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neuf ~fin

本編おしまいです (^^)



シシィがディータのプロポーズに肯首したその日。

ディータは一人でタンザナイト家を訪れた。


「シシィが婚姻に同意したって?」

帰宅していたアンリに事の次第を話す。

「ああ。ようやくね。がんばったよ、僕!」

嬉しそうに笑みをこぼすディータ。

「ああ……で、シシィはどうしているのですか?」

アンリの横で、ほっとしながら聞いてくる父伯爵。

一応、今までの報告書やディータ自身の報告で、娘の安否は知っていたものの、実際ふた月も会っていないのには参っていた。

「とりあえず、明日にでも連れて帰ってきます。マダム達にも事情を説明しなくちゃならないですからね」

「そうですね。そのあたりはお任せしました」




「マダム、だんなさん。今までお世話になりました」

ぺこり。

身支度を整えて、シシィがマダムとだんなさんに挨拶をする。

「あら、今生の別れでもないし。また働きたくなったらいつでもいらっしゃいな」

にっこりと微笑むマダム。

「ほんとう?! じゃあ、落ち着いたらまた来ていいですか?」

シシィが勢い込んでマダムにお願いする。

「ええっ?!」

横にいるディータが驚いてしまった。

そんなディータを上目づかいに見ながら、

「ダメですか? ここでのお仕事があまりにも楽しかったから……。おうちにいるだけよりも、とても充実してたから。ここでのお仕事がダメなら、家出したままでいます! 結婚もしません!」

アクアマリンの瞳に決意をみなぎらせるシシィ。

そんなシシィに勝てるわけがない。

「……わかりましたよ、シシィ。あなたには敵いませんね。ということでマダム、これからもよろしくお願いしますね」

やれやれとため息をつきながらも、マダムに向かってディータも頭を下げる。

そんな二人のやり取りを微笑ましく見ていたマダムと旦那さんだったが、

「まあまあ。それはうれしいね。リリィちゃんはうちの看板娘だからねぇ」

ニコニコと嬉しそうに言うだんなさん。

「そうねぇ。リリィがいなくなったら売り上げも激減しちゃいそうだしねぇ」

おほほほほ、と朗らかに笑うマダム。

「じゃあ、すぐにでも戻ってきますから、待っててくださいね!!」

アクアマリンの瞳を嬉しそうに細めて笑うシシィだった。




「「「シシィィィィィ!!!!!」」」

タンザナイト家に着いた途端、両親と兄がシシィに飛びついてきた。

「わっ!!」

眼を見開き驚くシシィ。

抱き付かれた拍子に後ろによろめいたが、そこはしっかりとディータに支えられて事なきを得る。

涙でぐちゃぐちゃになった父伯爵が、

「いきなり出て行くなんてひどいよ? 父様たちがどんだけ心配したか解るかい?!」

シシィの頬を両手ではさみ、しっかりと見つめる。

シシィのアクアマリンが揺れる。

「だってぇ。父様たちが勝手なことをするからですわ」

少し拗ねた口調でシシィが返す。

「ああ、ああ。お前に確認しなかったのは悪かったよ? でも決めたんだね? アウイン侯爵殿のプロポーズを受けたんだろう?」

「ええ……まあ……」

恥ずかしそうに目を伏せるシシィ。

それまで後ろで静かに見守っていたディータが、

「明日にでもこの婚約を公表したいのですがよろしいですか? ついでに結婚式も、すぐにでも執り行いたいのですが」

ニコニコと伯爵に伝える。

「すぐに結婚式と申されましても……」

準備もありますし、と伯爵。

シシィから視線を外し、ディータを見やる。

「明日婚約発表で、明後日結婚式でも僕は構わないですけど?」

あくまでもニコニコと言うディータ。

「いや、それはどう考えても無理だろ」

半目で冷静につっこむアンリ。

「まあね。じゃあ、準備もあるだろうから、式はひと月後でどうでしょう?」

肩をすくめて、仕方ないなぁと妥当な所を提案する。

「それなら何とか大丈夫でしょう」

伯爵も何とか同意する。

「それ以上はもう待てませんからね? シシィ殿とこれ以上離れていられませんから」

家族の手からシシィを取り戻し、自分の元へ抱き寄せる。

「ディーさん!!」

慌てたようにシシィがもがくが、気にしない。

そのプラチナの髪に口づけを落とす。

もうっ! と言って見上げてくるシシィの瞳の色彩に満足する。


アクアマリンに映るのは、飾らない本当の自分。


それだけでも幸せな気分に満たされるのであった。




「また、シシィがいなくなった……」

3日後。

出仕直後の執務官室にて。

自分のデスクに突っ伏して、アンリがディータに告げた。

「また? っつーか、もう?」

「はあ? もうってなんだよ? ウェディングドレスだけ決めたらさっさとどっかに消えたんだよ」

突っ伏したまま盛大な溜息をもらすアンリ。

「あーあ。でも、行先はわかってるから大丈夫だよ」

もうマダムのところに行ったのか、と苦笑する。

「まあな。どうせマダムんとこだろ?」

「今日の帰りにでも視てくるさ。そっちは準備を滞りなく行っててくれればそれでいいよ」

にっこりと催促するディータ。

「はいはい。伝えとくよ。シシィは任せたからな?」

顔だけディータに向けたアンリが言った。




カラン。

「いらっしゃいませ~、って、あ!」

にっこり笑顔で挨拶していたはずのアメジストの瞳が見開かれる。


「やっぱりね。聞いたよ? もうここに来たの?」

マダム・ジュエルのパティスリーの入り口扉を開けて入ってきたのは、仕事帰りのディータ。銀縁眼鏡の奥の瞳が微笑みで細められている。


「もう私のすることなんてないじゃないですか? 暇を持て余すならここにいる方がよっぽど楽しくて……」

上目づかいにこちらを見てくるアメジスト。

店に立つ時は『リリィ』。アメジストの瞳にブロンズの髪。

でも仕草までは変えられず、そこがかわいくてたまらないなぁと思うディータ。

「仕方ないですね。でもちゃんと式の前日には帰ってくださいよ?」

肩をすくめながらシシィに念押しする。

「はい!! あ、今日は何になさいます?」

嬉しそうに返事をしてから、急に店の看板娘の顔に戻る。にっこりと今日のオーダーを取る。

「じゃあ、ストレートのアールグレイを」

そう言って上着を脱ぎながら、ディータはいつもの定位置に腰掛けた。




結婚式は予定通り行われた。


披露宴で振舞われた焼き菓子・生菓子、引き出物の菓子は総てパティスリー・マダム・ジュエル謹製であったそうだ。


最後までお付き合いありがとうございました!


これでディータ編はおしまいです。


この後はぽちぽちと番外編などを書きたいなぁと思っています。

シシィ視点は『逃げる令嬢~』で、ディータ視点は『逃げた令嬢~』で書いていこうかなぁと思ってます。


またよろしくお願います☆

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