙に言葉に力があるんだよな。普段、あまりモノを言わないからなのか何なのかは知らんが。
「じゃあ、取り敢えずは俺が進行役をやるぞ」
そう坂本は言った。
進行役か。そういや、気付けばそのポジションに坂本がいたな。ほんと、極めて自然に。
「先ずは、昨日の石川ちゃんの件だけど、暫くは保留にする」
「保留って、それじゃあ後々支障が出てくるんじゃないか?」
「ああ、出てくる。だから、あくまで行動を開始するまでだな。その間に石川に出来る限り調べてもらう」
「今回、僕がこうやって表に出てきたのも、これのため。実際、坂本の情報網で調べるって言われても信じ難いだろ?」
「じゃあ、もっと早くに出て来いよ」
「出来る限り裏方という立ち位置を楽しみたかったんだよ。悪かった」
それに、栗原君は舌打ちし顔を背ける。可愛い奴め。今のを女子の前でやったら高ポイントだったろうに。三浦ちゃん除く。
「じゃあ、次だな。次は相手の女子四名の中でヤバそうなのを……三浦っちに訊きたいんだ」
「ヤバそうなの?」
「そう。こういうのに鼻が利く奴。まあ、頭が周って容赦ない奴だな」
「容赦ないって……うーん、誰だろ」
こういうコソコソしたのに敏感、頭が周る、容赦ない……能見ちゃんか。もしくは、メガネな吉見ちゃんかな。容赦ないとは違うと思うけど。
逆にスポーツ前田ちゃんや、内海ちゃんは無いな。うん、無い。
「頭がいいのは吉見ね。で、裏がありそうなのは能見と内海……前田もか」
えっ? そんなに? 前田ちゃんや内海ちゃんはねえだろー。
いや、内海ちゃんは欲望という名の裏はあるけどよー。
「なあ、前田ちゃんや内海ちゃんは裏がありそうに見えないんだけど」
「女子って意外と腹黒い奴が多いのよね」
「三浦含む」
「何か言った?」
「いーえー、べーつにー」
なんか栗原君がいつもの栗原君に戻ったようで安心したぜ。
にしても、裏がねえ。女子目線だとそうなるのかな? 俺には全く分からんが……。まあ、今まで異性との付き合いが無い人間にそんなのを見分ける力は無いのは当然か。
「そっか。うーん、全員か。どうするかな」
「で、そんな事私に訊いてどうするの?」
「要注意人物として気をつけようってだけだよ。あと、そういう頭が回る奴は下手に接触すると、こちらの意図を読んで逆に利用してくる可能性があるからな」
「作戦の為には彼女らとの接触は不可欠。だからこそ、悪い意味でのジョーカーの設定が必要なんだよね」
石川が続けて答えた。
ジョーカーか。でも、それくらい慎重にならなきゃだよな。
「でも、それじゃ動けなくならない? 私からすれば、みんな頭が回るかどうかはともかく、疑い深い奴ばっかよ」
「それなら、坂本と大島君が接触した前田ちゃんと内海ちゃんは黄色信号って事になるね」
「つか、お前が疑心暗鬼になってるだけじゃねーの?」
と、言ったのは栗原君だ。それをきっかけに石川とまた言い争いになりそうなのを坂本がなだめた。
「まあまあ。ともかく、調査が必要だな。ちなみに鳥谷はどう思う? 俺ら、ちょっと慎重過ぎるか?」
そう言って、坂本は黙りな鳥谷の方を向いた。
「俺は、多少は運に任せてみるのもアリだと思う」
「俺もそうだよ。じゃねえと面白くねえし」
鳥谷の言葉に栗原君も続いた。
確かに確実性ばかりを重視してたら前に進まなくなってしまうかもしれないし、ある程度は割り切ってもいいのかもしれない。
「……そっか。ちなみに、ミドっちはどう思う?」
「俺も、二人に賛成かな。多少は割り切って進めなきゃ、この作戦は成功しないと思う」
「……『ドミノ倒し作戦』か」
不意に石川が呟き、続ける。
「誰かと青木の恋愛を成就させる。この場合、三浦さんになるけど、三浦さんの恋愛を成就させ他の子たちの目を青木以外に向けさせハーレムを解消させる。で、あわよくば坂本他三人でその子らをゲットする。だったかな?」
そうだけど、いきなりどうしたんだ?
「今更、こんな事言っても仕方ないけどさ」
うん?
「お前ら、何がしたいの?」
不意に吹いた風と共に、その言葉は俺たち四人を通り過ぎていった。




