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Chapter1 千秋

 私にはお兄ちゃんが二人いる。それも双子のお兄ちゃん。先に生まれたのが千春お兄ちゃん。後に生まれたのが千夏お兄ちゃんだ。

 お兄ちゃんたちは本当にそっくりだ。イチランセイソーセージ(?)って言われているの。だから私もたまに間違いそうになる。左肩にほくろがあるのが千春お兄ちゃんで、ないのが千夏お兄ちゃんだ。肩なんて服ですぐ隠れてしまうから、見分けるのは結構注意が必要なの。だから私は千春お兄ちゃんのことも千夏お兄ちゃんのことも「お兄ちゃん」って呼んでる。


 お兄ちゃんたちは趣味も好みも同じだけど、性格だけは少し違う。千春お兄ちゃんは穏やかだけど、千夏お兄ちゃんはちょっと怒りっぽい。でもどちらのお兄ちゃんもとっても大好き!

 そうそう、さっき好みも同じって言ったけど、少し前に大喧嘩する出来事が起こったの。お兄ちゃんたち、クラスの同じ子を同時に好きになっちゃって、でもお互い意地っ張りなところがあるからどうしても譲ろうとしなかったの。そしたらこの後どうしたと思う?二人で付き合ったんだよ!表面上は千夏お兄ちゃんとその子が付き合い始めたってことになってるんだけど、たまに千春お兄ちゃんがすり替わってデートしたりしてたんだって。そしたらヤったヤってないって揉め始めちゃって、

「お前何勝手に先にヤってんだよ!」

「いーじゃん別に。後とか先とか関係ないじゃん」

「育美と付き合ってんのは俺なんだぞ!」

「名前だけじゃん!俺だって育美と付き合ってるね!」

「でも、育美と付き合ってるのは''千夏''なの!だからもう手出すんじゃね―ぞ!」

 そんな感じで大喧嘩になっちゃって、結局彼女に本当のことを打ち明けたんだけど、二人とも平手打ちを受けて帰ってきたの。可笑しいでしょ?でも、そんなことがあっても次の日には何事もなかったかのように仲良しなの。そんな二人のお兄ちゃんが私は大好き。


 あ、そうそう、お兄ちゃんたちの親友で達哉さんって人がいるの。スポーツ万能で頭もいいし、とても優しくて、皆が憧れる先輩。達哉さんはお兄ちゃんたちの友達っていうのは知っていたけど、実際に初めて会ったのは大学のサークルだった。私と達哉さんは同じ哲学研究会というサークルに所属している。哲学研究会って堅苦しい名前だけど、実際は大したことをしてない。月に1回、自分が読んだ本を持ち寄って発表し合う、ただそれだけ。私はもともと本を読むのが好きだったし、

「哲学に関する本じゃなくてもいいよー」

って当時の部長も言うもんだから私は毎月推理小説を読んで発表している。


 ある日、達哉さんが私のところにやってきた。彼は一冊の本を手に持っていた。E・H・カーの『歴史とは何か』という本だった。

「達哉さん、また小難しそうな本ですね」

「いや、この本で言わんとしていることはそんな難しいことじゃないよ。要は歴史っていうのは歴史家の主観が入っちゃってるんだよってことなのさ。例えば、政治家が歴史を紡ぐと政治に偏った歴史になっちゃうだろうし、戦場カメラマンが歴史を紡ぐとそれは戦争に偏った歴史になる。歴史に客観性なんて実は存在しないのさ。でもさ、世の中そんなもんだろ?二人で同じ海を眺めていても一人はそこに浮かぶ船に目がいくかもしれない。そしてもう一人は水平線に目がいくかもしれない。自分が見ているものって結局全部主観でできているし、逆を言えば無意識のうちに目の前の見たくないものをなかったことにしている。僕も、そして千秋ちゃんも」

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