表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第1話 歌声は地球を救う
5/36

-5-

 あたしたちが正義の味方となってから、宇宙人は次々と襲来してきた。

 そのたびにあたしたちは駆り出され、それらの宇宙人たちを歌の力で撃退した。


 最初に変身したときは部長さんに噛みつかれたけど、それ以降は自分で念じれば変身できるようになっていた。

 なんというか、寝ぼけて変身してしまうことがあったり、朝起きたら変身していたり、結構大変ではあったのだけど。

 そういった失敗談は、割愛させてもらうとして……。


 変身したあたしたちは歌うことで潜在能力を引き出し、あたかも超能力を操るかのように、宇宙人たちを物理的に吹き飛ばしたり、精神に干渉して帰るように説得したり、様々な活躍を繰り広げていた。


 歌うだけなら、部長さんたちだっていいのでは。

 あたしはそう思ったのだけど、発音の関係上、部長さんたちでは地球人ほどの力が出せないのだという。


 また、実際に宇宙人がつかみかかってくる、といった物理的な攻撃を受けることもあった。

 そうなった場合、ひ弱な部長さんたちでは簡単に組み敷かれてしまうだろう。

 というわけで、あたしたちが変身して戦うのだ!


 う~ん……、やっぱりどうしてあたしたち五人なのか、全然納得がいかないところだわ。


 納得はできなかったものの、現に悪い宇宙人はやってくる。

 それらの宇宙人たちは、様々な力を使って地球を侵略し、ここにしかない資源を手に入れようとするのだ。


 いくら信じられないような状況だったとしても、黙って侵略されるわけにもいかない。

 あたしは仕方なく、本当に仕方なく、正義の味方として戦っていた。


 戦いはテレビでも中継され、あたしたち五人はあれよあれよという間に、誰もが知る有名人となってしまっていた。

 もちろん変身してはいるものの、部長さんがテレビのレポーターにあたしたちのプロフィールを公開してしまったようで、本名も性別も年齢もスリーサイズまでもが、全国ネットでさらされていた。


 部長さんに脳天チョップを入れてどうにか怒りを抑えたけど、一旦公開されてしまった情報を、やっぱり嘘でした、なんて言ったところで取り消せるはずもなく。

 あたしたちはいつしか、みんなから騒がれる、いわばアイドルのような存在になっていった。


 ……アイドルなんて考えてみると、ちょっと悪くない気分だったりもしたのだけど。


 ところで、歌って戦うことからなのか、それとも部長さんの入れ知恵なのかはわからないけど、いつの頃からかあたしたちは、『歌声戦隊セイレンジャー』と呼ばれるようになっていた。

