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quatre

アウイン侯爵家からタンザナイト伯爵家に、正式に『タンザナイト伯爵令嬢シシィ殿と婚姻したい』と申し入れがあったのは、例の夜会から1週間後。


父親である伯爵も執務官室の諜報部所属。

なので本来のディータのことをよく知る人物。

浮ついたアウイン侯爵というのは任務のためだと理解していたので、この婚姻の申し入れを快諾してくれたのだったが。




「何? シシィ殿が失踪?」


婚姻の申し入れをしてから3日後。

シシィに直接申し込もうと思い立ち、タンザナイト家を訪れたディータに慌てる家人が告げたのは『シシィの家出』だった。

アンリとも仕事の擦れ違いで会っていなかったためにそれは聞き及んでいなかった。


「まだ自分には早すぎると言いまして、どうしても嫌だと。皆で説得したのですが移動魔法まで繰り出してどこかに家出してしまったのです」

汗を拭き拭き、父伯爵が説明した。

『早すぎる』というのは、ディータに対する建前だろう。本当のところは『浮気者なんて嫌だ』というところだろう。ディータは確信していたが、

「……王妃レティエンヌ様も17歳。決して早すぎるとは思わないのですが……」

さらに伯爵が付け加える。

が。

そんなことはどうでもいい。

逃げられるほど嫌われていたのかということにショックを受ける。


今までの態度から、好かれているとは到底思えなかったが、自分に興味がないだけで、まさか家出するほどまでとは……!


顔から表情というものが消えていた。

呆然とソファに座り込み、打開策を考える。

とりあえず、会って話をしたい。

誤解があるのなら(いや、確実にある)、それを解かねばならない。


「いつ頃いなくなられたのですか?」

捜すには情報も必要。

ディータは気を取り直して伯爵に尋ねる。

「3日前です。ちょうど、侯爵殿からお話をいただいてすぐに娘に確認したところでした」

「そうでしたか」


縁談を聞いてすぐさま家出か!!


さらにショックを受けるディータ。

しかし、平静を装ってなおも聞く。

「どのようにしていなくなられたのですか?」

「移動魔法を展開しましてね。まずはこの部屋から自分の部屋に移動して、そこで荷物をまとめてまたそこからどこかへ移動したようです」

消えて3日。


移動魔法を展開したのならば、まだ痕跡は残っている可能性がある。

それを手繰っていけば……


意識を集中させる。


視線の先には光あふれる庭園。

美事なそれも、彼女の痕跡を探すディータの意識には入ってこない。


あった……!


ほんのわずかながら、シシィの魔法の痕跡を見つけることができた。

かなり微弱で、ほとんど消えかかっている。


この広間から、一旦自室らしいところに移動したな。……それから……座標はどこだ……? ああ、これは噴水大広場か……。


そこまではわかったのだが、それ以上がどうしてもつかめない。

微弱すぎるのか、はたまたすでに痕跡が消えてしまったのか。

とりあえず、大広場に行ってみようと思うディータ。

「……私も、シシィ殿を捜します。ですから、この縁談は解消にはしないで下さい」

静かにタンザナイト伯爵に告げるディータ。

伯爵は驚きながらも「わかりました」と了承してくれる。




タンザナイト家を辞去した足で、噴水大広場を目指す。

「……ここまで、来たね。シシィ」

噴水の前に立ち、周囲をぐるりと見渡す。

王都の中心だけあって、店もたくさんあり、庶民・貴族・騎士など、色々な人で賑わっている。

「木を隠すには森の中、か」

もう一度意識を集中させて、シシィ魔力の痕跡を探す。

しかし。

まったくというほど感知しない。

腕組みし、顎に手をやるディータ。

「ここからは徒歩で移動したと考えてよさそうだな。ということは、さほど遠くへは行ってないだろう。後は彼女自身が発する魔力を感知できればいいんだけど」

痕跡から察するに、どうやら彼女の持つ魔力は微量みたいだ。

これだけたくさんの人の中、微弱な彼女の魔力を感知するのは至難の業。彼女よりも強い魔力を持つ者がいれば、あっさりと隠れてしまう。

かなり近づかないと感知できなさそうだ。

「う~ん。コツコツと探しますか」

腕組みしたまま、一人ごちた。




それから毎日、仕事帰りに地道に探して歩く。

噴水広場からは蜘蛛手に道が広がっている。

それを一本づつ調べて歩いた。

通りにある店をさり気なく覗きつつ。

少し路地裏までも綿密に。

意識を集中させながらの作業は長時間できないので、それは意外に時間を取られた。




捜し歩いて2週間ほどたったころ。

ようやくシシィのものと思われる微弱な魔力をキャッチした。

その通りは一度探したことがあったところだったのだが、前回探した時はそんな魔力をキャッチしなかった。

おそらく、建物の奥に入りこんでいたのだろう。

微弱な彼女の魔力は、それくらいでも途絶えるのだった。


シシィのものと思われる魔力の発信源を手繰っていくと、そこは有名パティスリー、マダム・ジュエルの店だった。


なんだかだんだんディータがストーカー化していく気が……(笑)


今日もありがとうございました!

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