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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第2話 影に囲まれ咲くひまわり
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-1-

 真冬にしては珍しく、ちょっとポカポカした陽気に包まれながら、あたしは葉のなくなった並木道をゆっくりと歩いていた。

 マフラーを巻き、薄手のコートを着てきたあたしは、軽く汗ばみながらも、時おり吹き過ぎるそよ風のほのかな冷たさを、心地よくこの身に受けつつ歩く。


 今のあたしの生活は、政府から保障されている。

 最低限ではあるけど生活保障金も出るため、贅沢はできないとはいえ、生きていく上で困ることはない。

 というわけで、あたしはとくに働きに出たりすることもなく、日々をのんびりと過ごしていた。


 あたしたちは、正義の味方として活動し続けたあと、急に失踪してしまったため、メディアに広く取り上げられていた時期もあったらしい。

 そんなあたしが、本名でバイトなり就職なりの面接に行ったら、確実に気づかれてしまうだろう。


 今のあたしを周りがどんな目で見るかはわからないけど……。

 実際のところ、世間はそんなに注目なんてしていないものなのかもしれない。


 失踪してメディアに取り上げられたのだって、すでに二年以上前の話になる。

 こうして散歩していても、声をかけられたりじろじろと見られたり、といったことは、まったくなかった。

 だからきっと、働きに出て普通に生活しても、なにも問題はないはずだ。

 とはいえ、どうなるかはわからない、という考えがどうしても頭をよぎってしまい、あたしはこの町でひっそりと暮らすことを選んだ。


 散歩中も、なんとなく視線は感じる。

 すれ違う人から注目を受ける、というのとは違った、微かな視線。

 あたしを監視している政府関係者の視線なのだろう。


 政府によって拘束され、様々な「実験」をされたことについては、口外していない。

 事情をある程度聞いているであろう、さくらちゃんのお母さんにさえも、あたしが受けた仕打ちについては話さなかった。


 さくらちゃんもあたしと同じように拘束されていたわけだけど、どんな実験をされていたのかまでは知らない。

 でも、精神をおかしくしてしまうほどのショックを受けたさくらちゃんの様子を見る限り、あたしと大差ないか、もしくはもっと凄惨な状況だったと推測できる。


 さくらちゃんに、なんてひどいことを。激しい怒りを覚える。

 だからといって、今のあたしにはどうすることもできはしない。

 ただなんとなく時間を過ごし、たまにさくらちゃんのもとを訪れ、他愛ないお喋りに興じることくらいしか、あたしにはできなかった。



 ☆☆☆☆☆



 さくらちゃんの病院には、それほど頻繁に顔を出しているわけではない。

 毎日でも会いに行きたいと思ってはいるのだけど、精神を病んでしまったさくらちゃんの姿を見るのは、正直つらかった。


 もちろん、さくらちゃんのお母さんは、いつでも話し相手になってあげてと、微笑んでくれたけど。

 そんなお母さんの笑顔すらもまぶしすぎて、今のあたしには正視できなかった。

 さくらちゃんをこんなふうにしてしまった原因の一端は、あたしにもある。そういった思いは、やはり消えていないのだ。


 今日も病院へと足を向けようとして、ぎりぎりになって思い直し、きびすを返してこの公園へと入ってきた。

 夕焼けに染め上げられた公園。

 芝生や木々や噴水が、瞳に鮮やかな彩りを映してくれる。


 そんな中、あたしはベンチに座った。

 そよ風があたしの髪を微かに揺らしながら通り過ぎる。


 周囲には、人っ子ひとりいない。

 こうしていると、子供の頃を思い出す。

 家の近くにある公園は、いつも色とりどりの花で溢れていた。


 記憶の中の景色は、一番印象的な場面で時を止める。

 実際には、この公園も冬には今のこの場所と同じように、少し寂しい雰囲気になっていたとは思うけど。

 ともあれ、あたしの記憶の中ではいつも、綺麗な花で満たされていたのだ。


 とくに心に残っているのは真夏の風景。あたしの名前でもある、ひまわりの花だった。

 あたしはなんの気なしに口を開く。そしていつしか、声を風に乗せるように、メロディーを奏で始めていた。



『笑顔咲かせる魔法 温かなお日様の恵み

 幸せ色の香りが 広がるお花畑


 幼いはしゃぎ声 そよ風に包まれながら

 ずっと笑い合えたら 消えはしない夢


 いつまでも変わらず いられると思ってた

 ずっと笑い合えると 信じていた日々


 夢中になって摘んでは 束ねた小さな可愛いお花

 髪に乗せた白い輪っか 天使のように見えるかな?


 笑顔咲かせる魔法 温かなお日様の両手

 幸せ色の温もり 包み込むお花畑

 黄色い花びら ほら、ひまわりが微笑んでる』


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