 ギリシャ神話などに登場するセイレーンからのイメージなのだろう。

 ……セイレーンって歌声で人を惑わせる魔物だったと思うし、あまりいい印象ではないような気もするのだけど。


 それはいいとして。


 地球人全体を守る立場にあったあたしたち。

 でも、テレビなんかで取り上げられて囃し立てられたのも最初だけだった。


 強力だけど変な力を与えられてしまい、それを全国民にさらけ出していたことも災いしたと言えるのかもしれない。

 大学からどんどんとあたしたちの居場所がなくなっていく。そんなふうにすら感じられた。


 そんな中、地球を守る正義の味方ということで、政府からの使者が訪れ、大学を辞めて宇宙人との戦いに専念するように要請された。

 国の施設内に部屋も用意するし、生活に必要なすべてを政府が負担するとまで言ってもらえた。


 あたしたちとしては大学生活がメインで、正義の味方はサークル活動の一環といったイメージでしかなかったから、その要請はお断りしたのだけど。

 そうやって大学生活を送る決意をしたものの、正義の味方になる前と変わらない生活に戻ることはできなかった。


 大学で知り合った人たちがみんな、あたしたちと距離を置くようになったのだ。

 いや、大学の知り合いだけじゃない。それ以外の知り合いや近所の人たち、果ては見ず知らずの人からも指をさされ、ひそひそと陰口を言われる始末。

 平和を守るためとはいえ、得体の知れない強大な力を持ったあたしたちは、周りから怖れられてしまったのだ。


 あたしたちは、孤独だった。


 とはいえ、あたしたち四人はまだマシだっただろう。

 あたしと林檎、海斗くん、大樹くんは、いつも同じ大学の構内にいるから、なるべく一緒に行動するようにして、授業が終わったらすぐにサークル室に駆け込めばよかった。


 だけど、さくらちゃんは、そうもいかない。

 高校生である彼女には、いつでもあたしたちと一緒にいることなんてできはしなかった。

 もともと馴染めていなかったというのもあるわけだし、さくらちゃんはきっと毎日学校でつらい日々を送っていたに違いない。


 その証拠に、さくらちゃんは毎日のように合唱サークルの部室へと顔を出すようになっていた。

 そして部室に入るなり、明るい笑顔を振りまくのだ。まるで、ここだけが自分の居場所だと言わんばかりに。


 あたしはそんなさくらちゃんを、いつでも優しく抱きしめてあげていた。

 つらい思いにさいなまれていた自分自身をも、彼女の温もりで満たそうとするかのように。



 ☆☆☆☆☆



 そんな日々が背景にありながらも、あたしたちは正義の味方として、侵略してくる悪い宇宙人を撃退し続けた。

 二年間くらい、正義の味方としての生活は続いただろうか。

 唐突に、本当に唐突に、正義の味方生活は終わりを告げる。


 あたしたち五人は部長さんに呼び出され、満天の星空のもと、大学の裏手にある丘に集まっていた。

 地球よりもっといい資源のある星が見つかったらしく、地球を侵略しようとする宇宙人はいなくなったのだという。


「今まで、お疲れ様」


 あっさりとそれだけ言うと、部長さんはキラリンと白い歯を光らせながらの笑顔を残し、宇宙船に乗って去っていった。

 宇宙船、というよりも、まさにUFOといった感じの乗り物で、部長さんは去っていったのだけど。


 ……UFOっていうのは未確認飛行物体なんだから、しっかり確認しちゃった今、それはもうUFOとは呼べないわよね。

 あたしの脳みそは相変わらず、信じられないことを目の前にすると、勝手に現実逃避モードへと移行するようだ。


 気を取り直して、現実に目を向けてみる。

 部長さんが歯をキラリンと光らせた瞬間、なにか脱力感というか、不思議な感覚が全身を包み込んだ。

 あたしを含め、これまで正義の味方だった五人は、みんな気づいていた。

 この二年間、ずっと体の奥から湧き上がってくるように感じられていた力が、どうやら消えたみたいだということに。


「……終わったんだね」


 大樹くんが、いつもどおりの爽やかな笑顔を浮かべながらつぶやいた。

 彼の胸の辺りに着けられた、お気に入りだという戦隊もののバッヂがキラリと光る。

 これですべては終わったのだと、言わんばかりに。


 あたしは、なにを言葉にすればいいかわからない、複雑な気分だった。

 林檎、海斗くん、さくらちゃんの三人も、あたしと同じように、呆然とした顔で立ち尽くしている。

 しばらく沈黙が続いたあと、林檎がやっとのことで口を開いた。


「最後はやけに、あっさりだったわね」

「がっはっは、そうだなっ! ま、大学生活の楽しい思い出ができたってことにしておこうじゃないか! あっ、さくらちゃんにとっては、高校生活だったっけな!」


 林檎の言葉に、海斗くんがいつもの大声で答える。

 その海斗くんが視線を向けているさくらちゃんは、あたしに寄り添いながら、まだぽかんと口を開けていた。

 そしてあたしもやっぱり、ただ立ち尽くすばかり。


 長い夢から覚めたかのように、突然打たれた終止符。

 まだ信じられない気持ちでいっぱいだったものの、とにかくあたしたちは、


「んじゃ、改めて……。みんな、お疲れさんっ!」


 という海斗くんのかけ声に続いて、


『お疲れ様~!』


 降るような星空に向け、声を合わせて叫ぶのだった。


 ――――?


 このとき、あたしはなんとなく、違和感というか、妙な視線かなにかを感じたような気がしていた。

 とはいえ、周りのみんなはようやく状況を理解し受け入れて、満面の笑顔を溢れさせているところだった。

 その雰囲気に水を差すようなことなんて、あたしにはできるはずもなかった。


 ――きっと、気のせいだよね。


 あたしはそう自分に言い聞かせると、みんなと一緒にはしゃいだ声を上げる。

 今になって思えばそれは、あたしにとって人生最大の失敗だったと言えるのかもしれない。


 ふと、涼しい風が吹き抜ける。

 夜も更けてきたし、そろそろ帰ろうか、ということになった。


 五人の家は、この丘から見ると完全に別々の方角となる。

 丘を下りたあたしたちは、それぞれ自分たちの家に向けて歩き出した。

 降り注いできそうなほどの、満天の星空のもと――。


 普段だったら、女子の家までは男子が送ってくれたり、あたしがさくらちゃんを家まで送ったり、といった感じになることが多かった。

 なのになぜか、この日はみんな、それぞれひとりずつになった。

 他の人たちがどうなったのか、このときはわからなかったけど……。


 あたしは突然、背後から忍び寄ってきた何者かによって抱きかかえられた。

 口もとをタオルのようなもので強引に押さえつけられ、悲鳴を上げる暇もなかった。

 問答無用で黒塗りの大きな車に乗せられると、そのまま車は急発進。


 逃げられはしなかった。

 すぐに目隠しをされ、腕や足までロープで縛られてしまったあたしには、抵抗するすべなんてなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