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deux

二度目にシシィと巡り合えたのはひと月後。

王太子シャルルの即位・戴冠式のパーティーであった。




今回のディータのお相手はトルマリン伯爵令嬢。

彼女もアイオライト子爵令嬢同様、派手な美女。

ディータよりも年上の彼女は25歳。

行き遅れ感のある肉食系令嬢である。

それを軽くいなしながらも不快感を与えないディータ。


「タンザナイト伯爵様、ご到着」

侍従の声とともにタンザナイト伯爵夫妻、アンリ・シシィ兄妹が入場してきた。


今夜もシシィは兄のアンリにエスコートされてる。

今日のドレスは真紅のバラを思わせるような臙脂。

彼女の白い肌によく映えていた。


思わず見惚れてぼんやりとしてしまったところに、

「アウイン侯爵様? いかがなされました?」

令嬢がディータの顔を覗き込む。


おっと、隣の令嬢のことをすっかり忘れていた。


彼女を忘却の彼方にやってしまっていたことを気取られぬように、

「ああ、申し訳ありません。貴女があまりに美しいので中てられてしまっていました……」

にっこりと微笑みながら真っ赤なうそをつく。

エメラルドの瞳に甘く見つめられて、

「まあ、侯爵様ったら……。おほほほほ」

満足げに笑う令嬢。

それからは気取られないようにシシィを観察するディータだったが。


一度も目が合わないんですけど?


そう。まったく無関心なシシィ。

目が合うどころか、一度もこちらを見ることすらもない。

内心がっかり項垂れるディータ。

ここまで関心を持たれないなんてこと今までなかった分、敗北感も一入。

ますますシシィのことが気になっていった。




「アンリ。君の妹はどういう子なの?」


今まで相手にしてきた女性とは全く異なるシシィ。

あれから気になって仕方がない。

というより、忘れられない存在となっていた。

夜会などでしばしば見かけるようにはなったが、やはり一向に興味も何も示してくれる気配すらない。

「ん? シシィかい? う~ん、そうだなぁ。身内から見ても優しくて賢い子だよ。真面目と言うか。浮ついたとかふらふらしたということが嫌いだね」

と言ってから、ディータを見て苦笑いをする。

「あー」

がっくりうなだれるディータ。

「表のディータとは対極にあるだろうな」

憐憫の視線を送るアンリ。

「だな」


アンリは、社交界でのディータが仮の姿だということを知っている。

本来のディータは仕事もでき有能有望な人物なのだが、いかんせん、社交界での彼は浮名を流しっぱなし。内密の仕事とはいえ、毎回のように連れている女性は変わるわ、お付き合いしていると噂される女性はころころ変わるわ、まったく『不真面目』を絵にかいたような人物として知られている。

眉目秀麗であたら浮名を流す貴公子。それがディータの表の顔。


「あ~もうこの仕事辞めようかなぁ。この任務にも疲れてきたし」

椅子の背もたれにもたれて、思いっきり伸びをしながらディータは愚痴る。

「ものすごい天職だと思ってるけど?」

人の気も知らないアンリが、アクアマリンの瞳を細めてニヤリとする。

「僕の上っ面しか見ない『淑女方』にうんざりなんだよ。キラキラ華やかな『侯爵様』を演じるのも結構ストレス溜まるしね」

椅子にそっくり返ったまま、仏頂面で天井を見つめるディータ。

「まあな」

そこは同僚。アンリも『本来の自分ではない人格を演じること』の大変さはわかっている。

「それにこのままだと、君の妹君の視界にも入れてもらえないし」

ため息交じりに呟く。

「うわ! やっぱりディータの目に留まってしまったのか! 哀れなシシィ!!」

またもや大袈裟に悲しむアンリ。

「僕が気に入ったからって、なんで哀れなんだよ。失礼な」

そんなアンリを横目で睨む。

「いや、冗談だ」

けろりと言ってのけるアンリ。そしてさらに、

「まあ、この任務に就いている間は、シシィに相手にされないだろうことは確実だね」

と付け加えた。

「だよな。……よし、いい潮時だ。ちょっくら異動願い書くぞ! もう5年もこの任務に就いてるんだから、そろそろ解放してもらってもいいだろう」

そう言うとディータはデスクの中から白紙の便箋を出してきて、おもむろに異動願いを書きはじめた。

「お、おい、まじかよ?」

横ではアンリが焦っている。

「本気も本気。異動できないなら王城勤めも辞めて田舎に引っ込んでやる!!」

そう言いながらも文書を書き続けるディータ。

「すげー決意! しかもシシィが引き金って、それ、どうよ?」

またもや苦笑を漏らすアンリだった。




「異動願い?」

ディータの突然の嘆願書を受け取ったのは、執務官室長のエメリルド。宰相トパーズ卿の長男で、王妃レティエンヌの兄にあたる彼は、宰相見習いで、執務官室の室長も兼ねている。

受け取ったばかりの異動願いを読みながら、ディータを見やる。

「また、こんな急に。なんでかな?」

にこやかな表情で、デスクの上で両手を組んでこちらを見ているエメリルド。

「はい。そろそろ疲れを感じまして。僕も目立ちすぎてきてしまいました。そろそろ後任と交代したほうがよろしいかと思いまして」

もっともな言い訳を、もっともらしく言うディータ。

「ふむ。なるほどね。確かに目立ちすぎることはよくないね。……わかった、検討しておくよ」

そう言って、エメリルドは異動願いをデスクの引き出しに仕舞い込んだ。




結局、その異動が叶ったのは10ヶ月も先のことだった。


~ひと月後~

「エメリルド様、あの異動願いどうなりました?」(・o・)

「ん? 何のこと?」(° ° )

「先月お渡ししたものです!」(・o・)

「あ~、あれね。どこか書類に紛れ込んじゃったんだよねぇ」( ̄▽ ̄;)

「はああ?」∑( ̄□ ̄|||)

「ごめんごめん」(^―^)

「……」(→ _ →)

「あ、今度××伯爵の捜査、よろしくお願いしますね♪」( ^_‐ )

「……確信犯かよ」( ̄^ ̄)


今日もありがとうございました!

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