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Le jour du trouble

王妃レティ様がいなくなった?!

すわ! 一大事!! と国王シャルル以下は奔走するが、その時執務官たちは……?


とある騒動の一日です☆

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。

冬の季節のど真ん中、今朝の王都は雪景色でどこもかしこも真白である。

しかし王城内はセントラルヒーティングが完備されているので、どこにいても(廊下でさえ!)快適な温度に保たれている。




「寒かった~!!」


ドサッと執務官室の自分のデスクに着くなりディータは嘆いた。厚手のコートを脱ぎ、ほっと息をつく。が、言葉とは裏腹に上機嫌である。

「ああ、今日はかなり冷え込んだよな」

寒い寒いと嘆くディータに向かって、アンリは呆れた口調で言う。

「ああ、ほんと、どこもかしこも真っ白だったよ!」

「寒い寒いというところを見ると、今日もシシィと徒歩で来たのか?」

「ああ、もちろん。寒いから馬車にする? って聞いたけど、『雪が見たい』なんてかわいい事言われちゃ、夫たるものそれくらいの願いは聞き入れなくちゃならないだろ?」

「……朝から鬱陶しい」

目いっぱいに相好を崩してシシィの話をするディータに生ぬるい視線を投げかけるアンリ。

そんなアンリなど知ったこっちゃないディータは、

「さあ、今日も頑張って早く終わらせるぞ~!!」

待ってろシシィ~! と、気合を入れて仕事に取り掛かったのだった。




気合を入れて仕事を開始してしばらく後。

昼休憩にはまだ早いかなという時間に、執務官室外の廊下がバタバタと騒がしくなった。

「なんかあったかな?」

デスクから顔を上げ、のんびりとした声でアンリが言うが、

「知らない。関係ない。声かけるな」

ディータは我関せずと、せっせと仕事にまい進する。

「ひどい奴~」

とアンリが苦笑いしていると、


コンコンコン!!


執務官室の扉が慌ただしくノックされた。


「はい。どうぞ」

落ち着いた声で執務官室長のエメリルドが応えると、

「失礼します」

と扉を開け、恭しくお辞儀をしたのは国王シャルルの側近の一人。それを見てくいっとエメリルドの眉が上がる。

「どうしました?」

エメリルドが声をかけると、側近はエメリルドの傍近くまで行き耳打ちをした。

エメリルド以外の執務官は皆一様に「何事?」と二人を見守っている。

さすがにディータも仕事の手を止めて二人を見守った。


「……はい、わかりました。僕もそちらに参りましょう。ペリドット次官、ちょっと」

そういうと、エメリルドは次官のペリドットを手招きし、何やら耳打ちしてから側近と一緒に慌てて部屋を出て行ってしまった。

「こりゃなんかあったな」

アンリがディータにこそっと耳打ちする。

「だな」

心の中で無駄に過ぎていく時間をカウントしながら、ディータも一応仕事の手を止めたまま成り行きを見ていた。

「どうされたのでしょうかね?」

「さあ?」

「またレティ様がなにかやらかしたんじゃないですか?」

「ああ、それっぽいなぁ」

執務官室もざわついてきた。


しばらくして戻ってきたエメリルドが深いため息をつきながら部下に説明した。


「レティ様がどこかに行かれてしまったらしいのです。陛下は捜索に、王城内の近衛兵を総員出動して城下に行かれてしまいました。アウイン殿、タンザナイト殿、申し訳ないが緊急事態につき配置について下さい」


また深々とため息をつくエメリルド。

何らかの緊急事態に、王城内の近衛騎士が少なくなり警備が手薄になってしまった場合、城内にいる諜報部員が警護にまわるシステムになっている。諜報部員はあらゆる訓練を受けているので、近衛騎士並みの腕を持っているからだ。

という訳で、ディータ、アンリ、と他数名が城内へと散る。


「残業になったらどーすんだーーー!!」


一人拳を震わせるディータだったが、わがままは許されない。グッとこらえ切り替えると配置についた。




しかしながら、シャルルに内緒で城下に買い物に出かけていたレティはすぐに見つかり捕獲され、シャルルも近衛騎士もすぐに戻ってきたので、業務にさほど支障をきたすことなく戻ることができた。


「しっかし陛下も溺愛ですよね~」


自分のデスクに戻ってきたアンリが口を開く。

「あー、でも急にいなくなったりしたらそりゃ探し回るに決まってんだろ」

一緒に緊急配備についていた同僚がそれに応えると、心当たりのある男たち――ディータ、エメリルドを筆頭に――は、深く「うん!うん!」と激しく同意するのであった。


それから無駄になった時間を取り戻すべく、いつもよりもさらに集中して仕事にまい進していたディータだったのだが。


午後の休憩の時間に、


「王妃様から騒がせて申し訳なかったという反省と労いの差し入れでございます」


にこやかに王妃様付の侍女の一人がお盆を持って執務室にやってきた。


「「「うっ……!!」」」


執務官室内の事務官たちの顔が一斉に引きつる。

侍女が手にしているのは「レティ様特製滋養強壮薬汁☆」。

ここの王妃様、しょっちゅう何かをしでかしては周りの者をハラハラさせる。だが、その後は治癒魔法で労ったり、こうやって栄養ドリンクを作ってくれたりするのだ。

気持ちは有難い。涙が出るほど。反省が伝わってきて、だから自由人でも皆に慕われるのだ。


しかしこの薬汁が不評なのだ。


治癒魔法は疲れが癒されるので至極好評。だがこの薬汁、めちゃくちゃ不味いのだ。多分ご本人、味見したこともないのだろう。体にいい薬草をこれでもかとふんだんに使用している贅沢な逸品なのだけれど……。

「今回は治癒魔法ではありませんでしたね……。皆さん、諦めていただきましょう……」

引きつった顔でエメリルドが全員に促す。

ゴクリ……と生唾を飲み込む音が、妙に静かになった執務官室内に響き渡る。

覚悟を決めたものからどんどん飲み干していく。

ディータもさっさと罰ゲームは終わらせるべし、と一気飲みしたが。


「おえ……」


涙があふれてきた。




城の警備のために中断してしまった分も普段以上の集中力でカバーして、何とか就業時間内に仕事を終えたディータ。


「じゃ、お先に失礼しますっ!!」


コートをひっつかみ、飛ぶように仕事場を後にする。

そして急行するのはパティスリー・マダム・ジュエル。


カラン。


「いらっしゃいませ! あ、ディー! お疲れ様でした!」

ニッコリと微笑む愛妻シシィ。


ああ、これで今日の疲れもやっと癒されるというもんだ……!!


緊急配備の疲れも、薬汁の不味さも吹っ飛んだ瞬間だった。


『王妃様のお買物』の裏の一日でした。(^^)


青汁。私はだめだろうなぁ……。食わず(飲まず?)嫌いでまだ試したことはないですが(笑)


ありがとうございました!

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